No. 148 大腿骨近位部骨折の非手術例

大腿骨近位部骨折の非手術例

 

No.75で大腿骨近位部骨折を受傷した人では死亡率があがるという話をしました。

uekent.hatenablog.com

またNo.89で大腿骨近位部骨折の手術は早期に行った方が成績が良いという話をしました。

uekent.hatenablog.com

今回は大腿骨近位部の骨折に対して手術をしない場合についての話です。

 

大腿骨近位部骨折の場合、手術なしで骨折部がつくことはまずありません。つくとしても時間がかかるためそれまでベッド上で安静にしていれば、それだけで寝たきりになってしまいます。そうなると死亡率は1/3どころではなくなるため、早期手術・早期離床が重要だったのでした。最近は手術をしない例は少なくなってきましたが、それでも時に手術しない患者さんが存在します。以下のような場合においては手術をしないことが選択肢のひとつになるとされています:

    • もともと歩けない
    • 重度に衰弱している
    • 医学的に不安定、コントロールできない重大な疾患がある
    • 終末期である

また以下のような安定型の骨折においても手術をしないことが選択される場合があります:

    • 転位のない(1cm)転子部骨折;一般的に若年者に生じる剥離骨折で、3-4週間の免荷を守りつつ活動的に過ごすことができる場合
    • 圧迫方向にのみ限局された圧外傷による転位のない頚部骨折;このタイプは6-9週間の荷重制限と慎重な経過観察のみで管理可能なこともある
    • 中心窩の下の大腿骨頭に限局した骨折;この骨折は閉鎖整復術で整復後関節の短縮が1mm未満で可能な場合は保存的加療が可能

さらに、症状の少ない転子下骨折で綿密なモニタリングのもとで保存的加療が行われることがありますが、うまくいかないことが多いため最近はほとんどが手術されます。

 

非手術症例は手術した症例よりも予後不良であるというデータが多数報告されています。3083人のナーシングホーム入所者(平均年齢84歳)で重度の認知症を有する患者、手術例(84.8%)と非手術例(15.2%)を2年間フォローした研究によると、1076人(34.9%)が6ヶ月のうちに死亡し、手術例の方が6ヶ月間の死亡率が減少していました(調整ハザード比[HR] 0.88, 95%CI 0.79-0.98)。また、6が月後に生存していた2007人において、手術例では痛みが有意に減少し(調整HR 0.78, 95% CI 0.61-0.99)、褥瘡も有意に少なかった(調整HR 0.64, 95% CI 0.47-0.86)のです。

 

また、60111人のナーシングホーム入所者の大腿骨近位部骨折症例を180日間フォローした別の研究では、7069人(12%)が非手術的管理を受け、53042人(88%)が手術(内固定、人工骨頭、人工関節置換術)を受けました。36.2%が骨折後180日以内に死亡し、非手術例で死亡率が高かった(調整HR 2.08, 95%CI 2.01-2.15)のです。

 

もちろん上記のように手術が受けたくても受けられない状況の場合もあるので、全例に手術をすることは難しいですが、少なくとも「歳だから」「認知症だから」という理由だけで手術をしないということはありません。

 

参考文献

Berry SD et al. Association of Clinical Outcomes With Surgical Repair of Hip Fracture vs Nonsurgical Management in Nursing Home Residents With Advanced Dementia. JAMA Intern Med 2018 Jun 1;178(6):774.

Neuman et al. Survival and functional outcomes after hip fracture among nursing home residents, JAMA Intern Med 2014 Aug 1;174(8):1273.