No. 141 変形性膝関節症

変形性膝関節症

 

変形性関節症の診断基準には明確なものがありません。というのは、症状と画像所見が必ずしも一致しないことがあり、レントゲン上はわずかな変形なのに症状がひどかったり、逆にレントゲンでは重度の変形をみとめるにもかかわらず症状が軽かったりすることがある、画像所見だけで重症度を決められないからです。アメリカリウマチ学会は変形性膝関節症(膝OA)について6つの臨床的診断基準を挙げています。膝OAと診断するには膝の痛みに加えてそれらのうちの3つに該当する必要があります:

  • 50歳以上である
  • 朝のこわばりが30分以内
  • 動かした時に関節の摩擦音がある
  • 骨に圧痛がある
  • 骨の膨隆がある
  • 熱感なし

OAに伴って膝に生じるほかの症状としては、滑膜刺激によって起こる滑液の増加や腫脹、関節内軟骨下骨硬化症、辺縁の骨棘形成があります。また長骨、関節包、靭帯、腱、および筋の末端に増殖性の変性を引き起こします。 これらの二次的な病態は強い疼痛を引き起こし身体機能を低下させます。

 

診断

膝OAの評価は、荷重した状態で関節を動かすことによって行います(例えば、内側コンパートメントを評価するために内反ストレスを膝に加え、外側コンパートメントについては外反ストレスを加えて可動域全体を動かします)。関節摩擦音が内外反ストレスを加えている手のひらに感じられ、さらに痛みが誘発されることもあります。側副靭帯と十字靭帯についても評価します。半月板や関節軟骨が失われてゆくにつれて、関節腔が狭小化して内外反動揺が増加します。屈曲変形(他動的な完全伸展ができなくなる)を伴うこともあるので注意が必要です。脛骨の回旋変形や膝蓋骨の偏移(正中からのずれ)も重要です。立位時のO脚やX脚の有無についても確認します。

病歴聴取や身体診察では以下の情報を収集します:

1.症状の部位

  • 局所か(内側か、外側か、もしくは膝蓋大腿関節か)
  • びまん性か

2.症状のタイプ

  • 腫脹
  • 膝折れ、不安定性(靭帯損傷や大腿四頭筋の筋力低下)
  • 関節可動域制限
  • カニカルな症状(関節の軋轢音、ロッキング、挟み込み、偽ロッキング)

3.発症様式 

  • 急性か
  • 緩徐か

4.期間
5.増悪因子
6.治療歴(例;NSAIDs、理学療法、注射、手術)とその効果

 

レントゲンによる評価

標準的な膝OA患者に対するX線写真による評価は4つの撮影法からなります:AP(前後方向)荷重時撮影、PA(後前)荷重時(30度の膝屈曲位)撮影、側面、ならびに膝蓋骨大腿骨関節を評価するための軸方向撮影です。この撮影法は膝の3つのコンパートメントの重症度と部位を全体的に把握するのに役立ちます。関節症が主に膝の外側にあるいわゆる外反膝の患者では、内反膝に見られる中心部の摩耗とは対照的に、摩耗パターンは主に大腿骨面と脛骨面の後部であるため、APビューでは重症度を過小評価してしまいます。この摩耗パターンを評価するにはPAビューが最適です。さらに外科手術を考慮する場合は、下肢の全体的なアライメントを確認するために股関節や足関節の撮影をして、膝の上下の関節の変形や病変(足関節の内外反や過去の手術歴、足関節や股関節の関節症性変化など)を評価します。

 

治療の選択肢

 

理学療法

徒手療法と運動の両方が膝OA患者に有効であることが示されています。 Deyleらによる研究(2000、2005)では、膝OA患者に対する徒手療法は、疼痛と身体機能の改善に有意な効果を示しました。膝OAの原因の一部は、繰り返される炎症によって生じる癒着による関節周囲の可動性の低下による制限もあるため、徒手療法は、制限された可動性を改善し、これらの組織の動きを増大させることで、痛みやこわばりを減少させることができます。こうして疼痛が減少することで、患者は以下に述べるような治療的運動プログラムに十分に参加することが可能になります。

Currierら(2007)は、膝OAと診断され膝痛のある患者において、短期的な痛みの軽減が可能かどうかの予測ルールを開発しました。症状のある膝OA患者で、次の基準のうちの2つ以上がある場合、股関節のモビライゼーションが有効な可能性が高くなります:

(1)股関節や鼠径部の痛みや感覚異常がある

(2)大腿前面に痛みがある

(3)膝関節の他動的屈曲可動域が122度未満である

(4)股関節の他動的内旋可動域が17度未満である

(5)股関節伸長時痛がある

 

さらに、運動は膝OA患者において有効であることが複数の研究で示されています。有効性が証明されている治療法は以下のとおりです:

  • 大腿四頭筋セッティング
  • スタンディングターミナルニーエクステンション
  • 着座レッグプレス
  • ハーフスクワット(深くない)
  • ステップアップ
  • 柔軟体操とROMエクササイズ
  • ふくらはぎ、ハムストリング、大腿四頭筋のストレッチ
  • 膝の屈伸
  • エアロバイク

系統的レビューと無作為化臨床試験によると、膝OAに対する運動の即時効果として、機能改善と疼痛の減少がありました。しかし、時間の経過とともに効果は低下するようです。 なので継続的な運動または最低限のフォローアップ運動のセッションを行うことが強調されています。

大腿四頭筋の筋力低下は機能障害につながるため、大腿四頭筋の強化は膝OAに対する保存的治療において必須です。四頭筋力がかなり強いと手術が必要となる時期が優位に遅くなります。もし膝蓋骨に痛みがある場合は、最後の20度の伸展範囲でのみ伸展運動を行います。膝蓋骨大腿関節反力を増加させるような、深くしゃがむ、ひざまずく、階段を登るなどの活動は痛みを増加さるので避けます。

Bosomworth(2009)は文献レビューを行い、適度な運動は膝OAを増悪させず、ランニングも特に問題ないことを示しています。激しい競技スポーツは、特に人生の早い時期に開始された場合、OAのリスクを増大する可能性がありますが、スポーツによるOAは典型的には機能障害の増悪をもたらさないとされています。他のOAリスクを増加させるものとしては、肥満、外傷、職業的ストレス、および下肢アライメント異常などがあります。

有酸素運動は心血管系の持久力を高めるだけでなく、体重維持・減量にも役立つので有効です。また有酸素運動は痛みやこわばりを軽減し、バランスを維持改善し、歩行速度と敏捷性を高めることができます。陸上と水中の両方のプログラムが膝OA患者に有効であることが示されています。Hinmanら(2007)の研究によると、水中理学療法に参加した患者は、参加しなかった患者よりも痛みや関節のこわばりが少なく、身体機能、生活の質、および股関節筋力が強くなりました。著者は陸上での理学療法よりも優れた点をいくつか挙げています:浮力によって痛みを引き起こす関節間の負荷を減らすため陸上では困難なクローズドチェーンの運動が可能になる、水流が運動の抵抗になる、荷重量を水深を変えることによって増減させることができる、水の暖かさと圧力が痛みを軽減し、腫れを減少し、動きやすくしてくれる。

Linら(2009)は、膝OAを持つ100人以上の患者における非荷重の固有感覚トレーニングと筋力トレーニングを比較して、両方とも有意に機能を改善することを示しました。痛みやその他の理由で体重のかかる運動をすることができない人にとっては、体重のかからない運動が選択肢になるかもしれません。

 

膝装具

応力を生じさせる装具を使用して、内側または外側の関節面を「免荷」できます。一般的にはこれらの装具は、カスタムメイドでそれぞれの患者へ適合させ、症状に応じて数度の内外反矯正の調整が可能です。装具は、適切な応力を膝に加えることによって、関節軟骨の喪失によってずれたの膝の位置を修正し、機械的体重負荷軸を、磨耗していない健常な面に移動させることができます。生体力学的研究によると、痛み、関節の位置覚、筋力、および機能が、装具によって変化するかもしれないとされています。最近では、Ramseyら(2007)が、正中アライメントの装具が、内側の関節症用の外反アライメントの装具と同等かそれ以上に有効であることを示しました。彼らは、症状の軽減と機能の改善は、内側コンパートメントの免荷によるものではなく、筋肉の共収縮の減少の結果であるかもしれないと述べています。

 

インソール

Keatingら(1993)は、膝の内側型OAを持つ85人の患者のうち、75%以上の人が、外側ウェッジのインソールを使用している間の12か月の追跡調査で、膝痛の有意な改善をみとめたことを報告しました。踵骨を外反位にすることによって、運動学的連鎖の上方である膝関節で内側の免荷が起こります。SasakiとYasudaの2つの論文はどちらも、外側ウェッジインソールを使用したことで関節の内側表面負荷の減少を示しました。外側ウェッジインソールは費用対効果が良いことが最大の利点です。

私が以前大学院時代に三次元動作解析装置を用いて内側型膝OA患者に対する外側ウェッジインソールの効果をみた研究でも、立ち上がり動作時の膝関節伸展に伴う脛骨の大腿骨に対する回旋運動が健常者の運動様式に近くなる効果を認めました。

 

減量

減量は他の治療法と併用することが重要です。そのメカニズムはまだはっきりとはわかっていませんが、経験的には、太り過ぎや肥満の人は膝OAを発症するリスクが高いように思われます。体重を減らすことは、体重を支える関節への負荷を減らすこと、および全体的な身体機能を改善することになります。最近の太り過ぎの患者の5159膝の研究において、肥満は偶発的な膝OAの危険因子ではあるかもしれませんが、肥満と膝OAの間には全体としては有意な関連は認めませんでした(Niuら2009)。Niuら(2009)は肥満は内反アライメントを有する膝のOA進行とは関連していませんが、正中または外反アラインメントを伴う膝のOA進行の危険性を増加させることを発見しました。したがって、どの位置のOAなのかという情報は、減量の有効性を予測するために有用です。減量だけでは、内側膝コンパートメントへのストレスを増大させる内反アライメントのある患者では効果的ではないかもしれません。

 

内服薬

アセトアミノフェンは膝OAの治療に有用です。アセトアミノフェンは抗炎症作用と中枢神経におけるCOX-1およびCOX-2の阻害作用を有します。疼痛軽減においてプラセボよりも有意に優れていることが示されています。アセトアミノフェンは経口鎮痛薬の中で最も安全ですが、わずかな肝毒性のリスクはあります。とはいっても4g/日以下の投与量ではまれです。

経口NSAIDsは、COX-2阻害を介して炎症および侵害受容器の痛みを軽減します。胃や心血管系の合併症の危険性があるため、可能な限り最少の用量で、そしてできるだけ短期間の使用にすべきです。

 

外用薬

内服薬の副作用を避けるために、外用鎮痛薬を対象の関節に用いることが推奨されています。膝OAに使用されてきた外用薬には、サリチル酸塩、カプサイシン、およびNSAID製剤があります。サリチル酸塩はOA患者の疼痛緩和に有効性は示されていません。カプサイシンは、神経終末を刺激して侵害受容器の疼痛伝達物質を枯渇させることによって鎮痛効果をもたらします。唐辛子に由来するカプサイシンの主な副作用として最初の数日間灼熱感を感じることがあります。OAによる痛みに対するカプサイシンの効果を検証した研究結果は、有効とするものもあれば、無効とするものもありはっきりしていません。NSAID外用薬であるジクロフェナクナトリウムゲルは、いくつかの研究では2~3ヶ月間は痛みの軽減に有効であると報告されています。外用薬の有効性については、はっきりしていないところもありますが、全身への作用が少ないことから、経口NSAIDsが禁忌である高齢者や消化管疾患のリスクが高い患者にとって魅力的な選択肢です。

 

関節内ステロイド注射

関節内ステロイド注射の主な作用は抗炎症作用です。この治療は一般的に中等度から重度の痛みに対して、経口NSAIDなど他の方法が無効だった場合に推奨されます。膝OAに対するステロイド注射のコクランレビューによると、短期間の使用では有効であり副作用は限られたものでした。しかし、さまざまな副作用の危険性があるため、ステロイド注射は1年に4回以上は行うべきではありません。

 

粘性補充療法

粘液補充療法は、手技が簡便で、ヒアルロン酸成分を膝関節内に補給することで症状を軽減する、というわかりやすさのため膝OAに対して広く使用されている対症治療です。複数の研究により、この治療法は臨床的に安全であることが実証されており、OA患者の短期間の症状軽減に有効であり、人工膝関節全置換術が必要になるのを遅らせる可能性があるとされています。しかし、これらの効果は強力なプラセボ効果の結果であるかもしれません。ヒアルロン酸補充が関節内の潤滑特性を部分的に回復させたとしても、重度の損傷を受けた関節軟骨を有する人々にとって有効な治療法にはなりません。一般的には粘性補給療法は軽度から中等度の関節炎に用いられます。

 

2013年にアメリカ整形外科学会(AAOS)は、AAOS臨床診療ガイドラインを要約した「変形性膝関節症の治療第2版」を発表しました。最新のエビデンスに基づいた推奨される膝OAの非手術的管理が記載されています。これはウェブサイトでみることができます:www.aaos.org/guidelines

 

参考文献

Charles E. Giangarra, Robert C. Manske, S. Brent Brotzman : Clinical Orthopaedic Rehabilitation: A Team Approach, Fourth Edition, ELSEVIER, 2018.

変形性膝関節症患者における立ち上がり動作時の外側楔状板の力学的効果, 理学療法学Supplement 2001.28.2(0), 262, 2001