心不全と貧血

心不全の急性増悪で入院した患者の60%に貧血を合併し独立した予後規定因子です。 

 

1. 心不全における貧血の成因

鉄欠乏、腎機能低下、炎症、体液貯留による血液希釈などが原因となります。

なお鉄欠乏は貧血とは独立して心不全の予後と関連し、貧血の有無に関わらず心不全症状や運動耐用能の低下と関連します。


2. 心不全患者の鉄欠乏の基準

血清フェリチン<100ng/ml または 血清フェリチン100~300ng/mlかつTSAT<20%


3. 治療

鉄補充:鉄欠乏のHFrEF患者において静注鉄剤投与による心不全症状やQOLの改善効果が無作為化比較試験で示されています。

赤血球輸血:明確な実施基準は確立されていません。 

赤血球造血刺激因子製剤(ESA):効果は実証されておらず、さらに血栓塞栓症の合併症が増えるため推奨されません。


4. 心腎貧血鉄欠乏症候群(CRAIDS)について

心不全の患者では、慢性腎臓病や貧血を高頻度に合併します。これら3つの病態 ― 心不全、貧血、慢性腎臓病 ― は互いに影響し合い、悪循環を形成します。この状態は「心腎貧血症候群(cardio-renal anemia syndrome:CRAS)」と呼ばれています。さらに近年では、これに鉄欠乏を加えた「心腎貧血鉄欠乏症候群(cardio-renal anemia iron deficiency syndrome:CRAIDS)」という概念も提唱されています。

各病態を特徴づけるバイオマーカーは互いに重複しており、心不全の重症度はCRAIDSの重症度とも相関し、予後不良と有意に関連します。これらの病態には、共通した基盤となるメカニズムが存在する可能性があります。鉄欠乏を伴う心不全患者に対する静注鉄剤の予後改善効果は、こうした複合的な病態への介入によるものかもしれません。

 

参考文献

1) 心不全診療ガイドライン 2025年改訂版

2) 中尾元基, 永井利幸 : 日本人心不全患者の鉄欠乏と予後, 腎と透析 97(6), 875-879, 2024.

文献紹介:パーキンソン病

前回と同じNEJMに掲載された、パーキンソン病に関するレビューの一部です。

https://www.nejm.org/doi/pdf/10.1056/NEJMra2401857


高齢者の増加に伴い、今後数十年でパーキンソン病は世界的に大きな課題となることが予想される。このレビューでは、この雑誌(NEJM)で1998年に取り上げて以降の研究成果や臨床に導入された新しい概念について取り上げている。これまでパーキンソン病は特徴的な運動症状、すなわち安静時振戦、固縮、姿勢反射障害などの、主に黒質線条体系におけるドパミン機能不全による症状に基づいて臨床的に診断されてきたが、最近の進歩によって生物学的な定義の可能性がある。


疫学

パーキンソン病の発症率と有病率は年齢とともに増加し、男女比は約2:1である。発症率は45歳以上で10万人あたり47~77人、65歳以上で108~212人となっている。パーキンソン病の発症率は白人の方が黒人やアジア人よりも高いが、パーキンソン病の特徴であるレビー小体が剖検で検出される頻度は黒人と白人で同程度であった。この疾患の有病率は45歳以上の10万人あたり約572人である。年齢と性別を調整した死亡率は約60%と推定されており一般人口よりも高い。

 

定義

パーキンソニズムの運動症状は、ドパミン作動性ニューロンの喪失に起因するものであり、依然として診断の要だが、近年ではパーキンソン病を多系統神経疾患として捉える視点が重視されている。非運動症状には、睡眠障害認知障害、気分や感情の変化、自律神経機能障害(便秘、泌尿生殖器障害、起立性低血圧)、感覚症状(嗅覚低下、疼痛)などがある。非運動症状のなかでも、特に嗅覚低下とレム睡眠行動障害(レム睡眠中に筋緊張が低下せず走ったり暴れたりするように手足を動かす)は、運動症状の発症より何年も前に現れることが多く、前駆症状である可能性がある。

The International Parkinson and Movement Disorder Societyは、パーキンソン病の臨床診断基準と前駆期パーキンソン病の研究診断基準を発表している。これらの基準は臨床的特徴に依存し、補完的に特殊な画像検査が使用される。パーキンソン病の診断を確定できる画像検査はないが、線条体ドパミン系の可視化により、パーキンソン病と本態性振戦などの疾患を区別できる。123I-イオフルパンSPECT画像の感度と特異度は90%以上であり、系統的レビューでは、対象者の31%で診断が変更され、54%で治療が変更されていた。

脳のMRIでは、進行性核上性麻痺や多系統萎縮症など、パーキンソン症候群を伴うがパーキンソン病とは異なる他の神経変性疾患の特徴である基底核またはテント下構造の変化を同定できる。MRI技術の進歩は他の運動障害と区別する目的で研究されている。

剖検では、異常に折り畳まれたα-シヌクレインタンパク質の神経細胞内蓄積(レビー小体とレビー神経突起、総称して「レビー病理」と呼ばれる)が、臨床診断されたパーキンソン病患者の90%に存在していた。これらは脳幹の核(迷走神経背側運動核、青斑核、黒質)、末梢自律神経領域(筋層間神経叢、交感神経節、皮膚自律神経系)、および大脳辺縁系大脳新皮質領域に選択的に影響を与える。色素性ニューロン、特にドパミンを産生する黒質ニューロンの喪失は、この病気のもうひとつの大きな特徴であると考えられている。臨床診断基準は依然として有用だが限界がある。あるコホートでは、臨床診断と剖検所見の一致率は、最初の診断時にはわずか28%であったが、病気の期間が長くなると89%に増加した。診断と死後の所見が一致する可能性が最も高いのは、運動障害の専門家によって診断された場合である。


原因

パーキンソン病は、遺伝的要因と非遺伝的要因の両方からなる複数の原因があると考えられている。パーキンソン病患者の約20%に、影響度が大きい遺伝子変異が特定されている。不完全浸透の常染色体優性パーキンソン病には、LRRK2の変異、グルコセレブロシダーゼをコードするGBA1、さらにまれなVPS35およびSNCAが含まれる。劣性遺伝のパーキンソン病変異体には、PRKN、PINK1、DJ1などがあり、若年で発症する症例のほとんどを占める。異常なα-シヌクレインは、SNCAまたはGBA1に関連するパーキンソン病、およびLRRK2に関連する症例の約半数でみつかるが、劣性変異体に関連するパーキンソン病ではまれである。劣性遺伝のパーキンソン病は、典型的な疾患よりも非運動症状が少なく、ジストニアがより顕著である。

ゲノムワイド関連解析では、小さな独立した影響を持つ90以上の遺伝的リスク遺伝子座が特定されており、その多くは上記の原因遺伝子の近くにある。ほとんどの遺伝学的研究は、ヨーロッパ系の白人を対象に行われている。世界的な取り組みが拡大するにつれて、新しい遺伝的関連が特定される可能性がある。一例として、アフリカ系のパーキンソン病患者の39%を占めるGBA1の新しい変異の報告がある。

パーキンソン病の強い遺伝的リスク要因を持たない人の場合、遺伝率は20~30%と推定され、非遺伝的要因が関与していることを示唆している。ほとんどの研究において、農薬(パラコート、ロテノン、ジクロロフェノキシ酢酸、および数種の有機塩素化合物および有機リン化合物など)または塩素系溶剤(トリクロロエチレンおよびパークロロエチレンなど)への曝露は、用量依存的にパーキンソン病の40%以上のリスクと関連付けられている。実験室研究では、これらの毒物はパーキンソン病の実験的類似体を引き起こしうるとされている。たとえば、ミトコンドリア機能を妨害することで、選択的なドパミン作動性ニューロンの喪失、運動機能障害、およびその他の変化を引き起こす。前向きコホート研究では、乳製品の大量摂取は、パーキンソン病の臨床的または病理学的診断のリスク増加と関連していた。おそらく牛乳中の化合物の生物濃縮に起因する、有機塩素系農薬であるヘプタクロルの脳内濃度の上昇と関連していると考えられる。

一部の研究では、軽度から中等度の頭部外傷と数十年後のパーキンソン病またはレム睡眠行動障害の発症との関連が示されており、疾患リスクは31%から400%以上増加する。一貫性は低いものの、金属暴露、2型糖尿病、特定の炎症性疾患、感染症は、パーキンソン病のリスクを高めると考えられている。パーキンソン病のリスクを低下させるものは、喫煙、カフェイン摂取、身体活動の増加である。遺伝子変異に関連するメカニズムの研究と毒性物質曝露の実験室調査により、炎症、免疫調節異常、酸化ストレス、ミトコンドリア機能障害、タンパク質凝集、オートファジー障害、エンドリソソーム系の機能障害などの異常が特定されている。

動作緩慢や振戦などの運動症状は、非対称性に生じる傾向がある。最終的には、両側の動作緩慢、固縮、振戦、歩行および平衡障害により機能障害や自立性の喪失に至る。進行の時間経過は非常に多様である。嗅覚低下、自律神経機能障害、レム睡眠行動障害などの非運動症状は、パーキンソン病のほとんどの患者で、運動機能や認知機能障害に先行し、数十年先行することも多い。起立性低血圧、胃腸運動障害、排尿障害、勃起障害、体温調節障害などのその他の自律神経異常は、早期に発現して進行することがよくある。

視空間認知障害遂行機能障害などの認知機能の変化が、運動症状に先行することもある。認知機能低下は毎年約10%の患者に発生する。レビー小体型認知症の関連疾患は、幻視などの認知的および精神的特徴を呈しパーキンソニズムを含む。これは、パーキンソン病の別の表現型の発現、または異なる病因に基づく重複疾患である可能性がある。また臨床的に診断されたパーキンソン病の約38%、レビー小体型認知症症例の89%に、アルツハイマー病関連の病理学的特徴が見られる。

臨床的なサブグループ分類はできていない。臨床的なパーキンソン病を生物学的特徴によってサブグループに分類することができれば、予後予測やカウンセリングが改善されると期待されている。たとえば、認知機能低下はGBA1の変異を持つ患者ではよくみられるが、PRKN変異の患者ではまれである。


治療

定期的な運動、健康的な食事、質の高い睡眠、有害物質への曝露の回避によって死亡率が低下するとされており、パーキンソン病のどの段階の患者にとっても基本となるアドバイスである。臨床試験が40年近く行われてきたが、パーキンソン病の進行を確実に遅らせる薬は存在しない。たとえば、モノアミン酸化酵素B(MAO-B)阻害剤は初期段階では有望視されていたが、結局、症状改善効果とは独立した神経保護効果は示されなかった。病気の進行を遅らせるための治験では、パーキンソン病と診断された患者を登録し行うが、病気の初期段階ですでに黒質ドパミン作動性ニューロンの最大75%が機能を失っているために失敗した可能性がある。運動症状が現れる前に介入するか、または疾患のバイオマーカーがみつかっただけの段階で介入すれば神経保護の可能性があるかもしれない。α-シヌクレイン凝集体を除去するメカニズムに焦点を当てた試験の結果はさまざまなである。グルカゴン様ペプチド受容体アゴニストの初期段階の研究が注目を集めている。

パーキンソン病は人によって症状の現れ方や進行の仕方が異なるため、最良の結果を得るには症状管理を個別に行う必要がある。患者の意見を参考にし、神経内科医、メンタルヘルスの専門家、脳神経外科医、理学療法士作業療法士言語聴覚士などを含むチームで実施する多分野にわたるアプローチを早期に導入するのが理想的である。患者、家族、介護者のニーズは、高度なケア計画や、重症の場合はホスピスへの紹介など、定期的に再評価する必要がある。


薬物治療

運動症状

運動症状に対する主たる治療はレボドパの経口薬である。ただし、振戦は動作緩慢や固縮ほどは薬の効果が乏しい。もしもレボドパを使用しても運動症状に変化がないようならば、診断を再考する必要がある。レボドパ投与後の効果持続時間(「オン」時間)は通常数時間だが、平均して4年後には短くなり始める。「オン」時間の間には、効果が減少する期間(「オフ」時間)が点在する。この変動は、レボドパの半減期が短いこと、胃腸吸収が不安定であること、およびドパミン作動性ニューロンの変性の進行によるものと考えられる。これらの変動に対処するために、総投与量の増加、投与頻度の増加、徐放性製剤の追加または切り替えなどの戦略がよく使用される。一般的な用量依存性の副作用には、ジスキネジア、幻覚や行動障害の発現または悪化、起立性低血圧、吐き気などがある。

運動症状のオンオフを改善する他の戦略としては、レボドパよりも半減期が長いドパミンアゴニストを単剤またはレボドパと併用する方法があるが、ドパミンアゴニストは好ましくない副作用が起こりうるため今は以前ほど使用されていない。副作用には用量依存性の吐き気、傾眠、睡眠発作、衝動制御障害、末梢浮腫などがある。レボドパの効果は、シナプスドパミン代謝を阻害するカテコール-O-メチルトランスフェラーゼ(COMT)阻害薬やMAO-B阻害薬を追加することで増強することができる。その他、アマンタジンやイストラデフィリンなどの非ドパミン作動性薬剤は、オンオフを改善することがあるが、高齢患者では認知機能の悪化を引き起こす可能性があるため、以前よりも使用されることは少なくなっている。

重度または頻度の高いオフエピソードに対するドパミン作動性療法のオンデマンド戦略には、アポモルヒネの皮下注射や舌下投与、レボドパの吸入などがある。レボドパの持続経腸投与(空腸ポンプ)、アポモルヒネの皮下投与、レボドパの皮下投与(皮下ポンプ)もパーキンソン病の進行例で用いられているが、どの方法も一長一短である。


非運動症状

前述のように、非運動症状はパーキンソン病の重要な症状であるが、治療の指針となるエビデンスは不足しており、適応外の薬剤による対応が一般に行われている。運動以外の症状の多くは、疾患の進行やドパミン治療により悪化する。パーキンソン病に関連した認知症は、アセチルコリンエステラーゼ阻害薬やメマンチンによる治療によりわずかに改善する可能性があるが、International Parkinson and Movement Disorder Societyが行ったエビデンスに基づくレビューによると、臨床的に有用とされているのはリバスチグミンだけである。うつ病と不安症は、薬物相互作用とセロトニン症候群の発症の可能性に注意しながら、選択的セロトニン再取り込み阻害薬、選択的セロトニン・ノルエピネフリン再取り込み阻害薬、またはあまり一般的ではないがドパミン作動薬が使用される。幻覚や妄想などの精神症状は、ピマバンセリンまたは非定型抗精神病薬(クロザピンまたはクエチアピン)が用いられる。その他のドパミンD2受容体遮断性抗精神病薬は、パーキンソニズムを悪化させる可能性があるため使用しない。認知行動療法とカウンセリングは、精神症状の管理に有用な非薬理学的戦略である。

起立性低血圧を含む自律神経症状には、水分摂取量の増加、食塩の追加、弾性圧迫ストッキング、フルドロコルチゾン、ミドドリン、ドロキシドパなどの血圧上昇薬で対処する。一般的に多因子性である疼痛は、ドパミン作動薬療法の最適化によって管理されることがあるが、パーキンソン病における疼痛管理を支持するエビデンスは不十分である。流涎は、アトロピン舌下滴下または唾液腺ボツリヌス毒素注射で管理される。便秘は食物繊維の増量、便軟化剤、または下剤で管理される。睡眠障害またはレム睡眠行動障害は、認知行動療法メラトニン、または低用量クロナゼパムが有効である。


外科的治療

深部脳刺激療法(DBS)では、細いリード線を頭蓋内に留置する(通常は視床下核または淡蒼球に留置する)。このリード線は延長リード線を介して鎖骨下の皮下に留置した神経刺激装置に接続される。電気刺激は患者の症状に合わせて調整可能である。効果の機序ははっきりしていないが、この疾患の主な運動機能の原因である大脳基底核回路の異常な機能の遮断することによると考えられている。DBSの適応の決定、システムの植え込み、継続的な患者ケアと装置管理は専門機関で行われる。DBS治療の良い適応は、薬物療法ではコントロールが不十分な運動症状の変動がある症例である。

DBSは生活の質を改善し、運動機能の変動を改善し(オン時間が平均して1日3~4時間増加する)、薬物療法がない場合に起こる症状(薬物療法なしのUPDRS IIIスコアの平均改善率30~50%)を軽減する。また刺激パラメータのプログラミングが患者の症状に最適化されれば薬物の減量(平均50%投与量減少)も可能となる。これは通常、手術後3~6か月以内に可能である。最新の手術法では有害事象リスク(脳卒中感染症など)は低く、有効性を考慮すると運動機能の変動が始まったときにはDBSが推奨される。運動機能に対する効果は最大で15年間持続するとされている。最近はDBSリードからの局所電場電位を測定できるシステムも開発されており、近い将来は刺激の強度がニューロンのフィードバック信号に基づいて調整されるようになるかもしれない。パーキンソン病のほとんどの非運動症状(認知障害、気分の変化、無関心、自律神経症状)と一部の運動症状(バランス障害、足のすくみ)は、通常DBSを使用しても改善されないが、将来はこれらの症状にも対処できるようになるかもしれない。DBSの潜在的な合併症には、ジスキネジアや発話、歩行、バランスの悪化がある。まれに、標的外の刺激によって気分、認知、行動に変化が生じることがあるが、これは通常、DBSプログラミングの変更によって修正できる。

加熱プローブによって直接的に侵襲を加える古い技術(片側視床切除術または淡蒼球切除術)は、現在ではまれなケースでのみ使用される。片側の視床の腹側中間核を標的とするMRIガイド下での高周波焦点式超音波による侵襲アプローチは、パーキンソン病患者の振戦の治療に使用されているが、このアプローチは時間の経過とともに効果が減弱する可能性があり、パーキンソン病の他の症状には効果がない。淡蒼球核と視床下核を標的とした超音波を使用した研究がされている。

これまで実施された、あるいは現在も行われている遺伝子治療には、神経栄養因子の産生を高めるために被殻または黒質に遺伝子媒介ウイルスベクターを定位注入する方法、運動回路を修正するために視床下核に送達されるγ-アミノ酪酸、そして、ドパミンの合成を高めるために被殻に送達される芳香族l-アミノ酸脱炭酸酵素などがある。これまでのところ、これらの治療法はまだ承認を受けていない。ドパミン産生細胞の被殻への移植は期待外れの結果に終わったが、ヒト人工多能性幹細胞、同種細胞、およびヒト胚性幹細胞由来の移植株に由来する細胞を使用する新しいアプローチが現在も開発中である。これらのアプローチは、1回限りの外科手術で運動症状を改善し、投薬負担を軽減することに重点を置いているが、安全性、実現可能性、および有効性が証明されていない。


今後の方向性

パーキンソン病の予防は、依然として重要な研究課題である。性別、人種、民族、経済状況、地理的な場所による既存の格差に対処する試みと、環境毒素への曝露を減らし、生活習慣を改善するための世界的な取り組みが必要になる。特に研究が進んでいない集団における遺伝子変異の特定は、新たな洞察をもたらすかもしれない。遠隔医療などの技術の進歩によって医療へのアクセスが改善される可能性があり、人工知能、デジタル評価、ウェアラブルバイス、仮想現実によって、将来的にはスクリーニング、モニタリング、治療が改善される可能性がある。異常なα-シヌクレインのバイオマーカーは、臨床的に定義されたパーキンソン病レビー小体型認知症、またはレム睡眠行動障害の患者を、健康な対照群や他の神経疾患患者と高い感度と特異度で区別することができる。また、これらのマーカーは嗅覚低下のみの患者でも検出でき、α-シヌクレインの検査により、神経細胞のα-シヌクレイン疾患を早期に発見できる可能性があり、早期介入への道筋と精密医療の基盤が提供されるかもしれない。

文献紹介:成人の低栄養

Malnutrition in Adults NEJM 391:2 JULY 11, 2024 の日本語要約です。原本にはよくまとまった図表が掲載されていますが、この記事には掲載しておりませんので、気になる方は原本の方を見に行ってください。https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMra2212159


低栄養の病態

低栄養の病態には大きく分けてふたつあり、ひとつはエネルギーや栄養素の摂取量が足りていないことによるものである。例えば、脳卒中後の嚥下障害によって経口摂取ができなくなったり、短腸症候群による吸収障害によって起こる。低栄養の状態に対して、安静時のエネルギー消費、心拍数、体温、身体活動を減らすことで適応しようとするが、それでも肝臓と筋肉のグリコーゲン貯蔵は1~2日以内に枯渇し体脂肪が主なエネルギー源となり、筋肉はタンパク質合成と必要なアミノ酸を確保するために消費される。なお、水分だけで何も食べずに最大60日間生存したという事例がある。

もうひとつの低栄養の病態は、炎症を伴う疾患(がん、感染症、末期臓器障害、重篤な疾患など)による低栄養である。この場合は摂取不足時とは異なり、安静時のエネルギー消費は増加し、心拍数や体温も上昇する。骨格筋の分解も増加し、筋由来のアミノ酸糖新生や急性反応物質の産生に用いられる。炎症中は十分なエネルギーとタンパク質が供給されていても消費が継続し筋肉量が減少する。

重篤疾患の高齢患者ではCRPが3mg/dLを超えると栄養摂取量が大幅に減少する。多くの慢性疾患、例えばCOPDクローン病、腎不全、慢性膵炎、がんなどでは軽度の炎症を伴い、ゆっくりと継続的に組織が消費され続けるため栄養治療の効果が得られにくい。


低栄養の疫学

年齢や疾患、セッティングによって低栄養の発生率は異なり、65歳以上における低栄養の割合は、地域在住者5-10%、入院患者20-40%、介護施設入所者50%以上である。主な臓器の慢性疾患の末期では、炎症によって引き起こされる低栄養が最終的に発生する。COPD、うっ血性心不全、肝硬変、慢性腎不全の患者の20-50%に低栄養がみられる。脳卒中パーキンソン病精神疾患認知障害の患者は、主に非炎症性の理由による食物摂取量の減少による低栄養リスクがある。アルツハイマー病の20-30%で低栄養がある。重度のうつ病患者の半数は体重が減少する。


低栄養の帰結

低栄養の結果として、筋力と筋量の低下(サルコペニア)により運動機能が制限され、転倒し骨折する。高齢者ではフレイルが増悪する。また免疫不全を引き起こし、その結果感染症に罹患しやすくなる。免疫不全は低栄養の早い段階で発生する。というのは免疫細胞の急速なターンオーバーには大量のエネルギーと栄養供給が必要とされるためである。介護施設高齢者の新型コロナウイルス感染症による死亡率の高さに低栄養が関係していた可能性がある。またビタミンB1、B6、B12、D、葉酸、必須のn-3およびn-6脂肪酸などの微量栄養素の欠乏はそれぞれ固有の有害な影響を及ぼす。


低栄養の把握


低栄養リスクのスクリーニング

病院や施設に入ったら24-48時間以内に低栄養のスクリーニングが推奨される。低栄養を2つまたは3つに分類するスクリーニングツールが多数ある。入院患者の場合、Nutritional Risk Screening 2002 tool、Malnutrition Universal Screening Tool、Short Nutritional Assessment Questionnaire、Malnutrition Screening Toolなどが用いられる。Mini Nutritional Assessment–Short Formは高齢者の低栄養リスク評価に使用可能である。低栄養のリスク(例:体重減少または低体重)と低栄養の危険因子(例:食欲不振または病気)との区別が新たな注目を集めている。


診断とアセスメント

診断とアセスメントのツールは複雑でより多くの手段を組み合わせている。例えばSubjective Global Assessment (SGA)、Patient-Generated SGA、Academy of Nutrition and Dietetics–American Society for Parenteral and Enteral Nutrition Indicators to Diagnose Malnutrition approachなどがある。各評価法で、類似した表現型と病因の基準が混在しており、基準の組み合わせとカットオフ値の変動により、有病率の推定に違いが生じている。


Global Leadership Initiative on Malnutrition

2019年、4つの主要な国際臨床栄養学会は、低栄養を診断するための既存のツールを統合し、世界的に合意された診断プロセスを確立することを目標とする、Global Leadership Initiative on Malnutrition(GLIM)基準を発表した。これは、2段階の手順からなる;

・感度の高いスクリーニングツールを使用して低栄養のリスクがある人を特定

・明らかな低栄養のある人を診断する

3つの表現型基準;体重減少、低いBMI、低い筋肉量の評価と、2つの病因基準;食物摂取量または食物消化の減少、持続性または再発性の炎症の存在によって示される高い疾患負荷からなり、少なくとも1つの表現型基準と1つの病因基準が同時に満たされると診断が確定する。そして表現型基準の異常の程度に応じて中程度または重度に分類される。

最後に、低栄養は原因によって;

・炎症を伴う疾患関連低栄養

・炎症が認められない疾患関連低栄養

・疾患がない状態での低栄養(つまり飢餓)

に分類される。体組成を測定する装置は常に利用できるわけではないため、ふくらはぎの周径と身体診察が筋肉量を推定する承認された方法である。疾患負荷と炎症に関する臨床判断には必ずしも検査による確認は必要ではない。


低栄養の治療


栄養療法のアセスメント

個別の栄養治療プログラムを促進するために、徹底した栄養評価が推奨される。

この評価には以下を含む;

・病歴(併存疾患)

・社会的および心理的履歴(生活状況、孤独やうつ病などの要因)

・栄養歴(歯の状況、咀嚼や嚥下障害)

・食事の観察、および食物摂取の記録

・身体診察:筋肉量と脂肪量の推定値

併存するサルコペニアサルコペニア肥満、フレイルに注意する。

通常は他の理由で実施され、栄養情報を提供する可能性のある臨床検査;

・ヘモグロビン

・肝機能

・脂質(炎症や低栄養で低下する)

CRP(炎症活動の推奨バイオマーカー)

血清アルブミンなどの内因性タンパク質は陰性急性期反応物質(炎症急性期に低下する物質)であり、栄養状態の指標として使用すべきではない。腎機能が正常であれば、血清クレアチニン値は筋肉量を反映する可能性がある。


栄養療法の概要

通常の経口食または医療栄養が、不十分なエネルギーと栄養素の摂取を補うために使用される。医療栄養には、強化食品や経口栄養補助食品などの治療食、経腸栄養(=経管栄養)、静脈栄養がある。栄養療法の効果は、低栄養の病態によって異なる。食物摂取が不十分な場合は、エネルギーと栄養素の供給によって栄養状態が回復するが、炎症メカニズムが優勢な場合は同化反応が制限されるため効果は得られにくい。経腸栄養または静脈栄養の適応は、1週間以上栄養摂取が不十分な場合であるが、重篤な治療では栄養ニーズを速やかに満たす必要がある。一般的に、好ましい選択肢は経腸栄養だが、これには腸管の機能が必要である。経腸栄養は腸管バリア機能を改善し、静脈栄養よりも感染性および代謝性合併症が少ない。しかし一部の患者は完全静脈栄養を必要とする。

 

エネルギーとタンパク質の必要量

重篤な疾患でない低栄養患者は、エネルギー消費を減少させる機能障害を抱えていることが多いが、他の栄養素の必要量は通常変化ない。専門家の合意に基づく推定エネルギー必要量は以下の通り;

身体活動が制限されている移動可能な人:30kcal/kg/day

・寝たきりの患者:25kcal/kg/day

・入院患者および重篤患者で特に治療の最初の段階:計算されたエネルギー必要量の70~75%(18〜20kcal/kg/day)

タンパク質の必要量は議論が分かれている。最近まで、若者と高齢者の必要量は同じ(0.8g/kg/day)であると考えられていた。しかし加齢に伴う代謝、免疫、ホルモン合成の変化、加齢に伴う進行性虚弱に関する新たな理解により以下のような指針が提示されている;

・健康成人:0.8~1.2g/kg/day

・急性疾患患者または手術後の栄養状態が良好な患者:1.2~1.5g/kg/day

・火傷または多発外傷患者:1.5~2.0g/kg/day、またはそれ以上

肝不全または腎不全(eGFR30~40ml未満/min/1.73m2)などのタンパク質利用障害のある患者では推奨値は低くなる。


経口摂取

食事の摂取は、栄養カウンセリング(できれば栄養士が担当)、障害者の食事介助、特に嚥下障害のある人に対する食感の調整、および「小食の人」に対するエネルギー(できれば非熱帯植物油)とタンパク質の強化食品によって促進される。エネルギーとタンパク質は、強化経口栄養補助食品でも供給できる。典型的な量は100mlあたり200~300kcalと10~20gのタンパク質である。EFFORT試験とNOURISH試験は、経口栄養補助食品の臨床的効果の確かな証拠とされている。

EFFORT試験の概要;2000人以上の入院患者を無作為に2群(介入群:個別の栄養カウンセリングとサポート、対照群:標準的な病院食)に振り分けた。介入群では対照群と比較してエネルギーとタンパク質の摂取量が増加し、30日後には機能が向上し、再入院率と死亡率が低下した。サブグループ解析では、がん患者も効果があった。

NOURISH試験の概要;さまざまな病気で低栄養となった退院患者600名において、3か月間の経口栄養補助食品の摂取が死亡率をほぼ 50%低下させることが示された。平均摂取量は1日1~2パックで、1パックあたり350kcal、タンパク質20g、ビタミンD、ヒドロキシメチル酪酸(HMB)が含まれている。サブグループ解析では、COPD患者でも効果あり、さらに急性心不全で入院した患者では早期の栄養摂取により合併症と死亡率が減少した。

今後の課題としては、必須アミノ酸の一部(ロイシンやHMBなど)に特定の同化作用があるか、海洋n-3脂肪酸に免疫調節作用と成長促進作用があるかなどがある。


経腸栄養

経腸栄養は、鼻孔から胃または近位小腸にチューブを挿入して(数週間まで使用)、もしくは経皮内視鏡的胃瘻造設術または手術によって栄養ストーマを胃腸管に直接留置して行われる。意識のある患者では、経鼻胃管に伴う不快感を許容できないことがよくある。チューブが正しく留置されれば、経腸栄養は500mlの間欠投与(ボーラス)が行われるが、急性期ではポンプ制御による1日20~24時間の連続投与も選択肢となる。胃での栄養補給が難しい場合は、幽門後栄養への切り替えが推奨される。治療開始時に注入速度を遅くすると、胃腸症状や代謝症状を予防できる。吐き気や嘔吐が起こった場合は、誤嚥リスクを下げるために栄養補給を減らすか中止する。消化管運動促進薬の使用も選択肢のひとつである。最も一般的な合併症は下痢である。経腸栄養の代謝合併症としては、体液不均衡、高血糖電解質異常、まれにリフィーディング症候群(後述)がある。


静脈栄養

末梢静脈カテーテルまたは中心静脈カテーテルを介した静脈栄養は、胃腸機能が栄養分や水分の十分な吸収を保証するには不十分である場合に適応となる。浸透圧負荷が高い輸液による静脈炎を予防する場合や、静脈栄養が数週間以上必要な場合は、中心静脈カテーテルが適応となる。中心静脈アクセスには、血流感染や血栓症のリスクがある。

静脈栄養剤は、基本的なブドウ糖の必要量を満たし、十分なエネルギーを提供し、タンパク質合成のためのアミノ酸を提供する。1日あたり約125gのブドウ糖で十分だが、1日あたり最大200gあればタンパク質を節約できる。開始時にはブドウ糖負荷を減らして副作用の有無を評価する。血糖値をモニタリングして適切なインスリン分泌能があるか確認する必要がある。必須脂肪酸の必要量は、1週間あたり約200gの脂質乳剤で満たすことができるが、通常、非タンパク質エネルギーの半分は脂質によって供給される。最初の脂質乳剤は、n-6脂肪酸が豊富な大豆油をベースにしていたが、近年、高濃度の大豆油は肝胆道系合併症を引き起こす可能性があるため、一価不飽和オレイン酸とn-3系多価不飽和脂肪酸をベースにした脂質製剤が導入されている。n-6系多価不飽和脂肪酸のn-3系多価不飽和脂肪酸に対する比率が低いと、炎症反応が生じる可能性もある。

アミノ酸溶液は、基礎補給として0.10~0.15g/kg/dayの窒素を供給する必要がある。炎症状態および代謝亢進状態では、0.15~0.20g/kg/dayの窒素が必要である。静脈栄養を完結するには、脂溶性および水溶性のビタミンと微量元素を追加する必要がある。静脈栄養の合併症には、カテーテル関連の血栓症や血流感染症があるが、刺入部位の局所感染症もある。代謝合併症は通常、注入速度に関連している。血糖値の上昇、血中電解質レベルの変化、高窒素血症、高トリグリセリド血症がよく見られる。胆汁うっ滞や脂肪肝を伴うことが多い肝機能障害は、長期の静脈栄養を困難にする可能性がある。ある程度の経口または経腸摂取を維持するか、代替の脂肪乳剤を使用すると、肝胆道系のリスクを軽減できる可能性がある。自宅で経腸または静脈栄養を受けている患者の場合、外来での栄養カウンセリングは非常に重要である。


リフィーディング症候群

特に重度の低栄養患者の場合、栄養療法の開始時にリフィーディング症候群が発生することがある。供給されたブドウ糖によってインスリン濃度が上昇すると、細胞内へリン酸、カリウムマグネシウムが移動し、血清濃度が低下する。この移動により、低リン酸血症、浮腫、心不全および呼吸不全が発生する可能性があるため注意深く監視する必要がある。

チアミン(ビタミンB1)の必要量は、飢餓から摂食への移行中に増加する。混乱、せん妄、運動失調、眼筋麻痺を特徴とするウェルニッケ脳症が発生することがあり、この生命を脅かす合併症を防ぐためにチアミンの補給が行われる。

リフィーディング症候群の治療と予防は、カロリーと水分の投与量を減らし、血中のリン酸塩やその他の電解質、栄養素(チアミン)の低下を是正し、4~7日かけて栄養素と水分を徐々に推奨レベルまで増やすことからなる。


将来の課題と展望

食欲を改善する薬物治療または同化作用を促進する薬物治療は長年検証されたが大きな進歩はなかった。それでも現在進行中の研究によって、低栄養の理解と治療が改善される可能性は高い;

・腸内微生物叢と低栄養の相互作用

・精密栄養治療のためのゲノムおよびメタボロームのプロファイリング

・加齢による食欲不振と薬理学的食欲刺激剤の開発の可能性

・間質細胞注入の可能性

環境的に持続可能な治療オプションの開発は現代の課題である。

文献紹介:介護施設における除菌処置の効果

Decolonization in Nursing Homes to Prevent Infection and Hospitalization

Loren G. Miller, M.D. et al.

NEJM 2023; 389: 1766-1777

 

高齢介護施設の入所者は、感染症にかかり入院するリスクが高く、また多剤耐性菌を保有するリスクも高いことが知られています。介護施設における多剤耐性菌の保有率は65%(病院では10~15%)との報告があり入所期間が長くなればなるほど保有率は高くなります。

この研究では、28の介護施設(ナーシングホーム)でランダム化試験が実施されました。除菌を行った群と、通常のケアを行った群で、感染症による入院率を比較しています。18ヶ月のベースライン期間の後、4ヶ月の導入期間(スタッフの訓練など)を経た後に、18ヶ月の介入を実施しました。

除菌方法は以下の通り;

入浴:シャワーの場合、4%クロルヘキシジン洗浄液を使用しその後洗い流す。清拭の場合、2%クロルヘキシジンを含ませた布で清拭
鼻腔除菌:ポビドンヨード10%水溶液を染み込ませたスワブで平日の5日間に1日2回、隔週で実施

参加した28施設のうち14施設を除菌群、14施設を通常ケア群に振り分け
除菌群7388人、通常ケア群6564人で比較されました。

結果、除菌群のアドヒアランス(手技を実施できた割合)はクロルヘキシジン入浴が87.4%、鼻腔除菌が67.4%でした。

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除菌による有害事象は35件報告され、クロルヘキシジンによる発疹が34件でいずれも軽症で、ポビドンヨードによる咽頭痛が1件でした。

 

クロルヘキシジンとポビドンヨードを用いた介護施設での除菌戦略は、感染症による入院を減らしました。

文献紹介:歩きと車椅子利用での転倒や生命予後の違い

Comparison of Fracture Among Older Adults Who Are Ambulatory vs Those Who Use Wheelchairs in Sweden

JAMA Network Open, Feb 13, 2023;6(2)

Kristian F. Axelsson et al

 

加齢や疾患の影響により転倒リスクが高まると移動方法を歩行から車椅子へと変更することがあります。しかし車椅子には不動による下肢の血栓塞栓症や褥瘡、骨量減少のリスクがあります。一方で歩行よりも転倒リスクは減少する可能性がありますが、これまで検証されてませんでした。

この論文ではスウェーデンの高齢者を対象に車椅子利用者と歩いている人で、骨折・転倒・死亡リスクを比較する大規模コホート研究が実施されました。

2007年1月1日~2017年12月31日にスウェーデンのSenior Alert Registerに登録されていた65歳以上の人から、車椅子利用者と歩行可能な対照群を抽出し、2022年6月にデータ分析を実施されました。車椅子利用者は5万5442人、歩行可能対照群は41万299人の中から傾向スコアマッチングを行い1対1の割合で抽出されました。

Senior Alert Registerは歩行状態を;
(1) 自立歩行(杖使用も可)

(2) 介助者がいれば歩行可能

(3) 日常的な車椅子利用

(4) 寝たきり

に分類し登録されています。この研究では(1)と(3)の人を対象にしています

主要評価項目は、骨折、転倒による骨折以外の外傷、死亡などです。

結果は以下の通り、車椅子利用者では骨折リスクは低下していたものの、死亡リスクはむしろ高くなっていました。

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転倒を恐れるあまりに車椅子を選択することは検討の余地があります。

文献紹介:人工呼吸器装着下でのカフ上発声法

McGrath B, et al. Above cuff vocalisation: A novel technique for communication in the ventilator-dependent tracheostomy patient. J Intensive Care Soc. 2016 Feb; 17(1):19-26

 

人工呼吸器から離脱できず長期間の使用が必要となり、気管切開が施行されると声帯に呼気が通過しないために発声ができなくなります。この文献では気管カニューレのカフ上吸引チューブから酸素を送気することで呼気の代わりにして発声する方法が紹介されています。

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発声の手順は以下の通りです;

1.カフが正常に膨らんでいることを確認
2.酸素投与チューブをカフ上吸引へ接続する
*酸素は加湿する

3.酸素を2-5L/minの範囲で開始、最大5L/minまで
4.口腔内吸引を行い痰を除去する
5.訓練終了後は酸素チューブを外す

 

患者の意識と認知機能が保たれており、指示が理解できることが必要です。また長時間酸素を流すと乾燥するため短時間に留めます。起こりうる合併症としては、気管カニューレが誤って皮下に挿入されていたまま実施して皮下気腫を生じた例と、誤ってカフ拡張チューブに送気してカフが過拡張し気管拡張した例が報告されていますが、正しく施行すれば大きな危険なく実施可能で、コミュニケーションが取れることによる患者と介護者のQOLの向上が期待できます。

入院してすぐに退院時サマリを書こう

急性期病院では、目の前で起こっている事態に迅速に対応することが求められます。検査や治療は、命を救い、バイタルサインを安定させ、病態を改善させることを目的に行われます。とにかく「いま」を乗り越えることが最優先です。

一方、回復期リハビリテーション病棟で診療・ケアに携わる私たちは、もう少し違った視点が必要です。もちろん、状態が急変した場合には、急性期と同じような緊張感と判断力が求められます。しかし、それだけでは不十分です。目の前の問題に対応して満足してしまっていては、リハビリテーション医療は成功しません。

私たちが向き合うべきは、「患者の未来の姿」です。退院後の生活を見据え、そこに至るまでに何が必要なのかを考え、逆算して現在の介入を組み立てていく必要があります。

正確に言えば、急性期病院でも未来を予測した診療が行われています。ただし、その未来とは、翌日や翌週、退院時といった「近い未来」です。一方、回復期では、「退院後にどのような生活を送るか」という、より長期的な未来を見据えることが求められます。そしてその未来において起こりうる問題を予測し、今のうちから解決のためにできることを積み重ねていくのです。

このように未来の生活を正確に予測することを「予後予測」と言います。これには、幅広い知識と経験が必要で、一朝一夕には身につきません。日々の経験を大切にし、継続して学び続けることが大切です。


ここでひとつ、おすすめの勉強法をご紹介します。

新たに入院患者を受け持ったら、入院時のアセスメントを行ったうえで、できれば入院当日から1週間以内に「退院時サマリー」を書いてみてください。そして、その患者が実際に退院した際に、本当にそうなったかどうかを比較してみましょう。予測と異なっていた点があれば、なぜ違ったのか、何が足りなかったのか、どのタイミングで何をすれば良かったのかを振り返ってみてください。そうすることで、次の患者に活かせる貴重な経験になります。

予後予測の精度が上がると、入院中に大きなトラブルもなく、順調にADLが向上し、無事に退院へとつながっていきます。劇的な出来事は少ないかもしれませんが、それこそが質の高いリハビリテーション医療の姿だと思います。

そしてもうひとつのメリットとして、退院直前にサマリー作成に追われることも少なくなるでしょう。