Hip Fractures in Older Adults in 2019

Hip Fractures in Older Adults in 2019

JAMA. 2019;321(22):2231-2232. doi:10.1001/jama.2019.5453

 

骨粗鬆症による脆弱性骨折の発生率は加齢と共に指数関数的に増加し、その結果、機能低下や施設入所、死亡、困窮などの悲惨な結果へとつながります。

8090歳の高齢者では骨粗鬆症のスクリーニングや治療を受ける機会が少なくなります。薬物療法ガイドライン10年間の骨折リスク推定値を使用することを推奨しており、余命が10年未満の場合については言及していません。さらに既存の骨折リスク予測式は、高齢者によくみられる合併症や脆弱性を考慮していません。それらの合併症は予防的な骨粗鬆症治療の有益性について評価する際に考慮すべき項目であるにもかかわらず、です。

 

骨折リスクの予測

 

骨折リスクを予測するツールはたくさんあります。骨密度BMDは、デキサ法(二重エネルギーX線吸収測定法)で計測するものでT-スコアが将来の骨折リスクの強力な予測因子であるため臨床で用いられています。

FRAXは最も検証され一般的に使用されている骨折予測モデルです。 10年間の骨折リスクが1020%の人は中等度の骨折リスクあり、20%より大きい人はハイリスクとされます。

FRAXは良いところもありますが、転倒、認知機能障害、尿失禁、神経学的病態、薬物などの、高齢者における重要な骨折リスク要因は含まれていません。骨折リスクを推定し、骨粗鬆症の薬物治療を検討する際には、認知、視力、歩行およびバランスの評価やポリファーマシーなどの、ほとんどの骨折予測ツールに含まれていない追加の高齢者評価を検討する必要があります。これらの評価をリスク計算にどのように織り込むべきかはわかっていません。エビデンスがないなかで、薬物治療の必要がありこれらの評価項目のうち異常所見がある場合には、従来のリスク計算ツールから算出されるリスクはより高く見積もったうえで薬物治療を考慮すべきです。アメリカでは、以下の場合に薬物治療が推奨されています。

  1. 大腿骨近位部または椎体の骨折がある場合
  2. BMD Tスコアが-2.5以下の場合
  3. BMD Tスコアが-1.0から-2.5の間で、10年の大腿骨近位部骨折リスクが3%以上もしくは脆弱性骨折のリスクが20%以上の場合

例えば、FRAXモデルを利用すると、80歳女性でBMI26BMD Tスコアが-2.0でその他のリスク因子がない場合の10年間の大腿骨近位部骨折リスクは4.7%、脆弱性骨折のリスクは16%になります。大腿骨近位部骨折のリスクは薬物治療を開始するための3%の閾値を超えていますが、多くの患者および臨床医は、比較的低い脆弱性骨折リスクを考えると、治療なしで経過観察することを選ぶかもしれません。

しかし、もしこの患者が軽度の認知機能低下があり、最近転倒していたとしたら、この患者の転倒リスクはFRAXで算出された値よりも実際には高いかもしれないため、薬物治療を開始する閾値は低くなるかもしれません。

 

余命の推定

 

現在の骨粗鬆症治療ガイドラインは平均余命を明確に扱っていませんが、予防的治療を選択する際には重要な考慮事項です。高齢者の平均寿命にはかなりの不均一性があります。 80歳の女性の平均余命は約10歳です。しかし、「最も健康的」な80代女性の平均寿命は14年以上ですが、「最も低い」80代女性の平均寿命は5年未満です。臨床医は生存率を過大評価する傾向があるので、代わりに、寿命表やePrognosisなどの標準化されたツールを使用して、余命の予測を推定することをお勧めします。臨床医は、FRAXが平均寿命の中央値を推定することを知っておくべきです。

癌スクリーニングの有効性が観察されるまでには10年以上かかることがあります。これとは対照的に、経口骨粗鬆症治療薬の利点は612ヵ月で判明する可能性があり、効果的な転倒予防介入の利点は即座に得られる可能性があります。年齢が上がるにつれて、大腿骨近位部骨折のNNT80歳以降も減少します。平均寿命が短いにもかかわらず、90歳の女性は70歳の女性よりも実質的に高い生涯骨折リスクとより少ないNNTを示しています。それゆえ、癌や他のスクリーニングと予防の有効性が、ある年齢を超えるとなくなるのとは対照的に、骨折予防の有効性は加齢と共に増加します。

経済モデルでは、平均余命がすくなくとも2年ある高齢女性を治療して骨折を減らすことは、費用対効果があるかもしれないことを示唆しています。平均余命が1年未満の場合、薬物的骨粗鬆症治療は提供されるべきではありません。

 

適切な薬物選択

 

経口ビスホスホネートは骨粗鬆症の第一選択とみなされることが多く、高齢者(平均年齢85歳)大腿骨近位部骨折でのNNTは約200です。経口ビスホスホネートはもっとも費用対効果の良い治療ですが、高齢者や虚弱な患者では他の要素も考慮して治療法を選択する必要があります。合併症のためにすでに複数の経口薬を処方されている患者は、年1回または2年に1回の処方を好む場合があります。静脈内(例えばゾレドロン酸)または皮下(デノスマブ)製剤は、嚥下障害がある場合や服薬管理ができない場合には好ましい可能性があります。ステージ45の慢性腎臓病は高齢者ではよくみられ、デノスマブはこれらの患者にとって好ましい薬剤です。ゾレドロン酸は、年間200ドル未満ですが、デノスマブは年間約2000ドルかかります。無作為化臨床試験のポストホック分析および観察研究からの限られたデータではありますが、骨粗鬆症治療薬は高齢者に安全かつ有効であることが示唆されています。二重エネルギーX線吸収測定法を繰り返してビスホスホネート治療中の患者をモニタリングする必要はありません。

 

情報共有と意思決定

 

骨折を防ぐことは、多くの高齢者にとっての優先事項です。 194人の女性(平均年齢83歳)の調査では、80%が施設入所につながる大腿骨近位部骨折よりも死を望んでいると報告しています。 高齢者は多剤併用や骨粗鬆症治療に関連する、

まれではあるが深刻な有害事象にも関心を持っています。 臨床医は、患者が治療の潜在的なリスクと利益が理解できるように助けることが重要です。患者の認知機能障害がある、またはその疑いがある場合には家族または介護者を巻き込むことが重要です。Mayo Clinic Shared Decision Making National Resource Centerなどの骨粗鬆症治療のための意思決定支援の道具があり、治療の決定を助けてくれるかもしれません。骨粗鬆症治療薬は数か月、間が開くことが多いため、利点とリスクを明確に記述した共同意思決定は治療の順守を促進するという利点があるかもしれません。

 

基本的な転倒予防対策

 

薬物治療をするしないにかかわらず、すべての高齢患者は転倒リスク評価および予防カウンセリングを受けるべきです。転倒予防は、転倒について患者に尋ねることから始まります。転倒または転倒の恐れがある患者は、歩行およびバランスの評価を受けるべきです。歩行に異常がある場合、転倒危険因子の包括的評価を行います。評価項目には、視覚障害、起立性低血圧、不適切な履物、および服用中の薬のチェックが含まれます。歩行やバランスの障害をみとめる患者は、運動指導のために理学療法を受けるべきであり、そしてすべての患者に定期的な運動が奨励されます。薬は高齢者の転倒の最も一般的で修正可能な危険因子のひとつです。臨床試験から、転倒を予防するための効果的な戦略として、向精神薬や循環作動薬の中止または減量が支持されています。臨床医は、ポリファーマシーを減らすことと骨折リスクを減らすために骨粗鬆症治療を開始するという矛盾する選択を迫られる可能性があります。それにもかかわらず、この二重のアプローチ(すなわち、転倒を引き起こす薬物療法を中止し、骨粗鬆症の薬物を開始する)は、骨折予防を優先する多くの併存症を有する高齢者に適しています。以下の図は、転倒や骨折のリスクがある高齢者の薬物治療の推奨アプローチを示しています。

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まとめ

 

地域在住の高齢者の骨折を予防するには、個々の骨折リスク、平均余命、および健康上の優先事項を慎重に検討する必要があります。 臨床医はこの脆弱な集団における骨折を軽減するために薬理学的および非薬理学的介入を考慮しなければなりません。

No. 156 リウマチ性多発筋痛症 Polymyalgia rheumatica (PMR)

リウマチ性多発筋痛症 Polymyalgia rheumatica (PMR)

 

リウマチ性多発筋痛症PMRは慢性の炎症性疾患で、くびや肩、おしりの筋肉に痛みが生じ、その周辺の関節のこわばりを特徴とします。PMRの原因はわかっていませんが、冬に発症することが多く、何らかの感染症に伴って発症する例もあります。50歳より高齢の人に生じることがほとんどで、患者の平均年齢は73歳と高齢者の疾患です。ちなみに似たような名前の病気で同じように痛みが主な症状である疾患に「関節リウマチ」がありますが、こちらは高齢になってから発症することは滅多にない疾患です。生涯でPMRを発症する率は女性で2.4%、男性で1.7%とやや女性に多いです。16~21%に巨細胞動脈炎(側頭動脈炎)を合併しています。また巨細胞動脈炎とは、側頭部の表面に走る側頭動脈に炎症が起こり、まるでドラ◯ンボールのピ◯コロ大魔王のように側頭部に血管が浮き出て、そこに痛みを伴います。巨細胞動脈炎の患者の40~60%にPMRを合併しています。

 

PMRの診断基準は確立されていません。以下の所見が高齢者で認められた場合に疑います:

・頚部や肩や臀部の筋痛が2週間以上続く

・頚部のこわばりがあり、特に朝に強い

・赤血球沈降速度やCRPが亢進している

また、倦怠感や食欲不振、微熱などの全身症状が40~50%の患者で認められます。頭痛や顎関節痛、視覚障害を認める場合は巨細胞動脈炎の有無を確認します。巨細胞動脈炎は放置すると失明する場合があるので注意が必要です。PMRでは、関節リウマチで陽性になるリウマチ因子や抗CCP抗体、抗核抗体はふつう陰性です。これらが上昇している場合は他の疾患を考えます。PMRでは低用量コルチコステロイド投与で迅速な反応が得られるのが典型的で、診断的治療としてプレドニゾロン15mg/日を開始し、それに対する反応がイマイチな場合は他の診断を検討する必要があります。

 

ステロイド治療を開始したら徐々に1-2年かけて減量します。理想的なステロイドの使用法は確立されておらず、個々の患者さんに応じて対応する必要があります。ステロイド開始時は12.5-25mg/日の経口プレドニゾロンが推奨されています。糖尿病や骨粗鬆症緑内障のような合併症がありステロイドの副作用が問題になる場合はより少ない量から開始します。推奨されている方法は以下の通りです:

プレドニゾロン15mg/日を3週間

・その後12.5mg/日を3週間

・10mg/日を4-6週間

・以後は4-8週に1mg/日ずつ減らす

ステロイド治療開始と共に骨粗鬆症予防の治療を開始します。PMRが再燃した場合は以前の量に戻すか120mgのメチルプレドニゾロンを筋注します。

 

またPMRがあると、脳卒中発症リスクが高くなるという報告があります(ハザード比2.09、95% CI 1.63-2.66)。

 

参考:DynaMedより

No. 155 長谷川式簡易知能評価スケール

長谷川式簡易知能評価スケール

 

医療従事者であればほとんどの人が「長谷川式簡易知能評価スケール」を知っていると思います。1974年に作成され、1991年に採点基準を見直された改訂版「HDS-R」が現在は広く使われています。9項目30点満点の検査で短時間で認知機能のスクリーニングができます。20点以下の場合認知症の疑いが強くなります。この評価法は認知症専門医の長谷川和夫さんという方が考案されたものです。

 

2016年の時点で90歳になられた長谷川さんは、認知症になりそのことを世間に公表されています。ご自身が実際に認知症になってわかったことは、「自分が経験したことへの『確かさ』があやふやになってきた」という感覚だそうです。外出する時に鍵をかけたか心配になって戻る、ということを何度も繰り返すようになってきたそうです。また午前中は調子が良いけど午後の3時頃からは疲れてきて、調子が悪くなるそうで、一晩眠るとまた調子が戻っていると実感されたそうです。入院中の認知症の患者さんが夕方から夜間に不穏になるのも脳の疲労によるところが大きいのかもしれません。

 

認知症の患者さんへの対応で注意すべきこととして述べられているのは、「患者さんの気持ちを聞き出すことが大切で、こちらの都合や事情を押し付けるのではなく、患者さん中心のケアを行うことが重要である」と述べられています。デイサービスは職員がひとりひとりの利用者の状態を把握して接してくれる、とても良いところで「まるで王侯貴族のような気分を味わえる」と、大変おすすめされています。

 

入院中の患者さんに対してはどうしても規定の枠にはめようとしがちです。入院すると認知症が進むことがあるのは当然のことで仕方のないことであると思っていましたが、もしかしたら適切な対応ができれば、違ってくるのかもしれません。「認知症の人は、そうではない人と同じようなものの考え方をしており、発症前と後で全く別の自分になるのではなく、連続性があり『ここから先が認知症だ』というよな線引きはできない」と述べられています。記事の最後では以下のように述べられています。

 

「僕と同じ生活史を持っている人が誰一人としていないように、認知症の患者さんも、人それぞれに貴重な体験をしている尊い人間なんです。そのことを患者さん自身も、患者さんを支える側の人々もよく分かってほしいと願っています。」

 

ちなみに、長谷川さんはいくら認知症になったとは言っても、ご自身が開発したHDS-Rはすべて記憶していて満点になってしまうので役に立たなかったそうです。

 

参考:NHKラジオ深夜便2019年3月号 放送ベストセレクション 長谷川和夫「認知症専門医の”認知症ライフ”」

No. 154 DIBキャップについて

DIBキャップについて

 

排尿障害がある場合、膀胱留置バルーンカテーテルを使用することはなるべく避けて、間欠導尿で自尿を促すことが大原則でした(No. 133参照)。実際に大半の人が膀胱留置バルーカテーテルから離脱することができます。しかし少数ですが自尿がみられず離脱できない患者さんがいます。そんなとき間欠導尿の手技が患者さん自身で出来るようになれば良いですが、そうでなければ回復期リハ病棟入院中には間欠導尿を介助で行えても、退院後自宅や施設では再びバルーン留置に戻ってしまいます。

 

バルーン留置していると蓄尿袋がもれなく付いてきますが、見た目も良くないし、ある程度動ける患者さんにとってはこの蓄尿袋が行動の制限になってしまいます。こんな時に蓄尿袋のかわりにカテーテルにキャップをして、定期的にもしくは膀胱充満感を自覚した時にキャップを開けて排尿する、という方法がとられることがあります。そのための専用品が「DIBキャップ」という商品です。磁力を使った蓋がついており手指の機能が低下した高齢者でも比較的容易に開閉できるように作られています。

 

問題は「感染予防のためにバルーンカテーテルの内腔は外界とは隔てられた閉鎖空間にすべし」という今までの常識を無視していることです。現時点での排尿管理についてDynamedというエビデンスをまとめたサイトで調べてみましたが、そこでもやはり閉鎖空間を保つことが推奨されています。

 

しかしバルーン留置の状態が14日間続けば100%膀胱内には細菌が住み着きます。尿路への侵入はカテーテル外側の経路もあるため、いくらカテーテル内が閉鎖空間で無菌で使用開始したところで、長期使用していれば細菌は侵入することになります。

 

DIBキャップを使用することで蓄尿袋を使った場合よりも感染症の発症率が変わらないなら、ひとつの選択肢になりうるかもしれません。

 

調べ方が不十分だったかもしれませんが、このキャップを使用した場合の感染症発症率について検証した文献が見つかりませんでした。何か知っている方がいれば情報お待ちしております。 

 

参考

ディヴインターナショナル http://www.dib-cs.co.jp/urology/goods08/

小川隆敏:みなさんのギモンに専門の先生がズバリとお答えします, 泌尿器ケア10(4), 2005.

No. 153 誤嚥性肺炎 NEJMの総説 2019.2

誤嚥性肺炎 NEJMの総説 2019.2

NEJM20192月に掲載された誤嚥性肺炎に関する最新の総説です。最新の知見がまとめられています。とくに肺炎が起こる仕組みについて、いままでとは異なる考え方が提唱されていることが述べられています。

 

誤嚥性肺炎は、独立したひとつの疾患というよりは、市中肺炎および院内感染肺炎も含む一連の肺炎の一部と考えたほうがよいです。誤嚥性肺炎は市中肺炎の515%を占めると推定されますが、院内肺炎における割合はわかっていません。誤嚥性肺炎の明確な診断基準が無いために、この疾患の研究での患者集団は不均一なものになっています。

 

この総説は、肺実質を含む誤嚥、主に誤嚥性肺炎および化学性肺臓炎に焦点を当てています。血液や異物などの非感染性物質の誤嚥も重要です。誤嚥性肺炎は特定の微生物によって引き起こされる感染症ですが、化学性肺臓炎は刺激性の胃内容物に対する炎症反応です。近年、細菌と肺との相互作用についての理解が進んでいます。微生物学の概念の変化と誤嚥性肺炎の病因についてこの相互作用の観点から検討しています。また誤嚥性肺炎と化学性肺臓炎の両方の臨床的特徴、診断、治療、予防、さらには危険因子についても検討しています。

 

誤嚥性肺炎における微生物学的および病因論的な変化

人間の下気道の細菌叢に関する理解はPCR法を用いた細菌の16SリボソームRNAの解析やメタゲノミクスの手法によって進みました。最近の脳卒中患者の口腔内細菌叢を解析した報告では、103種類の異なる系統の細菌が同定され、そのうち29種類は今まで報告されていないものでした。これらの新しい微生物に病原性があるかどうかはまだわかりません。

ヒトマイクロバイオーム計画によって、健康と疾病に関わる粘膜免疫の発達に腸内細菌叢が果たす役割が明確になりました。肺のマイクロバイオームの研究によって、肺は無菌であり誤嚥(不顕性もしくは顕性)や吸入によって細菌は侵入するという仮説が怪しくなってきています。特に遺伝子学的手法によって、肺には多様な細菌叢が存在していることが明らかになりました。この細菌叢が肺炎の病因も含めた疾病や健康状態にどの様な役割を果たしているのかはわかっていません。最近の健康人や実験動物モデルを用いた研究では、健康な状態では気道および肺胞の免疫能は、肺細菌叢を構成する細菌によって調整されていると報告されています。病原性という概念も変化しており、宿主に損傷を与える微生物の「相対的」能力として定義されるようになりました。感染症は、ただ単に細菌が増殖したり遺伝子産生をした結果ではなく、ホスト側の反応や、炎症、組織傷害の結果なのです。

肺炎における肺細菌叢の役割を解明するために考えられたモデルに生物地理学モデルがあります。これは肺の細菌叢は環境勾配(例えば、酸素濃度や栄養素の利用可能性の連続的な変化)の影響を受けて形成されており、肺炎は肺細菌叢の複雑な生態的適応における極端な現象としてとらえられます。肺細菌叢の安定性は細菌の侵入と排除のバランスとそのフィードバックによって維持されています。細菌の侵入には咽頭からの不顕性誤嚥によるものが含まれ、排除には線毛運動や咳による作用があります。負と正のフィードバックループがあり、それぞれ細菌の成長を抑制したり加速したりします。炎症が起こると上皮や内皮の損傷が起こり、それが正のフィードバックループを形成しさらに炎症を引き起こします。すると細菌の平衡状態が崩れて感染症にかかりやすくなってしまいます。この複雑な適応モデルによる考え方では、急性細菌性肺炎は正のフィードバックループによって引き起こされたシグナルの増強による結果である、とされています。この結果として多様な細菌が入り混じった状態から、あるひとつの種(肺炎球菌や緑膿菌など)が優位な状態になるとされています。ヒトにおいて、様々なシグナル分子(神経伝達物質、サイトカイン、グルココルチコイドなどのホルモン)が肺炎球菌や特定のグラム陰性桿菌の成長を促進することがin vitroで示されています。

細菌は、歯肉、歯垢、および舌などのヒトの口腔内の様々な部位にコロニーを形成します。健常人では見られないグラム陰性の病原性細菌は、老人ホーム、介護施設や病院の患者、および経鼻胃管を有する患者でみられることがあります。細胞表面のフィブロネクチンの切断が、下にある気道上皮細胞上のグラム陰性桿菌に対する受容体を露出させます。つまり、グラム陰性菌が定着しているかどうかは、ケアの場よりも急性疾患のような宿主因子とより密接に関連しています。

1970年代は嫌気性菌が誤嚥性肺炎の主な起炎菌でした。最近では市中肺炎や院内感染肺炎に関連する細菌に変化があり、嫌気性菌がみつかる頻度はそれほど高くありません。集中治療室の患者における誤嚥性肺炎についての研究では、市中感染例では主な分離株は肺炎連鎖球菌、黄色ブドウ球菌インフルエンザ菌、腸内細菌科で、院内感染例では緑膿菌を含むグラム陰性桿菌が見つかりましたが嫌気性菌は認めませんでした。別の研究では人工呼吸器関連肺炎患者と誤嚥性肺炎患者における嫌気性細菌の発生率が評価され、人工呼吸器関連肺炎を有する63人の患者、および誤嚥性肺炎の12人の患者のうち。誤嚥性肺炎の患者では、腸内グラム陰性菌が消化管障害の患者から分離され、肺炎球菌およびインフルエンザ菌は市中感染の誤嚥の患者で優勢でした。嫌気性菌はたった1例でのみ発見されました。著者らは人工呼吸器関連肺炎と誤嚥性肺炎の両方における嫌気性菌のカバーの必要性に疑問を投げかけています。

高齢者を対象とした研究では、嫌気性菌が関与する傾向は減少し続けています。重症誤嚥性肺炎で入院した高齢の患者95人を含む研究では、67の病原体が報告されました。グラム陰性腸内細菌が病原体の49%、嫌気性菌が16%、黄色ブドウ球菌12%を占めました。好気性グラム陰性菌55%の嫌気性分離株と関連して見られました。誤嚥性肺炎の高齢入院患者62人を対象とした別の研究では、同定された111の細菌のうちグラム陰性桿菌と嫌気性菌がそれぞれ19.8%を占め、死亡した患者の66.7%で嫌気性菌と好気性菌が一緒に見つかりました。なぜ病原体が変化したのかは不明ですが、人口統計学的な変化と、昔よりも早く検体が採取されるようになったことによるのかもしれません。過去の研究では、病気の後期にしばしば膿胸や肺膿瘍の発症後に培養検体を採取していました。この議論は、誤嚥性肺炎とは異なり、酸性胃内容物や胆汁酸に対する非感染性の炎症反応である科学性肺臓炎には当てはまりません。

 

危険因子

誤嚥は嚥下障害の結果としておこるのがほとんどで、口腔内や胃内のものが肺へ侵入することを許してしまいます。特に咳嗽反射の低下した患者で起こりやすいです。多量の誤嚥をしやすいのは、嚥下障害、頭頸部食道のがん、食道の構造や運動障害、慢性閉塞性肺疾患てんかんのある場合です。肺炎のある高齢者と健常対照群とを比較した症例対照研究では、口腔咽頭の嚥下障害があると肺炎リスクは増加し(オッズ比11.9)、92%に肺炎を認めました。嚥下内視鏡検査で評価すると、対照群のうち80%が安全に嚥下出来たのに対して、肺炎患者では嚥下機能に問題がなかったのは16.7%でした。呼吸不全から回復して気管挿管から離脱した患者のうち、20%に嚥下障害と誤嚥が認められました。嚥下障害の割合は時間とともに減りますが、抜管時に嚥下障害のあった患者のうちの35%は退院時にも嚥下障害を認めていました。

その他の危険因子としては神経変性疾患(多発性硬化症、パーキンソニズム、認知症)や意識障害があります。特に脳卒中や頭蓋内出血による意識障害では咳嗽反射が障害されます。脳卒中に関連する肺炎の発症頻度は、神経学的な重症度と免疫能の障害の程度に依存しており、脳卒中ケアユニットSCU入院の患者よりもICU入院の患者で多くなります。意識障害は薬の過剰使用によっても起こります。睡眠薬全身麻酔薬、ある種の抗うつ薬、そしてアルコールなどが該当します。他の危険因子を調整して比較した146552人の入院患者を対象とした研究では、抗精神病薬の投与により誤嚥性肺炎のリスクが1.5倍に増加しました。経腸栄養は、特に胃の運動障害や咳反射の低下および意識障害がある場合は大量の誤嚥につながる可能性があります。合計5000人以上にのぼる患者を対象とした脳卒中後の経腸栄養に関する3つの研究によると、早期経管栄養法は絶食と比較して生存率を改善し、脳卒中後の最初の23週においては、経鼻経管栄養法は経皮的経腸経管栄養法と比較して、生存率および機能的予後の改善と関連していました。経腸栄養チューブは現在認知症患者には推奨されていません。

複数のリスクを有する患者は誤嚥性肺炎、死亡、およびその他の有害事象の割合が増加します。虚弱高齢者を対象とした研究のメタアナリシスでは、嚥下障害が誤嚥性肺炎のオッズ比を9.4倍に増加させることが示されましたが、脳血管疾患も存在する場合、オッズ比は12.9倍にまで上昇しました。市中肺炎患者1348人を対象とした研究では、患者の13.8%が誤嚥のリスクがあるとみなされ、このサブグループの患者は、その他の患者と比較して、1年死亡率がより高く(ハザード比1.73)、肺炎再発のリスクが高く(ハザード比3.13)、再入院のリスクも高くなっていました(ハザード比1.52)。同様に市中肺炎患者322人を対象とした研究では、誤嚥性肺炎の重要な危険因子として認知症(オッズ比5.20)、パフォーマンスステータス低値(オッズ比3.31)、および睡眠薬の使用(オッズ比2.08)が特定されました。2つ以上の危険因子を有する人は、再発性肺炎の発生率が増加し30日および6ヶ月の死亡率が増加しており、さらに危険因子の数と並行して率は上昇していました。顕性誤嚥の明確な危険因子と誤嚥性肺炎の頻度および転帰との間の関係から考えると、誤嚥性肺炎といわゆる市中肺炎とは異なることものであることがわかります。いわゆる市中肺炎の患者では誤嚥リスクの増加はみられません。

誤嚥性肺炎の重要な臨床的背景に心停止があります。心停止の641人の患者を対象とした研究では、肺炎が65%の患者で心停止後3日以内に発症していました。推定されるメカニズムには、蘇生中の胃内容物の誤嚥(胃換気や蘇生処置によって生じる)、およびバッグバルブマスク換気や挿管中の経口分泌物の吸入によるものがあります。心停止後に33℃までの低体温療法を使用した場合、早発性肺炎のオッズ比は1.9倍上昇しました。目標温度が36°Cの場合は肺炎のリスクは低くなる可能性があります。心停止時に全身性の抗菌薬投与をされた患者では、早発性肺炎の発生率が低下することがいくつかの研究で示されています。昏睡状態の患者を対象とした2つの介入研究では、緊急挿管後に最大24時間の予防的抗菌薬投与をすることの利点が示されました。

 

臨床所見

顕性誤嚥誤嚥性肺炎と化学性肺臓炎の本質的な特徴ですが、多くのエピソードは気づかれることはありません。したがって、その程度については多くの場合不明です。臨床症状は、無症状から呼吸不全を伴う重度までさまざまであり、臨床経過も急性、亜急性、またはゆっくりと進んだり、段階的に発症したりすることもあります。肺への誤嚥は、気道(気管支痙攣、喘息、および慢性咳嗽を引き起こす)と肺実質の両方に影響を及ぼします。今回は、肺実質への誤嚥の影響に焦点を当てており、化学性肺臓炎を引き起こす誤嚥、刺激の少ない物質(血液または経管栄養の内容物)の誤嚥、または細菌性肺炎を招く誤嚥の形をとります。

誤嚥性肺炎は普通は急性でイベント後数時間から数日以内に症状が現れます。嫌気性菌の誤嚥は毒性の低い細菌であるために亜急性の経過をとることがありますが、臨床初見からは他の細菌性肺炎と区別することは困難です。80歳以上の肺炎患者を対象とした研究では、誤嚥のある患者は誤嚥のない患者よりも死亡率が高く、血清ナトリウム濃度が高く、腎機能が低下していました。肺炎があり嚥下造影検査で嚥下障害ありとされた53人の患者では、より多くの患者が大葉性肺炎よりも気管支肺炎を有し(68%対15%)、92%が後方に浸潤影を有していました。パフォーマンスステータスが悪いほとんどの患者はびまん性浸潤影であり、限局性の浸潤影は認められませんでした。誤嚥性肺炎は、市中肺炎よりも死亡率が高いです(29.4%対11.6%)。

胃内容物の大量誤嚥は化学性肺臓炎につながることがありますが、それは大量で低pH(通常<2.5)の誤嚥でのみおこります。動物モデルでは、化学性肺臓炎はpH1の胃内容物少なくとも120mlにさらされた場合にのみ発症します。1946年にメンデルソンが産科麻酔の結果として記述したように、化学性肺臓炎は現代の麻酔法ではまれ(3216回に1回)です。緊急手術ではリスクが高くなりますが、予定手術でのリスクは低いです。麻酔中に誤嚥を起こした患者の64%において、臨床的または放射線的異常はみとめられません。酸の誤嚥による肺損傷はケモカイン(インターロイキン8など)、炎症誘発性サイトカイン(腫瘍壊死因子など)、および好中球を含む炎症性メディエータの放出によるものです。

化学性肺臓炎では突然発症の呼吸困難、低酸素血症、頻脈、びまん性の喘鳴や副雑音が特徴的です。胸部レントゲンで異常初見があり、急性呼吸窮迫症候群に特徴的なパターンが、誤嚥を伴う患者の最大16.5%でみられますが、他の危険因子(ショック、外傷、または膵炎)も存在すれば頻度は上がります。低pH誤嚥物は通常滅菌されており、細菌感染症は最初は珍しいですが、その後重複感染が発生する可能性があります。

経管栄養や血液の誤嚥では、ほとんどの場合誤嚥物のpHは高く、また細菌にも汚染されていないため、化学性肺臓炎も誤嚥性肺炎も発生しません。胃酸抑制療法は胃でのグラム陰性菌の過剰増殖につながり、市中肺炎または院内感染肺炎のリスク増加と関連していますが、胃のpHを中和することで化学性肺臓炎のリスクは減少する可能性があります。胃内視鏡検査を受けている255人の患者を対象としたコホート研究によると、プロトンポンプ阻害剤またはヒスタミンH2ブロッカーの使用は、pH2.5未満の胃内容物のリスクを有意に減少していました(オッズ比0.24)。大きい低刺激物の誤嚥では窒息が起こることがありますが、容量が少ないと臨床所見が少ない場合があります。誤嚥された物質が吸引または咳によって取り除かれるまで、胸部レントゲン写真に最初は異常初見があるかもしれません。目に見えない誤嚥の場合には、化学性肺臓炎、誤嚥性肺炎、低刺激物の誤嚥を見分けるのは難しいかもしれません。誤嚥された固形異物は気道を塞いで閉塞後に肺炎を引き起こす可能性があるため、さらに細菌性肺炎との区別は複雑になります。65歳以上の異物誤嚥の患者では、明らかなイベントは29%でしか認識されず、診断までは13ヶ月の遅れがありました。胸部レントゲン所見は患者の65%で右肺にあり、誤嚥エピソードの80%以上が食べ物でした。

 

診断

誤嚥性肺炎の診断は、病歴(明らかな誤嚥が目撃された)、危険因子、胸部レントゲン所見によってなされます。レントゲン所見では、重力の影響がみてとれます(患者が誤嚥中に仰向けの場合は、下葉上区や上葉後区、または患者が直立している場合は下葉の基部)。しかし胸部レントゲン写真は誤嚥性肺炎の経過の初期には陰性になることがあります。208人の肺炎患者(そのうち60%以上が誤嚥)を含む研究では、胸部レントゲン写真は、肺炎がCTで確認された患者の28%で陰性でした。誤嚥性肺炎と混同される可能性がある疾患のひとつに陰圧肺水腫があります。これは通常は両側性で対称的な肺の浸潤を伴い、全身麻酔、窒息、または溺水後の気道閉鎖の結果生じるもので、これら全ての状況で、誤嚥も伴う可能性があるため注意が必要です。

診断は通常臨床的になされますが、いくつかの研究では非感染性(化学的および刺激のないものの誤嚥による)肺炎から細菌性を区別するために定量的な肺洗浄液の培養を用いています。ある研究では誤嚥後の細菌感染を予測するバイオマーカーおよび生化学的測定について検討されています。誤嚥の危険因子をもつ新たな肺浸潤影を認めた65人の挿管患者を対象とした研究では、定量的気管支肺胞洗浄培養と血清プロカルシトニンレベルの相関について検討しました。1日目および3日目のプロカルシトニンレベルの測定では、培養陽性誤嚥性肺炎患者32人と培養陰性肺炎患者33人を区別できませんでした。人工呼吸器管理中の患者を対象とした研究では、誤嚥の危険因子の数が増えるに伴って、アルファアミラーゼ(唾液と膵臓から分泌される)の気道分泌物における濃度が上昇していました。しかし誤嚥性肺炎や化学性肺臓炎との関連は定かではありませんし、診断法としては価値のある方法ではありません。

 

治療

誤嚥性肺炎

既に述べたように病原体が嫌気性菌から好気性菌に移行するにつれて、治療レジメンも更新されてきました。嫌気性菌が優勢でペニシリンが最適な薬物であったとしても、ペニシリナーゼ産生嫌気性菌が報告されるようになったことも影響しています。嫌気性肺膿瘍および壊死性肺炎の比較研究では、ペニシリン耐性菌のためにクリンダマイシンが優位性を示しました。メトロニダゾールによる治療は11件中5件の肺膿瘍で失敗し、無作為化試験では嫌気性肺感染症に対するクリンダマイシンよりも効果は劣りました。

前向き無作為化試験では高齢の日本人患者における誤嚥性肺炎疑いに対する治療において、アンピシリンスルバクタム、クリンダマイシン、およびカルバペネムの間に有意差は認められませんでした。96人の患者を対象としたランダム化試験では、モキシフロキサシンとアンピシリンスルバクタムを比較したところ、両方とも66.7%の有効率をしめしました。嫌気性菌は肺膿瘍のある29.6%の患者で分離されたのみです。誤嚥性肺炎のみの患者では嫌気性菌は検出されず、最も頻度の高い好気性菌は大腸菌、肺炎桿菌、および緑膿菌でした。

抗菌薬の選択は、セッテイング(地域社会、病院、または長期介護施設)や、多剤耐性病原体による感染の危険因子によって異なります。危険因子には、過去90日間の広域抗菌薬による治療、5日間以上の入院が含まれます。市中感染患者のほとんどで、アンピシリンスルバクタム、カルバペネム、またはフルオロキノロンによる治療が有効です。このような患者では、重度の歯周病や壊死性肺炎または肺膿瘍を有する場合などの嫌気性感染のリスクが高い場合にのみ、クリンダマイシンを他の薬剤に追加することをお勧めします。混合感染では好気性病原体の除去によって、局所的酸化還元電位が変化し嫌気性菌も除去されます。多剤耐性病原体のリスクが低い院内感染症例では、同様のレジメンを使用することができます。耐性が懸念される場合は、ピペラシリンタゾバクタム、セフェピム、レボフロキサシン、イミペネム、またはメロペネムを単独で、または組み合わせてより広範囲の治療が必要です。多剤耐性感染症の場合、アミノグリコシドまたはコリスチンを併用療法の一部として使用します。患者にメチシリン耐性黄色ブドウ球菌による鼻腔内または呼吸器のコロニー形成が証明されている場合は、バンコマイシンまたはリネゾリドを追加します。

昏睡状態や人工呼吸器管理中の誤嚥性肺炎患者を対象とした最近の研究では、92人の患者のうち43人(46.7%)が、気管支鏡ブラシサンプルに基づく診断で細菌性誤嚥性肺炎と診断されました。ルーチンの抗菌薬治療は細菌感染が疑われる場合にのみ開始すべきですが、気管支鏡下培養が陰性の場合には中止することができることを示唆しています。

市中肺炎および院内肺炎または人工呼吸器関連肺炎の研究から得られたデータに基づいて、治療に対する反応が良好で肺以外の感染の証拠がない患者には57日間の治療が推奨され、壊死性肺炎や肺膿瘍または膿胸がある場合にはより長い期間の治療を推奨されています。肺膿瘍または膿胸の場合には、診断および治療目的のためのドレナージが必要になることがあります。治療の選択時には、クロストリジウム・ディフィシル大腸炎や薬剤耐性菌の出現などの潜在的な薬物関連の有害事象を考慮に入れる必要があります。誤嚥性肺炎に最適な抗菌薬療法を特定し、治療期間を決定するには、さらに多くのデータが必要です。誤嚥性肺炎の治療にルーチンにグルココルチコイドを使用することを示すランダム化比較試験はありませんし、それらの使用はお勧めしません。

 

化学性肺臓炎

胃内容物誤嚥の初期治療は気道の確保、気道浮腫や気管支痙攣の管理、および組織損傷の最小化です。肺炎の重症度や必要な治療の程度に応じて、吸引、気管支鏡検査、挿管、人工呼吸、および集中治療が行われます。グルココルチコイドによるルーチンの補助的治療は推奨されません。患者が胃酸抑制薬を服用しているか小腸閉塞がない限り、抗菌薬は通常必要ありません。軽度から中等度の症例ではレントゲン上で浸潤影があっても抗菌薬を差し控え、臨床所見やレントゲン所見をモニターし48時間後に再評価することが推奨されます。しかし重症な場合には、抗菌薬はエンピリックに始めるべきであり臨床経過によっては抗菌薬を23日以上続けることもあります。

 

予防

術後の化学性肺臓炎は少なくとも8時間絶食し手術が行われる少なくとも2時間前からは水分も摂取しないようにすることで最小限に抑えることができます。一部の危険のある患者には鎮静剤、抗精神病薬、抗ヒスタミン薬など、誤嚥を促進し飲み込むことを妨げることが知られている薬は避けるべきです。人工呼吸器関連肺炎に焦点を当てた誤嚥防止の取り組みはここでは説明してません。

嚥下障害のある患者、特に脳卒中後には、詳細な発話と嚥下の評価が必要です。ピューレ化された食品や薄い液体ではなく、濃厚な液体やソフト食を使用して、経腸栄養ではなく経口摂取を促進するように努めなければなりません。さらに嚥下運動および早期離床などの「栄養リハビリテーション」は、嚥下障害の患者を助け、誤嚥性肺炎の再発を予防する可能性があります。胃内容物の逆流による誤嚥のリスクを最小限に抑えるために、患者は仰臥位ではなく半側臥位で経腸栄養を受けるべきです。口腔咽頭嚥下障害患者の場合、摂食中は患者のあごを下げて頭を一方に向け、少量の嚥下、複数回の嚥下、および各回の嚥下後の咳嗽を促進するように努力する必要があります。昏睡状態の患者を対象とした研究では、誤嚥性肺炎のリスクは、患者を腹臥位または半側臥位のいずれかに維持することで軽減されました。

誤嚥性肺炎の予防における経鼻胃管チューブの影響は不明です。1260人の患者を対象とした研究では、経鼻胃管のある630人の患者は、経鼻胃管のない630人の患者よりも、嚥下内視鏡検査中の誤嚥は多くありませんでした。幽門を超えた栄養補給は胃内栄養補給より優れているわけではなく、栄養補給後の残量を監視しても誤嚥のリスクが最小限になるとは限りません。脳卒中患者、特にアジア人患者の場合、血圧を制御するためにアンギオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬を使用すると、おそらくサブスタンスPレベルを上昇させることにより誤嚥性肺炎のリスクを減らすことができます。脳卒中患者8693人のデータのメタアナリシスでは、ACE阻害薬を投与された患者は、ACE阻害薬を投与されなかった患者と比較して、誤嚥のリスクが低かったです(オッズ比0.6)。サブスタンスPに同様の効果を及ぼすと考えられる抗血小板薬シロスタゾールも、脳卒中後の肺炎を予防することが示されています。

誤嚥性肺炎の予防において、口腔衛生の効果に焦点を当てた研究の結果には一貫性がなく、これはおそらく研究デザインの問題によるものです。誤嚥性肺炎のリスクがある人工呼吸器を使用していない患者を対象とした5件のランダム化比較試験のメタアナリシスによると、クロルヘキシジンを使用した口腔ケアや機械的口腔洗浄が肺炎の予防に有効であることが示されています(オッズ比0.40.6)。しかし、クロルヘキシジンの使用は人工呼吸器患者の死亡率の増加と関連している可能性があるため物議を醸しています。おそらくクロルヘキシジンを肺に吸引した場合の毒性によるものと考えられています。252人の患者を対象としたランダム化比較試験によると、補助栄養に口腔ケアを追加することで、肺炎の発症率が減少しました(7.8%vs.17.7%通常のケア)。食道癌手術を受けた539人の患者を対象とした症例対照研究では、術後肺炎が患者の19.1%で発症しましたが、歯のスケーリング、機械的洗浄、必要ならば抜歯を含む術前の口腔ケアの欠如が重要な危険因子でした。これらの有効な知見がある一方で、834人の特別養護老人ホーム患者を対象としたクラスターランダム化研究では、1年超の平均観察期間で、歯磨きやクロルヘキシジンによるうがいを含む包括的な口腔ケアプログラムを行ったところ、まったく恩恵は得られず、25%の患者でX線撮影所見を伴う肺炎の発症を認めました。

緊急に挿管された昏睡状態の患者に最大24時間抗菌薬を投与すると、2つの試験で有益性が示されました。 脳卒中または頭部外傷を有する100人の挿管された昏睡状態の患者を対象とした無作為化比較試験では、12時間ごとに11.5gのセフロキシムを2回投与すると、肺炎特に早発性肺炎の発生が減少しました。 挿管時に抗菌薬を投与された対照患者は、投与されなかった患者よりも肺炎の発生率が低下しました。その後のコホート研究では、挿管後4時間以内の抗菌薬(セフトリアキソンまたはエルタペネム)の単回投与が、心停止後の緊急挿管の患者を25%含む昏睡状態の患者における早発性肺炎の予防には有効でしたが遅発性肺炎の予防には効果がありませんでした。

 

 

No. 152 薬剤による認知機能障害

薬剤による認知機能障害

 

加齢とともに複数の疾患を患い多数の薬を飲むことになり、さらに薬物代謝能力が低下することで、薬の作用が増強されやすくなり、様々な影響があらわれます。このような状態を「薬剤起因性老年症候群」といい、ふらつき、転倒、食欲低下、失禁、排尿障害、認知機能低下などをきたします。

 

認知機能障害のうち11%が医薬品によるものであったとの報告があります。認知機能障害を来たしうる薬には以下のものがあります:

 

総合感冒薬(PL顆粒など):第一世代の抗ヒスタミン薬「プロメタジン」が配合されておりこの抗ヒスタミン薬が認知機能低下を引き起こします。65歳以上の人で急に物忘れや不穏や幻覚が出現した場合は、総合感冒薬が処方されてないか確認しましょう。またOTC医薬品(薬局で個人で購入できる薬)の総合感冒薬にも要注意です

 

三環系抗うつ薬パロキセチン:抗コリン作用が強く、認知機能低下、せん妄、便秘、口腔乾燥、起立性低血圧、排尿障害、尿閉の危険があります。認知機能低下症例ではやめるか減量すべきです、認知機能低下のある高齢者に新規処方すべきではありません

 

抗コリン作用のあるパーキンソン病治療薬:トリヘキシフェニジル(アーテン)、ビペリデン(アキネトン)などは認知機能低下、せん妄、過鎮静、口腔乾燥、便秘、排尿障害、尿閉の危険があり、現在は他により効果的な治療薬が利用可能なので中止または減量します

 

抗コリン作用のある過活動膀胱治療薬:あまり効果を実感していないなら中止します

 

H2遮断薬(胃薬):シメチジン、ファモチジンラニチジンなどのH2遮断薬は認知機能低下とせん妄の危険があるので75歳以上の人には可能な限り使用を控えます。かわりにプロトンポンプ阻害剤PPIが使えますが、PPIも認知機能低下や骨折・クロストリジウム感染の増加などの報告があり、単純に切り替えるのではなく、必要性を吟味する必要があります。特に適応もないのに何となく飲んでいる胃薬が多くみられます

 

ベンゾジアゼピン受容体作動薬:いわゆる睡眠導入剤抗不安薬です。また非ベンゾ系と言われるゾルピデムやゾピクロン、エスゾピクロンもベンゾジアゼピン受容体作動薬ですので同じです。認知機能低下症例ではぜひとも中止すべき薬です。認知症がなくても65歳以上では投与すべきではありません。ただし例外として、けいれん、レム睡眠行動障害、ベンゾジアゼピン離脱症状、アルコール離脱症状、重症全般性不安障害、周術期麻酔といった限られた状態では使用が推奨されます。止める場合は依存性があるため漸減中止が安全です

 

参考文献

小田 陽彦:科学的認知症 5 Lessons, 有限会社シーニュ, 2018.

No. 151 口腔咽頭の加齢変化とその対応

口腔咽頭の加齢変化とその対応

 

加齢に伴う口腔咽頭の変化として代表的なものに喉頭の下垂があります。喉頭の下垂によって舌骨も下垂し、その結果、舌根も下方へと引き下げられます。この変化は男性においてより顕著で、舌骨上筋群が喉頭の重みを支えることが困難となることで生じるとされています。舌骨は若年者では下顎骨の下縁もしくはその上方に位置していますが、加齢とともに1椎体程度下垂するとされており、高齢者では舌骨を容易に触知することができます。

 

加齢によって生じた喉頭の下垂に対しては舌が筋線維を太くしたり脂肪を蓄積することで広がった空間を補い明らかな嚥下障害には繋がりませんが、病気などで急激に体重が減少した場合や低栄養によるサルコペニアにより舌の筋量が減少すると、口腔や咽頭腔が広がり、結果として食塊を咽頭から食道へ送り込む圧が低下して、咽頭残留が増加するなどの摂食嚥下障害を引き起こします。舌の筋量や筋力は舌圧によって把握することができます。

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*参考文献より

 

舌圧が低下した場合、舌骨上筋群を鍛える運動、シャキア法(仰臥位で頭を上げて1分間保つ運動を30回繰り返すのを1クールとして1日3クール実施する)や嚥下おでこ体操(額に手を当てて抵抗を加え、おへそを覗き込むように強く下を向く運動を5秒間×10回、毎食前に行う)などを行います。また舌接触補助床(Palatal Augmentation Prosthesis : PAP)が有効な場合があります。また歯のない高齢者では、義歯を装着することでも舌運動や食塊の送り込みが改善することがあります。

 

参考文献

吉田 光由:特集 高齢者の口腔機能-オーラルフレイル- Seminar 5. 口腔咽頭の加齢変化とその対応, Great. Med. 56(8): 749-753, 2018.