No. 140 脳梗塞のEarly CT signについて

脳梗塞のEarly CT signについて

 

脳梗塞は再発することがあります。発症1年目で5-10%の人が再発するとされており、回復期リハ病棟入院中にも再発する可能性があります。脳梗塞は早期発見が重要です。というのは、近年脳梗塞の治療に劇的な変化が起こっているからです。以前から血栓溶解療法という治療方法が発症後4.5時間以内であれば可能な場合があるため、早期に専門病院へ受診することが重要でした。最近この血栓溶解療法が以前よりも様々な種類の脳梗塞に有効であることがわかり適応となる患者さんが増えました。さらに、血栓回収療法という、カテーテルで直接血栓を回収する治療が発展し、予後が劇的に変わる可能性が出てきたのです。なので脳梗塞で入院中の患者さんについても新規の脳梗塞が疑われる場合は、早急に専門病院への搬送する必要があります。

 

脳梗塞かどうかの判断は神経学的症状やバイタルサイン、意識レベルや血圧の変化(頭蓋内病変では高血圧になる!)から疑い、頭部CTを撮影し出血性病変の有無を確認します。MRIがあれば拡散強調画像で新規の脳梗塞がよくわかりますが、回復期リハ病棟にはMRIがない場合がほとんどです。仮にあったとしてもMRI撮影には時間がかかるため、むしろここで貴重な時間を浪費するよりは早く専門病院へ搬送する方が良いかもしれません。そこで判断の助けとなる所見として、頭部単純CTでみられる Early CT sign というものがあります。これは急性期の脳梗塞の場合にみられることのある単純CTの所見で、以下のものがあります:

 

hyperdense MCA sign:発症直後より出現する中大脳動脈内の血栓を反映した高吸収像。血栓部より末梢の血管も高吸収になります

レンズ核の輪郭不明瞭化:発症後1~2時間で出現。レンズ核は穿通枝灌流領域で虚血に対して脆弱なため,より早期から輪郭が不明瞭になります

皮質-白質境界・島皮質の不明瞭化:発症後2~3時間で出現。皮質の吸収値が低下して白質との境界が不明瞭になります。島皮質は外包・前障・最外包の部位に相当し他部位より頭蓋骨のアーチファクトが少ないため観察が容易です

脳溝の消失・脳実質の低信号化:発症後3時間以降に出現することが多く、浮腫性変化を反映した所見です 

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図1:hyperdense MCA sign

図2:レンズ核の輪郭不明瞭化や島皮質の不明瞭化

 

参考文献

西伊豆早朝カンファレンス 脳梗塞(総説) http://www.nishiizu.gr.jp/intro/conference/2019/conference_2019_01.pdf

レジデントノート 2010年12月号

No. 139 鎖骨骨折のリハビリテーション

鎖骨骨折のリハビリテーション

 

鎖骨骨折は全骨折の10~15%を占める比較的多い骨折ですが、回復期リハ病棟入院適応疾患ではないため、鎖骨骨折のみで回復期病棟へ入院してくることはありません。多くは他の骨折や外傷を伴う多発外傷のなかのひとつとして治療にあたることになります。

 

多くの場合、鎖骨骨折は保存療法、つまり手術せずに三角巾やクラビクルバンドなどの外固定を行い治療されます。手術が必要となるのは、転位や第3骨片が大きい場合や、骨片の皮膚への刺激や角状突出が著しい場合や、血管や神経の損傷を伴う場合、外見上の変形を本人が許容できない場合などです。ここで重要なのは、手術をしないで骨折部が癒合せず偽関節になったとしても、鎖骨の偽関節は無症状であることが多いということです。つまり折れた骨と骨をくっつけることが治療の目的ではないということです。このあたりの機能的なゴールが治療のゴールになるという考え方自体はとてもリハ的で、リハ関係者にはなじみのある考え方です。

 

鎖骨骨折で骨がつかずに偽関節になっても、困らない程度に上肢を挙上できることは珍しくありません。転位が大きい(主骨片同士の接触がない)場合に、保存療法で偽関節となる割合は10%程度と考えられています。そして偽関節となった時に追加手術が必要なものは半分程度とされているので、結局、転位のある骨折に保存療法を行った場合に後で困る割合は5%程度となります。

 

一方で、最初から手術を行った場合は、手術をすると少ないながら感染のリスクがあり、さらに手術をしても偽関節となる場合もあります。それらのリスクが3%程度と見積もると、結局、手術と保存療法の合併症リスクには大した差がありません。

 

一般に鎖骨骨折を三角巾などの外固定で治療した場合、受傷後2週でかなり痛みが軽快し、受傷後3週で水平以上の挙上が可能になります。一方、手術治療を行うと術後数日で患肢を使えるようになりますので、受傷後早期に手術を行えば、2週間程度早く痛みが取れるという利点があることになります。

 

保存療法の場合のリハビリテーションでは、レントゲンでまだ骨がついていないからといって患肢の使用を制限すると、肩関節の拘縮が起きて機能が悪くなることが多いので「万が一癒合しなくても困らないのだから、癒合しないことを恐れて肩を動かさずにいると肩拘縮が起きてそのほうがよっぽど困る」という姿勢でのぞむことが望ましいです。

 

そして回復期リハ病棟での鎖骨骨折の場合は、前述のように多発外傷の一部の場合がほとんどであり、他の外傷の治療への影響も考慮してリハのプロトコルを作成する必要があります。

 

 

参考

今日の臨床サポート:鎖骨骨折

上原大志・筒井廣明:特集 知っておきたい骨折の治療手技 II.各論 鎖骨骨折・肩関節脱臼, 関節外科Vol.31 No.10, 2012.,1116-1124.

No. 138 運動療法

No. 138 運動療法

筋線維の特徴

タイプI線維は「遅筋」とも呼ばれ非常に疲労しにくい濃い色をした線維(いわゆる「赤身の肉」であり、この色は血管が豊富であることによります)であり、PAS染色ではミオシンATPアーゼが明るく染まります。タイプII線維は「白身の肉」ですが、組織学的にはPAS染色をすると暗く染まります。

ひとつの運動単位は同じタイプの筋線維で構成されています。ヘネマンのサイズの原理に従って、より小さい運動単位がよりはやく活動し、収縮強度が増すにつれて、次第に大きな運動単位が順次動員されます。筋電図は主にタイプI線維の活動を記録します。機能的電気刺激(FES)はタイプII線維を優先的に動員しますが、長期間使用していると、タイプII線維がタイプI線維へと変換するかもしれません。ステロイドはタイプII線維の萎縮を引き起こします。どちらのタイプの線維も加齢によって減少します。

 

筋力増強トレーニン

等尺性運動 – 関節の目に見える動きや、はっきりとした筋長の変化を伴わないで張力を発揮する運動方法です(例:壁を押す)。この運動は筋長を変えずに活動させたい場合に有効で、関節運動が禁忌の場合(例:靭帯再建術後)や、疼痛や炎症がある場合(例:関節リウマチ)に用いられます。怪我をする危険は最も少ないです。等尺性運動は血圧を上げる傾向があるため、高齢者や高血圧患者では避けた方が無難です。

等張性運動 – 持続的な外的負荷があり、運動速度は一定でない運動です。例えばフリーウェイトや、ウェイトマシン、体操(例:懸垂や腕立て伏せ、スクワット)、そしてセラバンド体操などです。これらの装置は簡単に利用できますが、怪我の危険性があります。

等運動性運動 – 角速度が一定で、外的負荷が変動する運動です。この運動は自然な運動としては存在しません。特殊な装置、例えばCybexやBiodexが必要です。使用者が強く押したら装置のアーム部分の動く速度は変わらずに抵抗が強くなります。これによって運動中の筋の長さ-張力曲線に沿った最大限の抵抗を加えた運動が可能になります。怪我のリスクは比較的少ないです。

求心性収縮 VS 遠心性収縮 – 求心性収縮は筋の動的な短縮が生じます。速い求心性収縮で生じる力は小さいです。遠心性収縮では、筋の動的な伸長が起こり、少ないエネルギーで強い力を生じます。筋収縮は、速い遠心性収縮で最も強く、次に等尺性、ゆっくり行う求心性、最も弱いのが速い求心性収縮です。

漸増抵抗運動 – DeLormeの原理では高負荷低頻度の運動が筋力増強に適しているとされていますが、低負荷高頻度の運動でも筋力はつきます。DeLorme法では、最初に10回反復できる最大筋力(10RM)が決定されます。10回の反復運動を10RMの50%、75%、そして100%の3セット実行します。セッションは週に3~5回行われ、10RMを毎週再決定します。オックスフォードの手法では、セットの順序が逆になり、最初に10RMの100%で10回行い、続いて75%と50%のセットを行います。DeLateurは後に、筋肉が疲労するように運動されている限り、筋力と持久力の向上は、この2種類の運動で同程度であることを証明しました。しかし高負荷・低頻度の運動の方が、より効率的でした(すなわちより少ない回数、より少ない時間で達成できていました)。Moritaniとde Vriesは、筋力トレーニングの最初の数週間での筋力増加は主に神経因子(例えば、活動する筋の運動単位の改善)によるものであり、筋肥大によるものではないことを実証しました。Daily Adjusted Progressive Resistance Exercise(DAPRE)法では、筋肉グループごとに4セットの運動が行われます。最初のセットは6RMの50%で10回、2セット目は6RMの75%で6回です。3セット目は6RMでできるだけ多く繰り返します。4セット目は、3セット目に遂行できた回数に基づいて負荷量を決めます。つまり6RMの5~7回遂行出来た場合は負荷は変わりません。それより少ない回数の場合は、負荷を下げ、多い場合は負荷を増やします。次のトレーニングセッションのための負荷量(6RM)の調整も必要に応じて行われます。

 

有酸素運動

定期的な有酸素運動は最大酸素摂取量(VO2max)を増加させ、安静時の血圧を低下させますが、筋力トレーニングはこれらのどちらにも影響を与えません。その他の有酸素運動による長期的な心血管系への良い影響には以下のものがあります;運動時の一回拍出量の増加、最大運動時の心拍出量の増加、運動耐用能の増加、HDLコレステロールの増加、安静時心拍数の減少、最大下の負荷に対する心拍数上昇の減少、安静時および最大下の活動時の心筋酸素消費量の減少、LDLコレステロールの減少、中性脂肪の減少です。最大心拍数は変わりません。歴史的には、有酸素運動は骨格筋量にはごくわずかな影響しか及ぼさないと考えられていましたが、最近では有酸素運動が筋量の喪失を緩和し、さらに肥大/同化作用すらあることが報告されています。糖尿病患者においては、肥満の改善とインスリン要求量の減少が認められます。また、気分、睡眠、免疫機能、および骨密度の改善もみられるかもしれません。

 

アメリカスポーツ医学会(ACSM)のガイドライン

150分/週の中強度の運動が推奨されており、そのために1日30分、週に5日運動する必要があります。 もしくは75分/週の激しい運動でも良く、そのためには少なくとも1日20分、週に3日の運動を実施します。さらに2~3日/週の筋トレと、2日/週の関節可動域運動も推奨されています。

 

運動処方

運動前評価 – 医師による評価は包括的に行う必要があり以下の重要な要素を含みます;現在と過去の運動習慣、運動への動機と障壁、運動のリスクと利益についての説明、好ましい活動の種類、社会的支援、時間とスケジュールの考慮。さらに以下の項目については特に注意が必要です;身体的な制限、現在および過去の医学的問題、使用中の薬、運動による症状の既往(息切れ、喘息、じんましん、および胸痛)、心疾患の危険因子(糖尿病や高血圧、喫煙、脂質異常症、座りがちな生活、肥満、50歳以下の心疾患の家族歴など)。運動負荷試験や他の精密検査を必要とする人をアメリカ心臓協会(AHA)とACSMのガイドラインに従って識別する必要があります。

運動処方の構成要素 – 以下の5つの要素は、年齢や運動能力に関わらず全ての運動処方に適用されます。加えて健康状態、使用している薬、危険因子、行動特性、個人目標、運動の好みなどについて慎重に検討する必要があります。

運動の種類や形式・・・運動の種類は、望まれる結果が得られるように、楽しくて長期間持続できることをベースに選択します。

運動の強度・・・運動強度は心拍数と自覚的疲労度によって計算されます。最も一般的な評価尺度はボルグスケールで、6点(まったく疲れていない)から20点(最大限に疲れた状態)の点数で評価します。9点は「かなり楽である」運動で、これは健常成人がゆっくり歩く程度の運動に相当します。13点は「ややきつい」運動で、中等度の運動強度にあたり、そのまま運動を継続することは問題ない状態です。17点は「かなりきつい」運動で、健常成人ならば続けることはできますが、かなりがんばらないといけない状態です。ボルグスケールの目標値は、運動プログラムに基づいて設定します。例えば、中等度の運動強度の場合は目標値は12点から14点に設定します。

運動の期間(時間)・・・これは1回の運動セッションの長さのことで、連続して行う場合や1日何回かに分けて断続的に行う場合もあります。運動の頻度・・・これは1日あたり、1週間あたりの運動セッションの回数のことです。

運動の強化・・・時間経過とともに、頻度や強度、持続時間などを変更しその時の状態に適応した活動に変更することです。

 

参考文献

 

No. 137 生涯学習のススメ

生涯学習のススメ

 

あけましておめでとうござます。年末年始さぼっていたので、久しぶりの再会です。続けていないと何となく書くのが億劫になってしまい、パソコンの前に座るまでに時間がかかりました。やはり、継続することが大事だと痛感しました。本年1回目は、総合診療という雑誌の1月号の特集記事;教えて検索!-膨大な医学情報を吟味・整理するスキル- からです。

 

学情報は日々どんどん増えています。医学情報の量が倍になるのにかかる時間は、1950年には50年だったものが、1980年には7年、来年の2020年には73日になると予想されています。全ての医学情報を覚えることは到底無理ですし、新しい情報を常に得ることだけでも大変です。それでも、現在の標準治療を知り、時代遅れでない治療を目の前の患者さんへ提供することは臨床家の義務です。その義務を果たすために、医療従事者は生涯学び続けることが必須です。

 

学習のスタイルとしては「臨床で疑問に思ったことを調べて勉強する」という方法があります。この方法では、学習したことがすぐに臨床に活かすことができるため、モチベーションを高く保ちやすく、記憶にも残りやすいです。この学習のためには、調べるためのスキル、例えば論文を検索してほしい論文にたどりつく、見つけた論文の内容を批判的に吟味して理解する、などの能力が必要で、さらに最新の情報はほとんどが英語で書かれるので英語力も必要です。

 

ただし、上記の学習スタイルだけでは臨床で遭遇しない疾患や、経験しない治療については勉強しないため、知識に偏りが生じますので、系統立った学習によって自身の専門領域とその周辺の最新のトピックや基礎を知っておく必要があります。そのためには、その道で最も信頼のある教科書を読むこと、自身の専門の雑誌を読むことなどを続けることが重要です。また最新の論文に目を通すために、様々なサービスを利用するのも効率的です。

 

私は以前からEvidence Up DateやNEJM Journal Watchという文献紹介サービスを利用していました。これらは、自分の興味関心のある医学分野を登録しておくと、それに関する論文が発表された時にメールで知らせてくれるものです。

 

この年末年始に、同様のサービスでリハに特化したものがあることを知りました。REHAB+(https://plus.mcmaster.ca/rehab/)というサービスです。事前に登録しておいた興味のある分野について新規の論文が発表されればメールで通知してくれます。論文全文が読めるかどうかはその雑誌次第なのですが、リハの雑誌はオープンアクセスのものは少なく、読めてもアブストラクトだけになってしまうことが多いのですが大まかな内容を把握することはできます。

 

他には、SNSやブログなどの情報を活用したり、勉強会に参加したりすることも、広い知識を得るためには有効です。

 

いずれにせよ継続することが重要で、自分にとって負担なく続けられる方法を確立してみてください。

 

参考文献

総合診療 Vol.29 No.1, 2019. 医学書

 

No. 136 栄養療法 ー入院高齢者の低栄養についてー

栄養療法 ー入院高齢者の低栄養についてー 

はじめに

“hospital malnutrition”という言葉があることからもわかるように、入院患者の栄養不良の発症率は3~5割と言われており、特に回復期リハ病棟では低栄養の発症率が高いという報告もあります。そもそも、なぜ低栄養がよくないのかというと、低栄養により筋肉の崩壊、体重減少、創傷治癒の遷延、Tリンパ球が減少し幼若化反応が起こりにくくなる、サイトカインの産生低下などにより免疫力の低下が生じ、疾病の治癒は遷延し、合併症が増加(2~20倍)、入院期間の延長、入院費の増大、死亡率の上昇につながるとされています。

1.低栄養の評価

1-1.程度の評価

(1)スクリーニング検査・・・SGA、NSIなどが用いられます。

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SGA

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NSI

(2)アセスメント

身体組成として、身長、体重、BMI、上腕周囲長、上腕三頭筋皮下脂肪厚、下腿周囲長などを測定します。臨床的評価項目としては体重変化、消化器症状、生理的機能、疾患と栄養必要量の関係などを考慮する必要があります。また生化学的パラメーターとして以下の血液生化学検査結果を参照することが多いです:

アルブミン値はよく低栄養の指標として測定されることがありますが、低アルブミン血症の原因は低栄養のみではないため、測定値の解釈には注意が必要です。

 

アルブミン血症の原因:

  • 合成の低下:肝硬変、炎症性疾患
  • 排泄の亢進:ネフローゼ症候群、吸収不良症候群、熱傷
  • 代謝の亢進:甲状腺機能亢進症、炎症性疾患
  • 細胞外液の希釈:心不全、腎不全による溢水 
  • 栄養不良:低栄養状態

 

1-2原因の評価

  1.  疾患に関連した栄養不良
  2.  食べない---食欲不振:加齢の影響、活動量不足、薬の副作用、疾患の影響、嗜好
  3.  食べれない---嚥下障害:誤嚥性肺炎

 

2.介入

2-1栄養摂取

(1)投与経路の選択:経鼻経管栄養、胃瘻、経静脈栄養

(2)エネルギー量

・ハリスベネディクトの式

・簡易法

(3)各栄養素の決定:水分、タンパク質、脂質、ビタミン、ミネラル、食物繊維

レジスタンストレーニング直後にBCAA2g以上、蛋白質10g以上で糖質を含む栄養剤や食品を摂取すると、筋肉の蛋白合成量が増えるとされています

 

リフィーディング症候群について

No.37でもとりあげましたが、リフィーディング症候群とは、栄養不良の状態が長期間続いていた患者に急激に高エネルギーの栄養療法を行なった場合に、低リン血症、低マグネシウム血症、低カリウム血症をきたし、発熱、痙攣、意識障害心不全、呼吸不全などを認める症候群です。

飢餓状態に適応してなるべく栄養素を使わないようになっているところに急激に大量の栄養素が入ることによって起きます。

 

リフィーディングシンドローム高リスク患者の判断基準

以下の1項目以上を有する

  • BMI < 16kg/m2
  • 過去3~6ヶ月で15%以上の意図しない体重減少
  • 10日間以上の経口摂取の減少あるいは絶食

以下の2項目以上を有する

  • BMI < 18.5kg/m2
  • 過去3~6ヶ月で10%以上の意図しない体重減少
  • 5日間以上の経口摂取の減少あるいは絶食
  • アルコール依存の既往、またはインスリン、化学療法、制酸薬、利尿薬を含む薬剤の使用歴

対応:

高リスク患者では、初期投与のエネルギーを制限し、必要なビタミンやミネラルが不足しないように投与します。

  • 投与エネルギー量:現体重×10kcal/kg/日(重症では5kcal/kg/日)から開始
  • 血清K・P・Mg、心不全徴候の有無をモニタリング
  • 100~200kcal/日ずつ増量し、1週間以上をかけて目標値(25~30kcal/kg/日)まで増やす

2-2運動療法

*メッツ(Metabolic Equivalents: METs)

運動時の酸素消費量を、安静座位時の酸素消費量(3.5ml/kg/min)で割った数値で、運動の強さの指標に用いられます。

およそ、理学療法は3メッツ、作業療法・病棟でのADL練習は2メッツ、言語聴覚療法は1.5メッツ程度が目安です。リハによるエネルギー消費量は以下の式で計算することができます:

エネルギー消費量(kcal)=1.05×体重(kg)×メッツ×運動時間(h)

例)体重50kgの患者が2メッツの運動を1時間、3メッツの運動を2時間行なった時の機能訓練によるエネルギー消費量は1.05×50×2×1 + 1.05×50×3×2 = 420kcalになります。

 

2-3薬物の影響

食欲を増進させる可能性のある薬

ドグマチール(50mg×2)、SSRISNRI(副作用に食欲低下あり)、ジプレキサ(2.5mg~10mg/日)、六君子湯、ペリアクチン、ガスモチン

嚥下に悪影響を及ぼす可能性のある薬

  1. 抗コリン作用のある薬(過活動膀胱の薬、古い世代の抗ヒスタミン薬、ベンゾジアゼピン系)、利尿薬:唾液を減少させ口腔衛生を悪化させる(以下の抗コリンリスクスケールも参照)
  2. 不眠症治療薬(睡眠剤抗不安薬):鎮静、咳嗽反射の減弱、抗コリン作用
  3. 筋弛緩作用のある薬(抗てんかん薬、抗精神病薬):動作緩慢、嚥下反射の惹起遅延
  4. 制酸薬(PPI、H2RA) :胃酸減少による殺菌作用の低下

抗コリンリスクスケール  

[最強リスク]

トリプタノール、アトロピン、トフラニール、ポラギス、ポララミン、コントミン、ペリアクチン、コランチル合剤、レスタミンコーワテルネリン、アタラックス、ロートエキス、フルメジン、ピレチア、ピーゼットシー

[強リスク]

シンメトレルジプレキサタガメットジルテック、デトルシトール、ノリトレン、リオレサール、ノバミン、ロペミンクラリチン、クロザリル

[中リスク]

コムタン、ネオドパストンセロクエル、エフピー、デジレルセレネースパキシル、ビ・シフロール、レメロン、ロバキシン、プリンペラン、ザンタック、リスパダール

 

2-4口腔ケア

絶食中には唾液の分泌量が極端に低下し、口腔内乾燥、抗菌作用が低下します。絶食中の高齢者の口腔内には、多剤耐性菌や腸球菌、セラチア、クレブシエラなどが増えます。つまり、経口摂取しないことは、誤嚥性肺炎のリスクになるのです。絶食→口腔内環境の悪化→不顕性誤嚥→絶食・・・と、悪循環から抜け出せなくなります。

大脳皮質の感覚中枢への刺激の30~40%は口や食べる器官からの刺激から来ています。したがって絶食にすると感覚刺激が減少し、全身の廃用へ繋がる可能性があります。

対策は、なにはともあれ絶食をなるべく避けることです。そして、どうしても絶食が必要な場合は、口腔ケアをよりいっそう丁寧に行うことです。

 

3.高齢者への栄養療法は有効か

体重増加、血清アルブミン値を上昇させたという報告は多くあるが、生命予後、合併症の発症、入院期間などに対する効果は一定していません。残念ならが高齢者に無理やり食べさせても、寿命が延びるわけではないのです。考えて見たら当たり前のことなのかもしれません。栄養の問題は、ただ栄養状態を改善すればよいという単純な問題ではありません。また高度認知症患者に対する経管栄養のメリットは確立されていません。

 

高齢者の低栄養のまとめ

  • 既に極度の栄養不良になってしまった高齢者を救うのは困難
  • 食欲低下、経口摂取がすすまない患者の栄養療法は限界がある
  • 栄養不良に至る前の段階(リスクあり)で何らかの介入をすべきである
  • 経管栄養高齢者への栄養学的介入は比較的容易である
  • しかし、経管栄養が患者のQOL向上に貢献しているかは疑問
  • 高齢者の低栄養原因は多くの因子が関与している
  • 従ってこれらの問題に介入するには多職種が関与する必要がある
  • これにはチーム医療が必須である 
  • チーム医療ができない環境では栄養の本格的介入は困難である

*葛谷 雅文:高齢者の低栄養, 老年歯学 20, 2, 2005.より一部改定

No. 135 肘関節の脱臼骨折のリハビリテーション

肘関節の脱臼骨折のリハビリテーション

 

肘関節脱臼骨折の特徴

  • 肘関節の脱臼は肘の外傷の11~28%を占める
  • それは10歳未満の子供の最も一般的な脱臼であり、成人では肩に次いで二番目に多い
  • 年間の発症率は6/10万人
  • 肘関節脱臼の90%が後方もしくは後外側への脱臼
  • 完全進展が出来なくなること、が最も多い合併症で、拘縮が60%の症例にみとめられる
  • 3週間以上の固定は、持続的な硬直と関節拘縮を引き起こす
  • これらの合併症は早期からの肘関節の自動運動を含めたリハビリテーションの必要性を示している

 

肘関節の脱臼に伴う骨折がよく見られるのは、橈骨頭、尺骨の鉤状突起、および肘頭です。いわゆる「terrible triad」と呼ばれる脱臼骨折は、鉤状突起、橈骨頭、および外側側副靭帯損傷を伴ったものです。肘関節の脱臼骨折は受傷時に加わる力の方向によっても分けられることがあります:軸方向、外反後外方回旋、内反後内方回旋です。肘関節の脱臼骨折の大半は外科的治療がされます。術後の方針は、どのような骨構造が修復されるかによって決まってきます。靭帯の再建もされていれば術後プロトコルは靭帯への負荷も考慮されます。軸方向の脱臼骨折の場合は靭帯は無傷の場合が多いですが、肘頭は橈骨頭の脱臼により骨折しています。外反後外方回旋による外傷の場合は、外側側副靭帯、橈骨頭、鉤状突起が傷害され、そして特に内側側副靱帯が傷害されます。内反後内方回旋による外傷では、外側側副靭帯と鉤状突起が傷害されます。

 

肘関節脱臼骨折のリハビリテーションプロトコル

 

1. 肘頭骨折と橈骨頭の脱臼を伴う軸方向の力による外傷

PHASE I (0–1週) ・・・・1週間のスプリント固定

PHASE II (1–6週)・・・・2週目に抜糸スプリントの除去
屈曲、伸展、回内、回外のROMex.を開始する
術者の指示で安定性を得るために継手付きの肘装具を用いることもある
高齢者や重度に粉砕した骨折の場合、保護されていない状態での全可動域のROMは、術者の指示によって最大で4週間遅
らせることもある

PHASE III (6–8週以降)・・抵抗運動を開始

 

2. 外側側副靭帯損傷、橈骨頭と鉤状突起の骨折を伴う外反後外方回旋による外傷

PHASE I (0–1週)・・・・・靭帯の修復に応じたスプリント固定

PHASE II (1–4週)・・・・・1週後にスプリント除去、2週後に抜糸
継手付き肘装具装着下で伸展マイナス30度の制限を4週間、マイルドな自動ROMex.
肘の他動的ROMex.は禁止
内外反ストレスを避けるために肘関節屈曲90度での前腕の回内外運動を行う

PHASE III (6–8週以降)・・・骨癒合が得られていることが明らかな場合は抵抗運動を開始する

3. 外側側副靭帯損傷と鉤状突起骨折を伴う内反後内方回旋による外傷

PHASE I (0–1週)・・・・・術後スプリント固定

PHASE II (1-6週)・・・・・2週後に抜糸、スプリント除去し継手付き装具を装着マイルドな自動ROMex.

運動中の特に体に近づける動作時の内反ストレスを避ける
鉤状突起
の固定性によって伸展角度が決まってくる

鉤状突起の骨癒合を考慮し、4週間は最終伸展マイナス30度に制限する

PHASE III (6–8週以降)・・・骨癒合が得られていることが明らかな場合は抵抗運動を開始する

 

参考文献

Charles E. Giangarra, Robert C. Manske, S. Brent Brotzman : Clinical Orthopaedic Rehabilitation: A Team Approach, Fourth Edition, ELSEVIER, 2018.

No. 134 薬の副作用のみかた

薬の副作用のみかた

 

 

uekent.hatenablog.com

No. 41でも取り上げましたが、どんな薬でも、意図していなかった好ましくない「できごと」(=事象)が起こる可能性があります。そのようなできごとを「有害事象」といいます。有害事象には、飲んだ薬が原因ではないできごとも含まれます。つまり、たまたま薬を飲んでいた時に起こった、好ましくないできごとも有害事象です。これらの有害事象のうちで、原因が薬であると認められた時にはじめて、その有害事象はその薬の「副作用」と呼ばれるようになります。つまり副作用は有害事象の部分集合です。

 

ある薬をのんだときに起こった有害事象がその薬の副作用であることを証明するのは、必ずしも簡単なことではありません。薬の本や添付文書をみると、それぞれの薬について副作用が列挙されています。あまりにたくさんの副作用が列挙されているため、逆に見にくくて有効活用がしづらくなっています。これは、添付文書の副作用にはそれまでの研究や報告などから「薬との因果関係が否定できない」有害事象も全て列挙されているためです。つまり可能性が否定できない有害事象はすべて副作用として記載されているのです。

 

話はそれますが、時々「〇〇の可能性は否定できない」というような言い回しをカルテなどで用いる場合があります。この文章は100%間違っていないが故に、何も言っていないのに等しくなっています。それと同じで薬の添付文書も間違っていない=書き漏らしていない、という状況をつくるために、薬との因果関係のうすいもの、はっきりとした証拠のないものまで記載して、本当に注意すべき副作用がわかりにくくなっています。

 

入院中の患者さんに何かよろしくない変化が起こったときに考えることは、「新規の疾患を発症した」か、「もともと持っていた疾患が増悪した、もしくは合併症が起こった」か、「治療の合併症(特に薬の副作用)が起こった」かのどれかに分類されます。入院患者の1/6には薬の副作用が起こっていたという報告もあり、決してまれなことではありません。

 

患者さんの状態を全体像を評価することが、薬の副作用を含め異常の早期発見につながります。

具体的内容は、

食事:食欲、味覚、嚥下障害、口渇、吐き気、胃痛

排泄:尿の回数、排尿困難、便の回数、便の性状、汗

睡眠:睡眠の質、睡眠時間、不眠の種類、日中の傾眠

運動:ふらつき、転倒、歩行状態、めまい、ふるえ、すくみ足

認知言語障害見当識、記銘力、判断力、抑うつ

などです。つまり副作用をみるといっても特別なことを行うわけではなく、普段の状態を把握することが重要である、ということです。特に高齢者では自覚症状に乏しい場合もあるので、積極的に情報を収集する必要があります。

 

そして、薬の副作用が疑わしい場合は、担当医や薬剤師に相談をします。特に薬剤師は薬のプロフェッショナルなので、添付文書を読めばわかること以上の、薬物動態学的、薬力学的な知識をもとに複数の薬の相互作用なども検討した評価をしてくれるはずです。今時添付文書の情報を調べるだけならネット環境があれば誰でもできます。添付文書の内容以上のアドバイスができることに病棟薬剤師の存在意義があります。処方された薬を用意する業務がまるで主な業務のように思ってしまいがちですが、あくまでもそれは副次的なものです。

 

参考文献 川口 崇・岸田 直樹 編著:3ステップで推論する副作用のみかた・考え方, じほう, 2018.8.