No. 120 急性胆嚢炎

急性胆嚢炎

 

急性胆嚢炎は、食後数時間してから吐き気や嘔吐、上腹部の痛み、悪寒や発熱などの症状が出現する病気です。胆石をもっている人に起こりやすく、胆石が胆管にはまって、そこに細菌感染が起きて発症します。9割はこの結石が原因で起こるのですが、胆石のない人にも起こる場合があります。この「無石胆嚢炎」は急性胆嚢炎の3.714%を占め、その危険因子は、手術、外傷、長期のICU滞在、感染症、熱傷や経静脈栄養などがあります。つまり、「一定期間の絶食+からだへの侵襲ストレス」の状態で起こりやすいです。

 

絶食状態では、コレシストキニンなどの消化管ホルモンの分泌が減少することで、胆嚢の運動が減少し胆嚢内に胆汁が滞り、胆汁が濃縮されます。すると胆嚢の内圧が上昇し、その結果、胆嚢の粘膜の損傷や胆嚢壁の虚血が引き起こされ無石胆嚢炎発症の誘因となります。一定の絶食期間後に、経管栄養を含む食事を開始した後の12週間が、とくに無石胆嚢炎の危険性が高くなります。

 

典型的な症状は右季肋部痛で(3893%)、右季肋部痛と心窩部痛を合わせると7293%です。次いで悪心・嘔吐が多く(約70%)、発熱は62%にみられます。38℃を超える高熱は3割程度です。無石胆嚢炎では20%で右上腹部に腫瘤が出現します。これは胆石が原因の場合にはみられないとされています。

 

一方、Murphy徴候(右季肋下部を圧迫した状態で深く息を吸い込んだ時に痛みの為に呼吸が止まる徴候)は、急性胆嚢炎の診断に対する感度は5060%(つまり急性胆嚢炎の人でMurphy徴候が陽性になるのは5060%と言う意味で、4050%の患者は見逃すということ)であり、特異度は7996%と高い(急性胆嚢炎でない人でMurphy徴候が陰性になるのが7996%と言う意味、つまりMurphy徴候が陽性ならば高確率で急性胆嚢炎)です。ただし高齢者では感度が下がります。

 

似た様な症状を示す疾患には、肺炎や膵炎、肝膿瘍、腎盂腎炎、心疾患が含まれます。診断には腹部エコーやCTなどの画像所見が有用です。

 

胆嚢炎の超音波所見:

  • sonographic Murphy徴候(超音波プローブによる胆嚢圧迫による疼痛)
  • 胆嚢壁肥厚(>4 mm)
  • 胆嚢腫大(長軸径>8 cm、短軸径>4 cm)、嵌頓胆嚢結石、デブリエコー
  • 胆嚢周囲浸出液貯留
  • 胆嚢壁sonolucent layer (hypoechoic layer)
  • 不整な多層構造を呈する低エコー帯、ドプラーシグナル

 

急性胆嚢炎の初期治療は、手術や緊急ドレナージ術の適応を考慮しながら、絶食のうえで、十分な輸液と電解質の補正、鎮痛薬投与、抗菌薬投与です。その後、重症度に応じてその後の治療方針が決定されます。急性胆嚢炎では壊疽性胆嚢炎や穿孔、化膿性胆嚢炎、気腫性胆嚢炎となることがあり、このような症例に対しては緊急手術が必要になります。治療が遅れると死亡率は75%と高く、治療したとしても30%の死亡率です、この高い死亡率はICU入院中などで重症な患者さんが多いことが影響しています。

No. 119 体位ドレナージは有効か?

体位ドレナージは有効か?

体位ドレナージとは、体位によって喀痰を排泄する方法です。100年以上も前からある方法です。姿勢をあれこれ変えることで喀痰を中央の気管へ移動させて体外へ排泄させます。例えば右の肺に喀痰がある場合は左を下にした側臥位をとることで喀痰が中央へ移動します。

 

寝たきりの患者さんは仰臥位(あおむけ)で過ごす時間が多いため、喀痰は背側にたまりやすいです。そのため、背側の痰を体位ドレナージするために腹臥位で寝かせる方法が主にICUの人工呼吸器が付いている患者さんで検証され有効性が示されています。しかし腹臥位は合併症の報告も多く、酸素消費量の増大、皮膚の発赤、顔面の浮腫、低血圧、頻脈などがみられることがあります。また腹臥位への退院変換には人手がたくさん必要です。

 

腹臥位の代わりに、側臥位でも代用可能ですが、45度程度の側臥位では効果はなく、最低でも60度、できれば90度つまりベッドの面に対して垂直、さらに言うと前傾側臥位(つまり90度以上)にすることで効果的な体位ドレナージが可能です。実施時間については統一した見解は今の所なく、通常は3~15分ほど同一の体位を維持します。 

 

さらに適切な体位を取った後の補助手段として、スクイージングという呼吸介助手技があります。これは、呼気(息を吐く)時に、喀痰が貯留している部位の胸郭をしぼるように介助することで、呼気の流速を加速し喀痰の移動を促す方法です。他にもタッピングやバイブレーションなど喀痰の移動を促す手技がいくつかありますが、エビデンスが最もあるのはスクイージングです。スクイージングは、胸郭の呼吸運動の知識をもった人が、患者さんの呼吸にあわせて最適な力で介助して初めて安全で有効な手技になるので練習が必要です。

 

他にも喀痰の排出を促すための手段としては、去痰薬を内服して痰の粘稠度を下げる、ネブライザーで加湿をする、などの補助手段があり、これらも併用することでさらに効果があがります。

 

調べた範囲では、体位ドレナージの効果については人工呼吸器関連肺炎の予防についての論文は多数ありますが、回復期リハ病棟での有効性についての報告は見つかりませんでした。系統的な介入と評価を行えば論文化できるかもしれません。

 

参考:倉原 優 ねころんで読める呼吸のすべて メディカ出版, 2015.

No.118 外傷性脳損傷Traumatic Brain Injury

外傷性脳損傷Traumatic Brain Injury : TBI

PATHOPHYSIOLOGY

一次的な傷害は衝撃そのものによるもので、受傷後数時間以内に起こります。びまん性軸索損傷(DAI)は、衝撃時の加減速、回転力、および白質と灰白質との間の組織密度の差によって生じる軸索のせん断損傷のことです。意識、覚醒、認知機能の喪失を引き起こす可能性があります。脳挫傷は急速な加減速を伴う直撃損傷と対側損傷によって起こり、下前頭部および前側側頭葉に起こりやすいです。硬膜下出血はTBIでよくみられる出血で、脳萎縮があるために高齢者で起こりやすいです。硬膜外出血は受傷後に意識清明な期間があるため見逃される可能性があるのですが、緊急手術適応の事態です。くも膜下出血(SAH)は軟膜とくも膜下腔の間で起こります。後になって水頭症を生じる事があります。外傷後記憶喪失(PTA)は、日常的な情報や進行中のイベントなど、TBI後の記憶を保持することができなくなります。

 

RECOVERY AND OUTCOMES

神経可塑性が回復に影響します。不適応な変化によって痙攣や発作などの悪影響をもたらす可能性があります。神経機能解離は損傷していない脳の領域が、機能的に連結している領域が障害されることで、つられて機能低下に陥った状態で、この神経機能解離が徐々に改善するのは、神経可塑性と脳血流の改善によるとされています。

 

予後不良因子は、年齢4歳以下、65歳以上、脳幹反射の存在、 低いGCSスコア、脳画像検査上での両側の所見、長い期間の低覚醒状態、長い期間のPTA、弛緩性および痙性麻痺、失禁、低いFIMスコア、体性感覚誘発電位(SEP)におけるN20応答の欠如、があります。PTAが2ヶ月未満の時は重度の障害はめったにありませんが、3ヶ月以上のときにはほとんど回復は見込まれません。

 

DISORDERS OF CONSCIOUSNESS

意識とは、自己と環境を認識し、かつ環境へ反応する覚醒状態のことです。昏睡や植物状態は、覚醒中枢である網様体賦活系(RAS)や、そこから投影している皮質の損傷によっておこります。昏睡の持続時間が長いほど予後は悪く、昏睡状態が2週間未満の場合重度の障害は滅多に起こりませんが、昏睡状態が4週間以上続くと予後は不良であることが多いです。

予後が大きく異なるため、植物状態と持続性植物状態(MCS)の区別は特に重要です。

 

ACUTE MANAGEMENT OF TBI

TBIにおいてルーチンの頭蓋内圧(ICP)モニタリングが予後を改善することを示す質の高いデータはありません。ですがICPモニタリングは初期のTBIケアにおいて一定の役割を担っています。その理論的根拠は、ICPの増加が脳灌流圧(CPP =平均動脈圧-ICP)を低下させるため、モニタリングしてICPが増加しないようにすることは有用である、という所にあります。

ICPは、温度、ストレス、刺激、血圧上昇、仰臥位、吸引、または積極的な理学療法によって増加する可能性があります。脳浮腫や脳室の圧縮、または臨床的な機能の低下を伴った重度の脳損傷(例えばGCS≦8)では脳室ドレナージが留置されます。ICPの上昇(> 20mmHg;正常は2~5mmHg)に対しては、頭部挙上や利尿剤(マンニトール)または高張食塩水、バルビツール酸塩/鎮静剤、外科的減圧術(罹患率は高齢者で高くなる可能性がある)、または過換気(慎重に使用)で対応します。低体温は、ICPを減少させることにおいては有益かどうかは分かっていません。大規模な無作為化試験の結果、ステロイドは急性TBIのルーチン治療として推奨されなくなりました。非ステロイド群と比べてステロイド投与群の死亡率が上昇したのです。

 

TREATMENT OF COMA AND VEGETATIVE STATE

意識障害の治療は、感覚刺激(聴覚、感覚、振動など)および神経刺激薬(メチルフェニデート、アマンタジン、ドーパミンアゴニスト、選択的セロトニン再取り込み阻害剤など)の使用が中心となります。これらの治療法による臨床転帰が改善されたことを示す質の高い根拠は不十分ですが、他に出来ることがないために実施されている、という状況です。二次的な合併症(皮膚の損傷、拘縮など)の予防も重要です。

 

TREATMENT OF MEDICAL COMPLICATIONS OF TBI

睡眠障害はTBI後の最も一般的な症状です。適切な睡眠習慣の獲得が最重要です。定期的な睡眠-覚醒サイクルを再確立すべきで、そのためにスケジュールを維持し、カフェインを避け、夕方に運動し、静かで落ち着いた環境を促進します。薬の副作用、痛み、および睡眠を阻害する他の要因にも対処します。第二選択が薬であり、OTCメラトニン(3-9mg)から開始します。メラトニン受容体アゴニストであるラメルテオンはより高価であり処方箋を必要としますが必ずしもより効果的なわけではありません。ほかにはトラゾドン(25-150mg)も選択肢のひとつです。ゾルピデムや他の「Zドラッグ」はベンゾジアゼピン様の鎮静/催眠の効果があり使用すべきではありません。抗ヒスタミン剤(例えばジフェンヒドラミン)も、記憶や新しい学習を妨げる可能性があるので避けるべきです。

覚醒不良もよくある事で適切な睡眠管理が必要です。アマンタジン(100-200mg)およびメチルフェニデート(5-20mg)のような神経刺激薬を朝夕食時に投与することが一般的に行われます。メチルフェニデートてんかん発作閾値を低下させないため発作の危険性がある場合に有効です。ブロモクリプチン、モダフィニル、カルビドパ、およびドネペジルは覚醒や記憶を改善するかもしれません。

興奮は、PTAの時期に起こるせん妄のひとつであり、アカシジア、脱抑制、情動不安定性、破壊性または攻撃性のような行動過剰の形で現れます。このような行動は前頭側頭葉傷害において生じます。対策は、環境を最適化し興奮の根本的な原因(例えば薬物、空腹、痛み、疲労てんかん発作、感染など)を排除することに重点を置きます。また、面会は制限し、治療スタッフも固定すべきです。患者は頻繁に見当識を持たせるように介入します。マンツーマンでの対応が行動を誘導するのに役立つかもしれません。薬物治療は環境管理が不十分な場合の次善の策です。気分安定薬(バルプロ酸、ラモトリジン、カルバマゼピン)、非定型抗精神病薬(リスペリドン、ジプラシドン、オランザピン、クエチアピン)、抗うつ薬(SSRI、ブスピロン)、およびβ遮断薬(プロプラノロール、カルベジロール、ラベタロール)が用いられます。薬物療法は低用量で開始し、認知面への副作用を観察しながらゆっくりと増加します。ベンゾジアゼピンおよびハロペリドールは重大な副作用を引き起こす可能性がありますが、統合失調症の既往がある場合などは使用することもあります。アマンタジンやメチルフェニデートなどの神経刺激薬は、注意や遂行機能に関する障害を改善することによって興奮を改善するかもしれません。身体的な拘束は自分や他の人に傷害を与える危険がある状況に限定すべきです。

神経内分泌機能不全は、視床下部/下垂体傷害に関連し、TBIの数ヶ月後に現れることがあり、倦怠感、低体温、徐脈、低血圧、またはリハビリテーションの進行の停滞などがみられます。TBIで生存している患者の推定30~50%が内分泌異常を呈し、診断されないままのことも稀ではありません。スクリーニングは3~6ヶ月時点と1年時点で行うことが推奨されます(例えば、コルチゾール、卵胞刺激ホルモン、黄体化ホルモン、テストステロン、プロラクチン、IGF-1、エストラジオール、甲状腺、プロラクチン)。 治療はホルモン補充療法です。

ナトリウムの異常は、抗利尿ホルモン不適合分泌(SIADH)、中枢性塩類消失症候群CSW)、または尿崩症(DI)に続発して起こる可能性があります。ADHは腎臓の集合管に結合して水の再吸収を促すので、ADH過剰は水分保持およびNa排泄を引き起こします。SIADHでは、細胞外液量は変わらないかやや増えた状態で、低ナトリウム血症、低血清浸透圧、および高尿浸透圧をもたらします。SIADHは自由水制限(例えば1L/日)で治療します。より重度の症例では、高張食塩水注入が必要となることがありますが、急速に補正された場合、橋中心髄鞘崩壊症を起こすことがあるため注意が必要です。慢性SIADHは、ADH阻害剤であるデメクロサイクリンで治療することができます。CSWは、脳の原因によるNaの腎からの損失であり、低ナトリウム血症、低血清浸透圧および高尿浸透圧をもたらします。SIADHとCSWを鑑別するための重要な特徴は、CSWでは脱水/血液量減少(ECF喪失)はありSIADHでは見られないという点です。CSW(脱水およびNa低下状態)の治療は、等張性生理食塩水による補液です。DIは脳下垂体の重篤な損傷によって引き起こされ、ADH欠乏により全身の水分(細胞内+ECF)の減少と高ナトリウム血症が生じますが、ECFは正常です。水分摂取量が維持されないと、DIは脱水が重篤になることがあります。DIはバソプレシンで治療します。

外傷後のてんかん発作は、単純部分発作(意識消失なしの部分発作)、複雑部分発作(意識消失ありの部分発作)、または全般発作に分類することができます。てんかん発作のリスクはTBIが重症であるほど高くなり、開放性の傷害、出血、異物、硬膜の裂傷、頭蓋骨の陥凹骨折、ミッドラインシフトを伴う様な場合は要注意です。バルプロ酸またはレベチラセタムを発作を予防するために中等度から重度のTBI後1週間予防投与することが推奨されます。1週間を超える予防は推奨されておらず、投与を続けると神経機能の回復に悪影響を及ぼすとされています。(24時間以内に起こる)即時の発作は、外傷によって直接引き起こされると考えられ、将来の発作を予測するものではありません。即時発作があった場合もTBI後1週間の予防でよいとされています。外傷後早期発作(TBI後1日~7日の間に起こる)の最適な管理はまだ確立されていません。一般的には抗てんかん薬で少なくとも数ヶ月間治療されます。早期外傷後発作を有する人の約25%が、その後も発作を起こします。遅発性発作(TBI後7日後に起こる)は長期に抗てんかん薬で管理すべきです。カルバマゼピンは部分発作に、バルプロ酸は全般発作に推奨されています。これらの薬物は、その副作用がTBIにとっては好ましいものであるために用いられます。他に使用される薬物には、レベチラセタム、ガバペンチン、フェニトイン、およびラモトリギンが含まれます。いずれの抗てんかん薬も相互作用があるため慎重に使用しなければなりません。フェノバルビタールの使用は避けるべきです。抗けいれん薬は発作が続く限り使用され、少なくとも2年間発作がない場合、薬のテーパリングが考慮されることがあります。 EEGはしばしば抗けいれん剤の中止前に行われます。外科的選択肢には、迷走神経刺激および発作部位の定位的切除が含まれます。

ジストニアを伴う発作性の自律神経不安定症候群(PAID)は、頻脈、高血圧、頻呼吸、発熱、発汗、およびジストニアからなる症候群です。治療には、ストレス要因(例えば、痛みまたは騒音)の最小化、根本的な医学的問題および合併症(例えば尿路感染症、創傷感染症、併存疾患)への対処、冷却ブランケットの使用が含まれます。 一般的に使用される薬物にはNSAID、β遮断薬、ブロモクリプチン、アマンタジンや、痙縮に対してのリオレサール、および悪性高熱に対するダントロレンなどがあります。

血行動態障害として頻脈や高血圧が起こる事があり、これは、カテコールアミン放出や調節の不具合は関係しているとされています。β遮断薬による治療がされます。

痙性には早期かつ積極的なROMex.が、関節可動域を維持し、二次合併症を予防するために推奨されます。経口抗痙縮薬の使用は、その副作用のためおすすめできません。 ボツリヌス毒素は、局所的抗痙縮治療として選択肢のひとつです。

脳神経損傷では、CN I(嗅覚)が最も障害されやすく、かつ、最も見逃されてもいます。摂食/栄養に影響を及ぼす可能性があるため、この傷害については全てのTBI患者で検査されるべきです。嗅覚障害の3分の1が完全な機能回復をし、3分の1はある程度まで回復し、3分の1は全く回復しないとされます。CN VII(顔面)とVIII(内耳)もよく損傷を受けます。

 

From Matthew Shatter, Howard Choi : PHYSICAL MEDICINE AND REHABILITATION POCKETPEDIA 3rd ed

 

No. 117 呼吸数 ー4番目のバイタルサインー

呼吸数ー4番目のバイタルサインー

入院している患者さんは毎日「バイタルサイン」を測定されます。「バイタルサイン」には、体温、心拍数、血圧、そして呼吸数が含まれます。最近は呼吸数の代わりにパルスオキシメーターで測定される経皮的動脈血酸素飽和度SpO2が使用されることが多いですが、SpO2と呼吸数は別物であり、それぞれの値には相関(r=0.16)もなく、得られる情報は異なります。なのでSpO2は呼吸数の代わりにはならずどちらも重要です。

 

呼吸数は、時計さえあれば測定することができます。1分間に何回呼吸しているかを数えればよいだけです。しかし、1分間数えるのは時間がかかりすぎるので、もっと短い時間、例えば15秒間や30秒間の呼吸数を数えて、それぞれ4倍、2倍する、という数え方をすることが多く正確性がやや犠牲になっています。それでも、呼吸状態を観察することで、異常な呼吸の存在に気づく機会になります。さらに、呼吸状態が悪くなった時に、最初に異常を示すのはSpO2ではなく呼吸数です。呼吸が苦しくなったときに呼吸数を増やすことで代償しようとします。代償しきれなくなってようやくSpO2が低下します。なので呼吸不全を早期発見するには呼吸数に注目する必要があります。ただし、高齢者ではもともと胸郭が変形し拘束性換気障害のために普段から呼吸数が多い患者さんもいるため普段の呼吸数を把握しておくことが重要です。

 

正常な呼吸数の平均値は20回/分(16~25回/分の範囲)です。頻呼吸は25回/分以上と定義されています。頻呼吸はさまざま診断・予測に役立つことがわかっています。例えば、入院患者さんの呼吸数が27回/分を超えている場合、心肺停止の確率が20%増えます。また咳と発熱のある患者さんに28回/分を超える頻呼吸がある場合は肺炎の確率が20%増えます。また肺炎患者の呼吸数が30回/分を超えている場合は死亡率が16%増えます。また、No.99

 

uekent.hatenablog.com

 

で紹介した敗血症の診断基準であるqSOFAの3つの項目のひとつも「呼吸数22回/分以上」というものでした。

 

呼吸数を数えるコツは、患者さんに「今から呼吸の数を数えます」とは言わずに、「脈を測ります」と言って橈骨動脈を触れるふりをして呼吸数を数える、という方法です。患者さんに呼吸を意識させると普段の呼吸様式とは異なる呼吸をしてしまい、正確な評価にならない可能性があります。また急変状態でゆっくり30秒も数えている場合じゃないときは、No. 46で紹介した方法で、呼吸数が30回/分より多いのかどうかだけを評価するという方法もアリです。

 

uekent.hatenablog.com

 

「その病院の質を評価する時には、経過表に呼吸数が記載されているかどうかをみればよい」とも言われています。呼吸数は有益な情報を提供してくれるバイタルサインにも関わらず軽視されてきましたが、今後は他のバイタルサインと一緒に当たり前のように測定・記載しなければならなくなると予想されます。

 

参考:マクギーの身体診断学 改訂第2版, 診断と治療社, 2014. 

No. 116 脳卒中患者でのイメージトレーニングの効果

脳卒中患者でのイメージトレーニングの効果

イメージトレーニングは、プロスポーツ選手の間では普通にトレーニングに取り入れられています。イメージトレーニングが脳卒中後の上肢機能の改善にも有効かどうか検証した論文を紹介します。

 

Motor imagery training improves upper extremity performance in stroke patients 

Seong-Sik kim, Byoung-Hee Lee J. Phys. Ther. Sci. 27: 2289–2291, 2015.

 

脳卒中になった患者の85%には上肢の麻痺が残ると言われています。するとほとんどの人が日常生活動作を非麻痺側で行い麻痺側上肢を使用する頻度は減りさらに機能は低下してしまいます。反復練習をすることで神経ネットワークの可塑性により機能の改善がもたらされると言われていますが、はたして実際には上肢を動かさずに頭でイメージするだけでも有効なのでしょうか。

 

発症から6-12ヶ月経過した、MMSEの得点が24点よりも高くて、30分座れる24人の脳卒中患者を2つのグループに分けて実験を行っています。なお半側空間無視認知症、うつ、てんかんなどの重篤な認知機能障害、拘縮や関節可動域制限などの筋骨格系の障害のある患者は含まれていません。24人はランダムにイメージトレーニング(MI)とコントロールに振り分けられました。全ての患者に介入前後のFugl-Meyer Assessment上肢項目(FMA-UE)とWolf Motor Function Test (WMFT)を行いました。どちらのグループも1回30分の自主トレを週に3回、4週間実施し、さらにどちらのグループも従来の理学療法を1回30分、週5回、4週間受けました。

さらにMIグループは、コンピュータモニターとスピーカーを使用したMIプログラムに沿って、椅子に座った状態で課題を想像するという練習を行いました。課題の内容は以下の通り:コップから水を飲む、本のページをめくる、コードをコンセントに差し込む、両方の手を使って歯ブラシに歯磨き粉をつけて歯を磨く、箸とスプーンを分けて箱に入れる、タオルをたたむ、トイレットペーパーをちぎってたたむ、電話をかける、自分の財布にカードを入れる、電池を交換する、ジッパーを開閉する、ハサミを使う、スプレーボトルで水を噴霧する、蛇口のオンとオフを切り替える、正方形の気密容器を開閉する、瓶の蓋を開ける、靴紐を結ぶ、です。イメージの仕方は、非麻痺側で普段行っているところを、外からの視点で見ているように想像するというものです。ちゃんとやっているか確認するために、運動中に5分ごとに関連する質問をしたそうです。30分のセッションのうちMIを20分実施後10分間は理学療法を受けました。

 

結果、MIでは平均FMA-UEスコアは介入前後で27.92から36.08に変化しました(p <0.05)。またコントロールでも、28.58から31.00に変化しましたが、介入前後のFMA-UE改善には2群間で有意な差がありました(p <0.05)。MIではWMFTの平均スコアは、介入前後で44.75から51.00に変化し(p <0.05)。コントロールでも35.08から40.17に変化しました。2群間で介入前後のWMFT改善には有意差はありませんでした(Table 1)。

 

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イメージトレーニングでは実際に動作した時と同じ脳の領域と筋肉に活動を誘導することが知られています。この研究では、脳卒中後の運動機能の改善にも有効であるという結果が示されました。筆者は、身近な動きを繰り返しイメージして、さらにその後の10分でセラピストと一緒に動きを模倣する、という形をとったことが良かったのではないかと述べています。他の研究では、他人が歩いているところを観察した後に歩行練習をすると歩行能力がより向上した、という報告もあります。これらの結果は、脳卒中の治療対象はあくまでも「脳」である、という事実を再認識させてくれます。

ミニレクチャー No. 115 大動脈弁狭窄症

大動脈弁狭窄症

心臓には4つの部屋があり、全身から帰ってきた血液が大静脈から右心房へ集まり、右心室へ行き、肺へと出てゆき、二酸化炭素を出して酸素を取り込んだ後、左心房へと戻り、左心室へ行き、最後に大動脈へと流れて全身へ血液が供給されます。この流れを逆流させないための4つの弁が心臓には存在します。そのうちのひとつ、左心室から大動脈への出口にあるのが「大動脈弁」です。この大動脈弁の開きが悪くなった状態を「大動脈弁狭窄症」といいます。最近では、原因はほとんどが高血圧による動脈硬化によるもので、高齢者に多い疾患です。

症状としては、はじめは収縮期駆出性雑音(聴診器で心音を聞いた時に「ドックン」の「ドッ」と「クン」の間で、まさに小さい穴に無理やり液体を通しているような音が聞こえます)がきかれたりしますが、とくに症状なく経過します。症状が出てはじめて診断されることもまれではありません。

重症になってくると、労作時の呼吸困難、息切れ、全身倦怠感、下肢浮腫、起坐呼吸(横になると呼吸が苦しくなり座っているすこしらくになることで心不全の症状です)、夜間発作性呼吸困難(起座呼吸と同じ原理で夜間寝ていて呼吸苦がみられます)などの心不全症状や狭心症状、そして失神を起こします。失神といえば、なんとなく脳の問題のような気がするかもしれませんが、実は失神患者の10人に1人は心血管疾患が原因です。さらに高齢者ではその割合はさらに高くなります。 

大動脈弁狭窄症の治療は、重症度によって方針が異なります。心エコー検査で重症度を判定します。実は症状が出現した段階ではもう重症で予後不良な状態であり、狭心症状が出現してからの余命は5年、失神が出現してからは3年、心不全が出現してからは2年といわれています。

大動脈弁狭窄症に有効な薬はありません。問題になってくるのは「いつ手術に踏み切るか」ということです。狭心症、失神、心不全症状が出現すれば手術の適応です。症状がなくても心臓の機能が低下していれば手術の適応です。軽症のうちの予防的な手術は行われません。手術が不能な場合や、手術を拒否された場合には、心不全症状改善のための内服薬を極少量から開始したりしますが、それによって血圧が低下すると狭くなった弁を通り抜けて血液を送り出すことが難しくなり失神を引き起こすことに繋がり難しいところです。

 

最近は、開胸での弁置換術がリスクが高くて困難な場合でも、経カテーテル大動脈弁留置術 (TAVI : transcatheter aortic valve implantation)という低侵襲の方法が普及し、高齢者でも手術をする場合が増えてきました。

 

参考 香坂 俊:極論で語る循環器内科 第2版, 丸善出版

ミニレクチャー No. 114 反復練習が脳卒中後の筋力におよぼす影響

反復練習が脳卒中後の筋力におよぼす影響

 

脳卒中によって麻痺が起こると手足が動かしづらくなります。その麻痺がどの程度の麻痺かを表現する方法として、複雑な動きがどの程度できるのかという観点から点数をつける評価方法と、単純に筋力で評価するという方法があります。脳卒中による麻痺の場合「筋力がただ単に強くても、思い通りに動かなければ意味がないので、筋力での評価は無意味である」とかつては思われていました。しかしNo. 110でも紹介したように、脳卒中患者でも筋トレをすることで、痙性を増悪させることなく筋力は増え、活動が広がることが示され、脳卒中後の筋力増強訓練への注目が高まりました。

 

No. 110で紹介した論文では筋トレ、とくに「漸増抵抗運動」が最も有効であると述べられていますが、実際に脳卒中後の患者さんでは筋トレは十分にはできないことがほとんどです。そのような中で、今回紹介する論文は「反復運動」が脳卒中後の患者さんの筋力増強に有効かどうかを調べたメタアナリシスです

 

Sousa, Davide G de, Lisa A Harvey, Simone Dorsch, Joanne V Glinsky.  Interventions Involving Repetitive Practice Improve Strength after Stroke: A Systematic Review. Journal of Physiotherapy 64, no. 4 (2018,10): 210–21.

 

脳卒中後の患者さんの麻痺した上下肢の筋力は同年代の人の30-50%になるそうです。この筋力低下によって深刻な活動と参加の制限を来します。漸増抵抗運動は筋トレに一般的に使用されますが、脳卒中後の患者の筋力を改善するためにも使用することができます。ただし、漸増抵抗運動は高負荷低頻度、つまり812回繰り返し行うことができる程度の負荷をかけた運動を、徐々に負荷を上げつつ少なくとも2セット行う、というようなやりかたをします。この手法はいまのところ、脳卒中後の患者さんにはあまり用いられていませんし、ガイドラインでも推奨されていません。というのは、漸増抵抗運動は、筋力が非常に弱い人、すなわち麻痺のある人では、単純に行いにくいという理由からです。これとは対照的に「反復練習」は筋力の弱い人でも行うことができます。

 

この論文で用いられている「反復練習」には以下のものが含まれています:課題指向型訓練、機能的電気刺激(FES)もしくはFESと自動運動の併用、ロボットアシストリハ、CIM療法、ボバース法、サイクリング、 補助装置(SMART Arm & SAEBO)を使ったもの、ビデオゲームwhole body vibrationと自動運動の組み合わせ、ミラーセラピー、水中運動療法です。要するに世の中の脳卒中リハビリテーションで日々「反復して行なっている練習」すべてです。「反復練習」は活動の制限を減らすのに効果的であることは知られており、これを確認する多くの系統的レビューがあります。 しかしながら「反復練習」が脳卒中後の筋力に及ぼす影響については系統的レビューは今まで行われてきませんでした。リハの世界では「こんなの考えたら当たり前じゃん」で終わってしまい文献的な考察がなされていない分野がまだまだたくさんあります。

 

このメタアナリシスでは最終的に52の研究が採用されました。患者の平均年齢は4779才で、脳卒中発症後の平均期間は6日~8年で、52の研究中28脳卒中6ヶ月以上経過した人を対象としていました。結果として、「反復練習」によって、筋力の向上がみられていました。どの程度の効果があったかというと、上肢では握力が平均で1.28kg増加し、下肢では膝伸展筋力が5.75Nm増えていました。これは、介入前と比較すると上肢では15%増加、下肢では28%増加したことを表しています。この値を意味があるとするかどうかは疑問の残るところです。すくなくとも「反復練習」は筋力の面では上肢(握力)よりも下肢(膝伸展)においてより有効そうです。ただし漸増抵抗運動をした場合の筋力の増強の割合は98%、電気刺激療法でも47%という報告がありますので、ただ単に数字を比べると、がっかりな結果です。しかし、だからといってこの二つの方法の方が「反復練習」よりも筋力をより改善すると結論づけることはできないと、筆者は述べています。というのは、漸増抵抗運動の対象者は筋力の弱い患者を除外しているため今回の研究とは対象患者が異なり、決定的なことを言うにはランダム比較試験でガチンコ勝負をする必要があるからです。

 

この論文から言えることを要約すると「脳卒中後のリハでも筋トレは重要だけど、筋トレが出来そうにもない人に無理して行わなくても、基本動作の反復練習を続けていればそれなりの筋力はついてくる」といったところかと思われます。