No. 117 呼吸数 ー4番目のバイタルサインー

呼吸数ー4番目のバイタルサインー

入院している患者さんは毎日「バイタルサイン」を測定されます。「バイタルサイン」には、体温、心拍数、血圧、そして呼吸数が含まれます。最近は呼吸数の代わりにパルスオキシメーターで測定される経皮的動脈血酸素飽和度SpO2が使用されることが多いですが、SpO2と呼吸数は別物であり、それぞれの値には相関(r=0.16)もなく、得られる情報は異なります。なのでSpO2は呼吸数の代わりにはならずどちらも重要です。

 

呼吸数は、時計さえあれば測定することができます。1分間に何回呼吸しているかを数えればよいだけです。しかし、1分間数えるのは時間がかかりすぎるので、もっと短い時間、例えば15秒間や30秒間の呼吸数を数えて、それぞれ4倍、2倍する、という数え方をすることが多く正確性がやや犠牲になっています。それでも、呼吸状態を観察することで、異常な呼吸の存在に気づく機会になります。さらに、呼吸状態が悪くなった時に、最初に異常を示すのはSpO2ではなく呼吸数です。呼吸が苦しくなったときに呼吸数を増やすことで代償しようとします。代償しきれなくなってようやくSpO2が低下します。なので呼吸不全を早期発見するには呼吸数に注目する必要があります。ただし、高齢者ではもともと胸郭が変形し拘束性換気障害のために普段から呼吸数が多い患者さんもいるため普段の呼吸数を把握しておくことが重要です。

 

正常な呼吸数の平均値は20回/分(16~25回/分の範囲)です。頻呼吸は25回/分以上と定義されています。頻呼吸はさまざま診断・予測に役立つことがわかっています。例えば、入院患者さんの呼吸数が27回/分を超えている場合、心肺停止の確率が20%増えます。また咳と発熱のある患者さんに28回/分を超える頻呼吸がある場合は肺炎の確率が20%増えます。また肺炎患者の呼吸数が30回/分を超えている場合は死亡率が16%増えます。また、No.99

 

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で紹介した敗血症の診断基準であるqSOFAの3つの項目のひとつも「呼吸数22回/分以上」というものでした。

 

呼吸数を数えるコツは、患者さんに「今から呼吸の数を数えます」とは言わずに、「脈を測ります」と言って橈骨動脈を触れるふりをして呼吸数を数える、という方法です。患者さんに呼吸を意識させると普段の呼吸様式とは異なる呼吸をしてしまい、正確な評価にならない可能性があります。また急変状態でゆっくり30秒も数えている場合じゃないときは、No. 46で紹介した方法で、呼吸数が30回/分より多いのかどうかだけを評価するという方法もアリです。

 

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「その病院の質を評価する時には、経過表に呼吸数が記載されているかどうかをみればよい」とも言われています。呼吸数は有益な情報を提供してくれるバイタルサインにも関わらず軽視されてきましたが、今後は他のバイタルサインと一緒に当たり前のように測定・記載しなければならなくなると予想されます。

 

参考:マクギーの身体診断学 改訂第2版, 診断と治療社, 2014.