ミニレクチャー No. 75 大腿骨近位部骨折の意外な真実

大腿骨近位部骨折の意外な真実

 

大腿骨近位部骨折とは大腿骨頚部骨折や転子部骨折、転子下骨折の総称です。回復期リハ病棟にも、転倒が原因で骨折し、手術後に入院してくる高齢の患者さんがたくさんいます。

回復期リハ病棟に入ってくる患者さんだけを見ていると、大腿骨近位部骨折の患者さんのイメージは、それほど重症でないかもしれません。「手術したところの痛みはあるけどどうにか動けて、リハをしているうちに何とか歩けるようになって退院して行く」といった印象ではないでしょうか?

 

ところが、大腿骨近位部骨折の自然経過は思っているよりも悲惨で、心血管疾患、肺炎、血栓症感染症、出血性合併症などを伴うことも稀ではなく、受傷後1カ月の死亡率は10%にもなります。そして1年後の死亡率は36%にも及びます。つまり、1年後には大腿骨近位部骨折の患者さんのうち1/3以上は死亡するのです。

 

さらに術前にADLが自立していた患者さんでも、1年後には11%は寝たきりになり、16%は施設入所し、80%は歩行補助具が必要となります。再手術の割合も結構高く10~49%に及びます。

 

大腿骨近位部骨折の手術には内固定術(複数螺子固定、compression hip screw)、人工骨頭があります。若い人で、交通事故などによる骨折の場合は人工骨頭でなく内固定術が行われます。人工骨頭の寿命が20年程とされているからです。一方で、65歳以上では内固定よりも人工骨頭の方が推奨されます。内固定術では骨がつくまで一定期間は手術した足に体重をかけない(免荷)時期が必要で、この間、手術していない方の片足だけをついて動くことになりますが、そのようなことは、高齢者では出来ないため、その間寝たきりとなり、結果として骨はついても廃用で全く動けなくなってしまいます。人工骨頭では、翌日から起きてリハを開始することができ、体重をかけて歩くことも可能です。内固定術では、遷延治癒や、無腐性壊死のために再手術となる率が10.0-48.8%あります。一方で人工骨頭は内固定よりも感染率は1.81倍高いです。人工物に感染が起こると、抗菌薬の投与ではまず治すことは困難で、一旦人工物を除去する必要があります。 

 

回復期リハ病棟に入院することができた段階で、ある程度ふるいにかけられた患者さんたちを見ていることになるため、それほど重症な印象を受けなくなります。この現象は、他の疾患でも同様のことが言えます。可能ならば回復期のみならず、急性期や生活期での臨床経験を積むことができれば、病気の自然経過や全体像をつかむ助けになります。

 

参考

Management of Acute Hip Fracture, Clinical Practice, New Engl J Med, Nov23, 2017.