ミニレクチャー No. 74 夜間頻尿について

夜間頻尿について

 

膀胱は、大きくなって尿を貯める機能と、意図した時に収縮してしっかりと尿を出す機能という真逆のことを問題なく行う必要があります。尿を貯めること(蓄尿)ができなくなると、尿意切迫感、切迫性尿失禁、頻尿、夜間頻尿、腹圧性尿失禁などの症状として現れます。一方で尿をしっかりと出す(排尿)ことができなくなると、尿勢低下、尿線途絶、腹圧排尿、尿閉などの症状を起こします。この蓄尿と排尿の症状をあわせて「下部尿路症状(Lower urinary tract symptoms : LUTS)といいます。

 

LUTSの原因には、加齢による排尿筋の機能異常や、排尿に関わる神経の異常(脳卒中、脊柱管狭窄症、糖尿病性神経障害、パーキンソン病、脊髄損傷)があります。LUTSの中でも夜間頻尿は、睡眠不足や寝ぼけた状態で歩くことによる転倒の原因となるため注意が必要ですが、加齢とともに夜間の排尿の回数は増加します。

 

夜間頻尿の原因には、多飲、夜間多尿になる病態(浮腫、睡眠時無呼吸、高血圧)、過活動膀胱、不眠症などがあります。また尿路感染症も頻尿の原因となることがありますが、高齢者の場合は尿に細菌が存在していても感染症を引き起こしていない場合があります(無症候性細菌尿といいます)ので症状があれば抗菌薬による治療して、それでも症状が改善しないようならば抗菌薬治療は終了し別の原因を探します。超音波検査により前立腺の肥大がないか、排尿後の残尿がないかなども確認します。そして状態把握のためには排尿記録は欠かせません。

 

夜間頻尿などの蓄尿障害に対する薬物治療は、前立腺肥大があればα1交感神経遮断薬を用います。他には膀胱の過活動を抑えるβ交感神経刺激薬(ベタニス)や抗コリン薬(ベシケア、ウリトス、ステーブラなど)、PDE5阻害薬などを用います。いずれも効きすぎて尿閉にならないよう注意が必要です。

 

また、生活習慣の指導も重要で、適切な量の水分補給の指導、特に夜間の水分摂取の制限や、お茶、コーヒー、アルコールなどの利尿作用のある飲料の制限、高血圧コントロールのための食塩制限、散歩などの運動、骨盤底筋体操などがあります。高齢者では尿失禁を気にするあまりに、頻回に排尿する習慣の人がいます。このような人では次第に膀胱の容量が減少してしまい夜間に十分な量の蓄尿ができなくなり頻尿となる場合があります。「しっかりためてしっかり排尿する」という習慣を取り戻すための練習をすることで改善する場合があります。これらの指導のためにも排尿記録が重要です。

 

参考

大庭建三:すぐに使える高齢者総合診療ノート 第2版, 日本医事新報社, 2017.