No. 130 高齢者の脱水

高齢者の脱水

 

体の中の総水分量は年齢とともに減少します。細胞外液(≒血管の中を流れている水分)の量は高齢者でもそれほど減少しませんが細胞内液が減少します。これは、年齢とともに水分を多く貯蔵できる筋肉の細胞が減少し、水分を維持しにくい脂肪細胞が相対的に増えるためです。このため、循環血液量が減少した際に、若年者では細胞内液が血管内に移行することで循環血液量を維持しますが、高齢者では細胞内液が少ないために脱水に陥りやすくなります。

 

さらに高齢者は口渇中枢の閾値が上がるために、脱水になっても口渇感が無く水分摂取しなかったり、失禁や頻尿を気にして水分摂取を意図的に制限したり、食欲低下や嚥下障害によって慢性的に水分摂取が減少していることもあります。また利尿作用のある薬を内服していることもよくあり、脱水傾向を助長します。

 

高齢者が脱水になると、尿路感染や肺炎になる可能性の増加、せん妄の増悪、脳卒中や心疾患の罹患率の増加、褥瘡などの皮膚症状の悪化、低血圧に伴う転倒や骨折の危険性の増加などにつながります。

 

脱水になるきっかけとしては、水分摂取量が500ml/日以下(夏は1L/日以下)、食事の変化、嘔吐、下痢、感染症などの発熱性疾患などがあり、以下の症状を呈するようになります。

 

外観の変化:目のくぼみ、表情が乏しい、口腔粘膜の乾燥、腋窩の乾燥、とくに腋窩は最後まで湿っている部分なのでここが乾燥していると脱水が進んでいる可能性が高くなります。

全身状態:体重の減少、易疲労性、食欲不振、腹痛

精神症状:意識障害、不安、錯乱、傾眠、昏迷、左右差のない神経症状、重症では痙攣発作も起こることがあり、脳卒中との鑑別が問題になります

皮膚ツルゴールの低下:手背の皮膚をつまみ上げて、離した後の皮膚の戻りをみます。2秒以内に戻らない場合は脱水を疑います

体位性低血圧:脱水でも仰臥位から側臥位や坐位、立位になると血圧が下がることがありますが、他の原因(長期臥床、降圧薬の影響など)でも起こるため注意が必要です。

Capillary refilling time(毛細血管再充満時間):強く爪の部分を圧迫して離した時に爪の下の色が戻るまでの時間を計測します。2秒以内なら正常で、延長している場合は末梢循環不全を疑います。

 

脱水にも細かく分けると種類があり、水分と電解質(おもにナトリウム)の量で分けられます。

高張性脱水:ナトリウムよりも水が多く失われた状態で、経口摂取が慢性的に少ない場合に多い

低張性脱水:水よりナトリウムが多く失われた状態で、高齢者で多い

等張性脱水:嘔吐、下痢、発熱、出血などで急激に大量の水とナトリウムを失った場合に多い

 

脱水の予防のためには適切な水分補給が大事です。高齢者の水分摂取の目安は、体重あたり2~2.5%程度とされています(60kgの人なら1200~1500ml/日)。注視しないといけないのは、脱水を恐るあまりに過度に飲水すると、電解質異常の原因となりますので注意が必要です。またどんなにたくさん水分摂取をしてもいわゆる「血液さらさら」の状態にはなりません。すでに脱水になっている場合の治療は輸液療法です。口から飲める場合は経口での水分摂取でも良いですが。口から飲めなかったり、電解質異常や循環不全がある場合には点滴による治療が必要です。ナトリウムの失われている程度や循環不全の状態によって、どのような種類の輸液をどのくらいの速度で点滴するかが変わってきます。

 

参考文献 大庭建三:すぐに使える高齢者総合診療ノート 2版, 日本医事新報社, 2017.