論文紹介:New horizons in multimorbidity in older adults

New horizons in multimorbidity in older adults

 

Alison J Yamall et al. Age Aging. 2017 Nov; 46(6): 882-888.

 

マルチモビディティ(多疾患併存状態)という概念が最近注目を集めており、最近、英国国立医療技術評価機構(NICE)がマルチモビディティに関するガイドラインを発表しました。高齢者のマルチモビディティでは身体疾患、精神疾患、フレイル、ポリファーマシーが複雑に絡まっており、ケアに関わる者にとって、このコンセプトはますます重要なものとなっています。特にフレイルとマルチモビディティの重複は、広範囲の健康状態へ影響を及ぼし機能障害へつながります。NICEのガイドラインでは、マルチモビディティを考慮に入れたテーラーメイドなケアを行うべき対象者を挙げており、多くの研究が行われることを推奨しています。マルチモビディティのマネジメントでは、個別の評価とケアプランの作成によって、治療の負担や有害事象、予定外の調整されていないケアを減らすことで生活の質を改善します。

 

Introduction

 

マルチモビディティとは、long-term conditions(LTCs)が2つ以上ある状態と定義されています。LTCsとは、現時点では治すことはできないが、薬やそのほかの治療によってコントロールできる病状のことを指します。マルチモビディティは貧困度と加齢に応じて増加します。UKの人口のおよそ1/4、65歳以上の高齢者の2/3が罹患しています。LTCsが1つまたは全くない人と比較して、マルチモビディティの人は、機能低下や生活の質の低下、ヘルスケア利用の増加、死亡率の増加のリスクが高くなります。

 

マルチモビディティ患者の多くは中高年で在宅生活をしています。これを反映して、プライマリケアの分野でマルチモビディティという概念が生まれました。それは単一の疾患に囚われて治療することを是正する手段として、また疾患ではなく人をみる総合診療の必要性を強調するものとして生まれました。

 

老年医学者は、日常的に複数の慢性疾患を管理することに慣れていますが、最近まで、マルチモビディティそれ自体の存在を明示するものはほとんどありませんでした。NICEがマルチモビディティに関するガイドラインを発表し、さらにAge and AgingとJournal of the American Geriatrics Societyの両誌に論説が掲載されたことで、臨床医と研究者の双方にマルチモビディティの重要性が広く認識され、マルチモビディティの理解と管理における老年医学者と専門医の役割の重要性が示されました。さらに、NICEガイドラインでは、フレイルをマルチモビディティというより広い概念における臨床的な表象として体系化することで理解を容易にしました。

 

本レビューでは、マルチモビディティに関する最近の知見に焦点をあて、特に高齢者におけるマルチモビディティとフレイルの相互関係について取り上げます。またNICEガイドラインの対象となる疾患群の例として高齢者の神経変性疾患を取り上げます。

 

Multimorbidity: applicability to geriatricians

 

加齢に伴い併存疾患は増加し、マルチモビディティの割合が大幅に増加するため、老年医学者にとって特に重要な問題です。さらに、フレイルや認知症などの併存疾患に加えて、高齢者に多いポリファーマシーも加わり、マルチモビディティの複雑さは、個人レベルでかなりの負担となるのみならず、医療サービス、社会福祉、政策の観点からも重要な課題となっています。

 

NICEガイドライン以前に最も問題となっていたのは、定義どおりに数えるとマルチモビディティ患者は英国人口の約25%(約1,500万人)になり、介入の対象とするには計り知れない数で、何から優先して手をつければ良いかわからないということでした。さらに、疾患数や併存疾患指数などの従来のマルチモビディティの測定方法では、高齢者のマルチモビディティに共通する特徴を把握できない可能性がありました。NICEガイドラインの主な強みは、特に複雑性が高く、マルチモビディティを考慮したケアアプローチを必要とする対象群を特定していることです(BOX1)。対象群の大部分は、老年医学者が日常的に診察している患者集団とかなり重複しています。例えば、機能障害、転倒、身体的・精神的疾患の併存、ポリファーマシーなどが組み合わさってフレイルになっている人々です。

 

Box 1. マルチモビディティを考慮したケアのアプローチが有効な人のNICE対象群

  • 治療や日々の活動を管理することが困難である
  • 複数のサービスからケアやサポートを受けているが、さらに追加のサービスが必要である
  • 長期にわたる身体的および精神的な疾患を抱えている
  • フレイルまたは転倒歴がある
  • 予定外のケアや緊急のケアを頻繁に受けている
  • 複数の定期薬を処方されている

 

高齢になるとマルチモビディティが増加するため、高齢者の中には疾患の数や重症度が増加し、それに伴ってフレイルになり、健康な生活を維持することが難しくなる人もいます。しかし、Newcastle 85+研究のベースライン調査では、それなりの疾患があるにもかかわらず、85歳の高齢者の多くが、自分の健康状態を「良い」または「非常に良い」と評価しており、健康状態の自己評価には、疾患に関連するさまざまな要因が関係していることが明らかになりました。例えば、マルチモビディティが健康状態に大きな影響を及ぼすのは、関係性のない複数の疾患を持っている場合で、身体疾患と精神疾患がある人は、密接に関連する併存疾患(虚血性心疾患、高血圧、糖尿病など)を持つ人と比較して、大きな影響を及ぼす可能性があります。

 

高齢者の大半は2つ以上のLTCsを抱えているため、1つまたは2つの疾病しか認識していない人に比べて、医療サービスを受ける頻度が増えます。介護施設の入居者は、ほとんどの場合、マルチモビディティであり、あるドイツの研究では、慢性疾患の平均数は17でした。単一の慢性疾患を持つ高齢者と比較すると、多疾患を持つ高齢者は、介護依存になるリスクが非常に高く、多疾患を持たない人では5年間で4分の1の人が介護施設に入所するのに比べて、約3分の1が入所していました。老年医学との関連では、マルチモビディティは、痛み、失禁、転倒、褥瘡、せん妄などの問題を経験するリスクを高めます。パーキンソン病、脳血管障害、末梢動脈疾患などの特定の疾患は、これらの老年症候群との関連性が特に高いため、LTCとの合併が特に問題になります。

 

The overlap of multimorbidity and frailty

 

フレイルな高齢者の多くはマルチモビディティを抱えていますが、マルチモビディティを抱える人の大部分は、同年代の人よりも健康上の悪影響を受けるリスクが高いにもかかわらず、表現型的にはフレイルではありません。フレイルとマルチモビディティは別々の概念ですが、両者の間には大きな重複があることが明らかになっており、このことはNICEガイドラインでも認識されています。若年層では、単一の疾患プロセスが支配的で、時間の経過とともに、より広範なマルチモビディティの一部となる可能性があります。複数のLTCと他の健康障害の蓄積によって、フレイルの発生に繋がる可能性があります。フレイルの人は転倒、機能障害、介護施設への入所、入院、死亡などのリスクが特に高くなります。したがって、フレイルは、様々な有害な結果に対して特に脆弱なマルチモビディティの高齢者を特定する方法として個人的にも社会的にも有効です。

 

重要なことは、表現型モデルや累積欠損モデルなどの確立されたフレイルのモデルには、移動障害や日常生活動作が組み込まれていますが、これらはマルチモビディティのモデルには組み込まれていないということです。機能障害は、CGAや運動プログラムなど、フレイル高齢者の転帰を改善するためのエビデンスに基づく介入の中心的な要素であるため、特に重要な意味を持ちます。さらに、マルチモビディティと死亡率との関連性は、機能障害で調整すると失われることが示されています。これらの証拠を総合すると、マルチモビディティの高齢者の中から転帰を改善するための介入が効果のある人々を見極める方法として、フレイルを特定することが極めて重要であることが明らかになりました。

 

フレイルの病態生理は、通常の加齢から予想されるよりも顕著な生理的予備能の低下と恒常性維持機構の破綻を特徴とします。エピジェネティックなメカニズムは、遺伝的要因や環境要因と組み合わさって、分子や細胞に累積的なダメージを与え、さらに負の影響を与えるカスケードを誘発すると提唱されています。細胞レベルでは、インスリン様成長因子-1(IGF-1)、テストステロン、コルチゾールなどの神経内分泌系の産生の変化が、炎症反応の異常やそれに伴う炎症性サイトカインの変化とともに、フレイルに関与しているとされています。同様に、最近の論文では、マルチモビディティは、個人の心理社会的・行動的要因と相互作用する複数の生理学的ネットワークの障害の最終結果であると提案されています。これらのネットワークには、ゲノム、プロテオミクス、メタボローム、神経内分泌、免疫、生体エネルギーのプロセスが含まれます。特に強調されているのは、自律神経系、視床下部-下垂体-副腎軸、それに伴うサイトカイン産生への影響、およびミトコンドリア機能であり、これらはすべて、マルチモビディティへの介入が有益である可能性を示唆しています。このような証拠の蓄積により、マルチモビディティを単純な疾病数として定義するのではなく、より広範な健康障害の蓄積を反映するようにシフトすることが提案されています。

 

フレイルとマルチモビディティの間の重複を考慮して、NICEガイドラインでは、介入が功を奏するマルチモビディティの人を特定するための1つの方法として、フレイルの特定を検討すべきであるとしています。病院の外来では、自己申告の健康状態、Timed Up and Goテスト、歩行速度、PRISMA-7質問票、または自己申告の身体活動などが、フレイルを識別するための推奨ツールとなっています。一見実用的ですが、NICEガイドラインで目標としているような特性のフレイルを同定するには難しい面があります。それは、これらのフレイルの身体的パフォーマンス測定が急性期の環境では推奨されていないため、入院患者を扱う際にはこれらの手段が使えないことが多いということです。

 

マルチモビディティの人々への介入を目標とするフレイルの利用については、NICEガイドラインでは研究においても推奨されています。例えば、フレイルは、高いレベルのマルチモビディティを抱えながら地域で生活する人々のための全人的な評価と管理の介入の臨床試験評価の対象グループ設定方法の一つとして用いられています。さらに、フレイルは、マルチモビディティの人々の治療負担を軽減するための脱処方の介入について、無作為化比較試験の対象とされました。

 

Multimorbidity in LTCs: the example of nuerodegenerative disease and multimorbidity

 

LTCがひとつある人は、多くは他の複数のLTCを持っていますが、ほとんどの臨床ガイドラインは単一の疾患にのみ焦点を当てています。高齢者を各併存疾患のガイドラインすべてに従って治療すれば、必ずポリファーマシーが発生し、薬物相互作用とそれに伴う影響が生じる可能性があり、これはフレイルの人や認知機能が低下した人ではより顕著になる可能性があります。個々の薬剤の予防効果は、複数の薬剤を使用している人では低くなり、余命が限られている人ではさらに低下します。さらに、個々のガイドラインエビデンスは、若くて体力のある患者から得られたものであることが多く、マルチモビディティの高齢者は臨床試験から除外されることが多いため、高齢者を扱う臨床家が目にする典型的な集団へガイドラインの内容を適応するには限界があります。

 

神経変性疾患は、NICEガイドラインが対象としている身体的・精神的問題を抱えたマルチモビディティの人々の有用な例となります。パーキンソン病(PD)は、先進国で2番目に多い神経変性疾患であり、認知症、軽度認知障害(MCI)、うつ病、精神病などの身体的・精神的健康問題を包含する加齢性多臓器疾患です。併存疾患がマルチモビディティ患者のQOLに及ぼす影響に関する最近の研究では、PDが最も顕著な悪影響を及ぼすことが報告されています。一方、ドイツで行われたマルチモビディティと長期介護依存に関する研究では、介護施設への入所リスクが最も高い疾患はPDと認知症であることが示されました。ポリファーマシーはPDではよくみられ、英国のプライマリヘルスケアのデータでは、55歳以上のPD患者の19.2%が10種類以上の薬を服用しているのに対し、対照群では6.2%でした。同じ研究で、併存疾患がない人の割合は、対照群の22.9%と比較して、PD患者では7.4%だけでした。これらの研究をまとめると、PDにおけるマルチモビディティは、施設入所や薬の使用という点で医療費にも大きな影響を与えており、PDに関連する過剰な支出の一部は、併存するLTCによって引き起こされているということになります。さらに、マルチモビディティがPDの病気の進行や合併症を引き起こす可能性もあります。ある研究では、心血管疾患と糖尿病の併存が認知機能にわずかな負の影響を及ぼす証拠を発見しました。この影響は年齢、PDの期間と重症度、および薬物使用とは無関係でした。一般(非PD)集団では、マルチモビディティは、MCIまたは認知症の長期的なリスクと関連しており、基礎疾患として認知症がある人では認知機能の低下を加速させる可能性があります。

 

Managing multimorbidity

 

老年医学者にはおなじみのNICEガイドラインでは、マルチモビディティを考慮したケアのアプローチが提唱されており、個人に合わせた評価と個別の管理計画の作成が行われています。その目的は、治療の負担、有害事象、計画外のケアを減らすことで、生活の質を向上させることです。このアプローチでは、個人のニーズ、治療に対する嗜好、健康上の優先事項、ライフスタイルを考慮します。特に断片的になってしまったサービス間の連携を改善することを目的としています。このアプローチは、本人が希望した時や、BOX1に該当する場合に検討されるべきです。

 

NICEのガイドラインは、American Geriatrics Society(AGS)によって詳述されたアプローチを発展させたものです。このガイドラインでは、複数の慢性疾患を持つ高齢者のプライマリケアにおいて、予後、治療と疾患の相互作用、治療の有益性と有害性、その後の再評価などを考慮した治療計画を用いることが推奨されていました。AGSとNICEのガイドラインでは、急性の重症な状態、せん妄、認知症、重度のフレイルなどの理由で患者がケアに関する話し合いに参加できない場合については特に考慮されていませんが、危機的状況や能力の喪失が生じる前に、治療計画を作成しておくというアプローチは良い方法です。

 

マルチモビディティのマネジメントにおけるもう一つの課題は、フレイルのマネジメントにおいてCGAには確かなエビデンスがあるのとは対照的に、マルチモビディティの各要素におけるアウトカムを改善するための介入の有効性に関するエビデンスが少ないということです。プライマリケアと地域社会におけるマルチモビディティへの介入に関する最近のコクラン・レビューでは、RCTの数が限られており、その結果もまちまちでした。介入は主にケアの提供に焦点を当てており、精神的な健康状態や患者が申告したアウトカムの改善にはつながる可能性が高いものの、臨床的なアウトカムや医療サービスの利用の改善にはつながっていませんでした。この分野のさらなる介入研究が必要です。

 

最近の興味深い論文では、マルチモビディティのマネジメントにおいて、より繊細なアプローチが提唱されています。著者らは、神経内分泌系、免疫系、ミトコンドリア系の生理的調節障害の背景にある、生物心理社会的因子の重要性を強調しています。彼らは、将来のマルチモビディティ患者の治療には、健康増進、感情的および社会的支援、ストレス管理などの環境要因に加えて、高分子および細胞の機能不全を標的とする低分子治療薬までもが含まれるのではないかと考えています。

 

Conclusions and future directions

 

マルチモビディティは、高齢者を扱う専門家にとって非常に重要な概念です。これまでの研究は伝統的にプライマリケアを中心に行われてきましたが、マルチモビディティは老年医学者が直面する課題と同義であり、病気のプロセスの複雑さやポリファーマシーは、本人やその家族、医療サービスにとって特に負担となります。これまでの研究では、併存症とフレイルの横断的な重なりを調査してきましたが、単一のLTC、多併存疾患、フレイル、障害の時間的な関係についての研究は限られています。さらに、複数のLTCを持つ神経変性疾患患者を対象とした研究は、認知症に関する限られた研究を除いて、ほとんどありません。

 

マルチモビディティの高齢者のニーズを満たす方法について、一貫した研究戦略を策定することは重要な優先事項です。英国では、National Institute for Health Research (NICE)がこの研究分野に力を入れており、複雑な医療ニーズを持つ高齢者のエビデンスの強化に継続的に取り組んでいます。NICEは、この分野の研究の主要なテーマとして、ケアの組織化、地域での全人的な評価、予防的な薬の中止、余命の予測を推奨しています。これらのトピックは、高齢者、一般市民、医療従事者の優先事項に合わせてさらに改良する必要があります。

 

今後の研究では、これらの分野に焦点を当て、適切にターゲットを絞ったRCTを行うとともに、新しい治療ターゲットを特定するために、潜在的な共通の生理学的プロセスを探究する必要があります。老年医学者は、この分野の研究を推進し、高齢者の複雑な健康ニーズに沿ったエビデンスに基づいて、マルチモビディティの新たな地平を確実に切り開いていくことができる理想的な立場にあります。

 

キーポイント

  • マルチモビディティとは、2つ以上の長期にわたる疾患を持つことであるとで定義され、年齢とともに増加する
  • フレイルとマルチモビディティの間にはかなりの重複が見られる
  • マルチモビディティに関する最近のNICEガイドラインでは、個別の評価とケアプランを必要とする対象群が示されている
  • フレイル、認知症、ポリファーマシーなど、マルチモビディティの複雑さは、医療費の負担を増大させる