ミニレクチャー No. 66 熱中症について

熱中症について

 

異常に暑い日々が続いております。熱中症による救急搬送・死亡のニュースも後をたちません。熱中症で重症になるのは高齢者がほとんどです。病院入院中は快適温度に保たれているため、回復期リハ病棟で、熱中症に遭遇することは滅多にないと思いますが、この季節、医療従事者ならば知っておいて損はないと思いますので、番外編の内容ですが紹介します。

 

はじめに熱中症に関する用語についてです。下に行くほど重症です。

熱失神:血管拡張で脳血流減少して立ちくらみ・失神、体温は正常

熱痙攣:四肢・腹部の筋痙攣・こむら返り。 水分補給のみで塩分を補給しない時に起こる。熱は38度以下

熱疲労:汗で塩分・水分を大量に失い細胞外液減少。 悪心・嘔吐、頭痛、めまい、低血圧。直腸温38-39度

熱射病:発熱40度以上、中枢神経症状(譫妄、痙攣、昏睡)あり、死亡率21-63%

 

体温上昇を視床下部の熱センサーが感知すると自律神経を介して全身の発汗・皮膚血管拡張が起こり、熱くなった血液を内臓から体表に送ります。しかし湿度が75%以上になると汗は蒸発できなくなります。また高齢者では皮膚の血流低下、皮膚血管拡張障害があり、発汗による放熱が苦手です。70歳以上、心血管疾患、神経・精神疾患、肥満、無汗症、アルコール、β拮抗剤、利尿剤、抗コリン薬摂取は危険因子です。

 

熱射病で重症化するのは、血流の皮膚・筋へのシフトで腸管虚血が起こり、腸管透過性が亢進して腸内細菌が作る毒素endotoxinが血中へ入ることによります。また運動負荷が最大酸素摂取量VO2Max(持久力の指標)の80%を超えると腸管透過性が亢進するので、重症化に拍車をかけるため注意が必要です。

 

熱射病の治療は冷却と臓器機能の維持です。深部体温をモニターしつつ、ぬるま湯(40度)をスプレーでかけ扇風機で風を送ります。冷水を使うと皮膚血管収縮と震えを起こすのでNGです。現場では体温>40度なら着衣を脱がせ涼しい場所に移しクーリングを開始します。現場ではぬるま湯は用意が難しいので25~30度の水をスプレーでかけ扇風機・扇で風を送ります。また頸部・腋下・鼠経にシャーベット状の氷を袋に入れて当て大きい動脈を冷やします。深部体温<39.4度(皮膚温で30~33度)を目指します。

 

NSAIDsやアセトアミノフェンは熱射病に使ってはいけません。肝障害・DICをおこす可能性があります。患者を氷水に漬けるのは効果的ですが高齢者では死亡率が上がります。運動誘発性の熱射病では、頬、手掌、足底などにアイスパックを当てるのも有効で、頸部、腋下、鼠経に当てるより有効という報告があります。

 

参考:西伊豆早朝カンファランス H30.7 西伊豆健育会病院 仲田和正 Heat Stroke (Medical Progress):http://www.nishiizu.gr.jp/intro/conference/h30/conference-30_13.pdf