No.118 外傷性脳損傷Traumatic Brain Injury

外傷性脳損傷Traumatic Brain Injury : TBI

PATHOPHYSIOLOGY

一次的な傷害は衝撃そのものによるもので、受傷後数時間以内に起こります。びまん性軸索損傷(DAI)は、衝撃時の加減速、回転力、および白質と灰白質との間の組織密度の差によって生じる軸索のせん断損傷のことです。意識、覚醒、認知機能の喪失を引き起こす可能性があります。脳挫傷は急速な加減速を伴う直撃損傷と対側損傷によって起こり、下前頭部および前側側頭葉に起こりやすいです。硬膜下出血はTBIでよくみられる出血で、脳萎縮があるために高齢者で起こりやすいです。硬膜外出血は受傷後に意識清明な期間があるため見逃される可能性があるのですが、緊急手術適応の事態です。くも膜下出血(SAH)は軟膜とくも膜下腔の間で起こります。後になって水頭症を生じる事があります。外傷後記憶喪失(PTA)は、日常的な情報や進行中のイベントなど、TBI後の記憶を保持することができなくなります。

 

RECOVERY AND OUTCOMES

神経可塑性が回復に影響します。不適応な変化によって痙攣や発作などの悪影響をもたらす可能性があります。神経機能解離は損傷していない脳の領域が、機能的に連結している領域が障害されることで、つられて機能低下に陥った状態で、この神経機能解離が徐々に改善するのは、神経可塑性と脳血流の改善によるとされています。

 

予後不良因子は、年齢4歳以下、65歳以上、脳幹反射の存在、 低いGCSスコア、脳画像検査上での両側の所見、長い期間の低覚醒状態、長い期間のPTA、弛緩性および痙性麻痺、失禁、低いFIMスコア、体性感覚誘発電位(SEP)におけるN20応答の欠如、があります。PTAが2ヶ月未満の時は重度の障害はめったにありませんが、3ヶ月以上のときにはほとんど回復は見込まれません。

 

DISORDERS OF CONSCIOUSNESS

意識とは、自己と環境を認識し、かつ環境へ反応する覚醒状態のことです。昏睡や植物状態は、覚醒中枢である網様体賦活系(RAS)や、そこから投影している皮質の損傷によっておこります。昏睡の持続時間が長いほど予後は悪く、昏睡状態が2週間未満の場合重度の障害は滅多に起こりませんが、昏睡状態が4週間以上続くと予後は不良であることが多いです。

予後が大きく異なるため、植物状態と持続性植物状態(MCS)の区別は特に重要です。

 

ACUTE MANAGEMENT OF TBI

TBIにおいてルーチンの頭蓋内圧(ICP)モニタリングが予後を改善することを示す質の高いデータはありません。ですがICPモニタリングは初期のTBIケアにおいて一定の役割を担っています。その理論的根拠は、ICPの増加が脳灌流圧(CPP =平均動脈圧-ICP)を低下させるため、モニタリングしてICPが増加しないようにすることは有用である、という所にあります。

ICPは、温度、ストレス、刺激、血圧上昇、仰臥位、吸引、または積極的な理学療法によって増加する可能性があります。脳浮腫や脳室の圧縮、または臨床的な機能の低下を伴った重度の脳損傷(例えばGCS≦8)では脳室ドレナージが留置されます。ICPの上昇(> 20mmHg;正常は2~5mmHg)に対しては、頭部挙上や利尿剤(マンニトール)または高張食塩水、バルビツール酸塩/鎮静剤、外科的減圧術(罹患率は高齢者で高くなる可能性がある)、または過換気(慎重に使用)で対応します。低体温は、ICPを減少させることにおいては有益かどうかは分かっていません。大規模な無作為化試験の結果、ステロイドは急性TBIのルーチン治療として推奨されなくなりました。非ステロイド群と比べてステロイド投与群の死亡率が上昇したのです。

 

TREATMENT OF COMA AND VEGETATIVE STATE

意識障害の治療は、感覚刺激(聴覚、感覚、振動など)および神経刺激薬(メチルフェニデート、アマンタジン、ドーパミンアゴニスト、選択的セロトニン再取り込み阻害剤など)の使用が中心となります。これらの治療法による臨床転帰が改善されたことを示す質の高い根拠は不十分ですが、他に出来ることがないために実施されている、という状況です。二次的な合併症(皮膚の損傷、拘縮など)の予防も重要です。

 

TREATMENT OF MEDICAL COMPLICATIONS OF TBI

睡眠障害はTBI後の最も一般的な症状です。適切な睡眠習慣の獲得が最重要です。定期的な睡眠-覚醒サイクルを再確立すべきで、そのためにスケジュールを維持し、カフェインを避け、夕方に運動し、静かで落ち着いた環境を促進します。薬の副作用、痛み、および睡眠を阻害する他の要因にも対処します。第二選択が薬であり、OTCメラトニン(3-9mg)から開始します。メラトニン受容体アゴニストであるラメルテオンはより高価であり処方箋を必要としますが必ずしもより効果的なわけではありません。ほかにはトラゾドン(25-150mg)も選択肢のひとつです。ゾルピデムや他の「Zドラッグ」はベンゾジアゼピン様の鎮静/催眠の効果があり使用すべきではありません。抗ヒスタミン剤(例えばジフェンヒドラミン)も、記憶や新しい学習を妨げる可能性があるので避けるべきです。

覚醒不良もよくある事で適切な睡眠管理が必要です。アマンタジン(100-200mg)およびメチルフェニデート(5-20mg)のような神経刺激薬を朝夕食時に投与することが一般的に行われます。メチルフェニデートてんかん発作閾値を低下させないため発作の危険性がある場合に有効です。ブロモクリプチン、モダフィニル、カルビドパ、およびドネペジルは覚醒や記憶を改善するかもしれません。

興奮は、PTAの時期に起こるせん妄のひとつであり、アカシジア、脱抑制、情動不安定性、破壊性または攻撃性のような行動過剰の形で現れます。このような行動は前頭側頭葉傷害において生じます。対策は、環境を最適化し興奮の根本的な原因(例えば薬物、空腹、痛み、疲労てんかん発作、感染など)を排除することに重点を置きます。また、面会は制限し、治療スタッフも固定すべきです。患者は頻繁に見当識を持たせるように介入します。マンツーマンでの対応が行動を誘導するのに役立つかもしれません。薬物治療は環境管理が不十分な場合の次善の策です。気分安定薬(バルプロ酸、ラモトリジン、カルバマゼピン)、非定型抗精神病薬(リスペリドン、ジプラシドン、オランザピン、クエチアピン)、抗うつ薬(SSRI、ブスピロン)、およびβ遮断薬(プロプラノロール、カルベジロール、ラベタロール)が用いられます。薬物療法は低用量で開始し、認知面への副作用を観察しながらゆっくりと増加します。ベンゾジアゼピンおよびハロペリドールは重大な副作用を引き起こす可能性がありますが、統合失調症の既往がある場合などは使用することもあります。アマンタジンやメチルフェニデートなどの神経刺激薬は、注意や遂行機能に関する障害を改善することによって興奮を改善するかもしれません。身体的な拘束は自分や他の人に傷害を与える危険がある状況に限定すべきです。

神経内分泌機能不全は、視床下部/下垂体傷害に関連し、TBIの数ヶ月後に現れることがあり、倦怠感、低体温、徐脈、低血圧、またはリハビリテーションの進行の停滞などがみられます。TBIで生存している患者の推定30~50%が内分泌異常を呈し、診断されないままのことも稀ではありません。スクリーニングは3~6ヶ月時点と1年時点で行うことが推奨されます(例えば、コルチゾール、卵胞刺激ホルモン、黄体化ホルモン、テストステロン、プロラクチン、IGF-1、エストラジオール、甲状腺、プロラクチン)。 治療はホルモン補充療法です。

ナトリウムの異常は、抗利尿ホルモン不適合分泌(SIADH)、中枢性塩類消失症候群CSW)、または尿崩症(DI)に続発して起こる可能性があります。ADHは腎臓の集合管に結合して水の再吸収を促すので、ADH過剰は水分保持およびNa排泄を引き起こします。SIADHでは、細胞外液量は変わらないかやや増えた状態で、低ナトリウム血症、低血清浸透圧、および高尿浸透圧をもたらします。SIADHは自由水制限(例えば1L/日)で治療します。より重度の症例では、高張食塩水注入が必要となることがありますが、急速に補正された場合、橋中心髄鞘崩壊症を起こすことがあるため注意が必要です。慢性SIADHは、ADH阻害剤であるデメクロサイクリンで治療することができます。CSWは、脳の原因によるNaの腎からの損失であり、低ナトリウム血症、低血清浸透圧および高尿浸透圧をもたらします。SIADHとCSWを鑑別するための重要な特徴は、CSWでは脱水/血液量減少(ECF喪失)はありSIADHでは見られないという点です。CSW(脱水およびNa低下状態)の治療は、等張性生理食塩水による補液です。DIは脳下垂体の重篤な損傷によって引き起こされ、ADH欠乏により全身の水分(細胞内+ECF)の減少と高ナトリウム血症が生じますが、ECFは正常です。水分摂取量が維持されないと、DIは脱水が重篤になることがあります。DIはバソプレシンで治療します。

外傷後のてんかん発作は、単純部分発作(意識消失なしの部分発作)、複雑部分発作(意識消失ありの部分発作)、または全般発作に分類することができます。てんかん発作のリスクはTBIが重症であるほど高くなり、開放性の傷害、出血、異物、硬膜の裂傷、頭蓋骨の陥凹骨折、ミッドラインシフトを伴う様な場合は要注意です。バルプロ酸またはレベチラセタムを発作を予防するために中等度から重度のTBI後1週間予防投与することが推奨されます。1週間を超える予防は推奨されておらず、投与を続けると神経機能の回復に悪影響を及ぼすとされています。(24時間以内に起こる)即時の発作は、外傷によって直接引き起こされると考えられ、将来の発作を予測するものではありません。即時発作があった場合もTBI後1週間の予防でよいとされています。外傷後早期発作(TBI後1日~7日の間に起こる)の最適な管理はまだ確立されていません。一般的には抗てんかん薬で少なくとも数ヶ月間治療されます。早期外傷後発作を有する人の約25%が、その後も発作を起こします。遅発性発作(TBI後7日後に起こる)は長期に抗てんかん薬で管理すべきです。カルバマゼピンは部分発作に、バルプロ酸は全般発作に推奨されています。これらの薬物は、その副作用がTBIにとっては好ましいものであるために用いられます。他に使用される薬物には、レベチラセタム、ガバペンチン、フェニトイン、およびラモトリギンが含まれます。いずれの抗てんかん薬も相互作用があるため慎重に使用しなければなりません。フェノバルビタールの使用は避けるべきです。抗けいれん薬は発作が続く限り使用され、少なくとも2年間発作がない場合、薬のテーパリングが考慮されることがあります。 EEGはしばしば抗けいれん剤の中止前に行われます。外科的選択肢には、迷走神経刺激および発作部位の定位的切除が含まれます。

ジストニアを伴う発作性の自律神経不安定症候群(PAID)は、頻脈、高血圧、頻呼吸、発熱、発汗、およびジストニアからなる症候群です。治療には、ストレス要因(例えば、痛みまたは騒音)の最小化、根本的な医学的問題および合併症(例えば尿路感染症、創傷感染症、併存疾患)への対処、冷却ブランケットの使用が含まれます。 一般的に使用される薬物にはNSAID、β遮断薬、ブロモクリプチン、アマンタジンや、痙縮に対してのリオレサール、および悪性高熱に対するダントロレンなどがあります。

血行動態障害として頻脈や高血圧が起こる事があり、これは、カテコールアミン放出や調節の不具合は関係しているとされています。β遮断薬による治療がされます。

痙性には早期かつ積極的なROMex.が、関節可動域を維持し、二次合併症を予防するために推奨されます。経口抗痙縮薬の使用は、その副作用のためおすすめできません。 ボツリヌス毒素は、局所的抗痙縮治療として選択肢のひとつです。

脳神経損傷では、CN I(嗅覚)が最も障害されやすく、かつ、最も見逃されてもいます。摂食/栄養に影響を及ぼす可能性があるため、この傷害については全てのTBI患者で検査されるべきです。嗅覚障害の3分の1が完全な機能回復をし、3分の1はある程度まで回復し、3分の1は全く回復しないとされます。CN VII(顔面)とVIII(内耳)もよく損傷を受けます。

 

From Matthew Shatter, Howard Choi : PHYSICAL MEDICINE AND REHABILITATION POCKETPEDIA 3rd ed