No. 142 高齢者の食欲不振

高齢者の食欲不振

 

食欲不振に対するアプローチの流れ

  1. 高齢者でのある程度の食欲低下は生理的な反応でもあります。食欲を引き起こす消化管ホルモンの分泌は低下し消化管運動は低下します。高齢者の摂取エネルギーは30代成人の1/3程度であったとの報告もあります。まずは病的な食欲低下なのかどうか判断する必要があります。
  2. 体重変化を確認することがまずは基本です。1年で5%以上の体重減少は死亡率、罹患率の上昇と関連しているとの報告があります(これは体重減少と死亡率の上昇に直接的な因果関係があることを示しているわけではありません。体重減少を生じるような患者さんは、そうでない人と比較して死亡率を上昇させるような病態を持っているということです)。
  3. 急性疾患や慢性疾患の増悪がないかどうか確認します。
  4. 認知症抑うつの評価を行います。どちらも高齢者の食欲不振の代表的な原因です。
  5. その他、食欲不振の原因になりうる疾患の身体所見を系統的にみます:心疾患(頚静脈、心雑音、浮腫)、呼吸器疾患(COPD所見、肺炎)、消化器疾患(肝硬変の所見、便秘を示唆する所見、直腸診)、甲状腺機能低下症(甲状腺腫大・毛髪変化・腱反射弛緩相遅延)、副腎不全(色素沈着)、表在リンパ節腫大、変性疾患を疑うような神経学的所見(パーキンソニズム)など。

 

食欲不振の原因となる薬剤

 

食欲不振に対する非薬物療法

  • 制限食(塩分・タンパク・脂質の制限)は中止
  • 多くの認知症のある高齢者は、朝食に最も多くのカロリーを摂取できるため朝食の量を増やす
  • 1回量を減らして食事回数を増やす
  • 好んで食べていた物をメインに出す
  • 簡単につまめるような軽食(おにぎり、サンドイッチなど)をおいておき、好きな時に摂取してもらう
  • 嚥下機能に問題がなければなるべく常食に近い食形態にする
  • ガス産生の少ない食事にする
  • 口腔内の衛生環境を整える。義歯が合っているか確認。合っていなければ歯科に相談する
  • 経口栄養補助食品を使用する場合は食事と一緒に出すのではなく、食前少なくとも1時間前には摂取する
  • 香辛料を使用するなど、香りを感じやすい食事を試す

 

経管栄養について

加齢にともなう食欲不振による低栄養に対して、栄養状態の改善を目的とした経管栄養や胃瘻を行うことについては賛否両論あります。認知症高齢者に対する経管栄養は死亡率を改善しないという報告もあります。国によっては本人の意図しない栄養投与を虐待ととらえる価値観が大多数を占めるところもあります。それでも患者さんの家族やケアに関わる人は、痩せ衰えて行く患者さんをみると何かしてあげたいという気持ちが沸き起こり、経管栄養を選択することがあります。また回復期リハ病棟の場合、急性期病院で「一時しのぎ」としての経鼻胃管・胃瘻を挿入されて入院し、経口摂取ができるようにならず、そのまま経管栄養を続けることになり、今更止められないということもあります。ひとつの絶対に正しい選択肢がある問題ではありません。個々の症例について皆で考えて意思決定を行う必要があります。

 

参考文献:増刊レジデントノート Vol.20 No.8 COMMON DISEASEを制する!「ちゃんと診る」ためのアプローチ