ミニレクチャー No. 62 伝達講習「腸内環境からみた経腸栄養管理 -プレバイオティクスとプロバイオティクス-」

伝達講習:腸内環境からみた経腸栄養管理 -プレバイオティクスとプロバイオティクス-

 

7月28日に第12回PDNセミナーへ行ってきました。PEGや栄養剤の基礎的なレクチャーとワークショップがあり、特別講演として滋賀医科大学の佐々木雅也先生の講演がありました。タイトルは「腸内環境からみた経腸栄養管理 -プレバイオティクスとプロバイオティクス-」でした。講演内容の要点は以下の通りです。

 

栄養摂取においては、腸が使える状態ならば腸を使った方が良い、というのは今や常識となりつつあります。腸を長期間使わないと消化管の粘膜が萎縮し、バリア機能・免疫能などが低下してしまいます。経腸栄養は静脈栄養TPNよりも、優位に感染性合併症を予防するという研究結果があるそうです。

 

経腸栄養の合併症としては下痢が多いです。原因は、不適切な投与速度や投与される栄養剤が高浸透圧であるため、そして食物繊維が不足していること、さらに患者さんの要因として消化吸収機能が低下していること、などがあります。また、経腸栄養が必要な患者さんでは、抗菌薬の使用歴がある人も多く、クロストリジウム・ディフィシル感染症の有無はチェックする必要があります。経腸栄養の下痢に対して、食物繊維が有効で、とくにグアーガム分解物PHGGがよいそうです。経管栄養時の胃食道逆流予防には、水分を先に投与する、内服薬(プリンペランガスモチン、エリスロシン)を併用する、栄養剤を固形化・半固形化する、などの対応があります。

 

クロストリジウム関連下痢症には、糞便移植はかなり有効であることが分かっており、近々日本でも保険適応となりそうだそうです。腸内細菌叢はフローラ(=お花畑)で、たくさんの種類の細菌がそれぞれ秩序をもって生息しています。胃酸分泌を抑制するプロトンポンインヒビターPPIは腸内細菌叢を撹乱し様々な問題を引き起こします。PPIでクロストリジウム関連下痢症のリスクは確実に上がります。その他認知症誤嚥性肺炎などのリスクも上げる可能性があります。

 

「プレバイオティクス」とは、ヒトの消化管内で消化吸収されず、有益とされる細菌叢の成長や活動を選択的に刺激する因子(食物繊維など)で、腸粘膜免疫能を維持する働きがあります。「プロバイオティクス」とは、生体にとって有益な作用を示す特定の生菌で、摂取することにより、腸内細菌叢を改善する作用を有する微生物、一過性ですが有益な腸内細菌を投与して腸内細菌を改善することで、抗炎症効果や腸粘膜萎縮の改善効果があります。プレバイオティクスとプロバイオティクスを同時にするのが「シンバイオティクス」といいます。プロバイオティクスとして、乳酸菌、ビフィズス菌酪酸菌が有用です。

 

おすすめ文献:佐々木雅也:メディカルスタッフのための栄養療法ハンドブック, 南江堂, 2014.