No. 120 急性胆嚢炎

急性胆嚢炎

 

急性胆嚢炎は、食後数時間してから吐き気や嘔吐、上腹部の痛み、悪寒や発熱などの症状が出現する病気です。胆石をもっている人に起こりやすく、胆石が胆管にはまって、そこに細菌感染が起きて発症します。9割はこの結石が原因で起こるのですが、胆石のない人にも起こる場合があります。この「無石胆嚢炎」は急性胆嚢炎の3.714%を占め、その危険因子は、手術、外傷、長期のICU滞在、感染症、熱傷や経静脈栄養などがあります。つまり、「一定期間の絶食+からだへの侵襲ストレス」の状態で起こりやすいです。

 

絶食状態では、コレシストキニンなどの消化管ホルモンの分泌が減少することで、胆嚢の運動が減少し胆嚢内に胆汁が滞り、胆汁が濃縮されます。すると胆嚢の内圧が上昇し、その結果、胆嚢の粘膜の損傷や胆嚢壁の虚血が引き起こされ無石胆嚢炎発症の誘因となります。一定の絶食期間後に、経管栄養を含む食事を開始した後の12週間が、とくに無石胆嚢炎の危険性が高くなります。

 

典型的な症状は右季肋部痛で(3893%)、右季肋部痛と心窩部痛を合わせると7293%です。次いで悪心・嘔吐が多く(約70%)、発熱は62%にみられます。38℃を超える高熱は3割程度です。無石胆嚢炎では20%で右上腹部に腫瘤が出現します。これは胆石が原因の場合にはみられないとされています。

 

一方、Murphy徴候(右季肋下部を圧迫した状態で深く息を吸い込んだ時に痛みの為に呼吸が止まる徴候)は、急性胆嚢炎の診断に対する感度は5060%(つまり急性胆嚢炎の人でMurphy徴候が陽性になるのは5060%と言う意味で、4050%の患者は見逃すということ)であり、特異度は7996%と高い(急性胆嚢炎でない人でMurphy徴候が陰性になるのが7996%と言う意味、つまりMurphy徴候が陽性ならば高確率で急性胆嚢炎)です。ただし高齢者では感度が下がります。

 

似た様な症状を示す疾患には、肺炎や膵炎、肝膿瘍、腎盂腎炎、心疾患が含まれます。診断には腹部エコーやCTなどの画像所見が有用です。

 

胆嚢炎の超音波所見:

  • sonographic Murphy徴候(超音波プローブによる胆嚢圧迫による疼痛)
  • 胆嚢壁肥厚(>4 mm)
  • 胆嚢腫大(長軸径>8 cm、短軸径>4 cm)、嵌頓胆嚢結石、デブリエコー
  • 胆嚢周囲浸出液貯留
  • 胆嚢壁sonolucent layer (hypoechoic layer)
  • 不整な多層構造を呈する低エコー帯、ドプラーシグナル

 

急性胆嚢炎の初期治療は、手術や緊急ドレナージ術の適応を考慮しながら、絶食のうえで、十分な輸液と電解質の補正、鎮痛薬投与、抗菌薬投与です。その後、重症度に応じてその後の治療方針が決定されます。急性胆嚢炎では壊疽性胆嚢炎や穿孔、化膿性胆嚢炎、気腫性胆嚢炎となることがあり、このような症例に対しては緊急手術が必要になります。治療が遅れると死亡率は75%と高く、治療したとしても30%の死亡率です、この高い死亡率はICU入院中などで重症な患者さんが多いことが影響しています。