No. 136 栄養療法 ー入院高齢者の低栄養についてー

栄養療法 ー入院高齢者の低栄養についてー 

はじめに

“hospital malnutrition”という言葉があることからもわかるように、入院患者の栄養不良の発症率は3~5割と言われており、特に回復期リハ病棟では低栄養の発症率が高いという報告もあります。そもそも、なぜ低栄養がよくないのかというと、低栄養により筋肉の崩壊、体重減少、創傷治癒の遷延、Tリンパ球が減少し幼若化反応が起こりにくくなる、サイトカインの産生低下などにより免疫力の低下が生じ、疾病の治癒は遷延し、合併症が増加(2~20倍)、入院期間の延長、入院費の増大、死亡率の上昇につながるとされています。

1.低栄養の評価

1-1.程度の評価

(1)スクリーニング検査・・・SGA、NSIなどが用いられます。

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SGA

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NSI

(2)アセスメント

身体組成として、身長、体重、BMI、上腕周囲長、上腕三頭筋皮下脂肪厚、下腿周囲長などを測定します。臨床的評価項目としては体重変化、消化器症状、生理的機能、疾患と栄養必要量の関係などを考慮する必要があります。また生化学的パラメーターとして以下の血液生化学検査結果を参照することが多いです:

アルブミン値はよく低栄養の指標として測定されることがありますが、低アルブミン血症の原因は低栄養のみではないため、測定値の解釈には注意が必要です。

 

アルブミン血症の原因:

  • 合成の低下:肝硬変、炎症性疾患
  • 排泄の亢進:ネフローゼ症候群、吸収不良症候群、熱傷
  • 代謝の亢進:甲状腺機能亢進症、炎症性疾患
  • 細胞外液の希釈:心不全、腎不全による溢水 
  • 栄養不良:低栄養状態

 

1-2原因の評価

  1.  疾患に関連した栄養不良
  2.  食べない---食欲不振:加齢の影響、活動量不足、薬の副作用、疾患の影響、嗜好
  3.  食べれない---嚥下障害:誤嚥性肺炎

 

2.介入

2-1栄養摂取

(1)投与経路の選択:経鼻経管栄養、胃瘻、経静脈栄養

(2)エネルギー量

・ハリスベネディクトの式

・簡易法

(3)各栄養素の決定:水分、タンパク質、脂質、ビタミン、ミネラル、食物繊維

レジスタンストレーニング直後にBCAA2g以上、蛋白質10g以上で糖質を含む栄養剤や食品を摂取すると、筋肉の蛋白合成量が増えるとされています

 

リフィーディング症候群について

No.37でもとりあげましたが、リフィーディング症候群とは、栄養不良の状態が長期間続いていた患者に急激に高エネルギーの栄養療法を行なった場合に、低リン血症、低マグネシウム血症、低カリウム血症をきたし、発熱、痙攣、意識障害心不全、呼吸不全などを認める症候群です。

飢餓状態に適応してなるべく栄養素を使わないようになっているところに急激に大量の栄養素が入ることによって起きます。

 

リフィーディングシンドローム高リスク患者の判断基準

以下の1項目以上を有する

  • BMI < 16kg/m2
  • 過去3~6ヶ月で15%以上の意図しない体重減少
  • 10日間以上の経口摂取の減少あるいは絶食

以下の2項目以上を有する

  • BMI < 18.5kg/m2
  • 過去3~6ヶ月で10%以上の意図しない体重減少
  • 5日間以上の経口摂取の減少あるいは絶食
  • アルコール依存の既往、またはインスリン、化学療法、制酸薬、利尿薬を含む薬剤の使用歴

対応:

高リスク患者では、初期投与のエネルギーを制限し、必要なビタミンやミネラルが不足しないように投与します。

  • 投与エネルギー量:現体重×10kcal/kg/日(重症では5kcal/kg/日)から開始
  • 血清K・P・Mg、心不全徴候の有無をモニタリング
  • 100~200kcal/日ずつ増量し、1週間以上をかけて目標値(25~30kcal/kg/日)まで増やす

2-2運動療法

*メッツ(Metabolic Equivalents: METs)

運動時の酸素消費量を、安静座位時の酸素消費量(3.5ml/kg/min)で割った数値で、運動の強さの指標に用いられます。

およそ、理学療法は3メッツ、作業療法・病棟でのADL練習は2メッツ、言語聴覚療法は1.5メッツ程度が目安です。リハによるエネルギー消費量は以下の式で計算することができます:

エネルギー消費量(kcal)=1.05×体重(kg)×メッツ×運動時間(h)

例)体重50kgの患者が2メッツの運動を1時間、3メッツの運動を2時間行なった時の機能訓練によるエネルギー消費量は1.05×50×2×1 + 1.05×50×3×2 = 420kcalになります。

 

2-3薬物の影響

食欲を増進させる可能性のある薬

ドグマチール(50mg×2)、SSRISNRI(副作用に食欲低下あり)、ジプレキサ(2.5mg~10mg/日)、六君子湯、ペリアクチン、ガスモチン

嚥下に悪影響を及ぼす可能性のある薬

  1. 抗コリン作用のある薬(過活動膀胱の薬、古い世代の抗ヒスタミン薬、ベンゾジアゼピン系)、利尿薬:唾液を減少させ口腔衛生を悪化させる(以下の抗コリンリスクスケールも参照)
  2. 不眠症治療薬(睡眠剤抗不安薬):鎮静、咳嗽反射の減弱、抗コリン作用
  3. 筋弛緩作用のある薬(抗てんかん薬、抗精神病薬):動作緩慢、嚥下反射の惹起遅延
  4. 制酸薬(PPI、H2RA) :胃酸減少による殺菌作用の低下

抗コリンリスクスケール  

[最強リスク]

トリプタノール、アトロピン、トフラニール、ポラギス、ポララミン、コントミン、ペリアクチン、コランチル合剤、レスタミンコーワテルネリン、アタラックス、ロートエキス、フルメジン、ピレチア、ピーゼットシー

[強リスク]

シンメトレルジプレキサタガメットジルテック、デトルシトール、ノリトレン、リオレサール、ノバミン、ロペミンクラリチン、クロザリル

[中リスク]

コムタン、ネオドパストンセロクエル、エフピー、デジレルセレネースパキシル、ビ・シフロール、レメロン、ロバキシン、プリンペラン、ザンタック、リスパダール

 

2-4口腔ケア

絶食中には唾液の分泌量が極端に低下し、口腔内乾燥、抗菌作用が低下します。絶食中の高齢者の口腔内には、多剤耐性菌や腸球菌、セラチア、クレブシエラなどが増えます。つまり、経口摂取しないことは、誤嚥性肺炎のリスクになるのです。絶食→口腔内環境の悪化→不顕性誤嚥→絶食・・・と、悪循環から抜け出せなくなります。

大脳皮質の感覚中枢への刺激の30~40%は口や食べる器官からの刺激から来ています。したがって絶食にすると感覚刺激が減少し、全身の廃用へ繋がる可能性があります。

対策は、なにはともあれ絶食をなるべく避けることです。そして、どうしても絶食が必要な場合は、口腔ケアをよりいっそう丁寧に行うことです。

 

3.高齢者への栄養療法は有効か

体重増加、血清アルブミン値を上昇させたという報告は多くあるが、生命予後、合併症の発症、入院期間などに対する効果は一定していません。残念ならが高齢者に無理やり食べさせても、寿命が延びるわけではないのです。考えて見たら当たり前のことなのかもしれません。栄養の問題は、ただ栄養状態を改善すればよいという単純な問題ではありません。また高度認知症患者に対する経管栄養のメリットは確立されていません。

 

高齢者の低栄養のまとめ

  • 既に極度の栄養不良になってしまった高齢者を救うのは困難
  • 食欲低下、経口摂取がすすまない患者の栄養療法は限界がある
  • 栄養不良に至る前の段階(リスクあり)で何らかの介入をすべきである
  • 経管栄養高齢者への栄養学的介入は比較的容易である
  • しかし、経管栄養が患者のQOL向上に貢献しているかは疑問
  • 高齢者の低栄養原因は多くの因子が関与している
  • 従ってこれらの問題に介入するには多職種が関与する必要がある
  • これにはチーム医療が必須である 
  • チーム医療ができない環境では栄養の本格的介入は困難である

*葛谷 雅文:高齢者の低栄養, 老年歯学 20, 2, 2005.より一部改定