No. 143 インフルエンザ治療薬の予防投与について

インフルエンザ治療薬の予防投与について

 

インフルエンザ流行シーズンにはいりました。抗ウィルス薬の予防投与に関するCDC(Centers for Disease Control and Prevention)の推奨を要約したものを以下に掲載します。

 

そもそも予防投与よりも、年1回のインフルエンザワクチンの接種が最も有効なインフルエンザの予防法です。ノイラミニダーゼ阻害薬は耐性化していないウィルスに対してはおよそ70~90%の予防効果があるとされていますが、あくまでもワクチンの補助手段であり、CDCは予防投与として抗ウィルス薬を広範囲に、ルーチンに使用することは推奨していません。施設内でのアウトブレイク時の感染制御の手段のひとつです。暴露後予防のためにルーチンで予防投与をすることも推奨していません。その理由は、すでに感染している場合、予防投与の量では治療に必要な量を下回ることになるためです。それによってウィルスの耐性化が起こるかどうかははっきりしていません。

 

基本的には、ルーチンや暴露前の予防投与は推奨されませんが、以下の様な特定の状況においては、予防投与が推奨されます:

 

  • インフルエンザハイリスクの人(No.96参照)が、予防接種後2週間以内にインフルエンザ感染者と接触した場合
  • インフルエンザハイリスクの人が、予防接種が禁忌のため受けておらず、感染者と接触した場合
  • 重度の免疫不全の人が感染者と接触した場合

 

予防投与を意味のあるものにするには、抗ウィルス薬を感染者に暴露した可能性のある日からかかさず毎日内服し、7日間は続ける必要があります。さらに、ワクチン接種後すぐには抗体が産生されないため、成人の場合は、予防接種後2週間経過しないうちに暴露した場合は、予防接種後2週が経過するまで予防投与を行う必要があります。また、インフルエンザ患者への曝露から48時間以上経過した場合、予防投与は一般的に推奨されません。そして、予防投与を受けている状態で発熱性の呼吸器疾患を発症した場合は、できるだけ早く診察を受けることが推奨されます。

 

長期療養施設などのハイリスクな人が入所している施設においては、アウトブレイク制御のための抗ウィルス薬の予防投与が推奨されます。インフルエンザのアウトブレイクとは、72時間の間に少なくとも2人の入所者が発症し、うちひとりが検査でインフルエンザが確定診断された場合をいいます。

 

ナーシングホームなどでインフルエンザのアウトブレイクが確認された場合は健常な入居者もすべて(予防接種の有無に関わらず)予防投与が推奨されます。

 

予防接種を受けていない医療従事者には、予防投与をしてもよいかもしれません。またワクチン接種を受けてから2週間経過していないスタッフも予防投与をしたほうがよいかもしれません。予防接種がうまく適合していないインフルエンザウイルスの株が原因でアウトブレイクが発生した場合は、予防接種の状況にかかわらず、すべての医療従事者に予防投与をすることも考慮します。重要なのは経過をしっかりとモニターしインフルエンザ症状がみられれば、予防投与から抗ウィルス薬治療へと切り替えることです。

 

詳しくは・・・CDC’s Interim Guidance for Influenza Outbreak Management in Long-Term Care Facilities and the IDSA guidelines web site