ミニレクチャー No. 96 感染対策:インフルエンザ予防接種の重要性

感染対策:インフルエンザ予防接種の重要性

 

インフルエンザシーズンが近づいてまいりました。毎年入院患者さんに流行して面会制限をする病院が必ずあります。流行を予防するための手段として予防接種がありますが、「インフルエンザの予防接種なんて効かない、受けても去年かかった」などと思っていませんか?もちろん予防接種をすれば100%予防できるわけではありませんが、効果は間違いなくあります。ただ、予防接種というのは効果があった場合は何も起きないだけで、効果がなかった場合は病気になるというイベントが起こるために意識に残り、認識に偏りが出てしまいがちです。個人の印象によらずに客観的に調べられた科学的データに基づいて判断すべきです。

 

インフルエンザワクチンは次のシーズンに流行しそうな株をWHOの専門家会議が予測して選び、毎年2回生産されています(北半球用は2月、南半球用は9月)。生産されたワクチンと流行したウィルスの抗原の一致率によって有効率は50-80%と変動します。ちなみにワクチンの有効率とは「ワクチンを接種しなかった人の何%が、接種していたら発症しなかったか」を指します。60歳以上の高齢者では有効率は低下しますが、医療施設などで働く医療従事者に対するワクチン接種は、患者の死亡率を減少させるとする複数のデータがあります。

 

AICPが推奨するインフルエンザ予防接種対象者:

ハイリスク群

  • 生後6ヶ月~5歳未満
  • 50歳以上の成人
  • 妊娠中にインフルエンザシーズンを迎える妊婦
  • 慢性的な呼吸器疾患、心血管疾患(高血圧を含む)、腎疾患、肝疾患、認知機能障害、神経筋疾患、血液疾患、代謝疾患(糖尿病含む)の者
  • 免疫能が低下した者(HIVや薬剤によるもの)
  • 呼吸機能低下、喀痰排出困難、誤嚥リスクが高い者
  • アスピリンを長期服用する小児および思春期の若者
  • 長期施設入所者

医療を要するリスクが高い群

  • 5~18歳の小児および思春期の若者

ハイリスク者の同居者または介護者

  • 医療・介護従事者
  • 5歳未満の小児(特に6ヶ月未満の乳児)、50歳以上の成人、その他高リスク者と同居または介護する者

 

残念ながら本邦は予防接種後進国です。他の先進国で普通に行われている予防接種政策がまともに行われていません。そして一般人(中には医療従事者にも)の中では「予防接種は良くないもの、製薬会社の金儲けのためのもの」などと非科学的で、非論理的な思い込み、自己の経験を拡大解釈した言説を吹聴する人もいます。上記の予防接種対象者のハイリスク群をみればわかるように、回復期リハ入院患者のほとんどがハイリスクです。そこで働く人が予防接種を受けるのは、アレルギーや体調不良など医学的な問題で受けられない場合を除けば必須です。自己負担なしにして病院負担で接種しても、患者さんがインフルエンザにかかり重症化して余分にかかる費用や、職員が数日病欠するこによるコストを考えれば安いものです。

 

参考:岩田健太郎 編:感染症999の謎, メディカル・サイエンス・インターナショナル, 2010.