ミニレクチャー No. 51 抗菌薬適正使用について

抗菌薬適正使用について

 

みなさん「風邪」を引いたときに、病院で抗菌薬(抗生物質、抗生剤などともいいます)を出されたことはありませんか。そしてその抗菌薬は、フロモックス、メイアクト、トミロン、バナン、セフゾンなどの経口第三世代セフェムという分類の抗菌薬ではなかったですか。この医療行為は二重三重に間違っています。

 

そもそも抗菌薬は細菌を殺すための薬です。「風邪」はほとんどの場合がウィルスが原因ですので抗菌薬は何の役にも立ってません。抗菌薬など飲まなくても自然治癒します。「病院へ行って抗菌薬を貰ってのんだらすぐに治った。効いていないわけがない」と思う方もいるかもしれませんが、それは思い込みで、飲まなくても治っていた、もしくは同時に処方されや総合感冒薬によって症状が軽くなったのを治ったと勘違いしているうちに自然治癒した可能性が高いです(総合感冒薬もまた別も問題を持っていますが)。または、「もしかしたら風邪でなく肺炎かもしれないので念のため抗菌薬を飲んでおく方がよい」と医者に言われたことがあるかもしれませんが、この「念のため抗菌薬」が有効な確率よりも、抗菌薬による副作用が出現する確率の方が圧倒的に高いです。「念のため」するのなら、抗菌薬を使わない選択をするほうが良い結果につながる可能性が高いです。

 

そして、さらなる間違いは、経口第三世代セフェムは消化管からの吸収がとても悪いので、口から飲んでも患部には届きません。必要な濃度の薬が菌のいるところに到達しないと絶対に効きません。例えば、セフゾンは飲んだ分の25%、バナンは50%、メイアクトは14%しか体内に吸収されず、残りは便になって排泄されます。なのでこれらの薬は、DUドラック(=Dだいたい、Uうんこになる、ドラック)と呼ばれることもあります。そんな効かない抗菌薬でも良くなっているようにみえるのは、そもそも抗菌薬が不要な病気だからです。

 

さらに効果がないだけなら良いのですが、害があります。腸内細菌を荒らしてしまいクロストリジウム腸炎を起こす可能性があります。また子供ではピボキシルの入っている抗菌薬では低カルニチン血症から低血糖を起こします。ピボキシルはフロモックス、メイアクト、トミロンなどに入っています。そしてさらに、「点滴の」第三世代セフェムは重症感染症の治療の切り札です。そんな大切な抗菌薬を考えなしに垂れ流していれば、耐性菌をどんどん作り出し、本当に必要な時には効果が無くなってしまうかもしれません。抗菌薬が必要ない患者にはフロモックスなどは出さない。抗菌薬が本当に必要な患者にはもっとましな抗菌薬を使う。そうすることが、目の前の患者と、未来の患者を守ることにつながります。

 

参考文献:岩田健太郎:99.9%が誤用の抗生物質 医者も知らないホントの話, 光文社新書