ミニレクチャー No. 52 フレイルに震えない

フレイルに震えない

 

「老年症候群」(No. 24参照)、「サルコペニア」(No. 36参照)とあわせて、今回取り上げる「フレイル」は高齢者の医療に取り組むには避けて通れない概念です。「フレイル」日本語では「虚弱」「老衰」「脆弱」などと表現されます。定義としては「加齢に伴う様々な機能変化や生理的な予備能力の低下によって健康障害を引き起こしやすい状態」と言われています。要するに、介護が必要な状態の一歩手前の状態です。

 

「年とれば若い頃の様な元気が無くなってくるのは当然、何を今更横文字の言葉新しく作って流行らそうとしてるんだよ!」と思う人もいるかもしれません。確かに加齢による生理機能の変化を受け入れず、抗おうとする考えは、終末期の過剰な医療行為や、死を生活の延長として捉えられない死生観に繋がる危うさを持っていると思います。どこまでの変化を「健常」と受け入れ、これ以上の変化は「異常」と定義して治療や予防の対象とするかについては、これからも議論の余地のある事柄だと思います。とりあえず現時点でのフレイルの診断基準の一例を挙げます。国立長寿医療研究センターの評価方法です。

 

以下の5つの項目のうち、該当項目が0の場合を健常、1~2項目の場合をプレフレイル、3項目以上の場合をフレイルとします。

 

  1. 体重減少:6ヶ月で2~3kg以上の体重減少
  2. 握力低下:(利き手で)男性<26kg、女性<18kg
  3. 疲労感:(ここ2週間)わけもなく疲れたような感じがする
  4. 歩行速度:(測定区間の前後に1mの助走路を設け、測定区間5mで)<1.0m/秒
  5. 身体活動:「軽い運動・体操を1週間に何日くらいしてますか?」「定期的な運動を1週間に何日ぐらいしてますか?」の2つのいずれにも「していない」と回答

 

回復期リハ病棟へ入院する患者さんは、ほとんどの人がフレイルの状態からさらにすすんで病気や怪我のために要介護状態となった方です。ですのでリハビリテーションがうまく進んで日常生活が一旦自立したとしても、健常な状態までになる方はほとんどなく、フレイルの状態になることがほとんどです。退院後、再びなんらかのイベントがあればすぐにまた要介護状態に逆戻りする可能性が大いにあります。退院後の維持期のリハはこのようなフレイルの方にとっては必須です。回復期リハ病棟のスタッフと維持期リハを担う施設やスタッフとの情報のやりとりが大切です。

 

参考文献

大庭建三:すぐに使える高齢者総合診療ノート 第2版, 日本医事新報社, 2017.