No. 111 インフルエンザ迅速検査について

インフルエンザ迅速検査について

 

インフルエンザの季節が近づいてまいりました。院内での流行は避けたいところですが、起こるときには起こります。早期発見のためにインフルエンザの迅速検査キットを用いることがあります。しかしこの検査にはいろいろと問題があります。

 

まず正しく検体を採取しないと正確な結果がでません。本当はインフルエンザなのに陰性(=偽陰性といいます)になってしまいます。下の図のように綿棒を差し込む方向は、上ではなく、まっすくのどの奥へ向かって進めて咽頭の後壁からぬぐい液を採取します。

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*極論で語る感染症内科 より転載

 

ただし、上手に検体をとったとしてもこの検査自体が、感度が低いためにすべてのインフルエンザの患者さんを拾い上げることはできません。

 

インフルエンザ感染症に対する迅速キットの感度は、成人では53.9%[47.9-59.8]という報告があります。これはつまり、インフルエンザの患者のうち53.9%しか陽性にならなず、残りの46.1%は見逃すということです。「陰性」と結果が出ても本当はインフルエンザということは大いにあり得ます。ですので、最終的には迅速検査の結果のみで判断するのではなく、地域の流行状況や、臨床症状などから総合的に判断します。たとえば、インフルエンザの時には咽頭後壁にイクラのように見えるリンパ濾胞ができることが多く、これがあると(迅速検査キットよりも)高い確率でインフルエンザと診断できます。

 

入院患者さんは高齢で免疫能の下がった人も多く、インフルエンザも重症化しやすいため診断されれば抗ウィルス薬による治療がなされます。しかし、従来健康で重症化リスクのないような人の場合は、検査キットでたとえ陽性となっても必ず抗ウィルス薬による治療が必要なわけではありません。抗ウィルス薬による効果は症状が1日早く改善するというものです。そもそも症状が軽くすんでいるなら、家で大人しく休んでいればよく、それはインフルエンザ以外の風邪や体調不良と同じです。本当にしんどくてどうにかしてほしい時に受診すればよいのです。

 

また最近は減ってきましたが「治癒証明」を要求する会社や学校が時にあります。これは全く無意味で、むしろ不利益(お金がかかる、受診先のクリニックの無駄な仕事が増える、無駄に人と接触して感染させるリスクが増えるなど)の方が多いです。そもそも治ったことの証明は不可能です。体調不良のときは皆お互い様で、無理せず、感染を広めないように休みましょう。

 

参考

Hospitalist~病院総合診療医~ 「熱が出てすぐはインフル検査をしない」は妥当か?http://hospitalist-gim.blogspot.com/2016/12/blog-post_30.html