No. 115 大動脈弁狭窄症

大動脈弁狭窄症

心臓には4つの部屋があり、全身から帰ってきた血液が大静脈から右心房へ集まり、右心室へ行き、肺へと出てゆき、二酸化炭素を出して酸素を取り込んだ後、左心房へと戻り、左心室へ行き、最後に大動脈へと流れて全身へ血液が供給されます。この流れを逆流させないための4つの弁が心臓には存在します。そのうちのひとつ、左心室から大動脈への出口にあるのが「大動脈弁」です。この大動脈弁の開きが悪くなった状態を「大動脈弁狭窄症」といいます。最近では、原因はほとんどが高血圧による動脈硬化によるもので、高齢者に多い疾患です。

症状としては、はじめは収縮期駆出性雑音(聴診器で心音を聞いた時に「ドックン」の「ドッ」と「クン」の間で、まさに小さい穴に無理やり液体を通しているような音が聞こえます)がきかれたりしますが、とくに症状なく経過します。症状が出てはじめて診断されることもまれではありません。

重症になってくると、労作時の呼吸困難、息切れ、全身倦怠感、下肢浮腫、起坐呼吸(横になると呼吸が苦しくなり座っているすこしらくになることで心不全の症状です)、夜間発作性呼吸困難(起座呼吸と同じ原理で夜間寝ていて呼吸苦がみられます)などの心不全症状や狭心症状、そして失神を起こします。失神といえば、なんとなく脳の問題のような気がするかもしれませんが、実は失神患者の10人に1人は心血管疾患が原因です。さらに高齢者ではその割合はさらに高くなります。 

大動脈弁狭窄症の治療は、重症度によって方針が異なります。心エコー検査で重症度を判定します。実は症状が出現した段階ではもう重症で予後不良な状態であり、狭心症状が出現してからの余命は5年、失神が出現してからは3年、心不全が出現してからは2年といわれています。

大動脈弁狭窄症に有効な薬はありません。問題になってくるのは「いつ手術に踏み切るか」ということです。狭心症、失神、心不全症状が出現すれば手術の適応です。症状がなくても心臓の機能が低下していれば手術の適応です。軽症のうちの予防的な手術は行われません。手術が不能な場合や、手術を拒否された場合には、心不全症状改善のための内服薬を極少量から開始したりしますが、それによって血圧が低下すると狭くなった弁を通り抜けて血液を送り出すことが難しくなり失神を引き起こすことに繋がり難しいところです。

 

最近は、開胸での弁置換術がリスクが高くて困難な場合でも、経カテーテル大動脈弁留置術 (TAVI : transcatheter aortic valve implantation)という低侵襲の方法が普及し、高齢者でも手術をする場合が増えてきました。

 

参考 香坂 俊:極論で語る循環器内科 第2版, 丸善出版