No. 152 薬剤による認知機能障害

薬剤による認知機能障害

 

加齢とともに複数の疾患を患い多数の薬を飲むことになり、さらに薬物代謝能力が低下することで、薬の作用が増強されやすくなり、様々な影響があらわれます。このような状態を「薬剤起因性老年症候群」といい、ふらつき、転倒、食欲低下、失禁、排尿障害、認知機能低下などをきたします。

 

認知機能障害のうち11%が医薬品によるものであったとの報告があります。認知機能障害を来たしうる薬には以下のものがあります:

 

総合感冒薬(PL顆粒など):第一世代の抗ヒスタミン薬「プロメタジン」が配合されておりこの抗ヒスタミン薬が認知機能低下を引き起こします。65歳以上の人で急に物忘れや不穏や幻覚が出現した場合は、総合感冒薬が処方されてないか確認しましょう。またOTC医薬品(薬局で個人で購入できる薬)の総合感冒薬にも要注意です

 

三環系抗うつ薬パロキセチン:抗コリン作用が強く、認知機能低下、せん妄、便秘、口腔乾燥、起立性低血圧、排尿障害、尿閉の危険があります。認知機能低下症例ではやめるか減量すべきです、認知機能低下のある高齢者に新規処方すべきではありません

 

抗コリン作用のあるパーキンソン病治療薬:トリヘキシフェニジル(アーテン)、ビペリデン(アキネトン)などは認知機能低下、せん妄、過鎮静、口腔乾燥、便秘、排尿障害、尿閉の危険があり、現在は他により効果的な治療薬が利用可能なので中止または減量します

 

抗コリン作用のある過活動膀胱治療薬:あまり効果を実感していないなら中止します

 

H2遮断薬(胃薬):シメチジン、ファモチジンラニチジンなどのH2遮断薬は認知機能低下とせん妄の危険があるので75歳以上の人には可能な限り使用を控えます。かわりにプロトンポンプ阻害剤PPIが使えますが、PPIも認知機能低下や骨折・クロストリジウム感染の増加などの報告があり、単純に切り替えるのではなく、必要性を吟味する必要があります。特に適応もないのに何となく飲んでいる胃薬が多くみられます

 

ベンゾジアゼピン受容体作動薬:いわゆる睡眠導入剤抗不安薬です。また非ベンゾ系と言われるゾルピデムやゾピクロン、エスゾピクロンもベンゾジアゼピン受容体作動薬ですので同じです。認知機能低下症例ではぜひとも中止すべき薬です。認知症がなくても65歳以上では投与すべきではありません。ただし例外として、けいれん、レム睡眠行動障害、ベンゾジアゼピン離脱症状、アルコール離脱症状、重症全般性不安障害、周術期麻酔といった限られた状態では使用が推奨されます。止める場合は依存性があるため漸減中止が安全です

 

参考文献

小田 陽彦:科学的認知症 5 Lessons, 有限会社シーニュ, 2018.