ミニレクチャー No. 60 高齢者に睡眠薬は安全か?

高齢者に睡眠薬は安全か?

 

入院患者さんの中には不眠を訴える人が比較的多くいます。そんな時に睡眠薬を使用する場合があります。

 

睡眠薬は睡眠の質を改善させ、睡眠時間を25.2分延長し、夜間の覚醒回数を0.63回減らすことができます。その一方で、認知機能低下が4.8倍増え、日中の易疲労感を3.8倍増やします。

 

睡眠薬のNNT(Number Needed to Treat)は13、つまり13人に投与して1人効果があり、NNH(Number Needed to Harm)は6なので、6人投与すると1人に有害事象が起こります。つまり満足する結果が得られるよりも、害がでる確率の方が2倍大きい事になります。

 

さらに睡眠薬は、転倒を起こしやすく、骨折のリスクが増え、肺炎のリスクも増えます。

 

睡眠薬のなかでも特にベンゾジアゼピン系薬剤(トリアゾラムブロチゾラムなど)の有害事象が最も多いですが、非ベンゾジアゼピン系薬剤(ゾルピデム、ゾピクロンなど)も同様に有害事象の報告があります。

 

またラメルテオン(ロゼレム)も、副作用が少ない薬剤とされていますが、効果も少なく、主観的には4.3分早く寝付けるが、睡眠時間の延長をもたらすことはできないとされています。一方で、傾眠は2倍になり、翌日の認知機能に悪影響があることが知られています。

 

結論として、いかなる睡眠薬も、副作用とは切り離せないものであり、むやみやたらに使っていると痛い目をみる、ということです。

 

そもそも加齢とともに睡眠時間は短くなり、中途覚醒時間は長くなります。高齢者では実際に寝ている時間は6時間以下とされています。このため高齢者では不眠の訴えが増えますが、日中の活動に支障がなければ、睡眠薬は副作用を増加させるだけかもしれません。

 

それでもどうしても内服薬が必要な場合に、鎮静作用のある抗うつ薬であるトラゾドンを使用したり、不眠というより、夜間せん妄で眠れない患者さんの場合には非定型抗精神病薬であるクエチアピンなどを使用することがあります。これらの薬も、睡眠薬より「多少まし」なだけで、当然有害事象も起こるので、慎重に用いる必要があります。

 

参考文献:

上田剛士:日常診療に潜むクスリのリスク 臨床医のための薬物有害反応の知識, 医学書院, 2017.