ミニレクチャー No. 73 高次脳機能障害 その2 :高次脳機能障害でおこる症状は?

高次脳機能障害 その2 :高次脳機能障害でおこる症状は?

 

神経細胞は単独で様々な機能を担っているのではなく、他の神経細胞ネットワークを作って電気信号をやり取りすることで、五感(嗅覚、視覚、聴覚、触覚、味覚)から入ってきた情報を処理して、(目的のある運動として)出力しています。脳卒中や頭部外傷で損傷を受けて、この神経のネットワークが損傷されると、情報処理が滞ったりスピードが低下します。この情報処理ネットワークの機能不全が「高次脳機能障害」です。情報処理スピードが低下するため、記憶力が落ちたり(記憶障害)、注意力がなくなったり(注意障害)、物事を順序立てて行うことができなくなったり(遂行機能障害)、頭を使うとすぐに疲れたり(易疲労性)、感情の制御が難しくなったりします(情動障害・社会的行動障害)。どの症状が前面にでるかで、「◯◯障害」というより詳しい分類がされますが、高次脳機能障害のある患者さんの場合、多少なりとも上記のような症状が、色々な組み合わせで起こっています

 

以下は、よくみられる高次脳機能障害のパターンと、その原因となった損傷部位です:

 

  1. 全般性の注意障害が他の障害に比べて目立つ・・・前頭前野損傷、軽度~中等度のびまん性軸索損傷
  2. 記憶障害が目立ち、知的低下や注意障害、遂行機能障害が軽度・・・びまん性軸索損傷、急性期の循環不全による海馬損傷
  3. 注意転換の障害や高次の保続が目立つ、同時処理ができない・・・前頭前野背外側の損傷や皮質下ネットワークの障害
  4. 遂行機能障害が目立つ・・・前頭前野背外側の損傷や皮質下ネットワークの障害
  5. 発動性の低下、行動の開始の困難が目立つ・・・前頭葉内側部損傷、重度のびまん性軸索損傷
  6. 情動の障害(易怒性など)がみられ、社会的行動障害が前景に立つ・・・前頭前野眼窩野損傷、辺縁系の損傷合併
  7. 自分の行動の帰結を認知できず自己の行動を修正できない、あるいは外界の言外にある意味や、自己の障害に対する認識が低下していて適切な行動がとれない・・・前頭前野損傷
  8. 全般的な知能低下の影響が大きく、記憶や注意、遂行機能の障害について個別に取り扱うよりは全般的に知能が低下しているものとしての対応が現実的・・・広範な脳挫傷

参考

先崎 章:高次脳機能障害 精神医学・心理学的対応ポケットマニュアル, 医歯薬出版株式会社, 2014.