ミニレクチャー No. 89 大腿骨頚部骨折の手術は早めに

大腿骨頚部骨折の手術は早めに

 

高齢者では、転倒して大腿骨頚部骨折をおこすひとがたくさんいます。回復期リハ病棟に入院している患者さんでも、あってほしくはないですが、転倒してしまい不幸にも大腿骨頚部を骨折してしまう場合があります。こんな時は、手術の出来る病院へ転院することになりますが、どのくらい急ぐ必要があると思いますか? 例えば金曜日の夜中に転倒して骨折が見つかった場合、ベッド上で絶対安静にして月曜まで待ってもよいでしょうか?それともすぐに緊急転院した方がよいでしょうか?

 

2011年に発行された本邦の大腿骨頚部/転子部骨折診療ガイドラインでは、「できる限り早期の手術を推奨する」とされています。早期というのは「24時間、2日、3日、4日以内」で、早期手術のほうが優れているのは、合併症が少なく、生存率が高く、入院期間が短いという点です。アメリカ外科学会の最新ガイドラインでは、「早期」がもっと早く設定されており、大腿骨頚部骨折の患者は「48時間以内」に手術を受けることが推奨されています。

 

そこからさらに「もっと早く手術を受ければ、もっと良い結果が得られるのではないか?」と考える人がいて、カナダの研究者が平均年齢80歳の大腿骨頚部骨折患者42000人を、病院到着から手術までにかかった時間によって、結果がどう変わるか研究しました。

 

実際のところ手術までにかかった時間の平均は39時間で、2/3の患者さんが24時間よりも長くかかっていました。合併症やその他の術前リスクを調整した上で評価すると、24時間以上経過した患者ではそうでない患者と比較して、術後の合併症が増えていました。24時間以内の早期手術を受けた患者では、有意に30日後の死亡率が低くなっていました(5.8% vs. 6.5%;number needed to treat [NNT] 127)。そして、術後30日の合併症(心筋梗塞や肺炎、静脈血栓症など)も少なかったのです(10% vs. 12%;NNT 48)。

 

つまり、大腿骨頸部骨折の患者さんは「できる限り早く、できれば24時間以内」に手術を受けるほうが術後の死亡率や合併症の起こる確率が減るのです。もちろん、医療体制の問題や、もともと持っている合併症の影響で手術をすぐに行えない場合もあります(例えば脳梗塞後で抗凝固薬を飲んでいて休薬期間が必要など)。ですが、回復期リハ病棟で安静臥床して待つ理由はありません。大腿骨頚部骨折と診断されたら、迅速に手術が可能な病院へと繋げることが重要です。

 

参考

Pincus D et al. Association between wait time and 30-day mortality in adults undergoing hip fracture surgery. JAmA 2017 Nov 28; 318:1994.

Vrahas MS and Sax HC. Timing of operations and outcomes for patients with hip fracture― It’s probably not worth the wait. JAmA 2017 Nov 28; 318:1981. 

大腿骨頚部/転子部骨折診療ガイドライン 改訂第2版, 2011