ミニレクチャー No. 65 CRPS(複合性局所疼痛症候群)について

CRPS(複合性局所疼痛症候群)について

 

けがや手術の後にはどうしても痛みがでます。ただし、その痛みは傷が癒るにつれて軽くなり、いずれは無くなります。ところが、まれに痛みが傷のわりに不釣り合いに強く、しかも長く続く場合があります。このような状態をCRPS:Complex Regional Pain Syndrome(複合性局所疼痛症候群)といいます。CRPSの痛みは焼けるような痛みと言われ、また痛覚過敏になり、通常では痛みを引き起こさないような刺激でも痛みを感じます。痛む場所は腫脹し、関節の拘縮が起き、皮膚は熱をもち、発汗異常や、皮膚の萎縮、骨萎縮などもみられます。

 

以前は「反射性交感神経性ジストロフィー」とか、「カウザルギー」とか、「肩手症候群」とか言われていましたが、CRPSという呼び名に統一されました。CRPSがおきる仕組みについてはわかっていません。男性より女性に3.4倍多く発症し、原因としては骨折や捻挫、手術、脳卒中心筋梗塞があります。

 

回復期リハ病棟で注意が必要なのは、脳卒中片麻痺患者さんで起こるCRPSです。特に麻痺した上肢で起こることが多く、肩や手の痛みが慢性的に持続し、夜も眠れない程になり、気分も落ちこみ、うつ状態になることもあります。

 

肩関節は骨と骨の接触は浅く周囲の筋で正しい位置に保たれていますが、麻痺が重度だと肩周囲の筋が働かず、腕の重みで肩関節が脱臼しかけの状態になり、肩関節周囲の軟部組織は引っ張られ損傷を受けます。その損傷が引き金となりCRPSが起きることがあります。この時、肩の痛みと、同じ側の手の痛み・腫脹が出現するため、以前は「肩手症候群」と言われました。

 

治療は、ステロイドや消炎鎮痛薬、神経障害性疼痛に対する治療薬、抗うつ薬、抗てんかん薬などの内服薬を用いたり、温冷交代浴などの物理療法や、神経節ブロックなどが行われます。しかし一度CRPSを発症してしまうとなかなか治りません。ですので、特に脳卒中で上肢の麻痺が重度で肩関節がぐらぐらの人、のようなCRPSが起こりそうな人は、あらかじめ肩や手に無理な力がかからないようにするなどの予防策をとり、起こった場合でも早期発見・早期対応を行うことが重要です。

 

*温冷交代浴:温水(約42℃)と冷水(約10℃、夏は水道水に氷を浮かべた程度、冬は水道水そのまま)を準備する。最初に温水へ3~4分間、続いて冷水に30秒~1分間浸し、これを4~5回繰り返した後、温水で終了する。この後、患肢の自動、他動運動を行う。1日に4回以上繰り返す。上記の水温、時間に厳密にこだわる必要はなく、患者が許容できる範囲での設定で行う。

 

参考文献:木村浩彰:複合性局所疼痛症候群の診断と治療, Jpn J Rehabli Vol. 53 No. 8, 2016.