No. 160 大腿切断:痛みのマネジメント

切断後の痛みには、基本的に2種類あり、残存肢痛と幻肢痛です。残存肢痛は残存しているあしに限局される痛みで、幻肢痛は存在しないあしの部分に知覚されれる痛みです。幻肢痛は切断後数年経過しても85%の人に認められます。切断部分に痛みはないものの、存在しないあしの部分に感覚が残っている場合は幻肢感覚と呼ばれます。幻肢感覚は、切断後の早期にはほぼ全例でみられます。


残存肢痛は神経障害性疼痛または体性痛のいずれかに分類されます。神経障害の原因には、神経腫や複合性局所疼痛症候群が含まれます。実際にはすべての切断者は切断部位に神経腫がありますが、これらの神経腫による痛みがあるのはわずか10~15%です。神経腫の痛みは断続的で突発的な痛みです。神経腫のある部位を押すと痛みが誘発されるため部位を特定することが出来ます。


治療の選択肢には、鍼、ソケットの改修、超音波、マッサージ、振動、パーカッションなどがあります。非ステロイド性抗炎症薬、三環系抗うつ薬、抗けいれん薬が用いられます。リドカイン、ステロイド、フェノールの注射が役立つ場合があります。ラジオ波焼灼術も治療に使用されています。外科的切除も行うことができますが、新しい痛みを伴う神経腫を生成するリスクがあります。
神経腫の発生の他に、外科的切開部の瘢痕組織内に神経が閉じ込められて痛みが生じることがあります。義足からのせん断力、圧力、および牽引力は、この痛みを誘発または悪化させます。ソケットを修正することで、圧力を下げたり再分配することができます。それでも効果がない場合は、瘢痕への注射や経口薬が使用されます。外科的切除は一般に効果的ではありません。


残存肢の体性痛は、異所性骨化、感染、腫瘍、虚血、関節症性変化など、さまざまな原因に起因する可能性があります。感染は表在性の場合も、骨髄炎を伴う深い場合もあります。骨端の不適切なトリミングや筋肉と筋膜の縫合が不十分な場合には、義足を着用することで機械的な残存肢痛が増悪することになります。治療には、ソケットや義足の修正、残存肢の外科的修正が含まれます。ソケットの変更が第一選択で、それでもダメな場合、外科的修正を行います。幻肢痛はどの部位での切断でも生じます。


痛みの性質は様々で、鈍痛の場合も鋭い場合もあります。切断後数ヶ月以内に発症し、その後永続する場合もあります。多くの治療法が提唱されていますが、有意な対照研究はほとんどありません。薬物治療には、NMDA受容体作動薬(デキストロメトルファン、メマンチン、ケタミン)、麻薬(オキシドコドン、ヒドロモルフォンモルヒネ)、抗うつ薬(イミプラミン、ミルタザピン、アミトリプチリン、ノルトリプチリン)、抗てんかん薬(ガバペンチン、カルバマゼピン)、その他(クロニジン、メキシレチン、カルシトニン、トラマドール)、局所注射薬(リドカイン、コルチコステロイド、ボツリヌス毒素)、カルシトニンが含まれます。バイオフィードバック、催眠などの心理的治療は、ネガティブな感情を変え、痛みへの適応を高め、身体イメージを調整することを目的とします。ミラーセラピーは、視覚入力による皮質の再編成を促進し痛みを緩和します。VRシステムは、ミラーを使用する代わりに使用されます。TENSも用いられます。健側に電極を配置した場合の有効性を示すいくつかの研究があります。より侵襲的なものとしては末梢神経刺激、脊髄刺激、脳深部刺激があります。