No. 162 大腿切断:義足のトレーニングでの注意事項

筋トレやROMex、持久力訓練のほかに、義足を用いたトレーニングとして、支持基底面内に重心を保つ練習や、義足を装着して立ってバランスをとる練習、ステップ動作練習などを行います。

 

また、義足の使用開始時にはソックスの使用方法について習熟する必要があります。残存肢のサイズは変化するため、ソックスの枚数を調整する必要があります。義足用のソックスは通常は、1層、3層、5層、6層のものがあります。残存肢の体積に影響を及ぼす要因には、腎不全や透析、筋萎縮、体重の増減、うっ血性心不全などの疾病によるものがあります。義足を装着して生活すると、ポンプ作用が働き残存肢のサイズは小さくなります。切断後3~12ヶ月は、シュリンカーを常時つけていないと残存肢は膨張してしまいます。15層以上のソックスが必要になった場合は、ソケットの変更が必要です。残存肢のサイズが8~12週間かわらずに安定したら、最終的な義足のフィッティングの時期です。その時期は通常、術後6~18ヶ月後に該当します。

 

患者が義足の付け外しをしているところを注意深く観察すると、ソケットの適合性についての貴重な情報が得られます。ピンロック機構のある義足の場合は、クリック音の数が適合を判断する手がかりになります。クリック数が少ない場合は、ソケットに完全に入っていない可能性があります。またクリックのスピードが早い場合は、残存肢が縮んでいると考えられるためソックスを追加する必要があるかもしれません。義足をあまりに簡単に装着できる場合も、ソックスを追加した方が良いかもしれません。残存肢の発赤の有無も適合の手がかりになります。残存肢の断端に発赤や痛みがある場合は、ソックスを追加する必要があります。義足歩行後に、発赤が生じ数分経過しても消失しない場合は、ソケットの調整が必要です。ソックスはしわができないように着用する必要があります。しわがあると、皮膚トラブルを引き起こす圧力が生じるため指先でしわを伸ばします。ソックスの数が多すぎたり少なすぎると、ソケットに残存肢が正しく装着できなくなる可能性があります。患者自身がソックス管理の重要性を理解しないことには義足の着脱の指導はできません。

 

シリコンライナーを使用する場合は、取り扱いに注意する必要があります。装着するときはライナーをまず裏返して残存肢の遠位端をあてて、空気が入らないように上に丸上げて装着します。残存肢の遠位端とライナーの間に空気があると吸引力が生じて皮膚へ影響を及ぼす可能性があります。ライナーは1日の終わりには石鹸と水で洗う必要があります。乾燥するときは、布の面(おもて側)を外にして干します。裏側の皮膚に接する面をおもてにして乾燥すると、ほこりや髪の毛などが粘着性のある面に付着し皮膚トラブルの原因になります。ライナーの内側に希釈された消毒用アルコールを週に1、2回スプレーすると、ライナー表面の細菌の蓄積が減少し感染を防ぐことができます。

 

正しい装具装着方法を習得したら、歩行前のトレーニングに入ります。歩行前のトレーニングにはバランス練習や筋力増強、体重移動練習、歩行サイクルの一部を取り出して行う練習などが含まれます。初期のトレーニングには、静的な体重負荷、動的な体重移動エクササイズ、リーチ動作、あらゆる方向への繰り返しのステップ動作、歩行異常の有無の評価と修正、および立ち座り動作などエクササイズが含まれます。タップアップ(段差昇降)は、義足への体重移動と体重負荷の技術と自信を生み出すよい練習のひとつです。平行棒内で、歩行サイクルのさまざまな部分を学習します。最初の練習として、義足で踵接地からつま先離地までのパターンを学習します。この運動は膝継手をコントロールする学習兼ねています。最終的には、患者の能力に応じて安全に考慮しつつさまざまな地形での歩行練習に進みます。