大腿義足処方の考え方

大腿義足処方の考え方

 

大腿義足の処方は、患者の現在の機能と、将来獲得すると予想される機能と義足の使用目的あわせて行います。下腿義足との一番の違いは膝継手があることです。膝継手によって安全性と安定性が異なってきます。大腿義足を使用した歩行はエネルギー消費が大きくなることや、義足の着脱の難しさ、義足を装着した状態での座り心地なども配慮します。

 

メディケア・メディケイドサービスセンター(CMS)は、切断患者の機能的分類システムを公開しており、患者の能力に基づいて義足処方ができるようになっています。

このガイドラインでは、移動能力を5つのカテゴリに分類し、義足の部品に関する推奨事項を提供しています。切断患者の移動能力のカテゴリーの決定は、できる限り客観的な臨床所見に基づくべきですが、義足を処方する医師やチームによる臨床的判断による予測でもかまいません。カテゴリーを決定する際には、義足を使用する能力に影響を与える併存疾患も考慮する必要があります。患者の義足使用の目標や希望は処方の際には考慮される必要があり、もし患者の目標が現実的でない場合、この点に関する教育が必要になります。義足処方の最終決定は、理想的には、医師、義肢装具士、セラピスト、および患者を含むチームでの決定であるべきです。

 

機能分類

定義

推奨される義足の部品

K0

義足を使用した移動または移乗をする能力は見込めない、義足は生活の質を向上させない

機能のない装飾用の義足

K1

義足を使用して屋内や平坦な地面を一定の歩調で歩くことができる

足部:SACH、単軸

膝:マニュアルロック、荷重作動型立脚相制御

K2

義足を使用して、一定の歩調で短い距離の屋外歩行ができ多少の段差は乗り越えられる

足部:多軸型やフレキシブルキール

膝: 荷重作動型立脚相制御

K3

義足を使用して、歩調も変化させて、屋外をいくらでも歩くことができ、バリアフリーでなくても大丈夫

足部:多軸型、エネルギー蓄積型

膝:油圧・空圧式、マイクロプロセッサ制御

K4

義足を使用して、通常の歩行よりも高い衝撃やストレス、エネルギーがかかる活動ができる

足部:エネルギー蓄積型や特殊なもの

膝: 制限なし

 

機能レベル1 (K1)

この機能レベルの患者のゴールは、平面での屋内歩行や移乗動作の自立です。義足作成での最優先事項は安全でかつ義足を容易に扱えることです。立脚期での膝関節は膝折れしない安定したものか、もしくは完全に伸展位でロックされるものが推奨されます。膝継手は安全膝かマニュアルロック式のものが適しています。足部は踵の柔らかいSACHや単軸継手のものを選択して膝の安定性が増すようにします。これらの足部は、膝関節の回転軸の前を床反力が通過することで膝継手に伸展モーメントを生じさせて膝を安定させます。ソケットは坐骨収納型が四辺形型で、柔らかいライナーを用い、座り心地を考慮してソケット後部の辺縁は切り欠きを加えます。ソケットの素材はラミネートかプラスティックです。サスペンションにはピンロックかストラップ式のゲルライナーを用います。それでも不安定な場合はさらに骨盤ベルトによるサスペンションを加えます。

 

機能レベル2 (K2)

この機能レベルに該当する患者は、立脚期の安定性に加えて遊脚期の動きを補助する膝継手を使用することで、より長い距離をきれいな歩容で歩くことができます。例えば、安全膝や多軸膝継手が良い適応です。K2レベルでもより機能の高い患者では、コンピュータ制御の膝継手が使いこなせるかもしれません。この機能レベルの患者では歩行スピードを変化させて歩く能力はないため、油圧式や空圧式の膝継手は適していません。パーツのアライメントは調節可能なものが良いです。足部は多軸式やフレキシブルキール式のものが不整地にも対応できるためおすすめです。

 

機能レベル3 (K3)

この機能レベルの患者は屋外を速度を変えて歩くことができます。ソケットは坐骨収納型か坐骨下型が適しています。柔らかいライナーを用いて、座り心地を考慮して後方の辺縁は切り欠きを加えます。これまでのサスペンション方式に加えて、吸着式ソケットも選択肢に入ります。安全性・安定性が重要なのは当然ですが、このレベルになるとさらに上の機能も必要です。膝継手は油圧式か空圧式の遊脚期制御機能つきにして、さまざまな歩行速度に対応できるようにします。多軸膝継手やコンピュータ制御式膝継手であれば安定した立脚期と自然で対称的な歩行パターンを提供してくれます。階段や上り坂を頻繁に利用するのであれば電源内蔵型の膝継手も適応になります。足部は多軸足部やエネルギー蓄積型足部を検討します。

 

機能レベル4 (K4)

このレベルの患者では義足を用いて自然な屋外歩行が可能です。また日常生活動作で義足を用いることに加えて、特定の運動やレクリエーションでも義足を活用します。運動やレクリエーションの頻度と強度が大きい場合は日常用とは別に特殊な義足が必要になるかもしれません。特殊な義足までは必要ない場合では、複数の目的に対応可能な部品を使った義足を作ることで対応します。もしくは一部の部品を交換して対応できるように簡易着脱式の装置を用いることもできます。様々な活動、たとえばランニングやスキューバダイビングに対応した義足パーツがあります。ソケットの適合とサスペンションは特に重要です。また義足を使用する環境についても考慮する必要があります。一般的にはできるだけ単純な構造で耐久性があるものが良いですが、一部のコンピュータ制御式の膝継手は防水性があり様々な環境下でも利用可能なものがあります。一番の課題は、これらの義足の購入資金を調達することです。