ミニレクチャー No. 64 「あしが腫れてます」―下腿浮腫について

「あしが腫れてます」―下腿浮腫について

 

夕方になるとあしがむくんで靴がきつくなる、なんてことは皆さん経験があると思います。この状態を「浮腫」といいます。浮腫は皮下組織に細胞外液がたまった状態です。原因は様々ですが、多くの場合は大慌てするようなことはありません。ですが、中には緊急事態、命に関わるものもあるため注意が必要です。

 

回復期リハ病棟で浮腫をみた場合に最も注意すべきは、深部静脈血栓症DVT:Deep Vein Thrombosisです。下肢の深部にある静脈に血栓ができた状態で、その血栓が剥がれて肺動脈へ到達し、そこで詰まってしまい「肺塞栓症」を引き起こすと突然死を引き起こすことがあります。これが「エコノミークラス症候群」と呼ばれる状態です。下肢の深部静脈にできた血栓は、運動によって剥がれることがあるため、場合によっては運動禁忌となります。急激に発症した、片側だけの浮腫で、痛み色調変化を伴い、皮静脈が怒張していたら要注意です。

 

一方で、それほど緊急事態ではないものの、頻繁に遭遇し、なおかつ、なかなか治らないため対応に苦慮するのが、慢性の「静脈不全」による浮腫です。

 

もともと下肢の静脈は、下肢の筋が収縮することによるポンプ作用と、静脈に逆流を防止する弁の機能があることで、重力に逆らってあしから心臓へ向かって流れています。その静脈の還流が、何らかの原因(脳卒中の麻痺、骨折後の固定、廃用症候群による筋萎縮など)によって障害されると、重力に逆らえなくなり下腿に浮腫が起こります。両側に起こることが多いですが、原因によっては片側のこともあります。DVTと比べると静脈不全による浮腫は、急速には起こらず慢性的に生じます。

 

静脈不全による浮腫の場合はリハは問題なく行えます。むしろ廃用症候群が進行すれば浮腫は増悪するため、積極的に下肢を動かす必要があります。また弾性ストッキングや弾力包帯による圧迫も有効です。たとえ静脈不全による浮腫であっても、進行した場合には痛みや、静脈瘤、皮膚潰瘍の原因になりますので適切な対応が必要です。

 

その他に浮腫の原因として知っておいた方がよいものとしては、心不全、腎不全、肝不全、甲状腺機能低下症、低栄養(低アルブミン血症)、リンパ浮腫、薬剤性、蜂窩織炎痛風などがあります。これらの原因による浮腫の場合は、もともと、その原因となる病気があることが分かっている場合が多いと思います。また、浮腫以外に特徴的な症状がそれぞれ付随するので鑑別は比較的容易です(例えば、心不全なら呼吸困難感、蜂窩織炎なら発赤・熱感、低栄養なら血液検査異常など)。治療もその原因に応じて行うことになります。

 

 

参考文献:亀田メディカルセンターリハビリテーションリハビリテーション室 編集:改訂第3版 リハビリテーション リスク管理ハンドブック, メジカルビュー, 2017.