ミニレクチャー No. 68 脳卒中 その6:Pusher症候群について

脳卒中 その6:Pusher症候群について

 

「Pusher症候群」は、脳卒中後の片麻痺のある患者さんで、麻痺していない側の手足で床や座面を押して麻痺している側へと傾いてしまい、放っておくとそのまま倒れてしまう状態のことです。介助者が傾きを修正しようとして体を押すと、余計に押し返してきます。

 

麻痺している側にわざわざ倒れなくても、麻痺していない側だけでバランスをとって座れば良いのに、と思いませんか?たしかに、脳卒中後の症状では、半身の麻痺(=片麻痺)が最も目につきやすいと思います。しかし、自分自身に置き換えるとわかると思いますが、たとえ体の半分が全く動かなくなったとしても、反対側の動く手足で、座ったり立ったり、身の回りのことをできたりしても良さそうなものです。そうはならないのは、つまり、脳卒中の患者さんでは、片麻痺以外にも、ぱっと見ではわからない機能の障害が、脳のダメージを受けた場所に応じて起こっているのです。

 

Pusher症候群は視床の後外側部が関与しているとされています。以前は左半側空間無視のある患者さんに多く見られると考えられ、半側空間無視と同じ右頭頂葉の病変が原因と考えられていましたが、その後、空間無視のない患者さんでもPusher症候群がみられることがわかりました。

 

最近の研究で、左右に傾けることができる椅子にPusher症候群の患者さんを座らせ、左右に傾けて「まっすぐだ」と感じるところを答えてもらうと、病変のある側へ平均18度傾いた状態を、まっすぐだと答えました。つまり、Pusher症候群の患者さんでは、重力に対する姿勢の認識が変化していたのです。

 

Pusher症候群のある患者さんは、そうでない人と比べるとその他の神経学的症状も重症である傾向があります。しかし、Pusher症候群そのものは、時間経過とともに改善する傾向にあります。発症から6ヶ月後にもPusher症候群が残っている患者さんはほとんどいません。しかし、Pusher症候群の患者さんは、そうでない人よりも、同じADLレベルに到達するまでに3.6週余分にリハの期間が必要であったとの報告があり、早くPsuher症候群を改善することは重要です。Pusher症候群に対するリハの注意点は以下の4つです:

 

・まっすぐの姿勢の認識が間違っていることを理解させる

・まっすぐ立っているものを見せる(視覚的な垂直の認識は保たれているため)

・まっすぐな姿勢に到達するまでの動きを練習をする

・ほかの動作練習の間もまっすぐな姿勢になるように調整する

 

参考文献

Karnath H-O, Broetz D. Understanding and treating “pusher syndrome”. Phys Ther. 2003;83(12):1119–25.