No. 147 失語症

失語症

 

失語症は脳の損傷によっておこる後天性のコミュニケーション障害のことで、ことばを書くことや話すこと、読んで、聞いて理解することができなくなります。原因疾患としては脳梗塞が最多で、他の原因には、脳出血や脳腫瘍、中枢神経系感染症などがあります。失語症は流暢性もしくは非流暢性のものに分類されます。非流暢性失語の患者は、ことばを紡ぎ出すのが難しく、文章は内容が不十分になります。一方、流暢性失語の患者は、よどみなく話すことはできますが、ことばを理解することが難しくなります。非流暢性失語と流暢性失語は、それぞれ言語表出(復唱、呼称、書字)の障害と、言語理解(聴理解と読解)の障害を反映しています。ただし、個々の患者の症状はひとつの失語症のタイプにぴったり一致することはありません。さらに、失語症はほかの言語障害、例えば構音障害や発話失行と同時に起こることがあります。

 

非流暢性失語

ブローカ失語は左大脳半球の後下前頭回にあるブローカ野もしくはブロードマンの44野の損傷と関連しています。ブローカ失語は右片麻痺や口腔失行を伴っていることがあります。ことばは文法的に間違ったものになり、名詞と動詞のみに制限され、発話は短いフレーズや文に限られます。呼称の障害が多く、復唱は単語ひとつや短いフレーズに限られる場合が多いです。書字も障害されます。聴覚理解は比較的保たれますが、難しい文章になると理解が困難な患者もいます。

 

超皮質性運動失語は、前大脳動脈や前大脳動脈と中大脳動脈の分水嶺領域の病変による、補足運動野や環シルビウス溝言語野との連絡の損傷によって起こります。反響言語や保続がみられます。呼称や聴覚理解、復唱の能力は比較的保たれます。一方で、読み書きの能力は障害されます。超皮質性運動失語の特徴は「話し始めること」と「考えることを完了させること」が難しいということです。

 

混合型超皮質性失語は前後の分水嶺領域の損傷や多発性の塞栓症で起こります。患者は自発的な会話はほとんど出来ず、重度の反響言語があります。聴覚理解は重度に障害され、読字も書字も障害されます。視野障害を伴うことが多いです。

 

全失語は非流暢性失語の最重症のタイプで、全てのコミュニケーション能力が障害されます。左半球の言語野の大きな損傷によって引き起こされ、呼称、復唱、聴覚理解が特に障害されます。声のイントネーションに反応することが出来る事があります。全失語の患者では右片麻痺と右の視野障害を伴うことが多いです。

 

流暢性失語

ウェルニッケ失語は左半球の後上側頭回の病変と関連しています。錯語や言語新作による重度の喚語困難が特徴的です。一般的に、ウェルニッケ失語の患者は、自己修正しようとしませんし、間違いに気づくこともありません。復唱能力は重度に障害されており、聴覚理解や読字、書字も障害されます。ウェルニッケ失語と関連のある運動障害は特にありませんが、右視野欠損を伴うことがあります。

 

健忘失語は側頭葉基部、前下側頭葉、側頭頭頂後頭接合部、下頭頂葉の病変と関連しています。健忘失語の患者は発話は流暢で量も多いですが、話が回りくどくなります。呼称が障害され、復唱や日常会話レベルの聴覚理解は保たれます。読字や視覚理解も保たれます。

 

伝導失語は左半球の縁上回や弓状束の損傷に関連しておこる流暢性失語です。聴覚理解は比較的保たれます。自発性の発語においては音素性錯語や喚語困難が目立ちます。復唱も障害され、特に長い単語やフレーズ、文章で著明です。患者は間違いを自覚していることが多いですが、自力では修正することができません。書字の障害も多くの症例で認めます。

 

超皮質性感覚失語は側頭後頭葉もしくは頭頂後頭葉のウェルニッケ領域に隣接した領域の損傷に関連して起こります。流暢な錯語のある言語が特徴的です。復唱は比較的保たれます。理解しないままに読むことはできる場合があります。呼称は重度に障害されます。

 

皮質下失語

上記の失語症はどれも皮質領域の損傷と関連して起こっています。皮質下失語は大脳基底核や内包、左視床の損傷に関連して起こる失語症です。発話は流暢で復唱は比較的保たれています。聴覚理解も日常会話レベルでは問題ありませんが、より複雑な内容になると難しくなります。発話明瞭度の問題と、語想起の問題があることが多いです。

 

失語症の予後と治療

失語症の予後はひとによって様々で、おおくは病変の位置とダメージの重症度によって決まります。「回復の多くは初めの数ヶ月に起こり、1年も経過するとプラトーに達する」と言われています。専門家へコンサルトし、言語機能の回復を支援し、家族へのコミュニケーション方法を指導することで、コミュニケーションをとりやすくすることができ、患者の生活の質を改善することができるかもしれません。

 

以下に失語症患者に対する治療法を挙げています:

Melodic Intonation Therapy(MIT)・・・メロディ、リズム、強弱などのイントネーションパターンを使用することで、徐々に話せるフレーズや文の長さ延長してゆく方法。MITは発話能力の改善をターゲットにしている

Visual Action Therapy(VAT)・・・全失語の患者に推奨される方法です。手のジェスチャーを使って特定の項目を示せるように訓練します

Promoting Aphasics Communication Effectiveness(PACE)・・・これは会話力を向上させるように設計されています。治療者と患者が交代で新しい情報を相互に発信し、治療者は患者のメッセージが理解されたかどうかに基づいて患者に応答します。

Oral Reading for Language in Aphasia(ORLA)・・・文章を読み上げるのを助けるために聴覚的、視覚的、および書かれた手がかりを使った治療

Augmentative and Alternative Communication(AAC)・・・画像や記号などのコミュニケーションボードや電子機器を用いること

 

参考:Matthew Shatter, Howard Choi : PHYSICAL MEDICINE AND REHABILITATION POCKETPEDIA 3rd ed