No. 137 生涯学習のススメ
生涯学習のススメ
医学情報は日々どんどん増えています。医学情報の量が倍になるのにかかる時間は、1950年には50年だったものが、1980年には7年、来年の2020年には73日になると予想されています。全ての医学情報を覚えることは到底無理ですし、新しい情報を常に得ることだけでも大変です。それでも、現在の標準治療を知り、時代遅れでない治療を目の前の患者さんへ提供することは臨床家の義務です。その義務を果たすために、医療従事者は生涯学び続けることが必須です。
学習のスタイルとしては「臨床で疑問に思ったことを調べて勉強する」という方法があります。この方法では、学習したことがすぐに臨床に活かすことができるため、モチベーションを高く保ちやすく、記憶にも残りやすいです。この学習のためには、調べるためのスキル、例えば論文を検索して、ほしい論文にたどりつく、見つけた論文の内容を批判的に吟味して理解する、などの能力が必要で、さらに最新の情報はほとんどが英語で書かれるので英語力も必要です。
ただし、上記の学習スタイルだけでは臨床で遭遇しない疾患や、経験しない治療については勉強しないため、知識に偏りが生じるので、系統立った学習によって自身の専門領域とその周辺の最新のトピックや基礎を知っておく必要があります。そのためには、その道で最も信頼のある教科書を読むこと、自身の専門の雑誌を読むことなどを続けることが重要です。また最新の論文に目を通すために、様々なサービスを利用するのも効率的です。
私は以前からEvidence Up DateやNEJM Journal Watchという文献紹介サービスを利用していました。これらは、自分の興味関心のある医学分野を登録しておくと、それに関する論文が発表された時にメールで知らせてくれるものです。
同様のサービスでリハに特化したものもあります。REHAB+(https://plus.mcmaster.ca/rehab/)というサービスです。事前に登録しておいた興味のある分野について新規の論文が発表されればメールで通知してくれます。論文全文が読めるかどうかはその雑誌次第で、リハの雑誌はオープンアクセスのものは少なく、読めてもアブストラクトだけになってしまうことが多いのですが大まかな内容を把握することはできます。
他には、SNSやブログなどの情報を活用したり、勉強会に参加したりすることも、広い知識を得るためには有効です。
いずれにせよ継続することが重要で、自分にとって負担なく続けられる方法を確立してみてください。
参考文献
総合診療 Vol.29 No.1, 2019. 医学書院
No. 136 栄養療法 ー入院高齢者の低栄養についてー
栄養療法 ー入院高齢者の低栄養についてー
はじめに
“hospital malnutrition”という言葉があることからもわかるように、入院患者の栄養不良の発症率は3~5割と言われており、特に回復期リハ病棟では低栄養の発症率が高いという報告もあります。そもそも、なぜ低栄養がよくないのかというと、低栄養により筋肉の崩壊、体重減少、創傷治癒の遷延、Tリンパ球が減少し幼若化反応が起こりにくくなる、サイトカインの産生低下などにより免疫力の低下が生じ、疾病の治癒は遷延し、合併症が増加(2~20倍)、入院期間の延長、入院費の増大、死亡率の上昇につながるとされています。
1.低栄養の評価
1-1.程度の評価
(1)スクリーニング検査・・・SGA、NSIなどが用いられます。
(2)アセスメント
身体組成として、身長、体重、BMI、上腕周囲長、上腕三頭筋皮下脂肪厚、下腿周囲長などを測定します。臨床的評価項目としては体重変化、消化器症状、生理的機能、疾患と栄養必要量の関係などを考慮する必要があります。また生化学的パラメーターとして以下の血液生化学検査結果を参照することが多いです:
- 血清アルブミン:3.5g/dl未満(半減期18-20日)
- 血清トランスフェリン:200mg/dl未満(半減期8-9日)
- 血清プレアルブミン:15mg/dl未満(半減期2-3日)
- 血清総コレステロール:150mg/dl未満
- 総リンパ球:1500/μl未満
アルブミン値はよく低栄養の指標として測定されることがありますが、低アルブミン血症の原因は低栄養のみではないため、測定値の解釈には注意が必要です。
低アルブミン血症の原因:
1-2原因の評価
- 疾患に関連した栄養不良
- 食べない---食欲不振:加齢の影響、活動量不足、薬の副作用、疾患の影響、嗜好
- 食べれない---嚥下障害:誤嚥性肺炎
2.介入
2-1栄養摂取
(1)投与経路の選択:経鼻経管栄養、胃瘻、経静脈栄養
(2)エネルギー量
・ハリスベネディクトの式
・簡易法
(3)各栄養素の決定:水分、タンパク質、脂質、ビタミン、ミネラル、食物繊維
*レジスタンストレーニング直後にBCAA2g以上、蛋白質10g以上で糖質を含む栄養剤や食品を摂取すると、筋肉の蛋白合成量が増えるとされています
リフィーディング症候群について
No.37でもとりあげましたが、リフィーディング症候群とは、栄養不良の状態が長期間続いていた患者に急激に高エネルギーの栄養療法を行なった場合に、低リン血症、低マグネシウム血症、低カリウム血症をきたし、発熱、痙攣、意識障害、心不全、呼吸不全などを認める症候群です。
飢餓状態に適応してなるべく栄養素を使わないようになっているところに急激に大量の栄養素が入ることによって起きます。
リフィーディングシンドローム高リスク患者の判断基準
以下の1項目以上を有する
- BMI < 16kg/m2
- 過去3~6ヶ月で15%以上の意図しない体重減少
- 10日間以上の経口摂取の減少あるいは絶食
以下の2項目以上を有する
- BMI < 18.5kg/m2
- 過去3~6ヶ月で10%以上の意図しない体重減少
- 5日間以上の経口摂取の減少あるいは絶食
- アルコール依存の既往、またはインスリン、化学療法、制酸薬、利尿薬を含む薬剤の使用歴
対応:
高リスク患者では、初期投与のエネルギーを制限し、必要なビタミンやミネラルが不足しないように投与します。
- 投与エネルギー量:現体重×10kcal/kg/日(重症では5kcal/kg/日)から開始
- 血清K・P・Mg、心不全徴候の有無をモニタリング
- 100~200kcal/日ずつ増量し、1週間以上をかけて目標値(25~30kcal/kg/日)まで増やす
2-2運動療法
*メッツ(Metabolic Equivalents: METs)
運動時の酸素消費量を、安静座位時の酸素消費量(3.5ml/kg/min)で割った数値で、運動の強さの指標に用いられます。
およそ、理学療法は3メッツ、作業療法・病棟でのADL練習は2メッツ、言語聴覚療法は1.5メッツ程度が目安です。リハによるエネルギー消費量は以下の式で計算することができます:
エネルギー消費量(kcal)=1.05×体重(kg)×メッツ×運動時間(h)
例)体重50kgの患者が2メッツの運動を1時間、3メッツの運動を2時間行なった時の機能訓練によるエネルギー消費量は1.05×50×2×1 + 1.05×50×3×2 = 420kcalになります。
2-3薬物の影響
食欲を増進させる可能性のある薬
ドグマチール(50mg×2)、SSRI、SNRI(副作用に食欲低下あり)、ジプレキサ(2.5mg~10mg/日)、六君子湯、ペリアクチン、ガスモチン
嚥下に悪影響を及ぼす可能性のある薬
- 抗コリン作用のある薬(過活動膀胱の薬、古い世代の抗ヒスタミン薬、ベンゾジアゼピン系)、利尿薬:唾液を減少させ口腔衛生を悪化させる(以下の抗コリンリスクスケールも参照)
- 不眠症治療薬(睡眠剤、抗不安薬):鎮静、咳嗽反射の減弱、抗コリン作用
- 筋弛緩作用のある薬(抗てんかん薬、抗精神病薬):動作緩慢、嚥下反射の惹起遅延
- 制酸薬(PPI、H2RA) :胃酸減少による殺菌作用の低下
抗コリンリスクスケール
[最強リスク]
トリプタノール、アトロピン、トフラニール、ポラギス、ポララミン、コントミン、ペリアクチン、コランチル合剤、レスタミンコーワ、テルネリン、アタラックス、ロートエキス、フルメジン、ピレチア、ピーゼットシー
[強リスク]
シンメトレル、ジプレキサ、タガメット、ジルテック、デトルシトール、ノリトレン、リオレサール、ノバミン、ロペミン、クラリチン、クロザリル
[中リスク]
コムタン、ネオドパストン、セロクエル、エフピー、デジレル、 セレネース、パキシル、ビ・シフロール、レメロン、ロバキシン、プリンペラン、ザンタック、リスパダール
2-4口腔ケア
絶食中には唾液の分泌量が極端に低下し、口腔内乾燥、抗菌作用が低下します。絶食中の高齢者の口腔内には、多剤耐性菌や腸球菌、セラチア、クレブシエラなどが増えます。つまり、経口摂取しないことは、誤嚥性肺炎のリスクになるのです。絶食→口腔内環境の悪化→不顕性誤嚥→絶食・・・と、悪循環から抜け出せなくなります。
大脳皮質の感覚中枢への刺激の30~40%は口や食べる器官からの刺激から来ています。したがって絶食にすると感覚刺激が減少し、全身の廃用へ繋がる可能性があります。
対策は、なにはともあれ絶食をなるべく避けることです。そして、どうしても絶食が必要な場合は、口腔ケアをよりいっそう丁寧に行うことです。
3.高齢者への栄養療法は有効か
体重増加、血清アルブミン値を上昇させたという報告は多くあるが、生命予後、合併症の発症、入院期間などに対する効果は一定していません。残念ならが高齢者に無理やり食べさせても、寿命が延びるわけではないのです。考えて見たら当たり前のことなのかもしれません。栄養の問題は、ただ栄養状態を改善すればよいという単純な問題ではありません。また高度認知症患者に対する経管栄養のメリットは確立されていません。
高齢者の低栄養のまとめ
- 既に極度の栄養不良になってしまった高齢者を救うのは困難
- 食欲低下、経口摂取がすすまない患者の栄養療法は限界がある
- 栄養不良に至る前の段階(リスクあり)で何らかの介入をすべきである
- 経管栄養高齢者への栄養学的介入は比較的容易である
- しかし、経管栄養が患者のQOL向上に貢献しているかは疑問
- 高齢者の低栄養原因は多くの因子が関与している
- 従ってこれらの問題に介入するには多職種が関与する必要がある
- これにはチーム医療が必須である
- チーム医療ができない環境では栄養の本格的介入は困難である
*葛谷 雅文:高齢者の低栄養, 老年歯学 20, 2, 2005.より一部改定
No. 135 肘関節の脱臼骨折のリハビリテーション
肘関節の脱臼骨折のリハビリテーション
肘関節脱臼骨折の特徴
- 肘関節の脱臼は肘の外傷の11~28%を占める
- それは10歳未満の子供の最も一般的な脱臼であり、成人では肩に次いで二番目に多い
- 年間の発症率は6/10万人
- 肘関節脱臼の90%が後方もしくは後外側への脱臼
- 完全進展が出来なくなること、が最も多い合併症で、拘縮が60%の症例にみとめられる
- 3週間以上の固定は、持続的な硬直と関節拘縮を引き起こす
- これらの合併症は早期からの肘関節の自動運動を含めたリハビリテーションの必要性を示している
肘関節の脱臼に伴う骨折がよく見られるのは、橈骨頭、尺骨の鉤状突起、および肘頭です。いわゆる「terrible triad」と呼ばれる脱臼骨折は、鉤状突起、橈骨頭、および外側側副靭帯損傷を伴ったものです。肘関節の脱臼骨折は受傷時に加わる力の方向によっても分けられることがあります:軸方向、外反後外方回旋、内反後内方回旋です。肘関節の脱臼骨折の大半は外科的治療がされます。術後の方針は、どのような骨構造が修復されるかによって決まってきます。靭帯の再建もされていれば術後プロトコルは靭帯への負荷も考慮されます。軸方向の脱臼骨折の場合は靭帯は無傷の場合が多いですが、肘頭は橈骨頭の脱臼により骨折しています。外反後外方回旋による外傷の場合は、外側側副靭帯、橈骨頭、鉤状突起が傷害され、そして特に内側側副靱帯が傷害されます。内反後内方回旋による外傷では、外側側副靭帯と鉤状突起が傷害されます。
1. 肘頭骨折と橈骨頭の脱臼を伴う軸方向の力による外傷
PHASE I (0–1週) ・・・・1週間のスプリント固定
PHASE II (1–6週)・・・・2週目に抜糸、スプリントの除去
屈曲、伸展、回内、回外のROMex.を開始する
術者の指示で安定性を得るために継手付きの肘装具を用いることもある
高齢者や重度に粉砕した骨折の場合、保護されていない状態での全可動域のROMは、術者の指示によって最大で4週間遅らせることもある
PHASE III (6–8週以降)・・抵抗運動を開始
2. 外側側副靭帯損傷、橈骨頭と鉤状突起の骨折を伴う外反後外方回旋による外傷
PHASE I (0–1週)・・・・・靭帯の修復に応じたスプリント固定
PHASE II (1–4週)・・・・・1週後にスプリント除去、2週後に抜糸
継手付き肘装具装着下で伸展マイナス30度の制限を4週間、マイルドな自動ROMex.
肘の他動的ROMex.は禁止
内外反ストレスを避けるために肘関節屈曲90度での前腕の回内外運動を行う
PHASE III (6–8週以降)・・・骨癒合が得られていることが明らかな場合は抵抗運動を開始する
3. 外側側副靭帯損傷と鉤状突起骨折を伴う内反後内方回旋による外傷
PHASE I (0–1週)・・・・・術後スプリント固定
PHASE II (1-6週)・・・・・2週後に抜糸、スプリント除去し継手付き装具を装着、マイルドな自動ROMex.
運動中の特に体に近づける動作時の内反ストレスを避ける
鉤状突起の固定性によって伸展角度が決まってくる
鉤状突起の骨癒合を考慮し、4週間は最終伸展マイナス30度に制限する
PHASE III (6–8週以降)・・・骨癒合が得られていることが明らかな場合は抵抗運動を開始する
参考文献
Charles E. Giangarra, Robert C. Manske, S. Brent Brotzman : Clinical Orthopaedic Rehabilitation: A Team Approach, Fourth Edition, ELSEVIER, 2018.
No. 134 薬の副作用のみかた
薬の副作用のみかた
No. 41でも取り上げましたが、どんな薬でも、意図していなかった好ましくない「できごと」(=事象)が起こる可能性があります。そのようなできごとを「有害事象」といいます。有害事象には、飲んだ薬が原因ではないできごとも含まれます。つまり、たまたま薬を飲んでいた時に起こった、好ましくないできごとも有害事象です。これらの有害事象のうちで、原因が薬であると認められた時にはじめて、その有害事象はその薬の「副作用」と呼ばれるようになります。つまり副作用は有害事象の部分集合です。
ある薬をのんだときに起こった有害事象がその薬の副作用であることを証明するのは、必ずしも簡単なことではありません。薬の本や添付文書をみると、それぞれの薬について副作用が列挙されています。あまりにたくさんの副作用が列挙されているため、逆に見にくくて有効活用がしづらくなっています。これは、添付文書の副作用にはそれまでの研究や報告などから「薬との因果関係が否定できない」有害事象も全て列挙されているためです。つまり可能性が否定できない有害事象はすべて副作用として記載されているのです。
話はそれますが、時々「〇〇の可能性は否定できない」というような言い回しをカルテなどで用いる場合があります。この文章は100%間違っていないが故に、何も言っていないのに等しくなっています。それと同じで薬の添付文書も間違っていない=書き漏らしていない、という状況をつくるために、薬との因果関係のうすいもの、はっきりとした証拠のないものまで記載して、本当に注意すべき副作用がわかりにくくなっています。
入院中の患者さんに何かよろしくない変化が起こったときに考えることは、「新規の疾患を発症した」か、「もともと持っていた疾患が増悪した、もしくは合併症が起こった」か、「治療の合併症(特に薬の副作用)が起こった」かのどれかに分類されます。入院患者の1/6には薬の副作用が起こっていたという報告もあり、決してまれなことではありません。
患者さんの状態を全体像を評価することが、薬の副作用を含め異常の早期発見につながります。
具体的内容は、
食事:食欲、味覚、嚥下障害、口渇、吐き気、胃痛
排泄:尿の回数、排尿困難、便の回数、便の性状、汗
睡眠:睡眠の質、睡眠時間、不眠の種類、日中の傾眠
運動:ふらつき、転倒、歩行状態、めまい、ふるえ、すくみ足
などです。つまり副作用をみるといっても特別なことを行うわけではなく、普段の状態を把握することが重要である、ということです。特に高齢者では自覚症状に乏しい場合もあるので、積極的に情報を収集する必要があります。
そして、薬の副作用が疑わしい場合は、担当医や薬剤師に相談をします。特に薬剤師は薬のプロフェッショナルなので、添付文書を読めばわかること以上の、薬物動態学的、薬力学的な知識をもとに複数の薬の相互作用なども検討した評価をしてくれるはずです。今時添付文書の情報を調べるだけならネット環境があれば誰でもできます。添付文書の内容以上のアドバイスができることに病棟薬剤師の存在意義があります。処方された薬を用意する業務がまるで主な業務のように思ってしまいがちですが、あくまでもそれは副次的なものです。
参考文献 川口 崇・岸田 直樹 編著:3ステップで推論する副作用のみかた・考え方, じほう, 2018.8.
No. 133 膀胱留置カテーテル抜去について
膀胱留置カテーテル抜去について
No.16にも書いた膀胱留置カテーテルについてのより詳しいまとめです。
I. 留置カテーテルの抜去に向けた取り組みの先駆的研究
上田 朋宏:老人総合病院における入院患者の排尿管理について. 泌尿紀要37:583-588, 1991
- カテーテル留置されていた患者157例中、139例(89%)はカテーテルフリーとなった
- オムツ装着者158例の内、157例(99%)がオムツが不要になり、尿失禁なく排尿可能となった
- カテーテルフリーないしオムツ不要となるまでの期間は平均144日
半数は1ヶ月以内、1年以上の長い治療期間を要した症例が約1割
つまり膀胱留置カテーテルの大半は抜去可能である
II. 膀胱留置カテーテルの適応
絶対的適応 |
相対的適応 |
• 尿閉の急性期 • 心疾患や脳出血など、救命に伴い体の循環動態を監視する必要のあるとき • 手術や検査など、治療に伴い体の循環動態を監視する必要のあるとき • 泌尿器系手術後の術創、膀胱、尿道の安静を必要とするとき • 膀胱容量の高度の減少(蓄尿機能がほとんどない場合) |
• 陰部の手術創や皮膚障害、褥瘡への尿汚染を防止する必要のあるとき • 間欠的導尿の適応であるが、実施できないとき • 夜間多尿のため、睡眠が著しく障害されるとき • 体力低下に伴う負担を軽減する必要のあるとき |
*適応期間は、おおむね短期間である。留置目的が消失しているにもかかわらず、留置しつづけることのないよう、適応の評価は定期的になされる必要がある。
III. 膀胱留置カテーテルのメリット(◯)とデメリット(●)
|
本人 |
家族 |
医療者 |
社会 |
身 |
◯腎臓への尿の逆流防止 ◯膀胱内の残尿の消失 ◯排尿動作不要で安静が維持できる ●尿路感染を起こす ●膀胱の萎縮を引き起こしやすい ●残存機能を低下させやすい ●結石ができやすい ●不快感や疼痛を伴うことがある ●行動が制限される ●尿道口から尿が漏れることがある |
◯介護の軽減 ◯尿の片付けが楽 ◯夜間睡眠の確保 ●カテーテル管理が必要 |
◯尿量が正確に測定できる ◯介護の軽減 ◯尿の片付けが楽 ●カテーテル管理が必要 ●カテーテル交換が必要 |
|
心 |
◯寝衣の尿汚染への心配軽減 ◯家族に対する心理的負担軽減 ●自己イメージの崩壊 |
◯尿汚染の心配軽減 ●管理の心理的負担 ●罪悪感 ●家族イメージの崩壊 |
●管理の心理的負担 |
●病気や老いへのマイナスイメージ |
社 |
●尊厳の喪失 ●経済的負担 ●行動範囲の限局 ●住環境の不適合 |
◯行動範囲の拡大 ●経済的負担 |
●薬物治療以外の治療やケアに対する経済的保障がほとんどない ●他職種とのチーム形成が困難 ●多剤耐性菌のリスク |
●経済的負担の増加 |
IV. カテーテルの留置期間
・留置目的のある期間のみ。目的が消失したら即抜去
・定期的なカテーテルの交換は意味がなく、挿入による感染機会を増やすだけ
・感染率は14日間の留置で 100 %
V. カテーテル留置の合併症
尿路感染症、尿路結石、尿道損傷や狭窄、膀胱刺激症状、萎縮膀胱
VI. カテーテル抜去の手順
1.朝から午前中に抜去する
2.抜去時刻と、抜去前に排尿バックに貯留していた排尿量を記録する
3.水分摂取を勧め、尿意を確認する
尿意を認めたら自排尿を促す。尿意が曖昧な場合は2-3時間おきに、オムツ内排尿と超音波尿量測定器による膀胱内の残尿量をチェック尿意を確認し、排尿誘導を行う。
4.その日のうちに必ず1度は導尿して残尿を測定し、今後の導尿回数を決定する
翌日以降も主治医の指示を受けながら、残尿量に合わせて導尿回数スケールを設定して経過を見る。
自然排尿が認めらない場合も、2週間は間歇導尿を続ける。
5.排尿日誌を書く
尿意の有無、排尿量、排尿(失禁)回数などを記録する。
6.抜去後の排尿症状の観察をする
抜去後は一時的に、排尿筋刺激症状(頻尿、尿意切迫感)が生じやすい。十分な水分摂取、排尿時に座位姿勢を促し、腹圧を十分にかけられる姿勢を工夫することで残尿が少なくなり、排尿機能が次第に改善しやすくなる。
a) カテーテル抜去後、自排尿があった場合
1.できる限りトイレでの排尿を支援する
2.尿道カテーテル抜去後6時間の間に自尿があれば、その後残尿測定を行い
残尿100 ml未満・・・・導尿不要
100~199 ml・・・1回/日
200~299 ml・・・2回/日
300~399 ml・・・3回/日
400~499 ml・・・4回/日
500 ml以上・・・・残尿が500 ml以上にならないように適宜回数を増やす
3.夜間は、睡眠と安全に考慮しながら排尿行動を支援する
4.排尿日誌によるモニタリングを継続する
b) カテーテル抜去後、自排尿がない場合
1.飲水をすすめながら、排尿誘導を実施する
2.導尿を実施する
- 抜去後6時間経っても自尿がなければ、1日4回の導尿からスタートする。
- 残尿500mlで膀胱内に負担がかかるため、6時間未満であっても、超音波尿量測定器で500ml前後の残尿が確認された時には導尿を行う。
- 1日4回の導尿の時間は、朝・昼・夜・寝る前といった間隔でよい。等間隔でなくてよいが、8時間以上の間隔をあけない。
- 次の日の導尿回数は、前日の残尿の記録の最低値を見て決める。
- 1~2週間の間欠導尿の継続が必要であることを認識する。
No. 132 めまい
めまい
「めまい」を訴える患者さんは少なくありません。この時大切なのは、「めまい」ということばが具体的にどの様な症状なのかを聞くことです。視界がぐるぐると回っている「回転性めまい」の場合や、起立性低血圧などによる意識消失の一歩手前「前失神」の場合、小脳失調などによる「平衡障害」、筋力低下などによる「ふらつき」まで、様々なものがどれも「めまい」と表現される場合があるので注意が必要です。
この中で「回転性めまい」を示す代表的な疾患として、良性発作性頭位めまい症 ( BPPV:benign paroxysmal positional vertigo)という疾患があります。「めまい」を訴える疾患のうちの4割を占める、最も頻度の高い疾患です。よく患者さんが「わたしはメニエルがあるから」と言う場合の「メニエル」は本当のメニエル病ではなく、このBPPVであることがほとんどです。メニエル病は内耳の疾患なので聴覚障害を伴います。一方BPPVは、その名が示す通り「良性」で時間が経てば自然に治ります。
BPPVは平衡感覚を司る半規管の中の耳石という石が、本来あるべきところから転がりだして動き回ることで平衡感覚に余計な刺激が加わり、めまいを引き起こします。頭の位置が変わると耳石が動くためにめまいが誘発されます。寝ていて座った時や寝返りをした時に、眼振を伴うめまいが生じれば、ほぼ間違いなくBPPVです。
治療は安静臥床でもよいのですが、中には長く症状が続く場合があります。早く直そうと思えば浮遊耳石置換法という、転がりだした耳石をあるべき場所に戻す方法が有効です(ネットで「Eply法」で検索すれば動画が見れます)。いくつかの内服薬や点滴薬がつかわれますが、どれもエビデンスはなく気休め程度の効果しかありません。
参考文献
今日の臨床サポート
坂本壮:あたりまえのことをあたりまえに 救急外来診療の原則集, 有限会社シーニュ, 2017.
No. 131 糖尿病性足病変
糖尿病性足病変
褥瘡に似て非なるものとして糖尿病患者に起こる足の潰瘍があります。末梢神経障害、末梢血管障害、感染症のいずれか、もしくはこれらの組み合わせによって起こります。
末梢神経障害が主な原因による皮膚潰瘍は、おもに関節の突出部に生じます。運動神経障害や自律神経障害により皮膚の乾燥や骨の変形を招き、外傷や熱唱、靴擦れをきっかけにしてできた傷から進展してゆきます。一般的なフットケアと適切なフットウェアなどによる除圧が必要です。
末梢血管障害いわゆるPAD(peripheral arterial disease)を主とする皮膚潰瘍の場合は、循環の末端である足趾や踵から始まります。踵から始まるものの場合、いわゆる褥瘡と間違われることがあり、褥瘡と判断して除圧をしたり、壊死組織をデブリードマンしたりして肉芽形成を促しても、そもそもの血流がないため全く良くなりません。治療にはそれらの処置に加えて血行再建術が必要です。
褥瘡かPADよるものかの判断のためには、足背動脈が触知できるかどうかが判断の参考になります。またPADによる潰瘍は、潰瘍の周縁は毛細血管の拡張により赤くなり(これをred ring signと呼びます)、さらに肉芽組織が形成されにくいという特徴があり、ことから普通の褥瘡ではないことが推測できます。そして、ABI(ankle brachial index)を計測したり、CTAやMRAによる画像診断を行います。
参考文献
今日の臨床サポート
寺師 浩人:足の褥瘡について, 褥瘡会誌. 16(2):107*111, 2014.