No. 134 薬の副作用のみかた

薬の副作用のみかた

 

 

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No. 41でも取り上げましたが、どんな薬でも、意図していなかった好ましくない「できごと」(=事象)が起こる可能性があります。そのようなできごとを「有害事象」といいます。有害事象には、飲んだ薬が原因ではないできごとも含まれます。つまり、たまたま薬を飲んでいた時に起こった、好ましくないできごとも有害事象です。これらの有害事象のうちで、原因が薬であると認められた時にはじめて、その有害事象はその薬の「副作用」と呼ばれるようになります。つまり副作用は有害事象の部分集合です。

 

ある薬をのんだときに起こった有害事象がその薬の副作用であることを証明するのは、必ずしも簡単なことではありません。薬の本や添付文書をみると、それぞれの薬について副作用が列挙されています。あまりにたくさんの副作用が列挙されているため、逆に見にくくて有効活用がしづらくなっています。これは、添付文書の副作用にはそれまでの研究や報告などから「薬との因果関係が否定できない」有害事象も全て列挙されているためです。つまり可能性が否定できない有害事象はすべて副作用として記載されているのです。

 

話はそれますが、時々「〇〇の可能性は否定できない」というような言い回しをカルテなどで用いる場合があります。この文章は100%間違っていないが故に、何も言っていないのに等しくなっています。それと同じで薬の添付文書も間違っていない=書き漏らしていない、という状況をつくるために、薬との因果関係のうすいもの、はっきりとした証拠のないものまで記載して、本当に注意すべき副作用がわかりにくくなっています。

 

入院中の患者さんに何かよろしくない変化が起こったときに考えることは、「新規の疾患を発症した」か、「もともと持っていた疾患が増悪した、もしくは合併症が起こった」か、「治療の合併症(特に薬の副作用)が起こった」かのどれかに分類されます。入院患者の1/6には薬の副作用が起こっていたという報告もあり、決してまれなことではありません。

 

患者さんの状態を全体像を評価することが、薬の副作用を含め異常の早期発見につながります。

具体的内容は、

食事:食欲、味覚、嚥下障害、口渇、吐き気、胃痛

排泄:尿の回数、排尿困難、便の回数、便の性状、汗

睡眠:睡眠の質、睡眠時間、不眠の種類、日中の傾眠

運動:ふらつき、転倒、歩行状態、めまい、ふるえ、すくみ足

認知言語障害見当識、記銘力、判断力、抑うつ

などです。つまり副作用をみるといっても特別なことを行うわけではなく、普段の状態を把握することが重要である、ということです。特に高齢者では自覚症状に乏しい場合もあるので、積極的に情報を収集する必要があります。

 

そして、薬の副作用が疑わしい場合は、担当医や薬剤師に相談をします。特に薬剤師は薬のプロフェッショナルなので、添付文書を読めばわかること以上の、薬物動態学的、薬力学的な知識をもとに複数の薬の相互作用なども検討した評価をしてくれるはずです。今時添付文書の情報を調べるだけならネット環境があれば誰でもできます。添付文書の内容以上のアドバイスができることに病棟薬剤師の存在意義があります。処方された薬を用意する業務がまるで主な業務のように思ってしまいがちですが、あくまでもそれは副次的なものです。

 

参考文献 川口 崇・岸田 直樹 編著:3ステップで推論する副作用のみかた・考え方, じほう, 2018.8.