ミニレクチャー No. 41 クスリのリスク

クスリのリスク

 

回復期リハ病棟に入院する患者さんの大半は高齢者で、たくさんの病気を持っていることが多く、病気の数だけ飲んでいる薬も多くなります。この、たくさんの薬を飲んでいる状態を、ポリファーマシー Polypharmacy(多剤併用)と言います。だいたい5剤以上の薬を飲んでいる場合がポリファーマシーと定義されており、その場合、とにかくどれか1つの薬をへらすべき、とされています。

 

ポリファーマシーがなぜ良くないのか。複数の薬を飲んでいると、薬同士の相互作用によって、個々の薬の効き目が弱まったり、逆に強まったりするため、想定外の事態が起こりやすくなるのです。特に高齢者は薬を代謝する機能が低下しているために、若くて健康な人ならば大したことのない程度の、わずかな作用の増減が、大きな影響を及ぼすことになるのです。

 

実際に、病院を受診する高齢者の15%に薬の副作用があり、そのうち50%が避けられる可能性があるものとされています。また高齢者の入院原因の1/6は薬の副作用によるもので、75歳以上では1/3におよびます。さらに、入院中には1/6の人に薬の副作用が起きるという報告があります。

 

これらのクスリのリスクを少しでも減らすための取り組みが最近、広がりをみせています。高齢者の適切な処方を促すための基準やガイドラインが各国で作られ、日本においても「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015」が出ています。

 

ある研究では平均年齢83歳の集団で、もともと飲んでいた7.7種類の薬を3.3種類にまで減らしたところ、88%の人が健康状態がよくなったという報告があります。回復期リハ病棟の入院期間は比較的長いため、患者さんの状態をじっくりと把握したうえで、飲んでいるクスリの必要性を吟味して、最小限の数に減らす良い機会です。

 

多くの薬は病気のリスクを減らすために処方されます。しかし薬に限らず、すべての医療行為にはリスクを伴い、薬も例外ではありません。ある薬を飲むことによるメリットが、その薬の副作用がもたらすデメリットを上回ると考えられる場合にのみ、その薬は、その人にとって飲んだ方がよい薬です。

 

参考文献

上田剛士:日常診療に潜むクスリのリスク 臨床医のための薬物有害反応の知識, 医学書院, 2017.