No. 146 脳卒中後の復職について

脳卒中後の復職について

 

 就労中の人が脳卒中を発症した場合、復職も回復期リハでの重要な目標のひとつになります。脳卒中が比較的軽症だと日常生活動作は早期に自立し、FIMが満点になることは容易かもしれません。しかし仕事に復帰するとなると、さらに複雑な能力が必要となります。その高次の能力について入院中に評価が不十分なままに退院して復職すると、仕事がまったくできずに職場でトラブルが生じ、患者さんは自身を失い、職も失うことになりかねません。入院中から復職後に想定される問題について予想し、トレーニングを行ったり、本人や職場の上司・同僚への情報提供などを行いスムーズに復職につなげるための支援が必要です。

 

 一般に復職について職場側は、他の後遺症の残らないような疾患の場合と同じように考えていることが多く「もとのように働けるようになってから復職してほしい」と思っている場合がほとんどです。脳卒中の場合はそのような考えではいつまでたっても復職できません。理想的には徐々に慣らしながら復職できるように、勤務時間や業務内容を調整しながら仕事を再開できるのがベストです。そのためには上司や同僚に病状を理解して協力してもらう必要があります。もちろん上司・同僚への病状説明には本人の同意があることが絶対条件です。

 

脳卒中後の復職時によくみられる問題とその対処方法です:

  • 雑音や光などの外部刺激に対して過剰に反応する・・・プライベートオフィスにする、天井の蛍光灯の代わりにデスクライトにする
  • 騒音など気が散るものがあると集中することが難しい・・・静かな仕事場、ヘッドフォンや耳栓を使用する
  • 作業を途中で中断されると再開することが難しい・・・一定時間中断しないようにする
  • 情報処理や指示を理解することに時間がかかる・・・すべての課題について手引書を用意する、会議を記録する、、期限を延長する
  • 詳細に覚えておくことが難しい・・・ノートやスマートフォンなどのサポートツールを使って、メモやチェックリストをつける
  • 一度に複数の課題をこなすことが難しい・・・課題を小さなステップにまとめる、仕事を共有する
  • 仕事上の間違いに気づき問題解決することが遅れがち・・・フローチャートを用いる、同僚や上司と定期的に見直しをする
  • 組織的にふるまったり、会議に間に合わせることが難しい・・・締め切りや会議を思い出すためにスマートフォンのなどのサポートツールを使用する
  • 精神的または身体的疲労のために長時間の労働ができない・・・休憩を増やす、時短勤務、復職時に徐々に勤務時間を増やしてゆく
  • ストレスに弱く押しつぶされそうになる・・・休憩を増やす、基本的な仕事能力のみで可能な仕事に変更する
  • 頭痛・・・静かな作業場所、休憩を頻回に
    視力の問題・・・さまざまなメガネやコンピュータプログラムなどのサポートツール
  • 同僚と衝突する・・・上司と同僚に対して対応をトレーニングする、ストレス制御のたの休憩、カウンセラーへの電話相談、コミュニケーションと感情コントロール能力のトレーニングを個人または集団心理療法で行う
  • からだの一側が弱く巧緻性が低下している・・・ハンズフリーの電話、人体工学的な作業環境の構築、キーボードの改修、音声認識ソフトの使用
  • 予定の変更に柔軟に対応できない・・・睡眠や朝夕のルーチン業務が一貫して行えるように労働時間を一定にする
  • 運転能力の変化・・・在宅勤務ができるようにする、公共交通機関を使用できるよう勤務時間を調整する

 

また復職を支援する公的なサービスもあります。職業支援センターや職業訓練校、実際に職場へ出向いて仕事環境についての助言をするジョブコーチ制度などがあり、それらの情報提供も必要に応じておこないます。

 

参考文献:Scott SL et al. Returning to Work After Mild Stroke, Arch Phys Med Rehabil 2019;100:379-83.