No. 110 脳卒中患者にも筋トレは有効

脳卒中患者にも筋トレは有効

 

リハ業界では過去にさんざん議論になった問題のひとつに「努力を要する活動や筋トレは、脳卒中片麻痺患者に有益か?それとも痙性を増強してしまい有害か?」というものがありました。これについては「筋トレは脳卒中片麻痺患者の痙性を増悪しない」ということが1990年代に行われた研究で示されました。これ以降、脳卒中後のリハビリテーションプログラムには筋トレが積極的に推奨されるようになりました。

一般的には、筋トレは1948年にDeLormeによって提唱された最大収縮の法則に則って行われます。健常者の場合は、最大収縮の60-80%の力で8-10回繰り返すトレーニングを1-3セット、週に2、3回行うことが推奨されますが、脳卒中患者では、回数はより多く10-15回の繰り返しを1セットとして、負荷は健常者よりも少なくてよいとされてます。ある研究では最大収縮の40%でも有効であったとの報告もあります。これは、脳卒中患者での筋トレの効果は、筋の増大よりも神経組織の再構築の結果によるところが大きいことに起因します。

具体的な脳卒中後の筋トレにはいくつか方法があります:

1.いわゆる「筋トレ」

最大筋力の70-80%の負荷をかける筋トレを、合計16時間行うと身体機能に改善が認められます

2.課題志向型トレーニン

獲得したい動作に特化したトレーニングを行うことで、その機能が改善することがわかっています。例えば椅子からの立ち上がり動作が上達したければ、それに必要な筋トレとバランスの練習を行う、といった具合です

3. 有酸素運動をプラス

筋トレと有酸素運動の併用が高齢者には有効です。運動強度についてはカルボーネンの式から算出した予測最大心拍予備能HRR[(=220-年齢-安静時心拍数)×運動強度+安静時心拍数]を指標にして行います。脳卒中患者では目HRRの50-70%の有酸素運動がよいとされています

4. 機能的電気刺激療法

筋を電気刺激で収縮させる方法です。この方法では他のトレーニングよりも、より多くの筋線維を運動に無理やり参加させることができるため代謝が増えるという効果があります

これらの筋トレの脳卒中患者に対する効果を検証したメタアナリシスで、最も有効であるとされたのは、1番の、いわゆる「筋トレ」でした。トレーニング方法も流行り廃りがありますが、結局は基本が大切です。

参考

S. Wist et al. : Muscle strengthening for hemiparesis after stroke: A meta-analysis. Annals of Physical and Rehabilitation Medicine 59 (2016) 114–124