No. 138 運動療法

No. 138 運動療法

筋線維の特徴

タイプI線維は「遅筋」とも呼ばれ非常に疲労しにくい濃い色をした線維(いわゆる「赤身の肉」であり、この色は血管が豊富であることによります)であり、PAS染色ではミオシンATPアーゼが明るく染まります。タイプII線維は「白身の肉」ですが、組織学的にはPAS染色をすると暗く染まります。

ひとつの運動単位は同じタイプの筋線維で構成されています。ヘネマンのサイズの原理に従って、より小さい運動単位がよりはやく活動し、収縮強度が増すにつれて、次第に大きな運動単位が順次動員されます。筋電図は主にタイプI線維の活動を記録します。機能的電気刺激(FES)はタイプII線維を優先的に動員しますが、長期間使用していると、タイプII線維がタイプI線維へと変換するかもしれません。ステロイドはタイプII線維の萎縮を引き起こします。どちらのタイプの線維も加齢によって減少します。

 

筋力増強トレーニン

等尺性運動 – 関節の目に見える動きや、はっきりとした筋長の変化を伴わないで張力を発揮する運動方法です(例:壁を押す)。この運動は筋長を変えずに活動させたい場合に有効で、関節運動が禁忌の場合(例:靭帯再建術後)や、疼痛や炎症がある場合(例:関節リウマチ)に用いられます。怪我をする危険は最も少ないです。等尺性運動は血圧を上げる傾向があるため、高齢者や高血圧患者では避けた方が無難です。

等張性運動 – 持続的な外的負荷があり、運動速度は一定でない運動です。例えばフリーウェイトや、ウェイトマシン、体操(例:懸垂や腕立て伏せ、スクワット)、そしてセラバンド体操などです。これらの装置は簡単に利用できますが、怪我の危険性があります。

等運動性運動 – 角速度が一定で、外的負荷が変動する運動です。この運動は自然な運動としては存在しません。特殊な装置、例えばCybexやBiodexが必要です。使用者が強く押したら装置のアーム部分の動く速度は変わらずに抵抗が強くなります。これによって運動中の筋の長さ-張力曲線に沿った最大限の抵抗を加えた運動が可能になります。怪我のリスクは比較的少ないです。

求心性収縮 VS 遠心性収縮 – 求心性収縮は筋の動的な短縮が生じます。速い求心性収縮で生じる力は小さいです。遠心性収縮では、筋の動的な伸長が起こり、少ないエネルギーで強い力を生じます。筋収縮は、速い遠心性収縮で最も強く、次に等尺性、ゆっくり行う求心性、最も弱いのが速い求心性収縮です。

漸増抵抗運動 – DeLormeの原理では高負荷低頻度の運動が筋力増強に適しているとされていますが、低負荷高頻度の運動でも筋力はつきます。DeLorme法では、最初に10回反復できる最大筋力(10RM)が決定されます。10回の反復運動を10RMの50%、75%、そして100%の3セット実行します。セッションは週に3~5回行われ、10RMを毎週再決定します。オックスフォードの手法では、セットの順序が逆になり、最初に10RMの100%で10回行い、続いて75%と50%のセットを行います。DeLateurは後に、筋肉が疲労するように運動されている限り、筋力と持久力の向上は、この2種類の運動で同程度であることを証明しました。しかし高負荷・低頻度の運動の方が、より効率的でした(すなわちより少ない回数、より少ない時間で達成できていました)。Moritaniとde Vriesは、筋力トレーニングの最初の数週間での筋力増加は主に神経因子(例えば、活動する筋の運動単位の改善)によるものであり、筋肥大によるものではないことを実証しました。Daily Adjusted Progressive Resistance Exercise(DAPRE)法では、筋肉グループごとに4セットの運動が行われます。最初のセットは6RMの50%で10回、2セット目は6RMの75%で6回です。3セット目は6RMでできるだけ多く繰り返します。4セット目は、3セット目に遂行できた回数に基づいて負荷量を決めます。つまり6RMの5~7回遂行出来た場合は負荷は変わりません。それより少ない回数の場合は、負荷を下げ、多い場合は負荷を増やします。次のトレーニングセッションのための負荷量(6RM)の調整も必要に応じて行われます。

 

有酸素運動

定期的な有酸素運動は最大酸素摂取量(VO2max)を増加させ、安静時の血圧を低下させますが、筋力トレーニングはこれらのどちらにも影響を与えません。その他の有酸素運動による長期的な心血管系への良い影響には以下のものがあります;運動時の一回拍出量の増加、最大運動時の心拍出量の増加、運動耐用能の増加、HDLコレステロールの増加、安静時心拍数の減少、最大下の負荷に対する心拍数上昇の減少、安静時および最大下の活動時の心筋酸素消費量の減少、LDLコレステロールの減少、中性脂肪の減少です。最大心拍数は変わりません。歴史的には、有酸素運動は骨格筋量にはごくわずかな影響しか及ぼさないと考えられていましたが、最近では有酸素運動が筋量の喪失を緩和し、さらに肥大/同化作用すらあることが報告されています。糖尿病患者においては、肥満の改善とインスリン要求量の減少が認められます。また、気分、睡眠、免疫機能、および骨密度の改善もみられるかもしれません。

 

アメリカスポーツ医学会(ACSM)のガイドライン

150分/週の中強度の運動が推奨されており、そのために1日30分、週に5日運動する必要があります。 もしくは75分/週の激しい運動でも良く、そのためには少なくとも1日20分、週に3日の運動を実施します。さらに2~3日/週の筋トレと、2日/週の関節可動域運動も推奨されています。

 

運動処方

運動前評価 – 医師による評価は包括的に行う必要があり以下の重要な要素を含みます;現在と過去の運動習慣、運動への動機と障壁、運動のリスクと利益についての説明、好ましい活動の種類、社会的支援、時間とスケジュールの考慮。さらに以下の項目については特に注意が必要です;身体的な制限、現在および過去の医学的問題、使用中の薬、運動による症状の既往(息切れ、喘息、じんましん、および胸痛)、心疾患の危険因子(糖尿病や高血圧、喫煙、脂質異常症、座りがちな生活、肥満、50歳以下の心疾患の家族歴など)。運動負荷試験や他の精密検査を必要とする人をアメリカ心臓協会(AHA)とACSMのガイドラインに従って識別する必要があります。

運動処方の構成要素 – 以下の5つの要素は、年齢や運動能力に関わらず全ての運動処方に適用されます。加えて健康状態、使用している薬、危険因子、行動特性、個人目標、運動の好みなどについて慎重に検討する必要があります。

運動の種類や形式・・・運動の種類は、望まれる結果が得られるように、楽しくて長期間持続できることをベースに選択します。

運動の強度・・・運動強度は心拍数と自覚的疲労度によって計算されます。最も一般的な評価尺度はボルグスケールで、6点(まったく疲れていない)から20点(最大限に疲れた状態)の点数で評価します。9点は「かなり楽である」運動で、これは健常成人がゆっくり歩く程度の運動に相当します。13点は「ややきつい」運動で、中等度の運動強度にあたり、そのまま運動を継続することは問題ない状態です。17点は「かなりきつい」運動で、健常成人ならば続けることはできますが、かなりがんばらないといけない状態です。ボルグスケールの目標値は、運動プログラムに基づいて設定します。例えば、中等度の運動強度の場合は目標値は12点から14点に設定します。

運動の期間(時間)・・・これは1回の運動セッションの長さのことで、連続して行う場合や1日何回かに分けて断続的に行う場合もあります。運動の頻度・・・これは1日あたり、1週間あたりの運動セッションの回数のことです。

運動の強化・・・時間経過とともに、頻度や強度、持続時間などを変更しその時の状態に適応した活動に変更することです。

 

参考文献