No. 108 脳卒中片麻痺患者にとってより効果的な立ち上がり訓練
毎日行っている病棟での立ち上がり訓練、回復期リハ病棟では多くのところで行われています。せっかくやるならより効果的な方法で行いましょう。今回紹介する論文は、脳卒中後の片麻痺のある患者さんを対象に、麻痺側の下肢機能がよりいっそう改善する立ち上がり訓練の方法について検証した論文です。
50名の脳卒中後片麻痺患者を25名ずつの2つのグループにランダムに振り分けました。ひとつは、足を左右対称な位置にして立ち上がるいわゆる普通の立ち上がり訓練を行うグループ(コントロール群です) 、もうひとつは、麻痺した足を反対の足より後ろに位置して立ち上がり訓練を行うグループ(介入群)です。
両方のグループは立ち上がり訓練を4週間中、1週間に5回、30分間行いました。そして4週間の立ち上がり訓練の前後で、立ち上がりにかかる時間や、左右の足に体重がかかった割合、姿勢の揺れ具合、バランス能力を計測し比較されました。
結果、立ち上がり訓練前と比較すると訓練後では2つのグループ両方ともに、立ち上がりの動きとバランスに有意な改善が見られました。 ところが、左右の足にバランスよく体重をかける能力は、コントロール群(平均変化0.06 ±0.05)よりも介入群(平均変化0.17 ±0.10)の方が有意な改善が見られました。さらに、バーグバランススコアはコントロール群(平均変化5.8±2.8)よりも介入群(平均変化8.4 ±3.1)において有意に高くなりました。
つまり、立ち上がり訓練をすれば、どちらの方法でも立ち上がりの動きなどに改善が見られましたが、足を左右対称な位置で立ち上がるよりも、麻痺した足を反対の足より後ろにして立ち上がり訓練を行った方が、バランスがより大きく改善したのです。
この二つの足の位置の違いがどのようか影響を及ぼすかについては、実際に自分で試してみらたわかるとおもいますが、左右対称の位置で立ち上がれば健常者であれば両方の足を均等に使って立ち上がります。しかし片麻痺患者では麻痺していない足の方に重心を傾けて立ち上がってしまいます。すると麻痺した足は立ち上がり動作にあまり関与しない状態になります。ところが、麻痺した足を後ろに引くと、後ろに引いた方の足を主に使って立ち上がらざるを得ない状態になるため、より麻痺側を鍛えることが出来たのです。
この方法は麻痺した上肢のリハではすでに取り入れられている概念で「強制使用( = CIM : Constraint Induced Movement ) 療法」という、強制的に麻痺している体を使わなければならない状況におく、という手法を下肢に応用したものと言えます。ちょっとした違いですが、的確な動作指導をするだけで運動の効果をより大きなものにすることができるのです。
Men Liu, et al. : Effects of modified sit-to-stand training on balance control in hemiplegic stroke patients: A randomized controlled trial.Clin Rehabil. 2015 Aug 27.