No. 116 脳卒中患者でのイメージトレーニングの効果

脳卒中患者でのイメージトレーニングの効果

イメージトレーニングは、プロスポーツ選手の間では普通にトレーニングに取り入れられています。イメージトレーニングが脳卒中後の上肢機能の改善にも有効かどうか検証した論文を紹介します。

 

Motor imagery training improves upper extremity performance in stroke patients 

Seong-Sik kim, Byoung-Hee Lee J. Phys. Ther. Sci. 27: 2289–2291, 2015.

 

脳卒中になった患者の85%には上肢の麻痺が残ると言われています。するとほとんどの人が日常生活動作を非麻痺側で行い麻痺側上肢を使用する頻度は減りさらに機能は低下してしまいます。反復練習をすることで神経ネットワークの可塑性により機能の改善がもたらされると言われていますが、はたして実際には上肢を動かさずに頭でイメージするだけでも有効なのでしょうか。

 

発症から6-12ヶ月経過した、MMSEの得点が24点よりも高くて、30分座れる24人の脳卒中患者を2つのグループに分けて実験を行っています。なお半側空間無視認知症、うつ、てんかんなどの重篤な認知機能障害、拘縮や関節可動域制限などの筋骨格系の障害のある患者は含まれていません。24人はランダムにイメージトレーニング(MI)とコントロールに振り分けられました。全ての患者に介入前後のFugl-Meyer Assessment上肢項目(FMA-UE)とWolf Motor Function Test (WMFT)を行いました。どちらのグループも1回30分の自主トレを週に3回、4週間実施し、さらにどちらのグループも従来の理学療法を1回30分、週5回、4週間受けました。

さらにMIグループは、コンピュータモニターとスピーカーを使用したMIプログラムに沿って、椅子に座った状態で課題を想像するという練習を行いました。課題の内容は以下の通り:コップから水を飲む、本のページをめくる、コードをコンセントに差し込む、両方の手を使って歯ブラシに歯磨き粉をつけて歯を磨く、箸とスプーンを分けて箱に入れる、タオルをたたむ、トイレットペーパーをちぎってたたむ、電話をかける、自分の財布にカードを入れる、電池を交換する、ジッパーを開閉する、ハサミを使う、スプレーボトルで水を噴霧する、蛇口のオンとオフを切り替える、正方形の気密容器を開閉する、瓶の蓋を開ける、靴紐を結ぶ、です。イメージの仕方は、非麻痺側で普段行っているところを、外からの視点で見ているように想像するというものです。ちゃんとやっているか確認するために、運動中に5分ごとに関連する質問をしたそうです。30分のセッションのうちMIを20分実施後10分間は理学療法を受けました。

 

結果、MIでは平均FMA-UEスコアは介入前後で27.92から36.08に変化しました(p <0.05)。またコントロールでも、28.58から31.00に変化しましたが、介入前後のFMA-UE改善には2群間で有意な差がありました(p <0.05)。MIではWMFTの平均スコアは、介入前後で44.75から51.00に変化し(p <0.05)。コントロールでも35.08から40.17に変化しました。2群間で介入前後のWMFT改善には有意差はありませんでした(Table 1)。

 

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イメージトレーニングでは実際に動作した時と同じ脳の領域と筋肉に活動を誘導することが知られています。この研究では、脳卒中後の運動機能の改善にも有効であるという結果が示されました。筆者は、身近な動きを繰り返しイメージして、さらにその後の10分でセラピストと一緒に動きを模倣する、という形をとったことが良かったのではないかと述べています。他の研究では、他人が歩いているところを観察した後に歩行練習をすると歩行能力がより向上した、という報告もあります。これらの結果は、脳卒中の治療対象はあくまでも「脳」である、という事実を再認識させてくれます。