No. 114 反復練習が脳卒中後の筋力におよぼす影響

反復練習が脳卒中後の筋力におよぼす影響

 

脳卒中によって麻痺が起こると手足が動かしづらくなります。その麻痺がどの程度の麻痺かを表現する方法として、複雑な動きがどの程度できるのかという観点から点数をつける評価方法と、単純に筋力で評価するという方法があります。脳卒中による麻痺の場合「筋力がただ単に強くても、思い通りに動かなければ意味がないので、筋力での評価は無意味である」とかつては思われていました。しかしNo. 110でも紹介したように、脳卒中患者でも筋トレをすることで、痙性を増悪させることなく筋力は増え、活動が広がることが示され、脳卒中後の筋力増強訓練への注目が高まりました。

 

No. 110で紹介した論文では筋トレ、とくに「漸増抵抗運動」が最も有効であると述べられていますが、実際に脳卒中後の患者さんでは筋トレは十分にはできないことがほとんどです。そのような中で、今回紹介する論文は「反復運動」が脳卒中後の患者さんの筋力増強に有効かどうかを調べたメタアナリシスです

 

Sousa, Davide G de, Lisa A Harvey, Simone Dorsch, Joanne V Glinsky.  Interventions Involving Repetitive Practice Improve Strength after Stroke: A Systematic Review. Journal of Physiotherapy 64, no. 4 (2018,10): 210–21.

 

脳卒中後の患者さんの麻痺した上下肢の筋力は同年代の人の30-50%になるそうです。この筋力低下によって深刻な活動と参加の制限を来します。漸増抵抗運動は筋トレに一般的に使用されますが、脳卒中後の患者の筋力を改善するためにも使用することができます。ただし、漸増抵抗運動は高負荷低頻度、つまり812回繰り返し行うことができる程度の負荷をかけた運動を、徐々に負荷を上げつつ少なくとも2セット行う、というようなやりかたをします。この手法はいまのところ、脳卒中後の患者さんにはあまり用いられていませんし、ガイドラインでも推奨されていません。というのは、漸増抵抗運動は、筋力が非常に弱い人、すなわち麻痺のある人では、単純に行いにくいという理由からです。これとは対照的に「反復練習」は筋力の弱い人でも行うことができます。

 

この論文で用いられている「反復練習」には以下のものが含まれています:課題指向型訓練、機能的電気刺激(FES)もしくはFESと自動運動の併用、ロボットアシストリハ、CIM療法、ボバース法、サイクリング、 補助装置(SMART Arm & SAEBO)を使ったもの、ビデオゲームwhole body vibrationと自動運動の組み合わせ、ミラーセラピー、水中運動療法です。要するに世の中の脳卒中リハビリテーションで日々「反復して行なっている練習」すべてです。「反復練習」は活動の制限を減らすのに効果的であることは知られており、これを確認する多くの系統的レビューがあります。 しかしながら「反復練習」が脳卒中後の筋力に及ぼす影響については系統的レビューは今まで行われてきませんでした。リハの世界では「こんなの考えたら当たり前じゃん」で終わってしまい文献的な考察がなされていない分野がまだまだたくさんあります。

 

このメタアナリシスでは最終的に52の研究が採用されました。患者の平均年齢は4779才で、脳卒中発症後の平均期間は6日~8年で、52の研究中28脳卒中6ヶ月以上経過した人を対象としていました。結果として、「反復練習」によって、筋力の向上がみられていました。どの程度の効果があったかというと、上肢では握力が平均で1.28kg増加し、下肢では膝伸展筋力が5.75Nm増えていました。これは、介入前と比較すると上肢では15%増加、下肢では28%増加したことを表しています。この値を意味があるとするかどうかは疑問の残るところです。すくなくとも「反復練習」は筋力の面では上肢(握力)よりも下肢(膝伸展)においてより有効そうです。ただし漸増抵抗運動をした場合の筋力の増強の割合は98%、電気刺激療法でも47%という報告がありますので、ただ単に数字を比べると、がっかりな結果です。しかし、だからといってこの二つの方法の方が「反復練習」よりも筋力をより改善すると結論づけることはできないと、筆者は述べています。というのは、漸増抵抗運動の対象者は筋力の弱い患者を除外しているため今回の研究とは対象患者が異なり、決定的なことを言うにはランダム比較試験でガチンコ勝負をする必要があるからです。

 

この論文から言えることを要約すると「脳卒中後のリハでも筋トレは重要だけど、筋トレが出来そうにもない人に無理して行わなくても、基本動作の反復練習を続けていればそれなりの筋力はついてくる」といったところかと思われます。