ミニレクチャー No. 80 高齢者の高血圧

高齢者の高血圧

 

年をとるとともに血圧は高くなります。また、血圧の変動もしやすくなり、起立性低血圧や食後低血圧などが起こりやすくなります。ただ単に高いから降圧薬で下げることだけを考えていると、ふらつき、転倒・骨折を起こしてしまい、結果として治療しない場合よりも全体としてよくない結果になることがあります。

*起立性低血圧とは、起立時に収縮期血圧が20mmHg以上かつ/または拡張期血圧10mmHg以上の低下を起こす状態です。食後血圧低下は、食後1~2時間以内に血圧が低下する病態です。 

高血圧の治療は、生活習慣の改善が第一です。回復期リハ病棟での生活は、定期的な運動をして、健康的な食事が提供され、間食もないという、血圧治療においては理想的な生活です。なのでむしろ今まで飲んでいた降圧薬では血圧が低下しすぎるために薬を減らしたり、終了したりする必要があることが多々あります。

また降圧薬にも何種類かありますが、それぞれ推奨される状況(表1参照)や、副作用が異なるため注意が必要です。利尿薬では電解質異常や脱水、カルシウムブロッカーでは下腿浮腫や頻尿、α遮断薬では起立性低血圧が比較的多くみらます。β遮断薬はふらつきや眠気、意欲の低下などを起こすことがあります。

ガイドラインでは、高血圧患者の降圧目標は、65~74歳では140/90 mmHg未満、75歳以上では150/90 mmHg未満とされています。ただし心筋梗塞やタンパク尿陽性の慢性腎臓病、抗血栓薬服用中、ラクナ梗塞・脳出血くも膜下出血の既往、糖尿病のある人では、130/80 mmHg未満を目指すことが推奨されています。

しかし、これらの推奨を決めるための研究では、健康状態の比較的良い高齢者が対象とされているため、入院中の患者さんや、6m歩けない人、介護施設入所者、認知症患者、終末期にある患者さんでは、厳密にこの推奨に従うことが本当に有益であるかどうかはわかっていません。むしろ、この基準で血圧が正常の人の方が、高血圧の人よりも予後が悪かったという報告もあるくらいです。なので最終的には、その人の状況に応じて個別に対応する必要があります。

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参考

山本浩一 楽木宏美:高血圧診療スダンダードUp to Date, 総合診療Vol.28 No.8, 1048-1052.