ミニレクチャー No. 48 高齢者の認知機能低下について

高齢者の認知機能低下について

 

回復期リハ病棟に入院する高齢の患者さんの多くに、入院の原因となった病気に加えて認知機能の低下があります。元々の病気よりもむしろ、この認知機能低下の方が、リハの成果や入院生活に影響していることも少なくありません。認知機能低下の原因も様々ですが、一番多いのは「認知症」という診断名の病気です。認知症厚生労働省の統計によると、2012年の段階で462万人(65歳以上の15%)で、2025年には700万人に達するそうです。

 

認知症のなかでよく知られたものとしては、「アルツハイマー認知症」「血管性認知症」「レビー小体型認知症」「前頭側頭型認知症」などがあります。最も多いとされているのが、アルツハイマー認知症で、認知症過半数を占めます。最も、抗認知症薬の保険適応がアルツハイマー認知症しかないものが多いので、とりあえず薬を処方するためにつけられた診断名として多くなった可能性もありますが。

 

認知症の症状は、記憶障害や認知機能障害などの「中核症状」と、厳格、妄想などの精神症状や、徘徊や暴力などの行動異常といった「周辺症状」に分けられます(ちなみに、「徘徊」ということばも最近は使わない方が良いという意見も出ています。かつて「痴呆」が「認知症」に変わった様に)。周辺症状、正確には「認知症の行動・心理症状Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia:BPSD」ですが、認知症患者のうち80%にみられます。

 

認知症薬は複数存在しますが、どの薬も認知症を改善することも、悪化の進行を止めることもできません。少しだけ認知症の悪化のスピードをゆっくりにすることができると言われています。フランスでは今年の8月から抗認知症薬4つ(ドネペジル、ガランタミン、リバスチグミン、メマンチン)が、副作用の割に効果が高くなく、有効性が不十分だと判断され保険適応外になるそうです。

 

日本では抗認知症薬の処方量が諸外国よりも多い傾向にあります。加齢と共に得られるメリットは次第に小さくなり、副作用ばかりが前面に出てしまうことも少なくありません。副作用としては吐き気やめまいなどが多く、薬を止めたら元気になった、なんてこともあります。できることなら薬ではない方法で、認知症の進行を緩やかにして、BPSDを減らせるようにしたいものです。

 

7月4日の朝日新聞認知症の特集がありました。その中で紹介されているランセット(イギリスの超有名医学雑誌)に掲載された「認知症の3分の1は予防できるかもしれない」という内容の論文によると、青年期の教育機会の不足、中年期の高血圧、肥満、聴力低下、高齢期の喫煙、抑うつ、運動不足、社会的孤立、糖尿病、の9つの要因を取り除けば最大で35%認知症を減らせる可能性があるとのことです。すでに認知症と診断されている場合でもこれらの要因を減らすことで、進行を緩やかにすることができるかもしれません。