ミニレクチャー No. 101 慢性硬膜下血腫は手術すべき?

慢性硬膜下血腫は手術すべき?

 

慢性硬膜下血腫は転倒して頭を打つなどの出来事からしばらくして(通常1~2ヶ月後)、頭蓋骨の下にある脳を覆っている硬膜と脳との隙間に血腫がたまる病気です。脳と硬膜をつなぐ静脈が破けることにより、髄液と血液の混ざった貯留液が徐々に被膜を形成しつつ血腫として成長するとされています。好発部位は前頭、側頭、頭頂部で、右か左かのどちらかのことが多いのですが、時には両側性(約10%)にみられます。

 

高齢男性に多く見られ、危険因子として1)多量飲酒、2)脳萎縮、3)出血傾向あり(脳梗塞予防の薬を飲んでいるなど)、4)水頭症に対するシャント術後、5)透析、6)癌が硬膜に転移している場合、などがあります。

 

血腫が脳を圧迫することで、頭痛、片麻痺、認知機能低下などの症状があらわれます。症状は年代によってかなり差がみられ、若年者では主に頭痛・嘔吐を中心とした頭蓋内庄亢進症状片麻痺失語症を中心とした局所神経症がみられます。一方、高齢者ではもともと脳萎縮があることにより頭蓋内圧亢進症状は少なく、認知症、失禁、片麻痺などが主な症状です。認知機能低下だけで発症する慢性硬膜下血腫もあり、比較的急激に発症した認知症が見られた場合には慢性硬膜下血腫を疑うことも重要です。なぜなら、この認知症は治療可能だからです。

 

治療は、症状があれば基本的に穿頭洗浄ドレナージ術などの手術の適応ですが、自然吸収されて消えることもあり、頭痛や神経症状などが強くない症例では保存的治療もありえます。また術後の再発も7-20%程度の確率でみられます。

 

実は慢性硬膜下血腫ははっきりしないことが多い疾患で、どの様な人は手術をした方がよくて、どんな人が手術なしの保存療法でも改善するのか、わかっていません。以下のMGSスコアの0-2点の患者は保存療法が有効かもしれないとされていますが、片麻痺が出ていて保存療法でみるのは不安なきがしますがどうでしょう?保存療法の場合に用いる治療の効果も確固たるエビデンスのあるものはなく、本邦では漢方薬の五苓散の効果が注目されています。トラネキサム酸やステロイド、マンニトール、ACE阻害薬、アトルバスタチンなどが検証されていますが、いずれも副作用もあるため、どうせ効果が曖昧なら副作用のない五苓散で良いか、という感じでしょうか。

 

MGSスコア

0 神経学的異常初見なし

1 意識清明見当識は保たれているが、頭痛や軽度の神経学的異常所見(腱反射の左右差など)がある

2 傾眠や見当識障害あり、片麻痺のような明らかな神経学的異常所見がある

3 昏迷状態であるが、痛み刺激には反応あり

4 昏睡状態で痛み刺激にも反応なし、除脳硬直もしくは除皮質硬直あり

 

参考文献

Soleman J, Nocera F, Mariani L.  The Conservative and Pharmacological Management of Chronic Subdural Haematoma. Swiss Medical Weekly 147 (2017): w14398. https://doi.org/10.4414/smw.2017.14398.