ミニレクチャー No. 84 感染対策: 疥癬について

感染対策: 疥癬について

 

疥癬(かいせん)とはヒトヒゼンダニが皮膚の角質層に寄生する感染症です。激しいかゆみと体幹・四肢の丘疹・掻爬痕が特徴です。疥癬には「通常疥癬」と「角化型疥癬」の2つがあります。寄生するダニは同じものですが、寄生している数が違います。通常疥癬では数十匹以下とされていますが、角化型疥癬では100~200万匹、時には500万匹にもなり、直接接触の他にも、患者さんから落ちたアカが周囲に飛び散ることでも感染が起こります。

 

通常疥癬では、感染後約1ヶ月の無症状の潜伏期間を経て発症し、痒みが強く夜間に増強するのが特徴です。皮疹は3種類あります。

  • 紅斑性小丘疹:胸腹部や大腿内側、上腕や前腕の屈側、腋窩に好発します
  • 小豆大赤褐色の小結節:外陰部、腋窩、肘頭に好発します
  • 疥癬トンネル:長さ数mmの皮疹で、手関節から末梢の指間、指側面、手掌、腋窩、臀部に好発します。疥癬に特徴的な所見です

通常は頭頚部には発症しません。

 

角化型疥癬は、老衰、重症感染症、悪性腫瘍などがあり免疫が低下している人に発症します。特徴は角質の増殖で、黄白色の鱗屑が蛎殻のように厚く付きます。好発部位は体幹・四肢の関節背部や骨の突出部で、頭頚部にも発症します。痒みはまったくない場合もあります。

 

治療は外用薬と内服があります。外用薬(フェノトリン、クロタミトンなど)は、通常疥癬では頚部以下の全身、皮疹の無いところも全てに塗布します。とくに指間部、外陰部、臀部を塗り残さないようにします。角化型疥癬患者では顔面、頭部も含めて全身に塗布します。ダニは角質の中に寄生していますので角質をしっかり落とすことが大切です。フェノトリンローションを全身に外用し、その上に肥厚した角質層や痂皮を軟化・除去するためにサリチル酸含有ワセリンや亜鉛華軟膏を外用し、密封療法を行います。柔らかくなった角質は、入浴などでふやかし、ブラシなどを用いて除去します。皮膚の処置はフェノトリンローション外用日以外の日にも毎日行います。爪疥癬の有無も必ずチェックします。

 

内服薬はイベルメクチンというもともとは寄生虫に対する薬を内服します。副作用として悪心・嘔吐や白血球減少、肝機能障害があることがあり内服前と内服5-7日後に血液検査を行います。他に重大な副作用として、中毒性表皮壊死症があります。

 

感染対策は、通常疥癬では隔離不要で一般の感染症と同様の対策で良いですが、角化型疥癬では、個室隔離し治療を行います。診療症状が改善し治療を終了した後も、数ヶ月再発しないかどうかフォローします。

 

参考

大湾 知子:もっといい方法がみつかる 目からウロコの感染対策, 南江堂, 2012.

疥癬診療ガイドライン(第3版):日本皮膚科学会ガイドライン, 2015.