ミニレクチャー No. 85 運動療法 その1:筋力増強訓練

運動療法 その1:筋力増強訓練

 

リハビリテーションの中心となる治療は何と言っても運動療法です。その中でも特に筋力増強訓練、いわゆる「筋トレ」はどのような疾患の患者さんにとっても必要です。筋トレと聞くと、スポーツジムの様なところでダンベルやバーベルなどの重いものを持ち上げる運動を想像するかもしれません。そんな運動、高齢で病気のある人にさせる必要なんかないのでは?と思うかもしれません。

 

もちろん寝たきりの高齢者をスポーツジムに連れて行く必要はありません。筋力を増強させ、筋が肥大するためには、最大筋力の35%を超える収縮が必要になります。20~35%の筋収縮では筋は維持され、それ以下の筋力しか使ってないと筋萎縮が起こります。ですので長く寝たきり状態にあり、筋萎縮で最大筋力がわずかしかない患者さんにとっては、日常生活の中の動作をこなすだけでも十分な筋トレになっているのです。その人の筋力に応じた負荷をかければよいのです。

 

「訓練」というと、なにか特殊な場所と特別な器具を用いて、特別なことをするような印象を受けるかもしれませんが、そんなことはありません。リハに関わる人の中には「訓練」という言葉がもつこのような印象が、リハへの誤解に繋がると考え「訓練」という言葉を使わない方が良いと主張する人もいます。ただ、代わりの言い方が「トレーニング」とか「エクササイズ」とか横文字くらいしかないので、高齢の患者さん相手には結局「訓練」の方が理解しやすかったりします。ちなみに高齢者の少なからずの方が「リハビリ」というと、マッサージと温熱・電気療法など(物理療法といいます)と思っています。

 

十分な量の筋トレを続けていると2週間くらいで筋力がアップします。しかしこの段階では筋が太くなっているわけではなく、今まで使われてなかった筋線維が使われるようになったことで筋力が増えただけで、筋トレをやめるとまたすぐに元に戻ります。さらに筋トレを続けて3週間を超えた頃から筋の肥大が起こります。

 

筋トレをして筋力がついてムキムキになっても、それが日常生活動作能力に結びつかなければ意味がありません。なので、それぞれの患者さんが獲得したい動作に必要な場所の筋を鍛える必要があります。獲得したい動作を筋トレに取り入れることが重要です。立ち上がりや歩行が上手になりたければ、下半身の筋トレに重点を置く必要があります。

 

最近は、多くの回復期リハ病院で、病棟での集団訓練として、毎日立ち座り訓練を行っているところが増えました。椅子や車椅子からの立ち上がり・座り動作を100回以上実施していることが多いです。反復訓練が必要です。もちろん無理をしすぎると腱や靭帯を痛めたり、筋肉痛が発生することがあります。どの程度の負荷と回数がそれぞれの患者さんにとって最適か評価して、多すぎず少なすぎない、筋トレを行うようにしましょう。

 

参考

久保 俊一 総編集:リハビリテーション医学・医療  コアテキスト, 日本リハビリテーション医学会 監修, 医学書院, 2018.