ミニレクチャー No. 22 回復期リハ病棟での感染対策はどうすればよいか?

回復期リハ病棟での感染対策はどうすればよいか?

 

感染症が広がるには感染経路が必要です。逆に感染経路を遮断できれば、感染症が広がることはありません。最も確実な方法は感染患者を隔離することです。しかし、隔離し行動範囲を制限することは人権上の問題があり、最小限にする必要があります。そのためには感染症に対する正確な知識が必要です。過去にはハンセン病の患者が必要のない隔離策をとられ続けてたという悲しい歴史があります。

的確な感染経路の遮断のためには、どの様な微生物が、どんな感染経路で伝播するのか知ることが必要です。感染経路には大きく分けて、「空気感染」「飛沫感染」「接触感染」があります。空気感染をする感染症は、結核(の一部)、麻疹、水痘で、同じ空間にいるだけで感染する可能性があり、これらの患者(特に感染力のある結核)は(陰圧管理の)個室隔離の必要があります。

飛沫感染をするのはインフルエンザ、百日咳、流行性耳下腺炎マイコプラズマ肺炎髄膜炎菌肺炎、風疹などです。飛沫感染の場合も個室隔離がのぞましいです。同一感染者は集団隔離も可能です。難しい場合は他の患者さんとの距離を1m以上空け、カーテンなどで障壁を設けます。

接触感染をおこす感染症は、多くの薬剤耐性菌、クロストリジウム・ディフィシル、ロタやノロウィルスによる感染性腸炎(ただし吐物などを的確に処理しない場合、気化した飛沫核が浮遊し感染することもある)、疥癬流行性角結膜炎などです。接触感染の場合は、周囲の人や環境を汚染する可能性が高い時(例えば感染性腸炎でひどい下痢で便失禁が多い)には、可能な限り個室隔離や集団隔離を行います。

「感染経路対策」も重要ですが、もっと重要なのは「標準予防策」です。つまり「すべての患者は感染源が潜んでいる可能性がある」という前提でいつも「標準的に」行う対策です。その中身は、患者さんに接する前と後の手洗い(No.12も参照)と、必要な時に必要な個人用防護具(手袋やマスクやガウンなど)を使用することです。これらの基礎ができていなれば、その上に行われる感染経路対策は何の意味もありません。たとえ患者さんを隔離しても、我々医療スタッフは患者さんに接触します。スタッフの仲介という感染経路を確実に遮断することが最も重要です。

回復期リハ病棟は、患者さんとの密な接触が多く、標準予防策の徹底は特に重要です。個室隔離の患者でも、的確な標準予防策をとりつつリハを行い、廃用症候群を予防することが必要です。感染拡大が怖いから隔離してリハをしない、などという偏った判断ではなく、正確な知識と技術によって、感染対策をしつつ最大限の効果をあげてこそ「回復期リハ病棟」=「リハ専門の病棟」と言えるのではないでしょうか。