高齢者総合機能評価
Up to Dateという様々なトピックについて最新の論文をもとにまとめたサイトの高齢者総合機能評価の項のほぼ全訳です。
はじめに
高齢者の機能障害や認知症は、ともすると見逃され十分な対処がなされないことが少なくありません。しっかり評価して状態を把握すれば、今後起こりうる合併症を防いだり、発症を遅らせることができるかもしれません。
「老年症候群」ということばは、高齢者によくみられる健康上の諸問題をさすことばですが、臓器別に細分された疾患概念にはうまくフィットしません。というのは、老年症候群の原因はひとつではないからです。老年症候群の症状には、認知機能障害、せん妄、失禁、低栄養、転倒、歩行障害、褥瘡、睡眠障害、感覚障害、疲労、めまいなどが含まれます。これらは高齢者にはよくある症状で、患者のQOLや機能障害に大きな影響を与えます。
「高齢者評価」ということばは診断的な過程のことを言っていますが、しばしば評価とマネジメントの両方を含む意味でも用いられます。また「高齢者評価」はひとりの臨床医(通常はプライマリケア医や老年医学の専門家)による評価のことを指すことばとして用いられる一方で、専門的な多岐にわたるプログラム(CGA:comprehensive geriatric assessment)をさすことばとしても用いられています。
背景
高齢者総合機能評価(CGA)とは、虚弱高齢者を評価して、医学的、心理社会学的、機能的な問題を同定することで、健康状態を全体として最大化するための計画を作成する診断と治療プロセスです。高齢者のヘルスケアは、疾患だけをみて医学的管理をする従来のプロセスでは十分でありません。様々な問題に対する評価が必要で、例えば、身体機能、認知機能、情緒機能、社会的役割、経済問題、環境因子、そしてスピリチュアルな要素などが高齢者の健康に影響を及ぼしています。CGAは、専門家チームが虚弱高齢者の体系的な評価を行い、治療可能な健康問題をみつけることで、よりよい健康状態につながる可能性がある、という前提に基づいています。
CGAの評価内容は、セッティング(在宅、診療所、病院、介護施設)によって様々です。またCGAは、評価に必要な時間の問題や、他職種の調整の問題、および一部の分野(例:外来のソーシャルワーク、薬剤、栄養)に対する診療報酬がないという問題のため、すべてのセッティングで利用できるわけではありません。
CGAの適応
CGAを有効に利用するためには、適切な患者に対して行う必要があります。とても健康な人や、あまりに重病な人は対象から除外する必要があります。CGAの適応を簡単に見分ける基準は今のところありません。CGAの適応かどうかは、以下の患者特性から判断されます:
外来でのアプローチ方法のひとつは、スクリーニング検査で複数の領域に問題があることが判明した患者に対してCGAを行う、というものです。大きな病気(例えば、医学的および機能的ニーズを管理するために入院や在宅医療資源の増加を必要とするような病気)では、特に機能的状態、転倒リスク、認知問題、および気分障害の把握のためにもCGAを行うべきです。
入院患者の場合のアプローチ方法のひとつとしては、特定の問題(骨折、老衰、繰り返す肺炎、褥瘡)で入院した患者に対してCGAを行う、というものです。もうひとつの方法としては、ある年齢(85歳など)より上の入院患者、もしくは再入院を予測する評価法で引っかかる患者全員に対してCGAを行うかどうか判断するためのスクリーニングをするというものです。
ほとんどの外来CGAプログラムでは、終末期の状態、重度の認知症、完全な介護状態、および介護施設入所者などの、恩恵を受ける可能性が低い患者は除外されます。ただし、これらの患者の一部(たとえば、重度の認知症患者)は、評価にあわせて継続的なケアを行う場合、介護者の能力を高めることでメリットがある可能性があります。除外基準には、医学的併存症がなく完全に機能自立している人など、健康すぎて利益を得られない高齢者を特定することも含まれています。
評価チーム
どのような職種が評価チームに加わるかは、それぞれのCGAプログラムで提供されるサービスによって決まってきます。多くの場合は、臨床医、看護師、ソーシャルワーカーで構成されるコアチームで構成され、必要に応じて、理学療法士、作業療法士、栄養士、薬剤師、精神科医、心理士、歯科医、聴覚訓練士、足治療師、眼鏡技師などが加わります。これらの専門家は通常、病院のスタッフであり、在宅医療でも利用可能ですが、これらのサービスへのアクセスと補償によってはCGAプログラムの利用が制限されます。ここ最近のCGAプログラムは「バーチャルチーム」に移行しており、メンバーは必要に応じて参加し、評価は、異なる場所、異なる日に行われ、チームのコミュニケーションは電話や電子カルテを通じて行われます。
従来、評価の各項目は、チームのさまざまなメンバーによって行われました。医学的評価は、医師や看護師などによって行われます。コアチーム(医師、看護師、ソーシャルワーカー)は、いくつかの側面について、簡単な初期評価またはスクリーニングのみを実行します。そしてその後、必要な項目について専門家によるより詳細な評価を行います。例えば、栄養士は食事摂取量を評価して、より良い栄養メニューをおすすめする必要があるかもしれません。また聴覚訓練士は難聴のより広範な評価を実施し、補聴器を評価する必要があるかもしれません。
評価の実際
枠組み ― CGAには、評価チームメンバー間で共有するケアプロセスが含まれています。 CGAチームによる全体的なケアは、6つのステップに分けられます:
-
データ収集
-
チーム間での話し合い(患者や介護者をチームメンバーに含めることが増えている)
-
患者や介護者との治療計画の開発
-
治療計画の実施
-
治療計画に対する反応のモニタリング
-
治療計画の見直し
これらの各ステップは、健康と機能上の最大の成果を達成するために不可欠です。CGAのいくつかのモデルが、さまざまな医療のセッティングで実行されています。初期のCGAプログラムは機能回復(つまり3次予防)に焦点を当てていましたが、最近のプログラムは1次および2次予防を目的としています。
評価ツール ― 拾い上げるべき重要な情報の量は膨大に見えるかもしれませんが、きちんとした評価ツールとショートカットの方法を用いることで、CGAを開始する負担を軽減できます。例えば初期評価の前に、患者または介護者に訪問前アンケートを送付することで、大量の情報を収集するための時間節約になります(表1)。
表1 虚弱高齢者のスクリーニング評価のための質問と簡易テスト
質問 | 選択肢 | |
身体機能 | ||
日常生活動作(ADL) | 入浴、更衣、排泄動作、移乗、排泄管理、食事 | 介助なしで可能可能であるが困難を伴う介助なしでは出来ない |
手段的日常生活動作(IADL) | 電話をかける、買い物、料理、掃除、洗濯、公共交通機関の利用または運転、服薬管理、金銭管理 | 介助なしで可能介助なしでは出来ない |
視力障害 | 眼鏡をかけても、視力のために、運転、テレビの視聴、読書、または日常の動作で難しいことがありますか? | 「はい」ならスクリーニング陽性 |
聴力障害 | 70歳以上ですか? | 1点 |
男性ですか? | 1点 | |
学歴は12年未満ですか? | 1点 | |
聴覚の問題で病院を受診したことがありますか? | 2点 | |
補聴器がなくても、部屋の反対側からささやく人の声を、顔を見ずに聞いて理解できますか? | 「いいえ」なら、1点 | |
補聴器がなくても、部屋の反対側から普通の声で話している人の声を、顔を見ずに聞いて理解できますか? | 「いいえ」なら、2点 | |
3点以上なら:スクリーニング陽性 | ||
尿失禁 | 尿失禁があり、できるのなら治療したいほど面倒ですか? | 「はい」ならスクリーニング陽性 |
栄養不良 | この1年間で体重が減少しましたか? | 5%以上の体重減少があればスクリーニング陽性 |
歩行、バランス、転倒 | この1年間で2回以上転倒しましたか? | 「はい」ならスクリーニング陽性 |
前回の病院受診後に転倒してけがをしましたか? | 「はい」ならスクリーニング陽性 | |
バランスや歩行の問題のために転倒することに恐怖を感じたことがありますか? | 「はい」ならスクリーニング陽性 | |
うつ | この2週間に、どれほどの頻度で次のことに悩まされましたか?・何をしても興味や楽しみがわかない・落ち込み、抑うつ、不幸な気分がする | それぞれ以下の点数:0: 全くない1: 数日2: 半分の日3: ほぼ毎日計3点以上でスクリーニング陽性 |
認知機能の問題 | 3つの物の遅延再生 | 1つしか思い出せない場合スクリーニング陽性 |
時計描画テスト | 次の間違いのいずれかがあればスクリーニング陽性:時間が違う、針がない、数字が間違っている、拒否がある | |
環境の問題 | Home safety checklists |
このようなアンケートは、一般的な履歴(既往歴、投薬、社会歴、系統的レビュー)に関する情報を収集するために使用できるほか、次のようなCGAに固有の情報を収集するためにも使用できます:
- 機能的な課題を実行する能力と介助の必要性
- 転倒歴
- 尿失禁および便失禁
- 痛み
- 社会的支援の資源、特に家族や友人
- うつ症状
- 視覚または聴覚障害
- 患者がヘルスケアに対してキーパーソンを指定しているかどうか
主な構成要素
CGAの評価項目に必須の項目は以下のようなものです:
●身体機能
●転倒リスク
●認知機能
●気分状態
●ポリファーマシー
●社会的サポート
●経済的問題
●ケアの目標
●終末期ケアの意向
以下の項目についても含まれていると良い:
●栄養状態/体重の変化
●排尿管理
●性機能
●視力/聴力
●歯の状態
●家屋状況
●信仰
身体機能 ― 身体機能とは、日常生活で必要とされる活動を行う能力を指します。高齢者では身体機能は健康状態の影響を直接受けます。身体機能の変化(例えば、ひとりで入浴できなくなった、など)は、さらなる評価と介入が必要となったことを示します。身体機能評価は、治療効果のモニタリングに役立つ可能性があり、予後を予測して長期的なケアの計画に役立つ情報を提供してくれます。
日常生活動作 ― 高齢者の身体機能は3つのレベルで評価します。日常生活の基本的な動作(BADL)、日常生活の手段的または中間的な動作(IADL)、および日常生活の高度な動作(AADL)です。
BADLとは、次のようなセルフケア課題を指します:
●入浴
●更衣
●排泄動作
●排泄管理
●整容
●食事
●移乗
IADLは自宅生活を維持するための能力を指し以下のものが含まれます:
●日用品の買い物
●自動車運転または公共交通機関の利用
●電話
●家事
●掃除
●料理
●洗濯
●服薬管理
●金銭管理
その他のIADLには、テクノロジーへの依存度が増えたことによる以下の項目があります:
●携帯電話やスマートフォンを使う能力
●インターネットを使う能力
●スケジュール管理能力
AADLは人によってかなり異なり、社会的、地域的、家族的役割に関わる能力が含まれます。
それぞれのレベルの身体機能を評価するための評価スケールが開発されています。 Vulnerable Elders Scale-13 (VES-13)は13項目からなる評価ツールで、年齢、自己採点による健康、身体機能に関する項目からなります。5年以内の機能低下または死亡のリスクが高い在宅高齢者を特定することができます(表2)。
表2. Vulnerable Elders Survey (VES) 13 scale
項目 | 得点 |
年齢 | |
75-85 | 1 |
>85 | 3 |
健康状態の自己評価 | |
良い、とても良い、大変良い | 0 |
ふつう、悪い | 1 |
ADLとIADL | |
以下のことに介助が必要 | |
入浴やシャワー | 1 |
買い物 | 1 |
金銭管理 | 1 |
移乗 | 1 |
簡単な家事 | 1 |
以下の動作が困難 | |
ひざまずく、しゃがむ、かがむ | 1 |
家事動作(例:床をふく) | 1 |
腕をまっすぐ伸ばして肩よりも高く挙げる | 1 |
10ポンド(4.5kg)のものを持ち上げて運ぶ | 1 |
0.25マイル(400m)歩く | 1 |
字を書く、または小さなものを取り扱う | 1 |
得点 ≥3:脆弱な高齢者
特定のBADLやIADL機能について尋ねる質問は、様々なQOL評価表に含まれています。よく用いられるものに、ADL評価表のKatz index(表3)とIADL評価表のLawton scale(表4)があります。
表3. Katz index
活動 | 自立 | 介助 |
得点 (1か0) | 1点:見守りも誘導も介助も不要 | 0点:見守りや誘導や介助が必要 |
入浴 | 入浴自立、一部の清拭(背中や陰部、麻痺側)にのみ介助が必要でも良い | 一部分以上の清拭に介助が必要、または浴槽の出入りやシャワーの使用に介助が必要 |
更衣 | クローゼットや引き出しから洋服を取り出し、ファスナー付きの洋服や上着を着用できる。靴ひもを結ぶ介助はあっても良い | 更衣動作に介助が必要 |
トイレ | トイレへ行き、服の上げ下げが出来、院部をふくことが介助なしで出来る | トイレ移乗や尿器の使用などに介助が必要 |
移乗 | 移乗動作に介助がいらない。道具の使用は良い | 移乗動作に介助が必要 |
排泄管理 | 排尿と排便の完全な管理ができる | 尿失禁や便失禁がある |
食事 | 食事を皿から口まで自分で運ぶことができる。食事の準備は含まれない | 食事摂取に介助が必要、または非経口摂取が必要 |
合計点:_____ |
6点: 自立、0点: 重度介助
表4. Lawton instrumental activities of daily living scale
活動 | 得点 |
電話の使用 | |
1. 自分から電話をかける;番号を検索してかけることができる | 1 |
2. いくつかのよく知っている番号にはかけることができる | 1 |
3. 電話をとることはできるが、かけることができない | 1 |
4. まったく電話を使用できない | 0 |
買い物 | |
1. 全ての買い物を自分でできる | 1 |
2. 小額の買い物は自分でできる | 0 |
3. 買い物には付き添いが必要 | 0 |
4. 全く買い物ができない | 0 |
食事の準備 | |
1. 自身で計画して食事の準備ができる | 1 |
2. 材料があれば準備はできる | 0 |
3. 準備されたものを温めることができる、または準備はできるが食事内容が不適切である | 0 |
4. 食事の準備をしてもらう必要がある | 0 |
家事 | |
1. 自身で家事ができる、ただし重労働は時に手伝ってもらう | 1 |
2. 皿洗いやベッドメイキングなどの軽い家事は自分でできる | 1 |
3. 軽い家事はできるが、許容可能な清潔さを保てない | 1 |
4. 全ての家事に介助が必要 | 1 |
5. 家事に全く関わらない | 0 |
洗濯 | |
1. 自分の洗濯はできる | 1 |
2. 靴下などの小さなものすすぎなど簡単な洗濯はできる | 1 |
3. 洗濯は全て他の人にしてもらう | 0 |
乗り物の利用 | |
1. ひとりで公共交通機関で移動したり、自動車を運転できる | 1 |
2. ひとりでタクシーを利用できるが、他の公共交通機関は利用しない | 1 |
3. 付き添いがいれば公共交通機関を利用できる | 1 |
4. 付き添い付きでタクシーや自動車にのることができる | 0 |
5. 全く利用しない | 0 |
服薬管理 | |
1. 適切な量を適切な時間に服薬できる | 1 |
2. 前もって分けて準備されていれば適切に服薬できる | 0 |
3. 自身では管理できない | 0 |
金銭管理 | |
1. 自身で金銭管理ができる(予算をたてる、ローンの支払い、銀行へ行く);生計を立てる | 1 |
2. 日々の支払いは管理できるが、銀行の手続きや大きな支払いは介助が必要 | 1 |
3. 金銭の取り扱いができない | 0 |
採点方法: 項目ごとに、患者の最高の機能レベル(0または10)に最も近い説明にマルを付けます。合計点は、0(要介助、地域社会で生活するために大幅な支援が必要)から8(自立、地域社会で生活を維持するために支援は不要)の範囲になります。
いくつかのAADL項目(運動やレジャーでの身体活動など)は、標準化された評価法にも含まれていますが、とくに健康な高齢者では、AADLの内容は様々であるため、オープンクエスチョンで1日のすごしかたについて尋ねる方が上手く評価できるかもしれません。
70歳を超えた高齢者では自動車事故のリスクが高く、それに伴い死亡率も高くなっていますので、自動車の安全運転技能につての評価も含めるべきです。
歩行速度 ― ADL評価に加えて歩行速度を評価するだけで、高齢者の機能低下や死亡を予測することができます。さらに、歩行速度を評価することで、高血圧などの無症候性の慢性疾患の治療が意味のない患者を特定するのに役立つ場合があります。たとえば、65歳以上の人では、血圧が高いことで死亡率が増加するのは、0.8メートル/秒以上の歩行速度の人のみでした。
転倒/バランス障害 ― 地域在住の高齢者では、65歳の人の1/3、80歳以上の人の1/2が毎年転倒しています。転倒したことがある人やバランスや歩行に問題のある人は、転倒を契機に自立した生活ができなるなるリスクが高くなります。転倒リスクの評価は、全ての高齢患者の診療に組み込むべきです(アルゴリズム1)。
認知機能 ― 認知症の有病率は年齢と共に増加し、特に85歳以上では診断されていない認知機能低下がある人がほとんどです。早期に診断するメリットとして、治療可能な病態を発見することが出来るということがあります。認知機能の評価には病歴と簡単な認知機能のスクリーニング検査が含まれます。もしそれらの評価で認知機能障害が疑われた場合は、より詳しい検査として、意識状態、神経心理学的検査、認知機能に関わる医学的評価(例えばビタミンB12、甲状腺刺激ホルモン)、うつの評価、そして画像検査(CTやMRI)を行います。
気分の障害 ― 高齢者のうつは、不安を増やし、機能障害の原因となり、死亡率まで増加させ、過剰な医療資源を必要とする重大な問題です。高齢者のうつは見逃されて十分な治療がなされていないことがあります。高齢者のうつは非典型的な症状を呈することがあり、さらに認知機能低下もあって評価が困難なことがあります。2つの質問からなるスクリーニング検査を用いると、リスクのある患者を比較的容易に特定することができます。質問は以下のふたつです:
- 「この1ヶ月間で、落ち込んだり希望が持てなくなって困ったことはありますか?」
- 「この1ヶ月間で、何をしても興味や喜びを感じませんか?」
この二つの質問によるスクリーニングの感度は高い(97%)ですが、特異度は高くありません(67%)。さらにPHQ-9を実施するにはさらに7つの質問を追加する必要があります。PHQ-9は、高齢者のうつ病の検出と経過観察によく使用されています(表5)。PHQ-9はうつ病の重症度の信頼できる尺度です。
表5. PHQ-9 depression questionnaire
過去2週間で、以下の問題にどれほど悩まされましたか? | 全くない | 数日に1回 | 2日に1回 | ほぼ毎日 |
物事への関心や喜びがほとんどない | 0 | 1 | 2 | 3 |
落ち込んだり絶望的な気分になる | 0 | 1 | 2 | 3 |
居眠りしたり寝すぎたりする | 0 | 1 | 2 | 3 |
疲れやすくやる気が起きない | 0 | 1 | 2 | 3 |
食欲がない、もしくは食べすぎる | 0 | 1 | 2 | 3 |
自分自身が嫌い、自分や家族を失望させていると思う | 0 | 1 | 2 | 3 |
新聞を読んだりテレビを見ることに集中できない | 0 | 1 | 2 | 3 |
他の人に分かるほど動きや話がゆっくりである、または逆に非常に落ち着きがなくいつもよりもずっと動き回っている | 0 | 1 | 2 | 3 |
死んだほうがいい、または何らかの形で自分を傷つけた方がいいと思う | 0 | 1 | 2 | 3 |
Total ___ = | ___ | + ___ | + ___ | +___ |
PHQ-9 score ≥10:うつ病のおそれあり | ||||
Depression score ranges: | ||||
5〜9:軽度 | ||||
10〜14:中等度 | ||||
15〜19:やや重度 | ||||
≥20:重度 | ||||
いずれかの問題が当てはまった場合、その問題が原因で仕事や家事、他人と付き合うことがどれほど困難になりましたか? | 全く困難でない | いくらか困難 | とても困難 | かなり困難 |
ポリファーマシー ― 高齢者は複数の病院から複数の薬を処方されている場合が多く、薬物相互作用や薬物有害事象のリスクが高くなっています。臨床医は、診察のたびに患者の薬を確認することが必要です。ポリファーマシーがあるかどうかを確認する最も良い方法は、患者にすべての薬(処方薬も市販薬も)をもって来させることです。診療録に記載されている内容と実際に患者が服用している内容が一致していない場合は調整が必要です。高齢患者には代替医療についても質問する必要があります。
社会的支援 ― 高齢者の生活において強力な社会的支援の有無が、自宅での生活が続けられるか、それとも施設へ入ることになるかを決定する主な要因になることがよくあります。社会的支援のスクリーニングには、社会生活歴の聴取や、病気になったときに誰が助けてくれるかを確認することが含まれます。社会的支援の問題を早期に把握しておくことで、計画立案の役に立ち、適切なタイミングで社会的支援を受けられるようにすることができます。機能障害のある患者ではADLを支援してくれる人についても確認する必要があります。
介護者のうつや燃え尽き症候群が生じていないか把握するために定期的に評価をすべきです。もしそのような兆候があれば、介護サービスの追加や、カウンセリング、サポートグループへの紹介をする必要があります。臨床的に説明のつかない挫傷や火傷、咬傷、生殖器や肛門の外傷、褥瘡や栄養失調がある場合には、虐待に注意する必要があります。
ケアのゴール ― CGAの対象になる高齢患者のほとんどは、完全に健康な元の状態に戻って自立した生活を送れるようになる可能性は低いです。したがって、患者とその家族にとって最も重要な目的を選ぶ必要があります。ケアのゴールは今後の健康状態としてどのような状況を望むか、意思決定するのは誰か、どのような医学的治療を行うか、などの事前の取り決め事項とは異なるかもしれません。一般的に事前指示advance directivesは、将来健康状態は悪化する、ということを前提に組み立てられたものだからです。一方で、患者ケアのゴールは、より前向きなもの(例えば、もとの健康状態まで回復すること、家族行事に参加すること)です。しばしば、社会的目標(自宅で生活したい、社会活動を続けたい)、そして機能的目標(介助なしでADLができる)が、健康関連の目標(生存する)よりも優先されます。患者を中心に考え、個別化した目標を立てます。例えば、大腿骨近位部骨折の患者では、独歩が目標になる患者もいれば、歩行器歩行で十分な場合もあります。短期目標と長期目標を設定し、その進捗状況を適宜監視しなければなりません。もし期間内に目標が達成できなかった場合は再評価を行います。
No. 172 大腿義足;その他の部品
多軸回転ユニットは複数軸での軸回転を可能にします。一般にはトルクアブソーバーと呼ばれます。地面にしっかりと足部が接地した状態で義足をねじることが出来ます。荷重をやめると元の位置に戻ります。これはゴルフの際のねじれる動きを容易にします。内骨格軸回転ユニットは患者が手動で膝や足部を回転させ、足を組んだり、靴紐を結んだりできるようにします。調整可能なシステムがあるものは義足処方後にも再調整が可能です。軽量な義足素材として、チタンやカーボンが用いられることがあります。チェックソケットは最終的なソケットを作成する前の、適合確認のために用いられます。これは透明なプラスティックで出来ています。
過去には義足用ソックスを皮膚の上に履いていました。ソックスはクッションの役割や汗を吸収する役割を提供し、また残存肢への剪断力を減少させていました。現在では、ソックスは残存肢が細くなった時にその体積を増やすために用いられ、ライナーの上から履きます。義足用ソックスは様々な厚さのものを1~7層にして用います。通常は1、3、5層にして使用してフィッティングします。残存肢が小さくなったり大きくなったりするのに合わせてソックスを追加したり、減らしたりします。ゲルライナーの上に10層以上のソックスが必要になった場合は、普通ソケットを新しく作り直します。ナイロン製のカバーは残存肢への剪断力を低減したり、汗によるむれを改善することができます。しかし、ナイロン製のカバーをライナーの下に装着するとライナーの残存肢との吸着が弱くなります。
審美用のカバーはスポンジ素材で出来ており、義足の各部品を覆って反対側のあしと同じ様な見た目にするものです。最近の新しい技術の登場によって、カーボングラファイト製の部品やスタイリッシュなソケットデザインが増えたため、多くの患者はカバーしないことを好みます。カバーは濡れると水を含んだスポンジのようになってしまいます。しかし、失ったあしと同じようなものがあることを認識することが必要な患者も存在します。
義足用皮膚はシリコンなどの素材で、個人の皮膚の色に合わせて作られます。義足用皮膚にはカスタムメイドのものと、そうでないものの2種類があります。カスタムメイドでないものは、色見本から患者の皮膚によく似たものを選んで作成します。カスタムメイドの義足用皮膚は、患者の反対側のあしの皮膚の色と完全に一致し、さらには体毛のパターンまで一致させて作成されます。非常に高価で、時には義足本体の値段よりも高くなることがあります。どちらの義足用皮膚にも防水機能がありますが、泳げるほどの完全防水ではありません。耐久性は弱く、傷がつくと、そこから裂ける可能性があります。またソケットから足部までひと続きの義足用皮膚を用いると義足の機能を制限する可能性があります。
No. 171 大腿義足の膝継手
膝継手は機能レベルに応じて分類されます。とてもシンプルな設計のものから、コンピュータを内蔵したものまで様々なものがあります。最適な膝継手の選択にはさまざな要素を考慮する必要があります。患者の活動レベルや残存肢の長さ、近位筋の筋力と制御能力などを考慮します。膝継手の制御機構には、機械的摩擦によって一定の抵抗力を作り出して、一定の歩行速度で歩くものから、油圧式の制御機構やコンピュータ制御によってさまざまな歩行速度で歩くことを可能にするものまであります。足部の処方と同じように、膝継手を処方する際にも、患者の機能的なニーズやゴール、義足を使用する環境を考慮する必要があります。以下はよく用いられる膝継手のリストです:
マニュアルロック膝継手
マニュアルロック膝継手は、膝を完全に進展するとロックがかかり、ロック解除はレバーを引くことで行います。レバーはソケットの近位部の前外側に取り付けられます。この膝継手はロック解除しない限り曲がりません。マニュアルロック膝継手は最も安定した膝継手ですが、欠点としては膝を伸ばしたまま歩く必要があることです。この膝継手は安定性が第一の課題である場合や両側切断の患者に用いられます。この膝継手は比較的耐久性があり安価で、K1レベルの患者に適応があります。
マニュアルロック式膝継手
単軸膝継手
単軸膝継手はヒンジの様な構造です。遊脚期にはスプリングによる伸展補助機能により完全伸展位までスムーズに到達します。支持機構はアライメントと随意制御に依存しているため、患者は十分な近位筋の力と制御機能を要求されます。この継手は軽量で耐久性があり安価です。K1レベルの機能の患者が適応です。
重量作動スタンスコントロール(安全膝)
安全膝は単軸継手に、荷重によるロック機構が加わったものです。立脚期に荷重がかかると、ブレーキ機構により自動的に膝にロックがかかります。ブレーキ機構が効いている場合は、膝は20度以上は曲げることができません。遊脚期の開始時に義足への荷重がなくなると、ロックが解除されて遊脚期の間は膝が曲がります。この膝継手を、新規の切断者で使用して、立脚期に安全なロックが得られる状況から開始して、単軸膝継手へと段階的に移行することがあります。K1からK2レベルの患者が適応です。
多軸膝継手
多軸膝継手は、構造そのものによる安定性が備わっています。多軸機構によって、膝の屈曲と伸展に伴って回転中心が刻一刻と移動します。回転中心が、膝を伸ばした状態ではより近位後方になることで、立脚期の初期の膝の安定性を高めます。膝を屈曲すると、回転中心は遠位前方へと移り、立脚後期での膝関節の屈曲を補助します。この膝継手には油圧式または空気圧式の遊脚期制御機構を追加することもできます。膝の回転軸とソケットへの接続部との間の距離が比較的短いため、膝関節離断の患者にとって理想的な膝継手です。
多軸膝継手
油圧式/空気圧式膝継手
油圧または空気圧式の膝継手は、流体(油圧式)または空気(空気圧式)が充満したシリンダーを内蔵しており、遊脚期中に、膝の伸展と屈曲を制御します。また一部のものは、立脚期の制御機能も搭載しています。このタイプの膝は、良好な制御機能と筋力を持つ活動的な患者に適しています。歩行速度は速くしたり遅くしたりする機能を提供できるので、K3機能分類レベルで歩行できる人を対象としています。
油圧式制御機構つき膝継手
コンピュータ制御式膝継手
コンピュータ制御式膝継手は、いくつかのセンサからマイクロプロセッサへの入力によって制御を行います。使用されるセンサには、ひずみゲージ、加速度計、ジャイロスコープが含まれ、膝の角度、動きの方向、角速度、および体重負荷の状態に関する情報を提供します。マイクロプロセッサは、この情報を毎秒50~1000回のレートで分析して膝の屈曲抵抗を制御します。近年これらの膝継手の耐久性と信頼性は向上していますが、水辺やその他の過酷な環境で使用する場合は注意が必要です。また、コンピュータ制御式膝継手は、活動的な患者に適していますが、ほとんどはランニングやその他の高活動スポーツ用には設計されていません。一般的に機能指数レベルK3の人が適応です。ただし、立脚期のみコンピュータ制御を行う継手がいくつかあり、これはK2レベルプラスアルファくらいの人でも適応があります。
コンピュータ制御式
電源内属型コンピュータ制御式膝継手
現在、内部発電が可能なモーターを備えた市販のコンピュータ制御式膝継手が1つあります。この膝継手は膝関節の屈曲と伸展の自動運動が可能です。これは特に、起立動作と階段を昇るときに役立ちます。この膝の欠点は、費用がかかること、重量が重いこと、バッテリーの寿命が限られていることです。また、雨や温度変化などの環境要因にも比較的敏感です。
電源内蔵コンピュータ制御膝継手
No. 170 義足の足部
義足の足部パーツは多種多様なものが市販されています。様々な素材のものが複数のメーカーで製造されています。それぞれの足部に固有の特徴がありますが、ここでは足部の分類ごとに、利点と欠点について説明します。義足の足部の分類方法は多数あり、今回は以下のような分類を用います:
- 可動軸なし
- SACH:solid ankle cushion heel
- SAFE:solid ankle flexible endoskeleton
- 可動軸あり
- 単軸:底屈/背屈
- 多軸
- 油圧制御式
- エネルギー蓄積型/ダイナミックレスポンス型
- コンピュータ制御型
- 内部電源付きコンピュータ制御型
- 特殊活動用
可動軸なしの足部
Solid Ankle Cushion Heel Foot
SACH足はK1レベルの人が適応になります。この足部には可動部分がないためとても軽量で耐久性があり安価です。踵のクッションが足関節の底背屈の動きをシミュレートします。キール部分で動きを制限しているため、不整地の歩行には向いていません。
Solid ankle cushion heel (SACH)
Solid Ankle Flexible Endoskeletal Foot
SAFE足はSACHと同じく、可動部分がないので耐久性があり安価です。SACHと違うところは、キールが柔らかいためSAFE足は多少の内反外反運動が可能であることです。これによって多少の不整地であれば対応が可能ですが、その動きは限られておりエネルギー蓄積機能もありません。SAFE足はK1レベル~低いK2レベルの患者が対象です。
可動軸のある足部
単軸足部
単軸足部は足関節の背屈と底屈ができます。ゴム製のバンパーがこの動きを可能にし、中間位に戻るように制御します。歩行周期の立脚期での足底接地が早くなることで、大腿切断患者の膝関節の安定性が増します。単軸足部はK1からK2レベルの患者に適しています。
多軸足部
多軸足部は足関節の正常な運動軸に一致した複数の運動面での動きを可能にしています。多軸運動は、やわらかいキールや機械的な関節機構によって実現されています。柔らかいキールの足部では、床反力によって足部が変形してキール自体のなかで運動が生じます。機械的な関節機構による多軸足部では、底背屈、内外反、水平面での動きの3つの運動面すべてで動きを再現しています。いくつかの多軸足部は、エネルギーを蓄積する素材を用いています。多軸足部の欠点は、部品数が多いために頻回な修理やメンテナンスが必要となることです。適応となるのはK2やK3の機能の患者です。
特殊な足部
さまざまな特別なニーズに対応するための足部があります。例えば、踵の高さがゼロから3インチまで調節できる足部があり、患者はさまざまな高さの靴を履くことができます。他には、ランニングに対応するように設計されたものがあります。
エネルギー蓄積/ダイナミックレスポンス足部
エネルギー蓄積型/ダイナミックレスポンス型足部はより活動的な患者に用いられます。これらの足部は荷重時にエネルギーを蓄積して、蹴り出しの際にそのエネルギーを解放する素材(プラスティックやカーボン)で出来ています。ばねが長いほど、蹴り出しの際により多くのエネルギーを得る事ができます。衝撃吸収機構を搭載したものもあり、残存肢への床反力を低減してくれます。このタイプの足部は多軸足部と同じ動きができるものもあります。適応はK3やK4の機能の患者です。
エネルギー蓄積型
コンピュータ制御足部
コンピュータ制御の内部電源付きの足部は、遊脚期の足関節背屈のみを行うものと、さらに立脚期の足関節の底屈まで行うものがあります。後者は上り坂で特に役に立ちます。これらの足部が歩行時のエネルギーコストを低減することを示すエビデンスが示されています。欠点としては、これらの足部は重く、水に濡らすことができず、毎日充電する必要があるということです。適応となるのはK3以上の機能の患者です。
No. 169 義足の骨格構造(内骨格と外骨格)
義足の各パーツをつなぎ合わせるフレーム構造には、外骨格と内骨格構造のふたつがあります。外骨格構造はソケットから下へと硬質のプラスチックであしの外観構造を作成し内部を軽量の素材で埋めたものです。この構造は最近あまり使われなくなっていますが、体重の重い患者で強度が必要な場合には有効かもしれません。このタイプのフレームのもうひとつの利点は、硬い外装シェルが非常に耐久性があり、過酷な環境でも大丈夫なことです。この構造の主な欠点は、重いこと、使える足と膝の部品が制限されること、そして完成した後の調整や部品の交換が制限されることです。
最近の義足はほとんどが内骨格構造です。パイロンと呼ばれるパイプ状の部品で各部品をつなげます。内骨格構造の義足は軽く、モジュール式になっています。多くの内骨格システムでは、カーボンファイバーやチタン製のパイロンが用いられており、スチール製のパイロンよりもさらに軽量になっています。内骨格構造の義足は調整が簡単で、矢状面と冠状面の両方で、角度や位置を調整可能です。必要ならば義足の長さも調整できます。また内骨格構造はその上から柔らかいリアルな外観のカバーを取り付けることもできます。
No. 168 義足のインターフェイス
残存肢と義足のソケットをつなぐための装置(=インターフェイス)には、硬性のものと軟性のものがあります。硬性インターフェイスの例としては、吸着式ソケットで、皮膚とソケットが直接接触するタイプのものがそれにあたります。ただし、現在は剪断力や衝撃力から残存肢を保護するためのライナーを用いた軟性インターフェイスが主流になっています。
軟性インターフェイスは残存肢にとってのクッションの役割を担い、さらに残存肢の体積の多少の変化にもある程度対応します。また、著しい軟部組織の萎縮により骨の隆起がある患者や、陥入して痛覚過敏な瘢痕組織が存在する場合には特に有効です。軟性インターフェイスの素材には、PEライトインサート、ゲルライナー、ウレタン、シリコーンライナーなどがあります。軟性のものの欠点は、磨耗しやすく、容積が増え、臭いがしみつくことです。ライナーの着脱や清潔保持が、一部の患者にとっては問題になることがあります。
義足の他の部品と同じように、ライナーにも商業ベースで様々なブランドや種類があります。最適なインターフェイスを患者のニーズや特徴を考慮して選択することが大切です。
No. 167 義足のサスペンション
サスペンションは義足を残存肢へ接続するための手法です。サスペンション機構にはいくつかあります。サスペンションの良否は義足が上手に使用できるがどうかに関わる重要な要素です。サスペンションがうまくいかないと、切断患者は義足をうまくコントロールすることができず、効率的に歩くことができません。さらに転倒のリスクも大きくなります。サスペンションがダメだと、いくら他の部品が良いものを使っていてもその効果が台無しになってしまいます。
吸着式サスペンション
吸着式サスペンションは、機密性の高いソケットの近位部を密にシーリングすることで、ソケット内に陰圧を形成して義足を残存肢に吸着させるものです。陰圧の影響で遠位断端はソケットと接触しないために、いぼ状の過形成などの皮膚トラブルを起こす可能性があります。歴史的に、この手法では皮膚との直接接触(ソックスやライナーを使用しない)を行ってきましたが、ゲルライナーの登場によって従来の吸着式サスペンションから改善されました。
高真空サスペンション
高真空サスペンションはライナーの進化によって吸着式サスペンションから派生したものです。従来の吸着式サスペンションソケットは、一方向弁による受動的な空気の排出システムでしたが、高真空システムではソケット内から能動的に空気を吸引します。それによって確実に義足を残存肢に密着させます。いくつかの手法がありますがいずれの場合も、TSBソケットを使用する必要があります。高真空システムでは、ゲルライナーとソケットの間の陰圧を保ち続けることで、残存肢の体積を一定に保つことができます。高真空のためには空気を排出するポンプが必要で、これらのポンプには手動式と電動式があります。
ピンロック式サスペンション
ピンロック式サスペンションは、遠位端にネジ穴が切ってある専用のライナーが必要です。ネジ穴にロックピンを取り付け、ソケットに取り付けられたロック機構に接続します。ロック機構はクラッチ式かロータリー式のいずれかです。患者はゲルライナーそしてピンロックを介して義足とつながることになります。ピンロック式サスペンションは、患者にとって簡単で、カチッという音でロックしたことを確認することができます。最大の欠点は、残存肢の遠位端が引き延ばされ、剪断力が働くことです。
ピンロック式ライナー
ストラップ式サスペンションは、ピンロック式サスペンションの別バージョンです。ピンとロック機構のかわりに、ベルクロストラップがゲルライナーに取り付けられ、ソケットの遠位部分の開口部を通してソケットの外側で固定します。この方法は患者がある程度の手先の器用さを持っていることが必要ですが、ピンロックよりも管理が簡単な場合もあります。
ストラップ式サスペンション
その他のサスペンション方法
他にもいくつかのサスペンション法があります。スリーブ、ストラップ、ベルト、バックルなどが過去には用いられていました。現在でも患者の希望や、または残存肢の解剖学的な観点から用いられることがあります。これらの方法では、義足より近位にある解剖学的アンカーを用います。大腿切断では、反対側の股関節や骨盤、ウエストへ巻くベルトが用いられることがあります。