No. 167 義足のサスペンション

サスペンションは義足を残存肢へ接続するための手法です。サスペンション機構にはいくつかあります。サスペンションの良否は義足が上手に使用できるがどうかに関わる重要な要素です。サスペンションがうまくいかないと、切断患者は義足をうまくコントロールすることができず、効率的に歩くことができません。さらに転倒のリスクも大きくなります。サスペンションがダメだと、いくら他の部品が良いものを使っていてもその効果が台無しになってしまいます。

 

 

吸着式サスペンション

吸着式サスペンションは、機密性の高いソケットの近位部を密にシーリングすることで、ソケット内に陰圧を形成して義足を残存肢に吸着させるものです。陰圧の影響で遠位断端はソケットと接触しないために、いぼ状の過形成などの皮膚トラブルを起こす可能性があります。歴史的に、この手法では皮膚との直接接触(ソックスやライナーを使用しない)を行ってきましたが、ゲルライナーの登場によって従来の吸着式サスペンションから改善されました。

 

高真空サスペンション

高真空サスペンションはライナーの進化によって吸着式サスペンションから派生したものです。従来の吸着式サスペンションソケットは、一方向弁による受動的な空気の排出システムでしたが、高真空システムではソケット内から能動的に空気を吸引します。それによって確実に義足を残存肢に密着させます。いくつかの手法がありますがいずれの場合も、TSBソケットを使用する必要があります。高真空システムでは、ゲルライナーとソケットの間の陰圧を保ち続けることで、残存肢の体積を一定に保つことができます。高真空のためには空気を排出するポンプが必要で、これらのポンプには手動式と電動式があります。

 

ピンロック式サスペンション

ピンロック式サスペンションは、遠位端にネジ穴が切ってある専用のライナーが必要です。ネジ穴にロックピンを取り付け、ソケットに取り付けられたロック機構に接続します。ロック機構はクラッチ式かロータリー式のいずれかです。患者はゲルライナーそしてピンロックを介して義足とつながることになります。ピンロック式サスペンションは、患者にとって簡単で、カチッという音でロックしたことを確認することができます。最大の欠点は、残存肢の遠位端が引き延ばされ、剪断力が働くことです。

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ピンロック式ライナー

 

ストラップ式サスペンションは、ピンロック式サスペンションの別バージョンです。ピンとロック機構のかわりに、ベルクロストラップがゲルライナーに取り付けられ、ソケットの遠位部分の開口部を通してソケットの外側で固定します。この方法は患者がある程度の手先の器用さを持っていることが必要ですが、ピンロックよりも管理が簡単な場合もあります。 

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ストラップ式サスペンション

 

その他のサスペンション方法

他にもいくつかのサスペンション法があります。スリーブ、ストラップ、ベルト、バックルなどが過去には用いられていました。現在でも患者の希望や、または残存肢の解剖学的な観点から用いられることがあります。これらの方法では、義足より近位にある解剖学的アンカーを用います。大腿切断では、反対側の股関節や骨盤、ウエストへ巻くベルトが用いられることがあります。

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