No. 124 リハビリテーションにおける超音波

リハビリテーションにおける超音波

 

INTRODUCTION

超音波は人間の可聴域の20KHzを超える音です。近年、画像検査としての超音波の使用は、筋骨格系および末梢神経系障害の評価に不可欠となっています。従来の画像技術と比較すると超音波は、その場ですぐに行え、しかも低コストで、より安全なうえに、リアルタイムに結果が分かり、目的とした構造とその周辺の筋骨格系や血流や注射された薬液まで確認できます。筋骨格系画像検査で使用する場合、真の禁忌はありません。

ただし超音波検査にも欠点があり、音響インピーダンスのために骨などの組織は評価することができません。骨の下や骨に包まれた中をみることは不可能です。さらに検査の質は操作者に大きく依存し、超音波画像の解釈やアーチファクトについての知識と訓練が必要です。

超音波は放射線を利用しないため、優れた安全性を有しますが、超音波でも不適切に使用すると有害です。超音波は体温を上昇させ、体液中に空洞現象を生じさせる可能性があります。なお長期的な影響はまだ分かっていません。したがって超音波を利用する際には無駄に強い出力で用いないという原則を守ることが大切です。

 

MACHINE BASICS

超音波装置は2~15MHzの超音波を送受信して、2次元画像を生成します。超音波装置の主な構成要素は、CPU、トランスデューサ、ディスプレイです。CPUはトランスデューサプローブに電流を流し振動させます。この振動が皮膚上のゲルを通って組織の内部に伝わる音波を生成します。音波は組織の境界面と相互作用してトランスデューサに反射され、CPUが画像に変換します。輝度モード(Bモード)は一般に筋骨格系超音波で使用される白黒2D画像モードです。トランスデューサの周波数が高いほど分解能は高くなります。より表面の構造をみるのに適しています。より低い周波数はより深い構造に浸透しますが分解能は低くなります。筋骨格系で使用されるトランスデューサプローブのタイプは、平均周波数範囲が49MHz(低周波数)のコンベックス型、5-12MHzの平均周波数範囲を有するリニア型、平均周波数範囲が7-15MHz(より高い周波数)のコンパクトなリニア型です。音波の他の要素には速度と振幅があります。音波がトランスデューサに戻る速度は、位置すなわちスクリーン上の画像の深さを決定します。音波の強さは振幅であり、スクリーン上の画像の明るさを決定します。超音波画像の質は、大部分がトランスデューサに反射されるエネルギーの量に依存します。音響インピーダンス、散乱、屈折および減衰は、トランスデューサに戻る音波信号に影響を与えます。反射は音波が2つの隣接する構造または組織の境界面に当たるときに生じます。組織間の音響インピーダンス(音波が組織を通過する際の抵抗の量)が大きければ大きいほど、反射されるエネルギーは大きくなり、画像はより明るくなります。散乱は最初に送信されたエネルギーの一部のみがトランスデューサに戻り、残りが異なる方向に再送信されたときに発生します。屈折は音波が音響インピーダンスのために元の方向からずれると起こります。減衰は音の熱への変換であり、変換器に反射されず、画像は暗く表示されます。

 

調整:超音波装置のさまざまな項目を操作して画像を最適化します。

ゲインこのノブはプローブに戻る超音波信号の全体的な振幅を変更することにより画像の明るさを制御します。ゲインを大きくすると振幅が大きくなり、明るい画像が得られます。

デプスこのノブはフィールドビューの奥行きを調整します。デプスが大きければ大きいほど、解像度は低くなります。

周波数このノブはトランスデューサのプローブ周波数を変更して、深さと解像度のバランスをとります。より低い周波数はより深い構造に浸透しますが分解能は低くなります。

フォーカスこのノブの無い装置もありますが、超音波の焦点を関心領域に合わせます。最新の機械は、画面の中央に常にフォーカスさせることができます。

 

Ultrasound NOMENCLATURE AND COMMON ARTIFACTS

筋骨格系超音波ではスキャンの方向を表すさまざまな用語が使用されます。縦軸(長軸)は矢状面を意味します。横軸(短軸)は断面図を意味します。

エコーの信号強度はトランスデューサによって送信される音波の反射を反映しています。「無エコー」は超音波で黒く見える部分のことです。「低エコー」は他の構造よりも暗いエコーを生成する場所のことです。「高エコー」は他の構造よりも明るく見える強いエコーを生成する場所のことです。均質構造はその組成が均一なエコーパターンであることを指します。異種構造は様々な強度のエコーの不均一なパターンであることを指します。等吸収性は、別の(例えば、周囲の)組織と同じ強度のエコーを生成する場所を表します。

アーチファクトは筋骨格系超音波によく見られ、誤診を防ぐためによく理解しておく必要があります。例をいくつか挙げます:

異方性著名な反射の変化を引き起こす組織の特性のこと。音波の方向のわずかな変化が、いくつかの組織では反射される音波の劇的な変化をもたらし画像に大きな影響を与えることがあります。

シャドーイング超音波が物体に当たったり通過したりする際の超音波の部分的または全反射、もしくは吸収で、深い部分が低エコーまたは無エコーに見えること。

エンハンスメントシャドーイングとは反対に音を簡単に伝える構造よりも深い部分で輝度が増加すること。一般に、より深い部分では、自然に減少する音波を補うために、エンハンス処理が自動で行われます。しかし、液体が充満した嚢胞のような構造では、エコーのエネルギーはわずかしか吸収されないのに、深さに応じて自動的にエンハンス処理がされるため、嚢胞より深部の構造は高エコーに表示されます。この現象は「後方エコー増強」とも呼ばれます。

残像エコー超音波が互いに平行で超音波に垂直な高反射面に当たるときに発生する現象です。初期反射は、その適切な深さで解剖学的構造(または針)として現れますが、シグナルの一部が、トランスデューサに戻る前に表面の間に捕捉されて戻ります、1回の反射後に波がトランスデューサに戻ると仮定しているので、これらの追加反射(戻り時間が長くなる)は、CPUが元の構造よりも深い別の構造であると解釈し、残像エコーが生じます。この現象は、針の長軸がトランスデューサと平行であるときに見られます。

 

NORMAL TISSUE TYPES

皮膚は薄く均一な高エコー層として表示されます。脂肪は低エコーであり結合組織の存在を示しています。血管は、管状の構造を有する無エコーです。静脈はトランスデューサからの圧力で潰れますが、動脈は容易に潰れません。

滑膜は一般に低エコーです。硝子軟骨は低エコーから無エコーに見え、高エコーにうつる骨質皮質に覆われています。靭帯は高エコーで均質な帯状です。腱は縦方向の視野では高密度で線維状の高エコーで、横断像では低エコーになります。腱は高度の異方性があるために、異方性に起因する非特異的な低エコーを腱炎や腱裂傷などと謝って診断することがあります。一方、異方性は深部脂肪などの他の周囲の高エコー組織から腱組織を区別するのに役立てることもできます。

筋肉は、長軸方向の視野では、薄い高エコーの筋膜を有する低エコーの不規則な線条の組織として表示されます。横方向の視野では、高エコーの斑点を伴う低エコーの塊として表示されます。筋肉組織は異方性があります。

神経は、縦視野では幹線状の「鉄道線路」パターンを有し、横視野では高エコーの神経上膜と高エコーの束による「蜂の巣状」の外観を示します。神経は腱よりも異方性があり一般に腱と比較して低エコーです。

骨は明るいエコー線としてみえ、それより奥は(アコースティック・シャドーのために)見えません。

 

DIAGNOSTIC APPLICATIONS

骨および関節の障害において、超音波は関節浸出液の検出に優れています。無エコーで形の変化する像で表示されます。異種性の液体は感染症の指標となり、吸引の必要があるかもしれません。滑膜炎は関節内の非圧縮性のエコー源性組織としてみられます。浸潤や痛風結節も超音波で見ることができます。炎症性膿疱は、単純な無エコー状または複雑な異種状に写ります。

神経傷害では罹患した神経は部分的に腫脹し低エコーで典型的な被膜パターンの喪失を示します。

腱損傷では腱炎は腱が拡大してみえ低エコーです。部分的な裂傷は、正常な線維状構造の喪失を伴う無エコー領域があります。高度の裂傷では腱が細くみえます。全層の裂傷は腱に隙間がみえます。腱鞘炎は、腱を取り囲む形の変化する無エコーとして、または混合エコー状の液体としてみられることがあります。

筋傷害では、軽度の筋損傷ではエコーテクスチャーの減少を伴った低エコー領域として示され、患部はまるで「洗い流された」ように見えます。高度の傷害は線維の崩壊および異質の液体状にみえます。

 

THERAPEUTIC APPLICATIONS

筋骨格系のイメージングモダリティとしての超音波は、主に吸引や注射のために関節へ針を誘導するために使用されます。臨床で実践する際には、複数のアプローチとばらつきがあることをに注意します。一般的に対象とされているいくつかの関節に対するいくつかの基本的アプローチを以下に示します:

肩関節患者は座位か側臥位。患者の手は反対側の肩に置き、上腕骨頭、関節唇、および関節包を含む重要なランドマークを同定します。肩関節は後方アプローチが適しています。針は上腕骨の後面と後唇との間を目標に、水平面において外から内へ刺入します。

肘関節患者は、肘を曲げて胸の上に置き、座位または仰臥位になります。プローブは肘の後方にから矢状方向にあてます。針は三頭筋腱を通過し、後部脂肪パッドを通って関節空に入るように上方から刺入します。重要なランドマークは、肘頭窩、後部脂肪パッド、および肘頭です。

股関節患者は仰臥位で、前外側からアクセスします。 プローブは、大腿骨頚部の長軸に沿ってあてて、大腿骨頭と頸部との間の特徴的な移行部を同定します。針は、下方から刺入し、大腿骨頚部近傍で神経血管束の外側から関節包内に入ります。痩せた患者では、超音波プローブは軸方向に向けることができ、大腿骨頭と寛骨臼を視野に入れて、針を前外側から刺入します。

膝関節滲出液を伴う膝関節の場合、最適なアクセス方法は、典型的には仰臥位で膝をわずかに曲げた状態です。 プローブは、四頭筋腱に平行に保持され、四頭筋線維が見えないところまで、内側または外側に動かします。針は直接的に滑液包に刺入します。滲出のない膝関節の場合、内側の膝蓋大腿領域が潜在的なアクセスポイントになります。プローブは、最初は膝蓋骨および大腿骨内側顆の軸方向平面に配向され、次いで90°回転され、関節ラインに沿って配向します。そして針をプローブの下側または上側から刺入します。

足関節患者を仰臥位にして、距腿関節は矢状面でみることができます。検査者は、脛骨に対する距骨の動きを識別するために、足関節の底背屈をさせます。足背動脈および伸筋腱を同定し、それを避けて針は下側から矢状面の関節に刺入します。

 

From Matthew Shatter, Howard Choi : PHYSICAL MEDICINE AND REHABILITATION POCKETPEDIA 3rd ed