ミニレクチャー No. 77 感染対策:血液培養は2セットとる

感染対策:血液培養は2セットとる 

肺炎や尿路感染症などの細菌感染症は抗菌薬で治療が行われます。抗菌薬はものによって、たくさんの種類の細菌に有効なもの(広域な抗菌薬)と、ある程度ターゲットを絞った抗菌薬(狭域な抗菌薬)があります。重症感染症では最初の治療が外れて患者さんの状態が悪くなっては困るので、広域な抗菌薬で治療を開始します。しかし、例えその治療が有効でも、広域の抗菌薬使い続けると、病気の原因でない腸内細菌などの常在菌まで殺してしまいます。さらに広域抗菌薬に対する耐性菌ができやすくなり、抗菌薬が使い物にならない世界の到来を早めることになってしまいます。

そうならないために、抗菌薬を開始する前に、細菌感染の現場からサンプルを採取して培養し、原因菌を突き止めるようにします。そして、原因菌が分かった段階で、その細菌にターゲットを絞った狭域の抗菌薬に切り替えます(この行為をde-escalationといいます)。

この培養のためのサンプル採集は抗菌薬開始前に行います。重症な感染症では、原因となった細菌が血液の中を流れている状態(菌血症といいます)になることがあります。この場合、採血しますが、皮膚には無数の常在菌が存在するので、その細菌が紛れ込んでしまう可能性があります。菌血症を疑って血液培養をすると菌が生えてきたけど、それが真の原因菌か混入した菌(コンタミネーションとか「コンタミ」といいます)かの判断に困ります。

この問題は、血液培養を2セットとることである程度解消できます(酸素があっても大丈夫な菌を培養する「好気ボトル」と、酸素があると生きていけない菌を培養する「嫌気ボトル」の2本で1セットです)。

真の菌血症であれば、2セットの両方で菌が生えて、しかも培養開始後短期間で生え、疑っている感染症の原因として矛盾しない菌(肺炎が原因の菌血症なら肺炎を起こしやすい菌が、尿路感染症が原因なら・・・と、ある程度感染場所によって想定される原因菌は決まっています)が生えてきます。逆にコンタミしやすいのは、表皮ブドウ球菌、バチルス、コリネバクテリウム、プロピオニバクテリウムなどの表皮に常在する細菌です。これらが生えた場合は、1セットしか採取していない場合、原因菌かコンタミか判断に迷いますが、2セット摂取していれば、例えば1セットから皮膚の常在菌が生えて、もう一方からは生えなければ、採取時のコンタミだとわかります。逆に1セットから生えただけでも肺炎球菌や、大腸菌緑膿菌などの場合は原因菌であることが大半です(普通皮膚に存在する菌ではないので)。

2セットの採取はできれば異なる場所からの採血が望ましいです。ただし鼠径部は菌が多くコンタミのリスクが他の場所の10倍も高いので避けた方が良いです。採血量は110mlで、多すぎても少なすぎても感度が低下します。もし15mlしか採取できなかった場合は好気ボトルに10ml、嫌気ボトルに5mlと分けます(嫌気性菌が菌血症の原因になる可能性は5%程度であるため)。そして先に嫌気ボトルに分注します(嫌気ボトルに空気が入らないようにするため)。分注後は転倒混和して培養液とよく混ぜます。

 

参考:

岩田健太郎感染症999の謎, メディカルサイエンスインターナショナル.